六月 二十日 東第二鎮守府 会議室
芙二は大淀と共に東第二鎮守府を訪れていた。受付に五分待つように言われ、その通りにしていると後ろから声を掛けられる。振り向くとそこには駆逐艦 漣がおり丁寧に挨拶をしてきた。
芙二「こんにちは、漣さん。東第一泊地の芙二です。本日はよろしくお願いします」
大淀「秘書艦の大淀です。よろしくお願いします」
漣「受付の方に待つよう言われたんですね。ご主人……いえ提督もすぐに来られると思います。私は先に会議室へ向かいますので失礼します」
これまた丁寧に一礼すると二人の前を去った。大淀はともかく芙二は”漣という艦娘はこんな感じだったのだろうか”などと思っていたらまた声を掛けられた。
掛けられた方を向くと軍服を着た女性が立っていた。薄い青色の髪は肩につきそうなほど長かった。向こうの表情は”にこっ”と微笑みながらこちらへ一歩、一歩と近寄ってきた。
一目で音宮提督だと分かった。芙二は一度会ったことがあるからだ。すぐに挨拶を返そうとするも向こうからはなし始めたのだ。
音宮「お待たせしました。えっと東第一泊地の芙二凌也殿と秘書の大淀殿ですね。私は東第二鎮守府の音宮と申します。本日はよろしくお願いします」
挨拶をした後に送れてしまった謝罪をしようとしたが、断られてしまった。音宮は「今は先に会議室へ行きましょう。案内しますのでついてきてください」そう言い二人はついて行くしかなかった。
十時〇一分 会議室
音宮が扉をノックして「失礼します」そう言いながら開ける。ゆっくりと室内に入っていき、芙二と大淀は追従する。中に入って早々、身体中が重くなった気がした。それもそのはず音宮を除く全員が二人に注目していたからだ。新人である芙二が着任報告を一ヶ月以上も怠ったのだ。
そんなことをしたら態度が悪くなるのは分かり切ったことだ。他二人以上に艦娘からの圧が凄く、大淀は完全に委縮してしまっている。表情を青くさせ、小刻みに震え始めている。
芙二(こういう場について俺は割と平気だけど……大淀は不慣れでしょうし、それ以上続けるならやり返そうかね)
なんて考えていると急に少し大きめの声を音宮が発した。
音宮「皆さん!彼らをそんなに威圧しないでください。報告を怠ったことで怒るのは分かります。月見提督殿が用意していた新人レクリエーションが無駄になってしまったのは……ゴホン。余計なことを失礼しました。とにかく! そんな圧をかけていたら自ら意見が言えなくなってしまいますよ」
そんなことを言われて芙二の思考も影に引っ込んだ。シンと静まり返った会議室には音宮が二人が座る席を指差し、着席を促す声がよく聞こえた。
指差された先の席の前には月見提督殿と秘書のグラーフが座っていた。目が合うとニコリと微笑んだ月見と対称的にこちらを睨んだのはグラーフだった。眼力だけで威圧されていた大淀はなるべく表情に出さないようにしていたようで涼しい顔をして席についた。
大淀「失礼します」
芙二「失礼します。
(こりゃ……圧が凄いな。音宮提督殿からもひしひしと伝わるんだが)」
音宮「ではこれより東提督会議を始めます。まずは自己紹介を致します。私はここ東第二鎮守府の現提督
最後に「よろしくお願いします」としめた。周りから拍手をされ、一礼して着席した。次に挨拶をしたのは東第三鎮守府の神城だ。
神城「私は東第三鎮守府の提督、
パチパチとまばらな拍手を受けた神城は着席する。休業理由については神城と芙二の両名しか知らぬ事実だ。東第四泊地の月見提督が席を立とうとしたときに、神城と目が合う。途端にジッと睨んできたので喋るなよ、そう釘をさしてきたのだと理解した。
月見「初めまして芙二提督殿。私は東第四泊地の
「いいですね?」声のトーンが下がった。大淀が何か言おうとすると月見の隣にいたグラーフが口を開いた。
グラーフ「大淀殿、我々は部外者のようなものだ。ここを一度退出し……そうだな。我らは艦娘として生を受けた仲だ。この際、親密になろうではないか?」
歓迎だなどと言う表情は微笑んでいるが、声色についてはちっともその様子がない。腹のうちでは「こいつもそこの男と話でも合わせているのだろう」そう思っての判断だ。
大淀「あっ……提――」
芙二「良かったじゃないか、大淀。先輩からのせっかくの誘いだ。乗らないと失礼だろう? こちらの事は気にせず行って来なさい」
提案に対し、困惑している大淀へ芙二が許可を出す。
「それはともかく」と前置きをしてグラーフの方に顔を向ける。
芙二「
頼みます、と座ったままだが頭を下げる。再び頭を上げると自然にグラーフと目が合う。少しだけの間に自分の腹の内を見透かされたと思ったグラーフは大淀に声を掛けると足早に他を連れて会議室を出て行った。
芙二「大淀も他の秘書艦方も出て行ってしまったので少し残念です。皆さんに名前を憶えてもらおうとしましたけど……コホン、失礼しました。私は東第一泊地の提督をしてます芙二凌也と申します。本日は補佐の冷葉はこの場には来ておりませんので紹介だけさせていただきます」
ペコリと頭を下げる。さっきとは違って誰も拍手をしない。腰を下ろそうとする芙二を待たずに月見が「時間も惜しいので早速始めましょう。音宮提督殿、資料を配ってもらってもいいかな?」そういうと音宮が下から【東第一泊地 報告書】と書かれたそこそこ厚い冊子を出した。
「どうぞ」そう言いながら一人一人に配布している。人数が自分を含めて四人しかいないためすぐ終わった。渡された冊子を手に取ると少し重さを感じ、これまでにあったことが鮮明に思い出された。
月見「では、芙二提督殿。最初に聞きたいことは着任七日で撃滅したとされる新種の姫級についてです。あなたはその姫級の名を【駆逐神棲姫】としました。その理由とその姫級について知っていることを全て話してください」
芙二(神とした理由はお姫さんたちが関わっているからだけど……そこまで言う理由はない。ここは会議室だ。色々と説明するにはもってこいの道具が揃っているだろう)
黙ったままの芙二を言い訳を考えていると思った月見は叱責する。あまりの声の大きさに音宮も神城も驚いて固まってしまった。
月見「まさか適当な言い訳を考えているわけではないですよね?」
芙二「失礼しました。言い訳を考えていたわけではございません。ここってプロジェクターとかはありますかね?」
月見「音宮提督殿、ありますか?」
音宮「ありますけど……芙二提督殿。使用するのですか?」
芙二「はい。プロジェクターを使いながら、その資料で気になる所を説明した方がいいかなと思いまして」
きっぱり伝えると月見は「分かりました。音宮提督殿、準備をお願いします」と告げた。音宮は頷いてプロジェクターの準備を始めた。準備が出来次第、開始される。
芙二(あんな存在と対峙したらこの人たちはどんな顔をして戦うのだろうか)
内心ではため息交じりの表情をしつつも「自分達が戦った存在を信じないだろうな」と思っていた。