とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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今月終わりそう。これ三章終わるんかな。


三章 28話『仄めく魂の影』

 

 

『…………おはようございます。皆さん、そんな表情をしてどうしたのですか?』

 

 髪や肌は青白く自分達の知るサラトガが微笑みながら挨拶をしてきた。

 これだけを見てしまえば、見た目こそだが彼女は正常であると感じてしまうだろう。

 

 東第一泊地の艦娘は目の前にいる彼女を正常、マトモであるとはまったく思わない。

 彼女は自害の後に沈んだと報告されている。それに自分達の「魂」という不確かなものを物体として扱える提督ですら、追跡は困難だったのだ。形は同じであれど、本質は異なるのは自明であった。

 

長門「…………」

 

赤城「本当に、サラトガさんなの…………?」

 

『はいっ! お久しぶりですね、アカギさん。()()()()来るような気がしてました。大勢で迎えに来てくれて、ワタシは嬉しいです』

 

 赤城の疑問に対して素直に答える深海海月姫。両手を合わせ、微笑む仕草は艦娘だった頃の彼女のままであった。彼女を知る艦娘は顔色を分かりやすく変え、不自然なほどに微笑む深海海月姫から一歩引いた。

 

 

長門「……深海海月姫、と言ったか。時間が惜しいから質問してもいいか?」

 

『! はいっ。ナガトさん、いいですけど………ワタシのことはサラトガと――――』

 

 ガコン カチッ

 

夕立「嘘を吐くな。おまえの気配はサラトガじゃないっぽい。変な動きをしたら躊躇いなく撃つ」

 

『ッ……ハァ、分かりました。深海海月姫でも何でもいいです。それで? 内容はなんですか?』

 

 夕立の怒気混じる言葉は深海海月姫にプレッシャーを与える。先ほどの生前の彼女を連想させる仕草は消え、落胆したような声音で長門の方を見て、問う。

 

 その表情は彼女とは似ても似つかないものだった。

 

長門「いくつかあるから、答えろ。まず目的はなんだ」

 

『ン~~……私ノ目的ハコレト言ッテナイ。強イテ言ウナラ、試運転ダ。アノ小娘カラ奪エタノダカラ。性能ノチェックト言ウ所ダナ。他ニハ?』

 

長門「戻る意思は? 今なら…………いや無駄だろう。時間を取らせたな。最後にどうして対話に応じたのだ? 責められているのだぞ、躍起になって反撃してもいいのでは?」

 

『言ッタダロウ? コレハ性能ヲ試スダケニ過ギナイ。反撃、カ。フッ……フフフ。戦場ノ ド真ン中デ呑気ニ対話シテイルト思ッタ? 貴女タチノ後方ニ居ル、艦隊ハ大丈夫カシラネ……?』

 

長門「ッ!! まさか――――

 

 ドォン!

 

 ――――川内達が危ない!」

 

 深海海月姫の含みのある言葉を言い終えるとくるり、と長門達に背を向けて歩き出した。

 後ろを向いている今なら、と叢雲と夕立は撃とうとしたが、電探からけたたましい音が鳴りだしたので、そっちに気を取られてしまう。

 

叢雲「チィッ!! こんなときに――――待ちなさい!!」

 

夕立「な、この数は――――長門さん!! 夕立たち、囲まれているっぽい!!」

 

曙「なんですって!?」

 

陸奥「長門、指示を――――ッキャア! あぁもう、撃ってきた! みんな! 囲まれないように気をつけながら撃滅していってちょうだい!!」

 

 深海海月姫の影が見えなくなっていく、背後を取れるのに取れなかった悔しさが叢雲を奮い立たせる。

 夕立、陸奥、曙は自分の手の届く範囲の敵に向かって砲撃をする。

 

 被弾しそうになる長門を赤城が庇う。小破未満の傷を受けたが、反撃には困らなかった。

 砲撃音と水飛沫の上がる音が開始の合図となり、長門達は再度戦闘に引きずり込まれていった。

 

 

 =======

 

川内「くぅっ……もう少しで第一艦隊と合流できるってときに……!」

 

 短く悲鳴を上げて、回避行動をとる川内の視線の先にはタ級が砲先を向けていた。

 バシャ、バシャといくつもの砲弾が飛んできて第二艦隊は分断されてしまった。

 

 半分にではなく、川内だけが別なのだ。数の少ない方に徹底してきていたため、軽巡、駆逐級ではなく重巡、航巡、戦艦級が相手であった。

 

川内「損傷させても、キリがッ! ないッ!」

 

 節約しようとしたが、相手の数と戦力が侮れないので己に課した制限を解除して神通たちとの合流を優第一に考えた。

 

川内(考えろ、私。この中で一番、やりやすいのは誰かを見極めろ!)

 

 ギラリと視線だけ周囲を見渡す。

 深海棲艦の表情は変わらない。死んだような眼で距離を詰めてきていた。

 

 そんなとき、

 

 パキン

 

 細くて脆い何かが砕ける音が聞こえたような気がした。

 

 そしていま戦闘をしているのに、あれだけ騒がしかった海上に自分しかいない、みたいな感覚に陥った。息の上がっていた自分も落ち着いていき、次第に冷静になっていく。完全に冷静さを取り戻した一瞬のうちに呼吸を整え目標を絞る。

 

川内「見つけた。まずはネ級をッ――やろうかな」

 

 沢山いる深海棲艦の中から「ネ級」だけに絞り、装填準備を完了させいつでも撃てるようにする。

 確実に自分へ向けて飛んでくる砲弾の雨の隙間を掻い潜るついでに、ネ級以外にも牽制を行う。

 

 川内が目標に一歩、また一歩と近づくたびに深海棲艦が砲撃を受けて爆発していく。弾薬、燃料を節約する、というのも課した制限ではあるが、それは一部に過ぎない。制限の主な内容は自分の体力的なセーブを外す、ということだ。

 

川内「ふっ! くそぅ……頭に命中させることは叶わないか。やっぱり距離があると難しいなぁ。敵の行動をある程度予測して撃たないと」

 

 そう言う頃には、目標のネ級が黒煙を上げて沈んでいった。

 彼女の扱う砲の命中精度が低いわけではない。自分と同じようにすいすい海上を動く生き物の頭を一回で吹き飛ばすなんて無理に等しい。

 

 それができるのは時雨のように頭を掴んだ後に吹き飛ばすか、芙二のように相手の対応できない速度で動くしかない。

 

川内「はぁ。とりあえず旗艦みたいなのは倒せたけど……敵が撤退するように見えないからもう少しだけ動こうかな」

 

 敵旗艦のネ級が完全に沈むころは、川内の周りにいた深海棲艦は彼女から距離を取っていた。

 撤退する気配のない随伴艦を見ているとふとしたことに気がつく。

 

 神通と合流したいのに、随伴艦(こいつら)がまだ道を塞いでいる。

 その事実だけで十分だった。川内は次弾を装填し、ふぅ、と深呼吸をする。

 

川内「なるべく早いうちにみんなと合流しなくちゃな。これ、案外楽しすぎて……危ないことになりそう」

 

 時雨の感覚が少しだけ分かったような気がした。

 これは確かに楽しい。

 

 だが、これ以上同じ事が続くと戻れないような気がする。戦いで受ける傷や優位に立ったときに感じる快楽が癖になるのを必死に抑え、敵随伴艦に砲先を向けた。

 

 

 =======

 

 

 神通たちは時雨を拾った龍驤たちと合流して、共に敵を撃滅していた。

 問題なのは一人残された川内だと思っていたが、時雨が否定する。

 

時雨「川内さんなら、多分大丈夫だよ。こんな状態で戦ってる僕がいうのもアレだけど」

龍驤「なんや時雨? 一人だけになった川内のフォローに行ったらアカン言うのか?」

 

時雨「いやそうじゃないんだけど。むしろ全然行った方がいいと思うよ。十一人もこの場には必要ないよ。だから早く敵の数を減らして向かおう」

 

霞「言われなくても分かってるわ。敵の包囲網に穴を作るわ! 次弾装填、完了次第……砲撃を開始するっ」

 

 敵の砲弾、魚雷を避けながら時雨と龍驤は無線を介して会話をしていた。その内容を聞いていた霞が、流れを裂くように入って宣言した。

 

 他のメンバーは会話に参加できる余裕はなく、反撃を伺っていた。霞の宣言は機を伺っていた仲間にチャンスを与えた。

 

 互いを撃つ砲弾が波間に落ち緩やかな波をいくつも作る。戦いが起きている間は水飛沫の音は絶えず、ずっと響く。霞は宣言の通りに突破口作るべく、攻撃を行う。それに便乗した時雨や龍驤らといった仲間も攻撃をしたおかげで敵艦は数十隻沈める事が出来た。

 

神通「いい感じですね。それでは……畳みかけましょう」

 

 残りを攻め落とすなら、今しかないという時だ。無線から神通の言葉が聞こえる。これまで節約していたのでもう少しだけなら弾を撃ってもいい状況だった。

 

 水上艦は全員次弾装填を済ませる。数少ない空母はいつでも発艦できるようにしておくのだ。しかし敵艦はぴたりと動きを止めていた。恐怖に慄いたのか、燃料が尽きたのか。今なら敵を沈めれるチャンスだと、行動しようとしたときだ。

 

青葉「なっ!」

 

神通「敵艦隊が一度にすべて撤退していきます! 追撃を――」

 

龍驤「待ちぃや、神通。今なら川内と合流できると思うで。変に追って負傷したなんも言えん。やつらが撤退してるのなら、そのまま放置しようや」

 

 無線から龍驤の声が聞こえた。

 それを聞き終える頃、敵艦はおらず水上には川内を除く第二艦隊と支援艦隊のみとなっていた。

 

 川内の安否を確かめに第二艦隊の面々が向かおうとする時、時雨から「待った」がかかる。

 ヴェールヌイが「自分達の方ではこうだが、川内の方はまずいのでは?」と直接向かって聞くと少し疲れたような表情をした時雨は口を開いた。

 

時雨「ヴェールヌイの通りだと思うよ。でも僕らは支援艦隊だからあまり燃料と弾薬は積んできていないんだ。僕も含めてだけど、みんなそれなりに疲弊してるし中破には至ってないけど負傷してるんだ。それとまだサプライズはあるから、大丈夫だよ」

 

ヴェル「サプライズ……? それって提督が来るんじゃないのかい?」

 

時雨「実際のところ、詳しい内容までは分からないんだよね。それに提督本人がわざわざ自分の登場こそがサプライズだ、なんていうと思うかい?」

 

ヴェル「言いそうだけど」

 

如月「……」

 

曙「如月? どうしたの?」

 

如月「ううん、曙ちゃん。なんでもないの」

 

 そう返すと曙は心配そうな表情をした後に「大丈夫じゃなくなったら、早くいいなさいよ」と言って如月の元を去った。如月は昨晩の出来事を思い出しては、顔を青くするのだった。

 

 

 =======

 

 時雨達の撤退後、神通たちは川内と合流することが出来た。川内は神通たちを見つけると無線越しではなく、大声で手を振って駆けて来て安否を確認した。

 

 何もないことが分かると川内はホッと息を吐いた。すぐして龍驤が支援艦隊が撤退したことを話した。話し終えるまでうんうん、と頷き話し終えると龍驤に「ありがとう」と言った。

 

 そのあと二の句を繋いで「長門さんのところはひと段落したみたいだし、合流しよう」と。第二艦隊は無事合流を果たし、第一艦隊の元へと向かった。

 

 

長門「川内か。先程はありがとう。第二艦隊も戦闘を強いられたようだが、誰か欠ける事なくてよかった。それと時雨たち支援艦隊は撤退したか……いや川内達の受けるダメージを軽減してくれただけでもか。他には何か言っていたか?」

 

ヴェル「他にはサプライズがあると言ってたよ」

 

長門「サプライズ? なんだ、それは……提督が何か言っていたのか?」

 

ヴェル「いや時雨が言ってた。悪ふざけで言ってるわけじゃないと思う。それに提督がこの場にいたら私たちの活躍の場がなくなると思うよ」

 

長門「それもそうだな。あのような技を受けるあいつらが可哀そうだが、仕方あるまい。敵でなかったことを感謝するよ。まったく」

 

夕立「あのような技…? 長門は提督さんから何かされたっぽい?」

 

長門「ん゛ん゛。その話はこの戦いが終わったあとでもいいだろうか。今は合流が出来たのだから彼女の後を追おう」

 

 夕立の問いに長門は「元」深海棲艦だったことを話してないな、と気が付き咳払いをした。その後に表情を締めて深海海月姫のあとを追おうと全体に話しかけて進んだ。

 

 

進んだ先には駆逐、軽巡級のほかに小人のような深海棲艦が出現しすぐに接戦となった。小人のような深海棲艦は通称「PT小鬼群」と呼ばれている。それは見た目通りで小さくすばしっこい。更には砲撃をしてくれば魚雷も飛ばしてくる厄介な敵だ。

 

曙「ちっ! あぁもう~!しつこいんだから!!」

 

『キュキュッ』

 

如月「曙ちゃんの左にいる小鬼群が魚雷を――――まずい!」

 

 小鬼群に翻弄される曙は己の危機に気づいていない。全員交戦しているのだから自分のことで手一杯だった。彼女の近くにいた如月が近づく。

 

 そして庇った。

 

如月「きゃぁッ! ……くぅっ 痛いわねっ!!」

 

『ピキュッ!?』

 

 曙を庇い、負傷する如月だが弾を撃ち終わり隙の出来たPT小鬼群に一撃喰らわせることが出来た。それにより耐久力のないPT小鬼群は沈んだ。如月の艤装から少しだけ煙が生じているのを見て、曙だが開口一番に感謝を述べ、次に心配事を口にした。

 

如月「このくらい、なんともないわ。曙ちゃん、冷静に行きましょ?」

 

曙「えぇそうね。少し焦って、しまってたわね」

 

 駆逐、軽巡級、PT小鬼群を撃破した先に待ち構えていたのは「ネ級改」を旗艦とした敵水上艦隊だった。ネ級改だけでも厄介なのにタ級やヌ級、リ級、ヲ級と戦艦空母が大量に配置されていた。

 

 数は六隻だけではなく、自分達の倍以上いるように見えた。節約してきているので、ここいらで一度撃ってしまいたいが深海海月姫に追いたときに不足すると困ると長門は考えていた。

 

長門(どうする……どうする、敵の数が予想以上に多い。ここのままでは数に圧倒されてしまう。……正直、今ではない気がするが提督から渡された「アレ」を使うか?)

 

赤城「! 敵空母群、動きました。私も艦載機を発艦して抗戦します。皆さんは対空射撃の用意を!」

 

長門「あぁそうだ。赤城の言う通り対空射撃をしつつ、敵水上艦の動きに注意しろ!

 (まだ「アレ」を使う時ではないな。とりあえずこの局面は乗り越えなければ!!)」

 

 

 自分達の真上から敵艦載機が接近してくる。赤城の艦載機の数では圧倒的に足りなく、また敵の対空射撃で破壊されてしまうだろうと分かっていた。最初の空襲警報が鳴り響いたときのような数で落としても、キリがなく撃ち漏らしから小さな爆弾がいくつも投下される。

 

 水飛沫と共に仲間の悲鳴が聞こえだした。

 誰の悲鳴かは分からないくらいに攻撃が激しくなってきていた。

 

 対空射撃を行っていた長門だが先ほど考えていた提督からイザとういう時に使えと渡された「赤く光る小さな玉」を懐から取り出していた。

 

 効果は一時的だが改二同等の火力と【明石謹製】艦娘の専用装備の値を合わせたモノを発揮できるのだそうだ。しかし使えば反動が凄まじく大破以上のダメージを受けるかも知れないと真面目な顔で説明された。

 

 今この玉を砕いて使用すれば、突破口を作れるかもしれない。

 仲間の大破して置き去りにする事がもっともいけない事だと知っているからこその決断だ。

 

 

長門「ええい、背に腹は代えられない。今がそのとき――――」

 

 

 スガァァーーン!!

 

長門「な、なんだ! 今の爆発はっ」

 

 覚悟を決めて「赤く光る玉」を砕こうとした時、自分の左側から轟音が聞こえ、熱風が吹き付けてきた。自分が決断を迫られているとき、仲間が轟沈してしまったのではないかと思ったがそうではないらしい。

 

 ブロロロ

 

 自分の後ろから艦載機の音が聞こえた。一瞬赤城の艦載機かと思ったがそれは違うと分かった。

 聞こえてくる音が多い。上を見上げてみるとそこには機体に旭日旗が描かれた艦載機が敵艦載機、敵艦隊へ突撃している光景だった。

 

 気がつけばこちらの被弾が格段に減っていた。それよりも次々に敵が沈んでいく奇妙な出来事だった。この状況下で提督が助け舟を出してくれたと感じたがそうではないようだった。

 

 長門の元に鉢巻を巻き、弓を持った艦娘が近づいて来てこういったのだ。

 

瑞鶴「応援要請により東第三鎮守府所属 支援艦隊旗艦 瑞鶴参上した! これより東第一艦隊を支援しつつ敵最深部への到達を完了させる!」

 

 

 東第三鎮守府の支援艦隊が登場し、着々と揃いつつあった。

 

 




>赤く光る玉:芙二が即席で作った上限解放薬。使うと改二と明石が作った艦娘専用装備を足した火力が発揮される(理論上は)。しかし諸刃の剣に付け焼刃なので使用する場合は考えられる。

>支援艦隊:三つ出した。以上。芙二の支援は含めない。



ゲームのように何回か殴ってゲージ破壊でクリアの様にしたかった。
でも無理だと気がついた。
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