とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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今月がもう終わりそう。つか、今年が終わる。


三章 24話『理性を失った人形』

 北方棲姫の首に刃が当たることは、叶わない。

 

 ガキン!!

 

 振り下ろした大鎌の切断を遮るように入ってきたヲ級の扱う杖笛(ふえ)に止められていた。この世界の常識が通用するモノなら死は免れない、というのが芙二が作り出した鎌の性質だ。

 

芙二(! ヲ級の笛だ。深海棲艦が止めに入ったのなら、触れた時点で死ぬはず。だが、目の前のは――――)

 

 ぐぐと力を込める。杖笛(ふえ)はミシミシと軋むも芙二の力に耐えていた。

 

 頭に沸いた疑問の答えはすぐに見つかる。

 ヲ級から奪った杖笛(ふえ)を用いて大鎌を防いでいた。

 

 問題はその使用者だ。

 

 さっきまではいなかった人物がそこにはいた。

 

 腰まで伸びる薄い水色の髪に、切れ長で緑色の目、

 童顔の黒いスーツを着た少女が居た。 

 

『ア、アイリ…………』

 

 そう北方棲姫は呟いたのを芙二は聞き逃さなかった。

 

芙二「アイリ? それじゃあもしかして…………お前さんがアイリ・ブルグレスっていうのか!?」

 

アイリ「ふふふ、そうだと言ったら――――どうするの?」

 

 驚きのあまり少しだけ力が抜けた。

 アイリはそれを押し退ける。

 

 力負けした芙二はやや後ろに仰け反りながら下がった。

 北方棲姫を拘束していた氷は破壊され、回収されてしまった。

 

アイリ「あれまあ、ほっぽちゃん結構ひどい凍傷よ? 帰ったら治療してあげる。ほら、行きましょ」

 

『ウウウ、アイリ……アイリィ~~』

 

アイリ「あー、泣かない泣かない。終わったら港湾棲姫にでも甘えなよ」

 

芙二「おい、逃がすと思っているのか? お前らは、いやお前は連れて帰る。()()()()()

 

アイリ「あの世界? どの世界のことを言ってるのかな、抽象的で分からないなあ?」

 

芙二「生まれ育った故郷(ジスレベリタ)……」

 

アイリ「!? おまえがどうして、その名を……ッ! ま、まさかおまえも!!」

 

 芙二が故郷の名を口にした瞬間、アイリの表情が曇りやがては激情を露わにする。

 何か思う事があったのか、表情が険しくなりついには北方棲姫を投げだして腰から小さなナイフを取り出して芙二に襲い掛かった。

 

芙二(あれ、ジスレベリタって単語は地雷だったのか?)

 

 と思い大鎌から禍毒の盾に変更する。

 しかしナイフの刃先が盾を掠める事はなかった。

 

 なぜなら近くまで来ていた榛名達が砲撃したからである。

 『ギャン!』と悲鳴を上げて、海上を転がった。

 

榛名「提督、大丈夫ですか!」

 

 と駆け寄ってくる。芙二は『大丈夫だ』といい、すぐに目の前でこちらを睨みつけるアイリを囲えと指示を出した。

 

芙二「北方棲姫諸共、捕縛しろ。今やらないと、こいつは確実にマズい!」

 

 榛名達は無言で頷いて、目配せだけで北方棲姫とアイリを囲う。

 

 芙二は目の前にいる二人を最重要人物として認識をする。

 しかし与えたダメージが少ないのか、アイリは立ち上がると北方棲姫を脇に抱え、するリするりと躱される。そしていつの間にか包囲網から抜けられていた。

 

 

 アイリの動きに圧倒されていた榛名達は見ている事しか出来なかった。

 このままでは逃げられると思った芙二がアイリや北方棲姫を氷漬けにしようとする。

 

アイリ「ほら、行け。ほっぽちゃん(ご主人様)の盾となれ」

 

『ヲ!?』

 

 冷たく笑うと隣に居たヲ級を無理矢理引っ張り、生け贄にして事なきを得た。

 

 捉える事が出来なくて舌打ちをする芙二、肉盾のおかげで助かったと冷や汗を掻くアイリ。

 

 芙二が指示を出す前に艦娘が自分達で判断し包囲しようとするとき、アイリもまた動けない北方棲姫に代わって周囲の深海棲艦に指示を出す。

 

 それは『お前達の主人を守れ、深海棲艦(人形)ども!』と。

 切羽詰まった悲鳴に近い声が響く。

 

 様子を伺っていた個体や傷を負い動けない個体がピクリと大きく揺れた。

 一斉にカクン、と力なく項垂れる。

 

 自分達のいるところに異変を感じた芙二は榛名たちに撤退命令を出す。がしかし、時すでに遅くアイリの傀儡となった深海棲艦らが一心不乱に芙二たちを襲いだした。

 

 

 目には光などないのに、とんでもない力が入っているのか身体の所々の血管が異常に膨張している。

 

 人語など介さず、一心不乱に動き回る。

 恐怖に陥った朝潮が砲撃して欠損しても止まることはない。

 

 

朝潮「ううう、動きました!?」

 

龍驤「ええい狼狽えちゃあ、あかんで! 艦載機、発艦!!」

 

足柄「うん、そうよね。龍驤さんの言う通り! 提督の指示を待っている場合じゃない!」

 

榛名「皆さん! 動き回って敵を削りましょう! 私は提督に指示を煽ります!」

 

 襲い来る屍人の深海棲艦を捌きつつ、榛名は芙二の元に近づこうとするも近づけない。

 

 

 深海棲艦らは顔が半分吹き飛ぼうとも、まだ藻掻く。その動きには恐怖を覚える。

 

芙二「……アイリ・ブルグレスを追いたいが、今は動く深海棲艦にトドメを差してやるのが先か――――個人的に嫌いだわ、あの女」

 

 既にいないアイリと北方棲姫の事は考えないようにする。

 今は目の前にいるこいつらにはもう理性や感覚がないのだろうと思った。

 

 主人である北方棲姫を護る為だけに命を燃やす。

 死に体に鞭うつ活動に芙二は死を贈ってやりたかった。

 

 だから、榛名たちの脳内に直接響かせるように命令を出した。

 

『最重要人物には逃げられた。これ以上の戦闘は控えて、泊地へ撤退せよ。残りは(オレ)が引き付け、足止めする』

 

 互いに攻撃し合っているため、騒音で聞き取れないと思い繰り返しする。

 ギリギリ聞こえたようで、波と砲撃の音に混じって了承とする返事が聞こえた。

 

 指示を終えたあとでも轟音と水柱、黒煙で一切が見えないが撤退してくれているようだと思う事にした。本音は芙二の能力で全員を転移させたいが、中々難しかった。

 

芙二(ブレイン・ジャック…ダメだ。こいつらもう死んでるわ。触れれる魂とかないし、何で動いてるか分からんけど――相手を制御する要領で魂を喰らってみるか?)

 

 【魔竜騎装】を解除し、次に発動するのは

 【魂を喰らいし、怒れる鬼獣(ブラック・ビースト)】だ。

 

 いつもは青く黒い毛並みに燕尾服を着た人狼だが、戦場ではただの獣だ。

 理性の欠片も持たない、ただ食らい、壊すだけの本能に従った獣に他ならない。

 

 人型であるよりも、獣人型の方が大きくなる。

 身長は三メートル以上となり、その巨躯を生かし空へ大咆哮をあげる。

 

 

『ゥヴヴルルルルァァ――!!』

 

 

 耳を塞ぎたくなるほどの声量はビリビリと空気を震わせ、突風を生じさせる。

 急に出現した異様な気配に傀儡らは一斉に集り、朽ちるまで攻撃をする。

 

芙二「……グランギニョルの始まりだ」

 

 

 攻撃をものともせず、吐き捨てるようにそう呟くと二本の腕はビキビキと音を立て大きく、鈎爪も太く多くを抉り取れるように変わり果てる。

 

 

 次の攻撃が来るとき、芙二は傀儡らの視界から消え一度に十体ほどを殺す。

 完全に動かなくなった死体は雑に捨て次へと移るのだった。

 

 

 ======

 

 

 榛名達が泊地に帰還してから、四時間が経ち日の位置が最も高くになっていた。

 

 ある程度負傷している榛名達に入渠指示を出した。艤装を工廠へ降ろしにいく中、時雨だけが執務室に残った。その表情は何処か曇っていて冷葉も大淀も声を掛けづらかった。

 

 ふぅ、と息を吐いた後に溜めるように間が空く。

 意を決したかのような表情をした、時雨は冷葉と大淀に向けて口を開いた。

 

 

時雨「冷葉補佐、落ち着いて聞いてよ。今回の敵は深海棲艦だけじゃないんだ」

 

冷葉「今回は北方海域から出現した姫五隻のほかに誰かまだいるのか?」

 

時雨「う、うん。少し前、提督が戦った相手いるでしょ? 同じ世界出身っていう」

 

冷葉「そうだな、いたが…………もしかして今回も同じって事か?!」

 

時雨「そうみたいだよ。それに深海棲艦の勢力図に肩入れしてる。提督と戦ったあの子供?みたいな力を持ってて……僕たち、いや僕が一目見て分かったことはあの少女……凄く強いし、何よりも恨んでる」

 

冷葉「――――前回は芙二とサシで戦ったから、まだよかったのかもしれない。でも今回は無理だ。俺らじゃ、神のような化け物には勝てない。深海棲艦も何らかの施しを受けてるんだろう?」

 

 

時雨「……そこまでは、分からないけど。提督に相談すれば、まだ何とかなると思う。僕だって艦娘の身だけど人外の力を得てはいるからね。サラトガのこともまだ諦めなくてもいいと思うよ」

 

 戦況は絶望し、諦めるほどではない。

 

 空襲警報が鳴りはしたが、実際に深海棲艦とその艦載機群が本土ひいては東第一泊地周辺に到達することはなかった。空中は芙二のおかげでもあるが、海上では艦娘たちの連携による賜物であった。

 

 榛名達は提督二襲い掛かった人物の招待をまだよくわかっていないかも知れない、と思っていた。確実に障害になるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 だと言って、自分らでは傷をつけられることは叶わない。

 その辺は現地住民である芙二らに丸投げする腹積もりだった。

 

 それよりも他に何かないかと考えている時だ。

 しばらく沈黙していた冷葉が時雨の方を向いて感謝していた。

 

冷葉「時雨ちゃん、ありがとね。艦娘らが諦めてないのに、勝手に絶望して指揮を捨てるなんてしちゃあダメだよな。あいつが帰ってきたら状況を聞くわ。入渠へ行ってもいいぞ」

 

時雨「うん。分かったよ。それじゃあね、大淀さんも何処かで休憩したらいいかもしれないよ」

 

 そういって執務室を後にした。

 

 時雨の報告を聞いた冷葉と大淀は互いに顔を見合わせる。

 思っていることは同じなのだろう。

 

大淀「……」

 

冷葉「……どうしようか。この件、上にも報告しとくべき?」

 

大淀「しとくべき、なんじゃあないですかね?」

 




ついに邂逅。とはいえ、逃げられたもよう。

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