とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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今月がもう終わる


四章 9話『海月姫 after ②』

 六月三日 午後四時 二十一分 芙二の私室にて

 

 

 本日行う執務の八割を終えた二人は執務室を出て、食堂に行こうとしていた。そのとき「冷葉、たまには俺のとこで休憩を取らないか?」と芙二が誘いそれに乗った冷葉はついていく。

 

芙二「そういえば冷葉。工房で怪我をしたと聞いたが、傷は大丈夫か? 紫月さんがやたら謝っていたから――」

 

冷葉「あぁ、それは大丈夫だ。深くは切らなかったからそのうち治っていくだろうよ。工房で作業している紫月さんに惹かれて勝手に入った俺の自業自得だから」

 

芙二「そっか。あー、適当な場所に腰を……欠片をしまい忘れてる。ちょっとしまうから待ってな」

 

冷葉「はいよ、それ金の卵のオブジェクトみたいだな。金の卵といえば……意味が貴重な人材だっけか?」

 

芙二「確か、100年前の言葉だろ? 年号は確か昭和。今はながーく続いた平成」

 

冷葉「…そうだな。この平成っつう年号が変わるのはいつになるのか。年号が変わる前に戦争が終わって欲しいが……叶わぬ願いか」

 

芙二「――よし、欠片をしまい終えた。今に緑茶を入れよう。お茶請けはなにがいい?」

 

冷葉「そうだな。何か甘いものはあるか?」

 

芙二「それじゃ昨日作ったおはぎで。個数は2?3?」

 

冷葉「3」

 

 「了解」返事をして二人分のお茶と茶請けの支度をする。とぷとぷと湯呑へ注ぎ、おぼんに入れて持って向かう。冷葉が待つテーブルに置く。

 

芙二「淹れたてだから熱いぞ。それとおはぎだ。初めて作ったもんだからあんま美味くなくても文句言うなよ」

 

 「言わねーよ」そう言いながらおはぎに手を付ける。竹串でおはぎを突き、口の中に入れる。餡子の甘さが疲れた体を癒すように感じた。咀嚼を終えた口内は甘ったるい。そこへ湯呑に注がれて時間の経っていない熱い緑茶を少しずつ飲む。

 

冷葉「っふぅ~……美味いな。甘いおはぎとほろ苦く渋い茶もいい。それに不思議と力が湧くような」

 

芙二「ドーピング……グリーンティー」

 

冷葉「ドーピング、なに? グリーンティー? え、麻薬でも入れてるの?」

 

芙二「なわけ。入れ取らんよ。なんとなく思ったから言っただけ」

 

冷葉「お前が言うとマジで入れたように聞こえるからやめて」

 

 「そうだな」頷き、自分の湯呑に口をつけて緑茶を飲む。湯呑を置き、冷葉の湯呑を見て思った。「まさかバレるとは……なんとなくてエンチャントしてみたけど効果は知らないんだよね」なんて自分の親友を実験台にしていた。

 

 「不思議な力が湧くとか言ってるから悪い効果はないだろ、きっと」そんな風に考えると次の話題にシフトチェンジする。

 

芙二「冷葉、今回の作戦を終えてどう思った? 初めての連合艦隊を使ったし支援艦隊も要請をした。俺は前線で楽し……指揮をしていたけど裏方のような仕事だったから意見を聞きたい」

 

冷葉「そうだなぁ。色々突っ込みたいことがあるからその辺を話すかな」

 

 「どうぞ」冷葉にひと言告げ、メモを準備する。冷葉の話で少しでも裏方の苦労を知りまた改善点を見いだせたらと思っていたから。今もそうだが、自分は万能ではないと常々思う。

 

 神のような、超然とした佇まいでいられたらまた変わったかも知れない。しかし二度目の生は種族は異なれど人間的な思想で、思考を持ち今こうして力を合わせて人間と過ごしている。

 

 たまに自分は不要なものではないのかと思ってしまう。冷葉や艦娘が認めてくれなければ、相容れない存在だから――……。不穏な空気が心から出てきた。

 

冷葉「芙二? 聞いているのか?」

 

芙二「っあぁ…すまん。聞き逃していた。もう一度言ってくれるか」

 

冷葉「ったくよー…ちゃんと聞いててくれよな」

 

 ”暗い事を考えていた”所為で冷葉の話を遮ってしまった。申し訳ないと謝罪をして聞く姿勢に入った。まず冷葉が話し始めたのは”水平線を埋め尽くすほどの敵艦載機が一瞬にして鉄屑と化した”ものだ。

 

 

冷葉「あれはほんとに驚いた。おまえがやったんだろ? あんな数が到着して来たら―……今頃ここは廃墟と化していたかもな」

 

芙二「そりゃね。やっぱりチャンネル内は荒れただろ?」

 

冷葉「そらそうよ! もう数見えた瞬間から酷かったのなんの。外部からの声とか更新される情報の多さとかで特殊チャンネル内はてんてこまい。俺も流石にそんな体験はしたことなかったから慌てたよ。でも冷静さを欠かずに済んだのは大淀さんのおかげだった」

 

芙二「ほうほう、それで?」

 

冷葉「やっぱり大淀さんはすげーよ。流れてくる情報を大淀さんが仕切って俺と山方さんで纏めてく。作戦が終わったあとさ、山方さんから連絡あって大淀さんと俺の手腕に感服したってさ」

 

 「そう言われると照れるよな――でも俺は大淀さんの方が凄い!って思ったけどな」山方との会話を手振りで表現する。照れくさそうに頬を掻く。その話を聞いて芙二は逆に申し訳ないと思った。

 

 それは冷葉と大淀の二人がメインだからだ。他の職員を配属する予定がことごとく潰されていて思うように出来ていないのが現状だ。このまま”大規模作戦を遂行せよ”なんて指令が出たら今度こそ危険に晒されそうだ。司令部での情報がこんがらがってしまうと戦場では大きく左右されるだろう。

 

 故に事故は避けたい、と思った。だから今度行われる会議で呼びかけてみようとも思ったのだ。

 

冷葉「――ということだ。後はまぁごちゃごちゃしちまうからここで切り上げる」

 

芙二「なるほどな。冷葉と大淀さんの連携は素晴らしいが、職員を増やす方向を視野に入れるべきか」

 

冷葉「そうだな。戦場に向かってない艦娘が参戦してくれるのはありがたいが、ぶっちゃけると頭脳がもう二個ほしい。欲張りだろうか?」

 

芙二「そんなわけないと思うが。やっぱり俺がここに残ってやろうか?冷葉が現場指揮を執る? あの船なら並みの攻撃は貫通しないと思うけど」

 

冷葉「いやいい。俺はこうして艦娘と通信しながら寄り添うスタンスの方が性に合っているからな。俺は……芙二のようにもしもの即戦力として使えるわけじゃない」

 

芙二「そう、か。それでは次だな。次はこれ!みたいなのは特にあるか?」

 

冷葉「―――時雨から聞いた情報かな。あれもある意味驚いた」

 

芙二「アイリ・ブルグレスの件か。捕縛に失敗したのはかなり痛いな」

 

冷葉「そうだな。おまえの探していた人物がまさか深海棲艦と手を組んでいたとはまったく思わなかった。南西諸島のカインだっけか? アレは徒党を組まずにいたからまだ被害が最小限だった。でも――」

 

芙二「人間ではなく、深海側。深海側と双方で急襲されたら陸も海も被害は甚大なものだろうな。まるで、生ける災害だな。奴らは明確な意思を持ち、命令を遂行するために命を散らす。後がなくなった人間のように恐ろしいものだ」

 

冷葉「死傷者は必ず出る。だが、奴らのルートは海のみだ。そこがまだ救いだが……件の少女がいる。それが何をしてくるか分からない」

 

芙二「それは俺が片付ける。冷葉達は深海棲艦を撃滅していってくれ。もしくは俺が最速で道を作る。雑魚はどうにかするから、大元を。明石に”専用装備制作の許可”を出している。俺など頼らなくてもお前たちで何とかなるレベルにはしておく」

 

 

 「それか今向こうで勾留している者共を使うが」真剣な表情で頷く。冷葉にはその頷きが意味することなど理解できないが、明石が作る艦娘個人の専用装備には助けられていると聞く。

 

 艦隊のレベルが向上するのはありがたいことだが、資材消費が馬鹿にならないとも聞く。残りが気になる冷葉だが、芙二は表情を見てか「鋼材ならアテがあるから大丈夫」そう得意げに言った。

 

 

冷葉「鋼材……? もしかしなくても紫月さんの失敗作か」

 

芙二「それもある。今、奴らからでる鉄屑を鋼材に出来ないか実験してるんだ。穢れは変換するから普通の鋼材として使えるようになると思う」

 

冷葉「奴ら? それって深海棲艦の艤装からって事か!?」

 

芙二「抵抗があるのか? 炉に突っ込んで溶かしてから使うから奴らの艤装だなんて誰も気づきやしないよ」

 

冷葉「上にバレたらどうするんだ? この件は絶対に面倒な事になると思うが」

 

芙二「そのときのことも考えているとも。面倒なことを始末するアテも準備してある。なぁに非人道的行為を行っている訳じゃない。喰らった獲物の皮を被る蜘蛛や頭蓋骨を宿として使う蟹みたいなもんだ」

 

 「命を賭けた戦いに勝って得た”戦利品”を勝者がどう扱おうと誰も文句は言えないだろう?」と言葉を締める芙二。言い終えると黙って茶を啜る親友を見て冷葉は恐怖を感じていた。

 

 戦争をしている相手に情が湧かないわけではない。それが人間であってもそうでなくても。だが、芙二の述べた口上は何処か常軌を逸脱しているような気がした。

 

 (そもそも人間ではないお前に人間の法律を、常識を当てはめようとしても無駄なだけなのかもな)そう冷葉は考えた。沈黙が長くなりつつなってきた。何か話題を変えようとしたとした時に扉がノックされる。

 

 

『休憩中のところ失礼します。提督、冷葉補佐がどこにいるのか知ってますか? 提督と補佐宛にお電話が来ているので――』

 

 声は大淀だとすぐ分かった冷葉は扉へ向かおうとするも芙二に止められる。上を見て文句を言うとした時、目が合った。表情はさっきとは打って変わって優しいものだった。

 

芙二「俺が出た方がいいだろ。相手の予想だけど多分音宮提督と思ってる。それか神城提督。どっちも会話したことあるから、俺が対応するわ。だから大淀さんと共に残りの仕事を任せた」

 

冷葉「分かった。廊下に出よう。大淀さんが待ってる」

 

 湯呑をそのままに二人は扉を開けて部屋の外へ出たのだった。

 

 

 




->獲物の皮を被る蜘蛛
->頭蓋骨を宿として使う蟹

 この二つ、分かった方いますかね?
 日本語がへたくそなのでわかりにくかったらすみません。
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