進化すればするほど強くなるわけでもないんですよね。
泊地内の執務室前に移動した芙二は扉をノックしながら部屋に入った途端、鉄の匂いが鼻腔を擽った。話すことは後回しにして、状況を確認しようしたとき冷葉が倒れた。目の間でもう到達していたテロリストの手によって。大淀も負傷しており、拘束されていた。
芙二「戻っ……は? 冷、葉?」
大淀「提督! 来てはダメです、狙いは――ッ」
親友と部下が傷つき、倒れたのを認知すると意識の変化は時間を挟まず遂げた。自分に何か伝えようとした大淀が数発顔を殴られ、彼女のメガネが床に音を立てて転がった。
穏やかな水面のような感情が天災の激しさへと変化していく。この感覚は一度、経験したことのある。断片的な記憶からは読み取れないが、それでも。揮うのだ。我が宝物を護るため、奪わせない為に。
――宝物を奪われた。理解者となる者を奪われ、壊されかけている。過去は過去だ。前世は前世だ。魂には強く印象づいているが、今は役割が違う。だがこの場では、時間ではその在り方が認められよう。
芙二「この
『なんだ、こいつはガギュッ』
『こいつ殺しやがっはぇ』
芙二の前に立ったテロリストの頭を手刀で貫いて、窓に突き刺す。ガシャンと音を立てて突き刺り、もう一人の気が逸れたところで同じように眉間に向けて刺す。ぬるっとしたミソを掻き回し、潰した後に手を抜きさる。
大淀「てい、とく?」
芙二「汚いものを見せた。すまん、今は冷葉の蘇生に入るが、落ち着いてきたらこうなった経緯を教えてくれ」
血を流し倒れている親友の状態を確認する。心臓に一発。テロリスト共がなにをしたか分からないが、心臓が腐り落ちている。腐食薬でも塗ってあったのか、或いは同郷人が黒幕であるか。
芙二「ふん、関係ないな。心臓が無ければ新たに作ればいいだけ。少し前に作った
大淀「あ、いえいいんですけど。提督が去ってから冷葉補佐や色んな人を集めて状況確認をしてました。その時、非常ベルがなって何事かと思っていたらアビスさんが壁をすり抜けてこういったんです。『商店街で無差別テロが行われている。それと何十人かが、ここに侵入した』ってそれで寮の方から悲鳴が聞こえてきて、私は確認のために向かってしまいました。でも八崎さんや紫月さんもいたから、と思っていたのですが……」
芙二「帰ってきたら、冷葉とテロリスト共しかおらず抵抗したが敵わなかったと?まあ化け物みたいな憲兵の二人だし、被害が出る前に向かうってのは職務みたいなもんだから責めはしないけど、後で言っとかないと」
大淀「冷葉補佐は怯えながらも、連中と交渉しようとしていました。ですが、聞く耳は持っていないようで銃を向けられていました。引き金を引こうとしたら、もう一人の男が艦娘をくれるのなら見逃してやるって。でも冷葉補佐は即答で断りました。後は提督が知っている通りです」
芙二「……冷葉は素晴らしい人間だ。流石吾の親友だ。大淀は明石と夕張と合流して入渠施設の開放準備を。あと怪我をしていない艦娘は各自部屋の中にいるように。身を寄せ合っていても構わない。吾は外でゴミ掃除。それと憲兵二人と合流して少し話す」
「承知致しました」そういう大淀に「行け」と指示を送り、行かせる。話しながら肉体の強化を付与したので今は無敵であろう。そしていつまでも意識のない冷葉を床で寝させているわけにもいかず、脇に抱えると彼の自室へ移動し、ベットの上に優しく置く。出血多量で血の気がまったくない肌の色が少しづつ戻っていた。ゆっくりだが呼吸もしている。
芙二「タイミングが色々と悪いな。お互いに」
か細い声でそう呟くと外で暴れまわっているゴミを掃除しに向かうのだった。
紫月「八崎さん! 僕の方はあと少しだけど……少し数が多い、な!」
八崎「私の方はあと少しですがッ――芙二さんはどこに行っているのか、分からないのが辛いですね」
テロリストが放った銃弾をしゃがみ、跳び、大きく避けては攻撃を繰り返す二人。人間離れした動きをする二人に手を焼いているのはテロリストたちである。ハンドガンでは埒が明かないと踏み、アサルトライフルを手に取り、発砲してくる。八崎は避けきれない、蜂の巣になると思い固まったが紫月が身体を蹴とばし、遮蔽物の影に二人で隠れる。
八崎「っう……げほ、ごほっ!すみ、ません。紫月さん」
紫月「大丈夫、大丈夫。僕こそ女性を蹴り飛ばしてしまってすみません」
八崎「いえ、そうじゃなかったら死んでいました。提督の蘇生があったとしても一度は確実に」
紫月「連中がロケットランチャーを最初に撃っていて助かったようなものだけどね。さて、どうしたものか」
二人が隠れている遮蔽物は元々、泊地内にある建物の壁だったものだ。紫月の言う通り、威嚇のつもりで撃ったロケランの弾が建物に当たり炸裂して壊れたのだ。それを皮切りに乗り込んできたし、何も知らない艦娘達は驚きもしたが、すぐに工廠へ向かった。一部はキレて突撃しようとしていた。
紫月「これからどうしたものか。ラジオで聞いたんだけど、うちと似たようなことがあちこちで起こっているらしい。深海棲艦と戦争しているはずなのに、人間同士の紛争の始まりとは相変わらず凄い時代だ」
八崎「呑気なこと言っている場合ですか?! 早くしないと来てしまいますっ」
焦りながら次の手を考えていると紫月がハハハと声を出して笑う。信じられないといった表情で紫月を見て、まだ笑うその口を抑えようとした時、何かが落ち潰えた音が聞こえた。
『うわ、人が落ちてきたぞ! ひっでえ……ぐちゃぐちゃじゃないか』
『落ちてきたのは……ってうちの隊員だぞ! 執務室へ
『信じられない殺し方いうことは、向こうも抵抗してきたということか!? クックック……いいねえ、無差別テロをした甲斐があった!』
『む? おい、向こうの建物の影から誰か近づいてくるぞ! 薄暗くてよく分からないが――あれは、なんだ?』
――コツ、コツ。コツ、コツ。建物の影から何者かが歩く音が聞こえる。アサルトライフルの弾を装填し終えた実行犯が数名、その正体を見に行く。実行犯が音の方に向かうと姿だけが見えなくなり、何かに向かって銃弾を発射する音、または硬いものを打ち砕く音が響いた。やがて、それらの音は聞こえなくなり両者の境には不穏な空気が流れてくるのを感じていた。
全員固唾を飲み、緊張した。少ししてまたコツ、ガリガリ。コツ、ガリガリガリと引きずる音が聞こえ始めた。そしてぼぅっと妖しい光が浮かび、両者の視界に映る姿は異形であった。
左右に短い角が二つある帽子をつけ顔には黒いペストマスクを被っている。上下半身も黒を基調とした服、ズボン。肩から腕、膝などの関節を護るよう黒い装甲に包まれている。そして手は黒い手袋をしているような見た目である。
全身、黒色の服を着ている為、非常に見えにくいが嘴のついたマスクをつけているから頭の悪いコスプレイヤーかと思われた。しかし左手に持っているものを見て怖れ慄く。そこには白目を剥き、舌を垂らすテロリスト共の首が掴まれており、酷い者は首から背骨がついてきていた。それがガリガリとひっかく音を立てているのだ。
『
低い声で呪いを呟くと急にテロリスト共は力が抜けたように倒れ、動かなくなる。何が起きているのか、と不安な気持ちになる二人。倒れた
八崎「……助かった?」
紫月「その姿は芙二くんかい? 随分、変わってしまったけど何かあった、のか?」
芙二「冷葉が重傷だ。
紫月「芙二くんはどうするのさ」
芙二「これから商店街に光る命を狩りに行く。住民の支援を要請しておいてほしい」
八崎「……」
芙二「他に用がないなら吾はいくぞ。ここに帰ってもやることが沢山あるが、まずは商店街の鎮圧が先だ。携帯は持っていくから何かあったら緊急の番号につないでくれ。千パーセントでるから」
八崎、紫月は他にいうことはない、と見た芙二は黒い霧を発生させて溶け込むように転移した。芙二が去ってから、八崎は急にしゃがみ込んだ。紫月は”どうしたの”とは聞かない。流石にあの変化の仕方は異常だと感じているからである。見たことのない姿で闊歩する様相は畏れ悍ましさを強く強調しているよう。
音もなく悲鳴も上げさせず首を抜き取った。そんなこと普段の芙二では見たことがない。それくらい怒っているのだろう、と勝手に思っていた。
八崎「あれは……ほんとうに芙二さんなのですか? あんなおぞましい姿は初めて見ました」
紫月「確かにね。一度冷葉くんの様子を見に行こう。重症だって言っていたから、結構不味いはずだからさ」
八崎「そうですね。こんなところにいても意味がありませんから」
そういって再び立ち上がり、荒れた土地肌に目をやるとそこには塵しかなく先程の布や銃器はどこにもなかったのだ。
新スキル:
->正しく真っ当な
龍人族としての可能性、その一つ。
【魔竜騎装】→【祟殻龍骸】
アイテム:
->自身の心臓が壊されたときのスペア。名ばかりでただの擬似機関。