同日 十四時 二分 執務室
先ほど時雨からとんでもないことを聞かされた冷葉と大淀は芙二の帰りを待ちつつ、本日の出撃報告書をまとめていた。
冷葉「しっかし、なぁ…………大淀さん。あ、上に報告する書類はまだ出さないで。出すときは、深海棲艦の情報だけ書いて。深海棲艦側を支持している人間がいる、なんて書いたら絶対に指名手配されるから」
大淀「分かりました。確かにそんなことを載せたら指名手配されますね。それに、提督と同じところの出身でしたっけ。つまり我々以上の化け物ですね。戦争以外で死人が出ますし、提督が帰ってきてから詳しく聞きましょう」
互いの顔を見ずに会話していく。が次第に表情が暗くなっていく。
冷葉は芙二が帰って来るのをただただ待っている。時雨が退室した後なのに、ガタガタと貧乏ゆすりし始めている。気になったら、注意すればいいだけだ。
しかし冷葉の気持ちも分からなくはない。深海棲艦に肩入れしてる存在の力だけでも脅威なのに、深海棲艦側について力を貸しているかもしれないという情報。真偽は定かではないがそれは頭を抱える事案だ。
さきほど冷葉が言ったとおり、提督がサシで戦ってなんとかなった相手だ。
今回も提督にはその存在と戦う事になるだろう。だが、もしも深海棲艦側に力を与えていたらどうなるだろうか?
今ギリギリのバランスを保っているが、それが逆転でもしたら?
人間はこれまで以上に被害を受け、その余波が我々にも来るだろう、とすぐに理解する。
大淀(はぁ。提督の力が頼りになるのは分かってましたが……どうして今回もなんですかねェ? いやむしろ今が異常なだけであって、本来そういう思考が生まれる事がおかしいのですかね)
カタンとペンを置き、提出するべき書類を纏める。
冷葉も一度、ペンを置いて席を立つ。
ぐぐーっとストレッチをしながら気持ちよさそうに唸る。
そしてコーヒーを飲むけど、と大淀に聞いた。
大淀は慌てて自分がするというも、冷葉は今回は自分がやるといい曲げなかった。意思を曲げない冷葉を見てか、大淀は諦めるようにコーヒーを一杯頼むだった。
了解、と頷き電気ポットに水を入れて電源をオンにした。砂糖とミルクを入れるかと聞かれたのでミルクを一つ追加で、と伝えた。
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冷葉が大淀にコーヒーとミルクを渡してから十五分ほどが経過したとき、扉が三回ノックされた。
許可を出す前に、扉は勢いよく開く。勢いに驚いた大淀は顔を歪め、冷葉はつい大声で入室してきた者に注意をしようとしたが、正体を見てすぐに声のボリュームが落ちた。
冷葉「誰だ――――って芙二か! 今日出撃したやつから聞いたぞ、お前が探していた人物が見つかったんだってな」
芙二「あぁ、それな同郷人が敵側に居たことも知ってるか?」
もちろんだ、と頷く。少し疲れたよう感じで部屋に入ってきた芙二は大淀に『コップ一杯の水をくれ』と頼んでいた。言われたままに大淀は席を立って、ミニキッチンの方へ向かう。
芙二「冷葉、俺からの報告は北方棲姫の艦隊をほぼ壊滅までさせた。当の北方棲姫の首までは取れなかったが、ちょいといいものを持って来れた。持ってきた情報、聞きたいか?」
冷葉「なるほどな。北方棲姫の艦隊をほぼ壊滅させたのは流石だな、としか言いようのない。北方棲姫の首を取れなかったのはお前の探していた人物の妨害か?」
芙二「そうだな。首を撥ね損なった。それに死にかけの深海棲艦が急に項垂れたかと思ったら一心不乱に動き回った。多分、大方その女の能力だろう。また厄介なことになるな」
冷葉「うわぁ、お前の出身って変な奴ばっかりだな」
芙二「いや
というと冷葉の表情が急に真剣になる。芙二は大淀からコップを受け取ると一気に飲み干し、テーブルに置く。下げようとする大淀を制止させ一緒に聞くよう促す。
芙二は冷葉に資材の残りを聞く。
もったいぶらず教えてくれよ、冷葉がいう。大淀も気になっているようだ。
芙二「あー、資材の残りはいいか。深海海月姫の場所が分かった。それは――――」
冷葉「本当なのかッ!?」
続きを言う前に冷葉が驚きのあまり大声を出しながら立ち上がった。
芙二も大淀も驚いている。芙二は続き話すから落ち着けと、宥め冷葉は大淀にも謝っていた。
とりあえず落ち着いたところで話の続きを始めた。
芙二「北方棲姫と同郷人が去る時に一応マークしておいたんだ。それで、場所は……冷葉、少し落ち着いてくれ。居ても立っても居られないのは分かるが、確固たる情報は全員に共有すべきだろう?」
冷葉「あぁすまない。続きを話してくれ」
芙二「場所は北方AL海域――――そこの最東端に位置する島だな。無人島だ。そこに北方棲姫らは基地を作った、と見ている。真実は知らんが、そこに深海海月姫はいる。待機してるのか、機を伺ってんのかは知らん。だが、そこへ全力出撃すれば可能性はあるだろう」
冷葉「サラトガを救える可能性か? お前の力があれば百パーセント…………『ではない。普通であれば百パーセントは難くない。だが今回は例の同郷人が絡んでいる可能性が大いにある』あー……そっか」
冷葉「それでいつ出撃するつもりだ? 敵が弱っている今なら可能だろうが…………」
芙二「明日の早朝出撃しよう、支援艦隊のメンバーと基地航空隊を派遣して道中も敵も叩く。まずは艦隊全員に指示を。多方面への連絡は俺がしておこう。終わり次第、休め。休んでいる夜間は俺が見てやろう」
冷葉「分かった。お前はこれからどうするんだ? つか、休みなしはきついだろ」
芙二「俺はこれから昼食を取った後に葉月宅へ向かう。アポは取ってないが、カインがいるから誰かしらいるだろう。そうだな、休みなしは非常にキツイ。だが、夜間空襲されたら我々に甚大な被害を出す羽目になる。ちと、醜い姿になるが全力で警戒させてもらうよ」
冷葉「そうか、お前の考えは分かった。…………あまり無理はするなよ」
報告は済んだ。退室する際、冷葉にお前もな、と言って食堂へ向かった。
芙二が食堂に姿を現すと間宮と伊良湖が驚いた顔をしていた。彼女らを見て思う。確かに普段はこの時間帯は外へ出ていたリ、艦娘と共に出撃をしていたりするから驚くのも無理はないだろう。
カウンターへ行き、挨拶を済ませ昼食はなんだい、と問う。
間宮はこれから来るであろう艦娘のために甘味を準備しているところだったので、代わりに伊良湖が答えてくれた。
伊良湖が言うには本日は【握り飯】だそうだ。いつもは定食から和食、中華、洋食など様々なメニューを見せてくれるが今日みたいな時間はその方がありがたかった。
教えてくれた伊良湖に適当な味の握り飯を六個頼む空いている席に腰かける。
芙二(とりあえず握り飯を受け取ったら食堂を出て、そのまま玄関前に移動するか)
その後のことを考えていたが、後に回し伊良湖から昼食を受け取ると食堂を後にする。
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同日 十五時 四十二分 葉月宅 玄関
芙二は玄関ドアを三回ノックする。中からシェリルが『どちら様でしょうか?』と尋ねてきたので『あ、突然の訪問すみません。シェリルさん。凌也です。聞いてほしい事があります。今お時間大丈夫ですか』と言う。
シェリルは『え、凌也くんなの!?』と慌てた口調で芙二の訪問に驚いていた。
そのまま扉を開き『急にどうしたの? と、とりあえず中に入っていいわ』と通した。
リビングへ行くとテーブルには湯気の立つティーカップが置いてある。
それを見てしまった、と思った。何をしていたかは分からないが休憩を邪魔してしまったと感じた。今すぐにシェリル達に言いたい欲に駆られていたが、時間が経つにつれ夜でもいいかと思い始めた。
だが、芙二が帰宅の旨を伝える前にシェリルが口火を切った。
芙二「今日、もう一人の同郷人のアイリ・ブルグレスと接触しました。彼女は人間にとって明確な敵となっていました。近くには姫級の深海棲艦がいて、共に逃げられてしまいました」
シェリル「なんですって? 外見の変化はありそうだった?」
芙二「ないですね。人間のように黒いスーツを着ていました。見た目は俺達と変わりないです。ですが、深海側にいる事実がよろしくない。カインはまだマシでした。あれも災害のようなものですが、まだ対処ができる。でもアイリは違います。個ではなく徒党を組み、そこで動いています」
シェリル「それって凌也くんの所属している組織の敵よね。アイリさんはそこに所属しているの?」
芙二「いや違うと思います。向こうの目的は分からないですけど、うちの時雨によるとアイリはこの世界をとても憎んでいるそうです。ならば――――」
シェリル「世界を憎むもの同士、手を組んでいるということ? アイリさんが深海側に与しているという事は向こうが有利になるのでは…………いや凌也くんがいるから五分五分かしら」
芙二「まあそうですね。ですが、アイリが深海側の戦力を強化しているとしたら――――話は違ってきます。俺だけだと敵わない。まあ付与すればいいんですけど、限度がある。向こうはきっと際限なく増やせるでしょうし…………」
シェリル「…………凌也くん、彼女を連れ戻すことは出来るのかしら? 不可能なんてことは、ないわよね?」
芙二「分かりません。まだ彼女の実力を全て知っている訳じゃない。それに五体満足は難しいかもしれない。いや干渉すればもとには戻せますけど……人間と艦娘、深海棲艦+アルファの総力戦になるかも」
シェリル「! それは、そうなるわよね。アイリさんが事を招く前にどうにか探さないといけない」
芙二「探すだけじゃなくて、その破滅の意思も砕かないと……同じ事をされてはキリがない。それと我々の故郷の名を呟いた際、激昂したので安易に言わない方がいいかもしれない」
シェリル「…………カインちゃんはどう思うのかしら」
芙二「そりゃあ会いたくなるでしょう。そういえばカインの意識はまだ?」
シェリル「いえ、今はメイさんと葉月さんと一緒にこの地域ともう少し遠くまで冒険してますよ。最近は元気よ。でも今のアイリさんの情報を得たらと思うと」
芙二「なるほど。シェリルさん、なるべく言わないでください。どうせどこかでバレますし、カインが寝返ったら我々は勝てない…………種の冠位へ到達という進化の極致へ行かなければ、きっと」
目線をずらして、悔しそうな表情をする。
シェリルは【種の冠位】という単語を聞いてハッとする。
カインは確か冠位に到達していたから半人半龍の龍神と変化したのだ。別に龍人族だけが冠位に到達し、神のような存在と成れるわけではない。人間も悪魔も魔物も
ただ機会はあれど、すぐになれるものではない。人生の中でなにがあるか分からない。故になる前に、届く手前で力尽きる事もある。しかし異世界では分からない。
【種の冠位へ到達する】という条件はシェリルたちの世界では、という話だ。
この世界の条件を知らないシェリルは少しだけ不安になった。
あとでカインに聞くしかない。何をやったらいいのか。それとも目の前にいる天獄龍と戦った本人に聞くべきか。芙二はまだ険しい表情のまま何かを考えている様だった。
シェリル(…………今聞くべきではないわね。また次会う時に聞きましょ)
と思っていると芙二が前を向いて口を開いた。
芙二「シェリルさん、今日話すことは以上なので俺は帰りますね。なにか進展があったらまた」
というと芙二は葉月宅の玄関ドアを開きそのまま泊地へ帰って行った。
数秒足らずで消えた芙二を見送ったシェリルは今話されたことをカイン以外に共有しようと思った。
泊地へ戻った芙二は自室に戻り、少し散らかった部屋を片付けるついでに北方棲姫を連れて去るアイリの表情を思い出していた。
深海棲艦の姫と徒党を組んで、どうとか言ったが実際は違うのかもしれない。
たまたま目的が一致しただけ。本当にそれだけの関係だとしたら一対一対一の可能性がある。
芙二「違うと思うがきっと彼女は――――ただの八つ当たりをしたいのだろう」
自室のソファに腰かけて自信なさそうに呟いた。
あと5話で三章終わり(予定)
このペースだと11月入っちゃうけどいいか。