とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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東第一泊地の艦娘、補佐、憲兵たちに存在しない記憶――。


四章 13話『誇大表現はほどほどに』

 プロジェクターの準備が出来た音宮が芙二にいつでも始められると告げる。芙二はプロジェクターとつながっているPCに近づいてちょいと干渉して自由にデータを引き出せるようにする。

 

 無論、会議が終われば勝手に消えるようしてあるので情報漏洩の対策は抜かりない。準備が出来たところでプロジェクターに資料を移しながら説明に入る。

 

芙二「まずは【駆逐神棲姫】を知ったきっかけから。そもそも私がその存在を知ったきっかけは冷葉補佐が担いで来た虫の息であった夕立の証言からです。彼女は元々は何処にも所属していない艦娘だとそう言いました」

 

 話し始める芙二に対して、月見は「続けなさい」そう短く告げる。一拍おいて続きを話し始めた。

 

芙二「その時は着任初日でした。初期配布の高速修復材を妖……大淀から教わりなんとか話せるまで回復させることが出来ました。ゆっくりと彼女は事の顛末を話してくれました。その中でもう一人、仲間がいたがはぐれてしまった、そう話しました」

 

月見「ふむ、ふむ。その仲間と言うのは資料にある時雨ですか」

 

芙二「そうです。どこにも所属していないのなら、燃料切れで立ち往生するのではと私たちは考え当日から行動しましたが結果はなかなか得られないものでした。着任して四日目でしょうか。ふと、噂が耳に入りました」

 

音宮「その噂が、次のページに書いてある【深海棲艦を殺しまわる幽鬼】ですか? 芙二提督殿と冷葉補佐は当時、この噂についてどう思ったのでしょうか」

 

芙二「そうですね。最初は誰かが夜戦を終えた艦娘を勘違いしたのだと思いました。ですが、五日目の海域攻略で噂の真実を知りました」

 

 月見が「画像や音声データなどの証拠はありますか」そう低い声で聞いて来た。彼女はこのはなし事態、芙二が勝手に妄想した話だと思っているようで態度の節々から疑っているのだと分かった。

 

「少し準備をするのでお待ちください」再びPCの前に向かい、自身の記憶を元に少しだけ()()したものを流す。音声の状態を意図的に悪くしているので当時を再現するにはもってこいだろうと考えた。

 

 

 

 以下、プロジェクターに映し出された動画

 

 

 

『――こちら、芙二。十時の方向からヌ級の艦載機が五機迫っている。進行の邪魔になるから迎撃をしてくれ』

 

 何のことはない、ただの指示から始まった。少々音が割れているが、聞き取れる。音宮たちは黙って動画を聞いていた。ノイズが入り、艦娘の声は割れて聞こえた為よく聞き取れない。しかし彼女達は芙二の拙い指示を聞きながら連携を取り、迎撃したと分かる。

 

『司令官。こちら、龍驤。リ級を旗艦とした敵水上部隊と遭遇したねん。でも何とかなっちゅう――な、なんやあれぇ?!』

 

『どうした、龍驤! 何があったんだ! 応答せよ、龍驤!』

 

 ザザ――ノイズで話し声が聞こえなくなった。龍驤からの応答が途絶え、他の艦娘からの応答があるまで芙二の取り乱した声が聞こえていた。

 

月見「芙二提督殿……少し取り乱し過ぎでは…?」

 

芙二「お見苦しいところを失礼しました。候補生の時でもああいう体験はしたことがなかったので……」

 

 苦笑いをしている月見と恥ずかしそうに頬を掻く芙二。だが、他の面々は「あぁいう時もあったよ」そう思っていたのだった。

 

 芙二の慌てる声も聞こえなくなり、部屋中が静かになったとき。急に川内からの応答があったときから執務室内が騒がしくなったのだが、マイクには芙二の安堵の声が混じっていた。

 

『提督! 今さっき、敵を全て撃滅したよ! これから泊地へ帰投――』

 

『川内さん! 夕立さんの後ろ、すぐそこに深海棲艦がいます!』

 

『えっうそ――夕立ちゃん、回避をッ』

 

 ドォオォォン! ズガァァァン!

 

『夕立……?! 川内、大丈夫か!!』

 

 束の間、川内のマイクから爆発音と爆風によりノイズが発生し、また連絡が取れない状況となったことが分かる。こうなってしまうと陸から無線を介して指揮している場合、ほぼ断絶状態となる。芙二以外、全員の顔色が悪かった。

 

 丁度いいと思い、動画をわざと終わらせる。はなし始めて大丈夫かと聞いてから次の説明を始めた。

 

芙二「あの時はダメかと思いました。陸からの指揮だと彼女達の居場所がとても恐ろしく感じまして――今では私も前線へ赴いてますが」

 

月見「はぁッ!? え、艦娘と共に前線へ――え、じゃあ執務は誰がやっているのですか」

 

芙二「執務は大淀と冷葉補佐が主にやっております。出撃がない日は、いえというよりかは休暇返上で私も執務をしておりますね。特に最近ですが」

 

月見「え、それでは芙二提督殿は一日も休んで……」

 

芙二「まぁそうです。ですが、私は何もやらない日よりかはこうして動いてる方が性に合っているので問題はないです。……失礼しました。話を戻します」

 

 「次のページを捲ってください。やや見づらいと思いますが」渋るような口調で促す。音宮も月見はその画像でしかものを見たことがない。なので未だに半信半疑な部分がある。

 

 だが、神城は違う。あの日、演習終わりの夜。長門達が起こした謀反で真実を知ったのだ。東第三鎮守府の面々、特に時雨と戦ったガングートは詳しかった。

 

 神城にも、自身が体験したすべてを語ったのだ。

 

 いつもはしない表情をしながら“あれは並みの艦娘を凌駕している”と。その真実を知っている神城にとっては芙二が提出した画像はとても悍ましく感じた。

 

芙二「噂の幽鬼の姿を捉えたものです。それが後の【駆逐神棲姫】もとい【旧駆逐棲姫】です」

 

神城「ぅッ?!」

 

音宮「見た目は時雨ちゃん……でも、ただの深海化した時雨とは違うんですよね?」

 

月見「ふむ、見た目は駆逐棲姫と類似してますね。確かあれは白露型の春雨とそっくりな見た目でしたし……その画像は”駆逐神棲姫”というよりかは”旧駆逐棲姫”という方が適切かもしれないですね?」

 

芙二「そうかもしれないですが、私があえて名称に”神”という文字を入れたには理由があります。次の映像を注目していただければ、報告書を仕上げている私の気持ちも少しは分かるかと思います」

 

 

 再度、PCの方へ向かい操作する。マウスで動画の中央をクリックすると再生され始めた。映し出されたそれは三人の表情を歪める内容であった。

 

音宮「嘘、そんな深海棲艦がいるの……?」

 

 ボソッと絶望が滲んだ声を漏らす。自分達の戦っていた深海棲艦、エリートでもフラグシップでもそこまでの挙動は出来ないであろう、動画が始まってからほんの一、二分で理解した。

 

 旧駆逐棲姫と言われる個体がイ級の頭を手刀で貫き、ヌ級の右頭部を殴り壊したのだ。艤装を纏ってはおらず、色の抜けたセーラー服のままだった。素の力だけで戦艦級に匹敵しそうだと理解した。

 

『夕、立……ボクと共に行こう? あんな奴らといたらきっと君は……ダメになってしまう』

 

『いやっぽい! 今の時雨は夕立の知る時雨じゃないっぽい!』

 

『そっか。夕立はそんなことをいう子じゃなかったのに。それじゃあ――後でリードと首輪をつけてあげるね』

 

 ニヤニヤしだす。その表情は邪悪そのものだ。夕立を攫おうと旧駆逐棲姫は動き始めたようだ。速度は普通の駆逐艦となんら変わらない。

 

『っ!! 来たで!! 川内、なんとしてでも! 夕立を攫われんように――』

 

『うるさいよ、ねえ?』

 

『なっ!? 今、なにが……』

 

 龍驤が川内(旗艦)に撤退の提案をしようとしていた。だが、気が付けば旧駆逐棲姫の顔が鼻の先にまで迫っており、驚きで固まってしまっているようだ。

 

 直後――ベキィッ!! 右側に龍驤が吹き飛ばされていった。水切り石のように跳ねて倒れたところに霞が駆け付けていく。

 

『龍驤さん! 龍驤さん! しっかり! しっかりしてください!!』

 

『ぅ、ぁ? 今、何が、起きて……』

 

『あれ? 確実に首を折ったはずなのになぁ……足りなかったか。なら――』

 

 残念そうな旧駆逐棲姫の声が聞こえる。龍驤と霞に狙いを定めたような口ぶりだった。

 

 バシャ――水の音が聞こえたのも束の間、旧駆逐棲姫の姿は二人の眼前へ迫っていた。力を込めたのが分かるほど力こぶが盛り上がっていた。その一撃を与えられれば、大破など関係なく一直線に死へ直結すると動画を見ていた三人は理解した。

 

 目を覆い、隠したくなってしまった。だって、そんな惨劇をこれから見せられるのだから。次の瞬間、奇跡でも起きて惨劇を回避できたのだとしても目を覆い、否定したくなる。

 

『死ね』

 

 ドォン! ドォン! ドォン!

 

『っ! っ! っ!』

 

 どこからか砲撃音が聞こえ、旧駆逐棲姫に直撃する。苛立った素振りを見せ、振り向き何処かを見ていた。その視線の先には叢雲がいた。

 

『……死にたいの?』

 

『深海化した、艦娘ね。単刀直入に言うのだけど、はっきり言って邪魔。勝手に現われて、何か私的なことを話したと思えば、殺しに来てくるわ……情緒不安定なの? 大丈夫?』

 

『艦娘如きが…他よりも先に殺そうか。すぐ殺そう、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――嗚呼絶対に血腥い鉄屑(生ゴミ)にしてあげるよ!!!!』

 

 矛先を叢雲に変えた旧駆逐棲姫は殺意を言葉にしながら、一直線に近づいてくる。動きながら黒くゴツゴツした装甲、鈍い色の艤装を纏う。そして右手には小さな魚雷を掴んでいた。

 

 ニ人は叢雲が馬鹿な挑発をしたせいで、殺されるのが確定したようなものだと思っていた。例え旧駆逐棲姫から霞と満身創痍の龍驤を引きはがす手段がそれしかないのだとしても、実行に移す叢雲は肝が据わっていると内心評価していた。

 

 

月見(動きが単調になったな。旧駆逐棲姫の異常な移動速度と攻撃性は艦娘、ましてや姫、鬼の出せる火力ではない。人智を越えたように見え、故に”神様”のようだと思ってしまったのだろう)

 

 人は己の認知できない領域を神だと例える癖がある、と聞く。つまりはこの報告書に出てくる旧駆逐棲姫の存在は誰も知らない、本営のデータにもない情報だ。

 

 また判断材料も少なければ、芙二提督殿は新人だ。そういった経験に乏しいのだろう、と判断した。

 

『……そんなに単調な動きでいいの? 私が無策で挑発したとでも思ったのかしら』

 

『殺す殺す殺す―――コロス!!』

 

『今よ、川内! 夕立!』

 

『――ス……アァッ!?』

 

 ズガァァァァン!

 

 旧駆逐棲姫の居た所に大きな水柱が上がり、海面が大きく揺れた。この様子を録画しているであろう、機体も大きな影響を受けたようで一時的に映像が遮断されてしまったのだった。

 

 

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