とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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今月結構忙しい。


三章 26話『警戒のついで』

 時刻は二十三時を過ぎた頃。芙二は少し前に冷葉と交代をし、夜間哨戒を行うメンバーを招集し冷葉からの伝達事項を伝えていた。最後の『敵を見つけたら』という項目を特に強くおした。

 

 艦娘らはコクコクと頷き、母港から泊地近海へ出撃した。

 

 

芙二「行ったか。さて、俺はっと……」

 

 夜間空襲をいち早く察知するために芙二は外へ出る。そしてさっきまでいた建物の屋根に軽々と登り、青く黒い毛並みに燕尾服を着た人狼へと姿を変える。

 

 昼間伝えていたとおり、獣人型になった芙二は怨念や呪いを振り撒いていた。

 突如として現れた強い死の存在感を察知した動物はみな、一斉に逃げ去る。

 

芙二(ふぅむ。この状態だと餌を探して飛び回っているコウモリも寝ている鳥もみな、本能が警告を出すのだな。……調整したら威嚇として使えそうか?)

 

 などと、どうでもいいことを考えながら屋根に座り込んだ。そして人外の夜目を利かせそこから水平線向こうを見つめる。数分、数十分、一時間と見ているが月が出ていない黒々とした空に変化はない。深海棲艦の艦載機の赤や黄色の点々は見えることはない。

 

芙二(んー……この時間帯は来ないか? あれだけ壊して殺せば、向こうも警戒してこないか。それに逃がした獲物が大きすぎてなあ。俺の情報とか筒抜けだと思うし)

 

 と、目を細めながら思っていた。

 空襲警報は鳴りやんでいるが、まだ住民は避難先から戻れてはいない。

 

 そのことを考えると――とっととやってしまいたい欲に駆られる。

 がしかし、行わない。ここで自分が出たら艦娘達の思いを無駄にしてしまうような気がした。

 

 

芙二「下に降りるか」

 

 すっと立ち上がると中庭に着地しようと思って行動した。

 

 

 ======

 

 時刻 午前零時 三十九分 中庭

 

 夜遅い時間、夜間哨戒の艦娘以外は皆寝ている。そのため砂利の上をゆっくりと歩くだけでもその静かな雰囲気を壊してしまうものだ。

 

 そこに一人の艦娘が現れる。

 

 駆逐艦 如月はなかなか寝付けずにいた。同室の皐月は寝ているので、気分転換に一人で散歩でもしようと思い中庭へ来ていた。

 

如月(今は艦隊全体がピリピリしてる気がする。それもそのはずだけど……あと数時間後に後半戦となる作戦が開始される。正直不安よね……)

 

 と暗い顔をしながら、背もたれのあるベンチに座り込む。

 そして頬杖をついて『はぁ』と溜息をつくとき。

 

 シャリ シャリシャリ

 

 と砂利同士が軽く擦れる音が聞こえた。

 如月は誰か来たのかと思い、音のした方を振り返るとそこには何もなかった。

 

如月「今のは野良猫なの、かしら?」

 

 そう呟き再度地面を見ようとした時だ。

 

 ジャリ ザク……ザク……ザク……ザク

 

 さっきと同じ方向から砂利を踏みながらこちらへ向かって来る何かがいる事に気がつく。

 

如月(え!? な、なんなの……まさか不審者ッ? ど、どうしよう)

 

 最低限の灯りしかない中庭。

 正体の分からない何者かが背後から迫ってくる恐怖に居ても立っても居られなくなった。

 

 いっそ悲鳴でも上げて逃げてしまおうかと思った時だ。

 

芙二「如月、こんばんわ。こんな時間にどうしてここに?」

 

 といつもの口調をした提督の声が聞こえてきた。

 え!と声を上げて振り向くとそこには青く黒い毛並みに燕尾服を着た人狼がこちらを見下ろしていた。

 

如月「~~~!!!!????」

 

 あまりのことに如月は声にならない悲鳴を上げてそのまま後ろへ倒れ込みそうになる。

 

 危ない!と芙二が如月の身体を掴み、声を掛けるも反応はない。

 

 あれ?と思っていたが、『キュウ……』と伸びていたので気絶しているのだと理解し、彼女を寮内の部屋へ送った。

 

 

 ======

 

 

 一方、港湾棲姫たちはというと昼間の侵攻を振り返っていた。アイリは北方棲姫の凍傷を癒しながら姫たちが話す内容に耳を傾けていた。

 

『アー……コレハ異常事態ダ。予定デハ沿岸部ヲ攻撃シ、陸ヘノ足掛カリヲ作ッテイルツモリナノダガ』

 

『ソウダナ。マサカ人間ガアノヨウナ、モノヲ飼イナラストハ……』

 

 会議の口火を切った北方水姫は頭を手に当て、苦い表情をしていた。それに続いて空母棲鬼は目を丸くして驚いていた。艦娘に縋るしか能がない人間が、まさかあんな怪物を()()()()()()()()なんて、と。

 

 海を凍らせて進まれたらこちらにとっては最悪な事態を招きかねない。話題は侵攻から人間が飼いならしているとされる怪物と変わった。

 

 

『シカシ……北方ノ戦艦神水姫ガ言ウニ、アレハ悍マシイ存在ナノダロウ?』

 

『ソウダナ。人間ガアノヨウナ存在ヲ飼イナラセルトハ思エン。今ハ、強力関係ニアルト見テ良イダロウ。人間共ノ事ダ、イズレ綻ビヲ見セル。ソノ時ニ、取リ込メバ良イダロウ』

 

 北方戦艦神水姫の言葉に他の姫級は頷き、再度考え始めた。

 凍傷が癒えてきた北方棲姫はアイリにお礼を言っていた。そして会話の流れを遮るようにアイリが意見を言う。その時、アイリの元に居た北方棲姫は港湾棲姫の元へ駆け出していく。

 

アイリ「あー私からもいい? アレと対面して思った事ね。アレは本物の化け物。んー、ここにいる姫級が力を振り絞って襲い掛かっても勝てない。現に北方棲姫の部下の一斉攻撃でも傷がつかないくらいタフだし……」

 

 と、言うと静かになった場面で『ここにいる全員でも勝てない』という事実に全員が驚いた。

 では、逆にどうしたらいいかと発言したアイリ以外が考え始めた。しかし一番に声を上げたのは他でもない戦艦神棲姫だ。彼女はアイリではなく、この場にいる全員に向けて話しだした。

 

『フム。ソレナラバ……各海域ニイル全テノ者ニ通達スレバ良イノデハナイカ?コウシテ話シ合ッテイテモ思ウヨウナ答エハ見ツケラレナイダロウ。我々ガ話シテイル今コノ時デモ、アレハ此方ニ向カッテキテイルカモ知レヌ』

 

アイリ「確かに。それは考えられるね。戦艦神棲姫、遮るようで悪いんだけど私から一個案があるのだけど。聞いてくれる?上手くいけば陸から内乱を起こせるから」

 

 戦艦神棲姫が、続けろというとアイリは話し始めた。

 他の姫級たちも大人しく聞いている。

 

 上手くいくのか?という疑問の眼差しをアイリに向ける。

 しかしアイリはそういうことをしてくれる『ツテ』があるから心配するなという。

 

 ほぼ全員がアイリの案に賛成していた。

 それがうまくいけば、海軍の信用を奪えるかもしれない。

 

 人間のことだ。我々が予想をしなくても勝手に壊れてくれるだろうと北方戦艦神水姫は思った。

 

 アイリは表面は素晴らしい案を言えたと安堵した。しかし自分の本当の実力と思惑を知っているのはこの中には誰一人としていない。故に、と内心は黒く微笑んでいた。

 

 

 

 北方水姫はアイリの作戦はともかく、さっきから一言も話さない深海海月姫の方を心配そうに見ていたのだった。

 

 

『……………………』

 

 身体の奥がムズムズする。それになにか、痕を付けられたような感覚もした。

 その正体を考えていたが、全く見当がつかないので途中で放棄し明日のことを考えていた。

 




あと四話で三章は終わるけど、今月で終われるか分からないなー。

これから後半戦です。
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