とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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時間が空いてしまった。
結構忙しくて……言い訳になりませんね。すみません。


時限爆弾と揶揄われた艦娘

 

 食事を終えた面々は再度会議室へ来ていた。しかし今回は秘書艦が全員参加する為か全員座れる大きな部屋に案内された。

 

音宮「提督と秘書は隣同士で座っていただけるとありがたいです。……全員が着席したようなので午後の部を始めさせていただきます。まず秘書艦を同席させた理由についてですが――先ほど芙二提督殿から深海化した艦娘は再度元の状態で帰ってくると知らされたからです」

 

 始めに音宮が話し始めた。周囲の空気が変わったのを芙二は肌で感じていた。隣に居る大淀の表情もどこか強張っている。

 

グラーフ「元の? それは深海化する前の状態ということか? だがそれは過去に数件しかないはずだ」

 

音宮「グラーフ殿の言う通りです。過去に数件しかない現象を芙二提督殿は二度成功させております。しかも連続で。受け取るには既に深海化が進んでいた為、我々が諦めた艦娘でさえも」

 

漣「提督、それはサラトガさんです?」

 

音宮「そうですね。漣ちゃ……さん。芙二提督殿、先ほど深海海月姫となったサラトガを元に戻したと言いましたよね。神城提督殿も大鳳殿も参加したからこそ被害ゼロに出来たのでしょう」

 

漣「大鳳殿? 東第一泊地は大型建造でもして建造したのですか?」

 

音宮「いえ司令本部、空襲部隊の大鳳殿です。確かに総司令部からの電報でしたが……」

 

月見「ふむ。芙二提督殿、大鳳殿から何か言われていたのでは? そうですね、具体的には……失礼、言い方が悪くなりますが時限爆弾(サラトガ)にもしもがあれば処分も頼まれていたのでは?」

 

 スッ――と芙二の顔を見る。隣の大淀も驚いていた。そんなことは聞いていないからだ。芙二の方を見て「提督、それは――」そう言いかけた時、芙二が口を開いた。

 

芙二「そうですね。言われておりました。手に負えなくなった時は彼女を銃殺刑にしてほしい、と。私も冷葉補佐もそれを承諾しております。ですが、それを実行する時はありませんでした」

 

 五十鈴が「深海海月姫、として生まれ変わったから」と淡々と言った。隣に居た神城は表情が強張り、肩が上がってとても緊張していた。何せ、サラトガがここまでなったのは自分にも非があるからだ。

 

芙二「そうですね。まさか海上で戦っているときに深海海月姫へなるなんて……でもこれが泊地近海で起きなくて良かったというべきでしょうか」

 

月見「そうですね。ですが、沿岸部には空襲警報が発令されたと聞いてますが」

 

 報告書を一枚捲り、アップされた箇所を指で指していた。他の提督達も秘書官も同じページを見ている様だった。

 

芙二「それについては北方海域から三隻の鬼、姫級……もっといましたが直接関わったのは三隻です」

 

音宮「それは?」

 

芙二「北方棲姫、戦艦棲鬼、装甲空母姫ですね。北方棲姫は致命傷を与えれましたが、最後という時に邪魔をされてしまい逃してしまいました」

 

グラーフ「っ! ……とんでもない勢力ばかりだな? その二隻が揃うだけでも轟沈者を出すほどなのに。轟沈者なし、とは……だが流石に負傷者はいるようだ」

 

芙二「しかし轟沈者はゼロです。神城提督殿と大鳳殿が応じてくれなければ死人も轟沈者も出したところでした。運がこちらに味方してくれた、のでしょうかね?」

 

 言い終わってから神城の方に視線を向けると目が合い、向こうは驚いたようでその額は湿っていた。五十鈴は「そうね。運が味方をしてくれたのかもしれないわ」あからさまに緊張している神城とは違い涼しい顔をしてひと言。

 

芙二「それで最初の話に戻るのですが、我が泊地に所属している艦娘の一部はドロップ艦と呼ばれる者らです。彼女らの入手は毎回の出撃では流石に不可能でした。皆さまのところに所属していない艦娘なら可能性はゼロではないと思います」

 

 「これについては各所のデータが必要なので何とも言えません」そう言いきる。実際の話、芙二の能力でどうにかした部分もあれば長門や長波のようなケースもあるのだ。

 

 一同が驚きに満ちた表情をしている中、芙二は(神城のところのサルベージ作戦も行わないと)などと余計な事を考えていた。

 

 

 

月見「失った艦娘が戻って来る……ということですか?」

 

芙二「そうですね。うちの時雨はかなり特殊なケースだと思います。こういった風に特殊なケース、つまり今までで観測したことのない個体となって出現する可能性もあります。その艦娘が最後に死んだ場所などで再び邂逅……なんてこともあるかもしれません」

 

月見「そうですか……これは上に報告させていただきます」

 

芙二「どうぞ。もう一つの内容に入らせていただく前に、一つネタばらしを。うちのサラトガも時雨も本人の証言と誘拐された艦娘を奪還しにいったときに閲覧した内容を言わせていただきます」

 

グラーフ「なんだ? 勿体ぶらずに教えてくれ、芙二殿」

 

芙二「どれも非情派が実験、拷問をした際に出来たモルモットの失敗作ですよ」

 

グラーフ「モル…モット? それは艦娘が、か?」

 

芙二「はい。先日憲兵に拘束された職員いたでしょう? そいつらが艦娘も深海棲艦も実験動物のように扱っていたんですよ。それで失敗作として放たれた深海化した艦娘は私たちと会敵し、互いに殺し合う」

 

 ネタばらしと言われ、語られた内容はとても悍ましかった。周りは明らかに顔色が悪い。しかし芙二は何とも思っていないようにすらすらと話していく。

 

芙二「連中は慣れた手つきでうちの叢雲を掻っ攫っていくバカ共……失礼、この場に相応しくない口調でした。陸ではなく戦闘後の隙で仕掛けられたと当時、共にいた艦娘から聞いています」

 

音宮「そのときに出会ったのですか? その、失敗作に……いえ艦娘ですか」

 

芙二「はい。深海化して良くない雰囲気を発していたと。そして彼女は自身の事を【駆逐水葬鬼(くちくすいそうき)】と言っていました。連中はもしかして……」

 

漣「駆逐水葬鬼……その艦娘は、今どこに――」

 

音宮「第三勢力を作ろうとしていた、そう言いたいのですか?」

 

 漣の問いの答えは既に考えてある。故に芙二は音宮の問いにすぐ答える。

 

芙二「そう…だと思います。発見したレポートには幻想的な生物を作ろうとしていた内容が記されていました。それと駆逐水葬鬼は名の通りにしてあげました。最期は水中に葬ってやりました」

 

音宮「幻想的な生物……ヒポグリフとかでしょうか」

 

芙二「ふっ……失礼しました。子供人気なもので、ゲームとか漫画に登場するモンスター。ドラゴンですよ。擬似的なドラゴンを作りたかったようで、見たことのない薬を使ったり放射線を当てたりと。とにかく勤しんでいたようです」

 

大淀「そんな非現実的なもの……それの延長線上で艦娘や深海棲艦が使われた、ということでしょうか」

 

芙二「大淀の言う通りなのかな? 我々人類から見れば艦娘や深海棲艦なんて未だ理解できない生物でしょう。連中はその非現実的なことに可能性でも感じたのではと考えました」

 

月見「それが何の関係が……あっ。第三勢力になる?」

 

芙二「えぇ、第三勢力を作るという連中の実験は成功したようでした。実際にいましたよ、擬似ドラゴン。もっとも我々が知るものではなく、人間の皮膚に鱗を生やしたそんな少女でしたが」

 

グラーフ「その少女は……どこにいるんだ? 本営や芙二殿が面倒見ているのか?」

 

芙二「いえ、死亡しました。南西諸島海域の奥の方であった爆発で。非情派連中の非人道的行為で作り出された少女は連中が行った隠蔽の犠牲になりました」

 

 カイン・アッドレアの内容も嘘を交えつつ話す。観測所の職員に話した内容も混ぜないと何処で嘘がバレてしまうか分からないからだ。

 

音宮「そんな……ことが」

 

漣「連中、許せないですね。我々ではなく一般人も巻き込むとは……漣さん、ちょ~~っと許せそうにないです」

 

グラーフ「芙二提督殿、それは事実だろうな? そんな許されない行いを、捏造したのではないよな?」

 

 会議室の空気が変わっていく。怒りを滲ませる漣や信じられないと言った顔をする音宮、月見。神城は想像以上の事に言葉を失っていた。

 

 グラーフの怒気が会議室内に満ちていく。肌にピリっとした刺激が触れる。

 

芙二「まさか。捏造してませんよ。被害に遭った少女も逝った深海棲艦も弔いました。……それくらいですかね。報告書の内容はこれで終わりです」

 

 毅然とした態度で答えられると思っていなかったグラーフは『すまない、威圧するような態度を取った』小さな声で謝罪するとそれ以降は口を閉じた。

 

 

芙二「……これうちの報告会なんじゃあねえの? おっと失礼しました」

 

音宮「コホン。本日の会議はこれで終わります。芙二提督殿は晴れて東の提督チームに一員になったわけですが何かありますか?」

 

芙二「特……いえ新人の私にこのような場を設けてもらいありがとうございます。また挨拶などの連絡が遅れ申し訳ございません。皆さまの私と冷葉に対するイメージを払拭してもらうよう努めて参ります」

 

 

音宮「では本日はお集まりいただきありがとうございました。帰りは気をつけてお帰りください」

 

 

 

 

 芙二たち東第一泊地への会議の幕は何とか降ろせたようだとホッと一息をつく。隣にいる大淀も安堵の息を吐いていた。そんなのも束の間、背後から声を掛けられる。

 

音宮「芙二提督殿、少しよろしいですか?」

 

芙二「はい。何か用でしょうか」

 

音宮「私たちの情報が共有できるようにグループを作ったのでそこに参加してほしいです。作戦中はそれどころではないかもしれません。しかし普段とか演習の予定とか組みたいじゃないですか」

 

芙二「それはそうですね。いいですよ。メールアドレス?携帯番号ですか?」

 

音宮「携帯の番号で大丈夫です。……はい。登録、追加完了しました。帰宅後で構わないのですが、挨拶などひと言よろしくお願いしますね。では、玄関まで送ります」

 

 

 

 

 芙二と大淀は音宮に連れられて玄関まで向かった。そして第二鎮守府の敷地外へ行ったあと、そのまま泊地へ帰還しようとしたとき神城に声を掛けられ立ち止まる。

 

 

神城「芙二提督殿、お疲れ様。今夜少しいいか?」

 

芙二「()()殿、お疲れ様です。今夜ですか? 何時ごろでしょうか」

 

神城「……芙二、いや()()殿の都合のつく時間でいい」

 

芙二「うーん。時間がかかる感じですか?」

 

神城「三時間ほど掛かってしまうかもしれない。内容は……凌也殿についてだ」

 

芙二「なるほど! なるほど。なら大淀を送ったらすぐ向かいましょうか」

 

神城「本当か。それは助かる。ありがたい」

 

芙二「いえいえ。それではまた後で」

 

 会話が終わった途端、大淀と共に芙二は忽然と姿を消した。神城も五十鈴もあまり驚かなくなっていた。慣れたわけではないが、やはり彼と自分はまったく違うのだと感じた瞬間だった。

 

 

 

 




このままいけば今月中に四章が終わって次は長~い予定の五章ですね。

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