叢雲「これで大丈夫。あまり深く切らなくて良かったわ」
冷葉「ありがとう、叢雲」
叢雲「これくらいお安い御用よ。それにしても
怪我した手を叢雲に応急手当をしてもらい、冷葉は頭を下げていた。理由を聞かれたので経緯を話し始めた。
工廠での開発任務を終えた冷葉はふと工房へ足を踏み入れるとそこには何かを鍛造している紫月がおり汗を流し入ってきた自分にも気づかないほど集中している様だった。
カン、カン、カン、カンと真っ赤な鉄を叩く音がよく聞こえた。ここを芙二が使っているのは知っていたが、まさか紫月も使用しているとは露ほども思わなかった。
冷葉(……紫月さんにこんな一面があるなんてな)
目の前の真っ赤な鉄が形を変えていくことに驚く反面、見入っていた。そんなとき、もっと間近で見ていたいという気持ちに駆られ邪魔をしまいと別のところに歩き出した時に感じたのだ。
冷葉「ぅお!?」
服の上からだが全身に刃物で撫でられたような殺気を。思わず声を出して服を捲って確認するも身体のどこにも傷はなかった。それでも驚いてしまい、後ろに転倒した。
冷葉「! ――いッ!?」
転倒した際に手をついたのだが、そのときに痛みが生じた。何事かと思い、確認するとそこからは血が出ていた。
冷葉「え? なんで――」
紫月「うわ、冷葉君大丈夫かい!? あっ――そこには失敗作が転がってるか……?! ち、血が出てる! 待って今すぐ止血をっ!」
冷葉の声に気づいた紫月が声を上げる。どうやら鍛造を一時中断しているようで、彼の傍にはまだ熱された鉄があった。
冷葉「あっす、すまん。やりかけだろうに……」
紫月「やりかけ? あぁこれならもうこれ以上どうにかすることないよ、気にしないで」
冷葉「そ、そうなのか? でも」
紫月「大丈夫。これも失敗作だから、あとで芙二君に渡して再利用してもらうかな。……傷は深くなさそうだ。良かった。簡単な手当をしておくよ」
冷葉「ありがとう」
紫月「いえいえ、お気になさらず。一応応急手当の知識も学んでおいてよかった。まぁ救護班の人たちみたいな道具や専門的な知識は持ってないけどさ」
そういうと何処かへ行くようだ。冷葉は「どこへ行くんだ?」と聞くと紫月はすぐに「僕は失敗作を片付けなくちゃいけないから……誰か非番の子たちを」と言いかけた時、扉の方からこちらへ歩く声が聞こえる。
『あら? 冷葉補佐に紫月憲兵……二人はここでなにをして?』
冷葉「ここに入ってきただろ? そこからは叢雲と会話したとおりだ。今回は俺の不注意で出来た事故だ」
叢雲「なるほどね。まぁ大事にならなかっただけ、マシよね。それじゃ救急箱を片付けてくるわ」
冷葉「了解。俺も執務室へ報告に……ところで叢雲、なんで時雨は不貞腐れているんだ?」
叢雲「さぁ? 医務室に入った時は様子がおかしかったから、とりあえず叩いてみたからかしら?」
冷葉「そんな昭和なやり方で……でもおまえたちは機械みたいな反面も持つから有りか」
時雨「そんなわけないでしょ! 冷葉補佐も妙に納得しないで、少しは現実的なことを――」
叢雲の答えに妙に納得しそうになる冷葉。それを諫める時雨。不貞腐れ気味だったが、息を吹き返して叢雲に向かって手を伸ばしたが「現実的なことってなに?」の一言で再び口を閉じた。
ここまで露骨な態度を見せると逆に怪しいと思う二人。しかし叢雲は興味なさそうに「とりあえず私は医務室に戻るわ」と言って工房を去った。
時雨「行っちゃったね。冷葉補佐は……」
冷葉「うん、なんだ? 時雨。俺がどうかしたのか?」
時雨「冷葉補佐は誰かとお付き合いとかする気はあるの?」
冷葉「はっ?? なんだ、藪から棒に。まだ俺はそんな年ではないぞ」
時雨「そうかも知れないけどさ。どうせすぐに来るでしょ、そんな年。で、どうなのさ」
冷葉「んー、分からないな。このまま戦場で死ぬかもしれないし、誰かと付き合うのかも知れない。芙二ほど先を見る力は養われていないからな。もっとみんなの役に立ちたいよ」
叢雲に申し訳ないと頭を下げていた時とは打って変わって申し訳なさそうな表情をしていた。時雨には分からないが研究所にいたとき耳にしたことがある。
人間はすごい同僚が傍にいると負い目を感じてしまうのだとか。それと何もできない自分を比べてはネガティブになっていくらしい。
そのときの時雨は冷葉を励まそうと思っていた。だから、無表情になりつつある冷葉にこういった。
時雨「補佐は補佐のままでいいんじゃない? そりゃ僕だって提督みたいに人智を越えた
冷葉「そ、そうか? でも八崎さんや紫月さんだって……」
時雨「そうやって比べない比べない。所詮人は人だから。それでも気になるのだったら僕らに例えてみてよ」
冷葉「時雨達に例える?」
時雨「そう。赤城さん達、空母は艦載機を発艦して敵を屠るでしょ? でも僕らのように主砲を扱い、雷撃で敵を撃滅させることは出来ない」
冷葉「それはそうだよな。それぞれの役割があるし、互いの長所を生かして戦うんだから。短所を補って……」
時雨「うん。僕らは艦載機を扱えないし、ましてや射程だって短い。それを空母のみんなが補うんだ。指揮をする立場でもそれは変わらないと思うよ」
冷葉「変わらない……」
時雨「なんでネガティブになってるかは分からないけど。提督が戦場で指揮を執ってくれるから、僕らは動ける。反対に大淀さんと冷葉補佐は裏方仕事に見えるかもだけど泊地の運営に必要な書類関係をこなしている。二人がちゃんとしてくれているから、僕らも紫月憲兵もここで働けるんだよ」
冷葉「…………そうか。俺もちゃんと役に立ててるんだな。ありがとう、時雨。なんか気持ちがすっきりしたよ」
再び頭を下げる。時雨は「大したことはしてない」と言った。冷葉は「執務室へ向かうわ。それじゃあな」といい工房を去った。
いつもポジティブな冷葉補佐でもネガティブになることあるんだな、とそう思っていた時雨。彼もやっぱり人間だったのかと思っていた矢先、あるもの視界に入る。
時雨「これはなんだろう? 金の卵?」
乱雑に放棄された木箱の上で金色の卵型のオブジェクトが光っていた。思わず手に取ってみたくなるほどの存在感を放つそれに近づいていく。
手を伸ばし、金の卵に触れた。そんなとき。
時雨「うわ!?」
何かに触れたような気がして大きな声を出してしまった。全身のゾワゾワと毛が逆立つのが分かった。
ガシャン コロコロ……
どうやら金の卵が落ちてしまったようだ。殻が壊れて中身が飛び出ていないか確認するもさっきの感覚になるのは嫌だなと思い触れずにいた。
『時雨何かったんですか……? こ、これは……なんでこんなものがここに!』
時雨「よ、妖精さん? どうしたのさ」
確かアビスだったっけ。血相を変えて、金の卵に指を差している。それに危険物を見る目をしながら何やら文句を言っていた。
『どうせ芙二が放置していったのでしょう。私室に届けねば……時雨さん、これの近くに居たのは貴方だけですか?』
時雨「いや冷葉補佐もいたけど……それよりもこれはなんなの?」
『これは【黄昏の欠片】という名前のアイテムです。芙二に聞いた話ですが、あれには終末を告げる鳥が封印されていたらしいです。ですが、今は消滅してしまい空っぽのようです。芙二が怨念結晶を溜めておく道具として使っているので、一般人にとってはかなり有害です』
時雨「有害? どの程度?」
『人間であれば精神に支障をきたし、最後は発狂し周りを巻き込み破滅するらしいです。艦娘の場合も同様だと思いますが、こちらの方が質悪く人間や艦娘、深海棲艦の脅威となる存在になるでしょうか』
時雨「わぁ……そんなものをここに放置するなんて提督はなにを考えているのさ。アビスさんはそれを回収するんでしょ? ついでに提督を叱っておいてよ」
『了解です。では、失礼します』
そういってアビスは自分と同じ大きなの黄昏の欠片を頭上に掲げ、どろんと煙を巻いて去ったのだ。
工房に用がなくなった時雨は間宮に甘味でも貰おうと、食堂に向かった。
黄昏の欠片はクロスオーバー要素ですね。
どっかの施設に収容されてる三位一体となってから出てくる鳥をモチーフにしてます。
本体を出そうと思ったけど、それは没になりました。