とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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一旦お昼休みを挟んで、と。いやー深夜テンションって怖い。


比叡カレーって劇物じゃないの!?

 

 音宮提督殿に連れられて芙二たちは食堂に来ていた。食堂はそれなりに広く、艦娘や職員が同じ席に着いて談話しながら食事をしていた。芙二は『自分達のところにはない光景だ』と思っていた。いずれこうなったらいいな、とも。

 

音宮「皆さん、代金は私が持つのでメニューから選んで注文してくださいね。食べる場所は空いているところを。私は少しやる事があるので! また後で会いましょう」

 

月見「了解しました、音宮提督殿。私はグラーフと合流しようか。そうだ、神城提督殿もどうだろうか?」

 

神城「えっあっ……私は芙二提督殿と共にと思っていたのですが、芙二提督殿、月見提督殿もいいだろうか」

 

芙二「そうですね。今後とも交流があると思いますし、先輩方と食事できるなんて光栄です。

  (おいおいおい! これ断ったら今後に響くじゃあねーかよ。ま、知っておきたいからいいか)」

 

 

 月見の誘いをやや面倒に感じた神城が提案したことにより、音宮を除く全員で食事をする事になった。互いに連れて来ている秘書と共に食事をするので六席空いている場所を探す。

 

『提督! こっちなら空いているわ!』

 

 誰かの声が聞こえ、呼ばれた方に目をやると五十鈴が手を振っていた。その隣には大淀とグラーフ、漣の秘書艦だけではなく他の艦娘もいた。左側の区画が艦娘で埋まっていたが、僅かだが中心に三席ぽっかりと空いている箇所があった。

 

芙二「大淀! そっち、空いている席はあるかいー?」

 

大淀「はい、提督! 丁度三席、空いてます! 是非、こちらにきてください!」

 

芙二「ということなので月見提督殿、神城提督殿。皆が呼んでますし、行きましょうかね」

 

月見「そうですね。向こうにグラーフもいるようなので行きましょうか」

 

 

 頷き移動する三人。席の前まで行ってから思う。どう考えても東第二所属の艦娘たちの注目の的で、食事どころではない。いや流石に食事中は自重するだろうか。全員が全員、暇ではないと思うし。

 

グラーフ「アドミ……失礼。提督、席に着いたらどうだ? ここではフランクに接してほしい。さっき漣にそう言われた」

 

月見「分かりましたよ、グラーフ。そんなに表情をしなくてもそうします。皆さんの昼食はなにを頼むのですか?」

 

神城「五十鈴、同じものでいいか?」

 

五十鈴「構わないわ。提督はなにを頼むのかしら?」

 

神城「漣さん、今日は何がおすすめなのかな?」

 

漣「およ? わざわざ漣をご所望とは神城殿は見る目がありますなぁ。今日は比叡さんが作るカレーですな! 海軍と言えばカレー、みたいな風潮ありますけどそれでも! 比叡さんが手作りするカレーは絶品も絶品! よそのカレー屋で食べるモノが食べれなくなりますよ!」

 

 フフン、と自慢げに鼻を鳴らす。そこまで押すのだから、そうとう美味しいのだろうなと一同は思った。バラバラに頼むよりも同じ物を頼んだ方がいいと思った神城は月見と芙二、秘書艦たちに聞く。

 

 

 全員の同意を得られ、神城は漣と共にカウンターへ注文しに行った。残った芙二は”比叡カレー”と聞いて顔色を悪くしていた。ぎょっとした表情で大淀が声を掛ける。

 

大淀「て、提督!? どうしたのですか…? 顔色が悪いですけど、もしかしてカレーが苦手だった、とかですか?」

 

芙二「いや苦手ではないんだけどね。比叡カレーと聞くとちょっと背中に悪寒が走るんだ。ぶるっ……ここの漣が余程押していたから大丈夫だと思うが」

 

大淀「そうですね。まぁ提督なら大丈夫だと思いますよ」

 

 とんでもない劇物が出てこないことを祈ろう。

 いや出てきたらあの漣、かなり性格が悪いと思うけどね?

 

 人にかなり強く押しておいて、実はクソ不味い劇物テロレベルな(ある程度殺せる)カレー!とか抜かしたら能力バレても徹底的に締める。俺だったからよかった、そんなレベルだぞ。

 

 健常な艦娘でも気絶するレベルだぞ。

 

芙二(イメージを覆す逸品を……フラグ回収しないでくれ――頼むから)

 

 それに大淀が大丈夫と言ったのは芙二が人間ではない事を知っているからであって芙二が想像している劇物を出されたら人間だと生死の境を数日彷徨うのではないか。

 

神城「おーい、カレーを持ってきたぞ。前に置いていくから、配膳終わるまで待ってくれ」

 

漣「ほいほいっと。ピッチャーをスライドする漣さん、マジ綺麗! これが長年秘書艦を務めた艦娘の力っと」

 

 とうとう出てきてしまった。比叡カレー。見た目と香りは普通のカレーだ。スパイスが効いているようで辛そうである。芙二が知る比叡カレーとは別であってほしい、ただただ願うまでだ。

 

「それじゃ戴きますー」神城がスプーンを手に取り、カレーを掬い口の中に入れる。他の艦娘も月見も大淀も同じ動作をしていく中でどうしても芙二はスプーンに手が伸びなかった。

 

芙二「……いただきます」

 

 カレーをライスと共に頬張った。すると鼻を抜けたのはスパイスの効いた美味しいカレーであった。スパイスまでは詳しくないが、すりおろされた野菜の甘味、旨味が溶けだしており芙二の知るものを裏切っていく。

 

芙二「うまぁ……」

 

漣「そうでしょ、そうでしょ? 皆が美味しいと知っている比叡カレーだけど、芙二殿はまるで不味いというイメージを持っていたはどうしてだろうね? ね、芙二殿」

 

芙二「ハハハ、いじめないでくださいよ。漣さん。ここの比叡カレーはとてもうまいですよ」

 

漣「にょほほ~……まぁいいですぞ。今はこうして楽しんで食事をしていこうではありませんか。交流が人を知らせてくれる。実に素晴らしいこと」

 

 言い終えるともすもすと静かにカレーを味わい始めた。一瞬、冷や汗が噴き出た芙二だが漣が諦めてくれてよかった。勘がいいでは済まないような気がする。警戒しておくか、と思う芙二。

 

芙二(それはともかく……)

 

 ちらり、残ったカレーを見て本当においしいなと思った。

 残りを平らげるべくスプーンへ手を伸ばした。

 

 

 

 

 


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