芙二がゴミ掃除に行った数分後、泊地の事態は収まりつつあった。テロリスト共と戦闘を強いられていた艦娘達だったが、芙二のおかげで冷葉と建物の被害だけで済んだ。が、まだ興奮冷めやらぬ者が一人いた。それは時雨である。前提として克服状態をオン、素面をオフとする。
いま彼女の状態はオンであり、また二度と来ないであろう状況に興奮しているようであった。実際に彼女と対峙した実行犯らは豹変に戸惑いながら戦闘していた。
時雨「あ、急に動かなくなった。提督の仕業だよね。なんだ、もう少し遊んでくれてもよかったのに」
夕立「時雨、それは海で発揮してほしいっぽい。どうせ出番は来ると思うし」
長門「時雨が身につけた力は素晴らしいな。どれ、私もどうにかして獲得してみようか」
陸奥「長門、止めておいた方がいいわ。そのままでも充分すぎるくらい強いじゃない」
闘気溢れる表情をする時雨を見習って長門も深海化を克服しようかと口にするも、隣にいた陸奥に止められていた。長門は少し笑い「なに、冗談だ。私にはちゃんと強みがあるからな」そういって死体を触ろうとしたとき変化に気が付いた如月が声をあげる。
如月「ま、待って長門さん!倒れた男の人たちから色が……。これはどういうことなの?」
皐月「如月ちゃんの言う通りだよ。それに身体が砂みたくなっていくよ。何か変だからむやみやたらに触らない方がいいよ、きっと」
自分よりも幼い姿だがちゃんと物事を観察しているなと長門は思い、逆に確認せずそれに触ろうとした自分の行動を恥じた。気が付いた陸奥がフォローし、如月や皐月もまたこの騒動の最中でも助かったと感謝を伝え、励ましていた。
時雨「あっ……もう砂粒になっちゃった。提督はなにをしたんだろうね、夕立」
夕立「そんなの分からないわ。どうせその砂粒の山も風が吹けば無散していくだろうし、気にしなくても大丈夫っぽい」
時雨「それもそうだね。それじゃ戻ろうか」
落ち着いてきた時雨はそう夕立の目を見て、言う。目が合った夕立は「遅いっぽい!」そう不機嫌そうに返すのだった。まだ自分の行いを責め反省する長門とそれをフォローする陸奥らと合流して互いの状況を整理する。
とりあえずは提督や補佐と会うことで方針は固まったので、執務室へ移動するのだった。
同日 二十一時 十八分 執務室では。
芙二に任された大淀は最初こそは慌てて、なにから手をつければいいか分からなくなっていた。妖精が影から出て来ては何か手伝う事はないか、そう聞かれた。一人集まると次々と数を増やしていく妖精。表情は様々であったが、どれも心配していると顔に書いてあった。
大淀「では、出撃があるかもしれないので工廠にいる明石、夕張さんかアビスさんに指示を煽ってください」
優しく伝えるとビシっと敬礼をして、うっすらと消えていく。沢山いたはずの妖精が消えてからふと思う。(そういえば、妖精さんとは会話が出来たはず。最初の妖精さん以外はジェスチャーしていましたね)5分ほど唸って考えるも今はそれどころではない。本題に入ろうと思った時、扉が勢いよく開く。
榛名「提督! 提督はどちらにいらっしゃいますか!」
大淀「どうしたんですか、榛名さん。そんなに息を切らして……まだ生存者が?」
榛名「いえ、違うんです。大淀さん! 海、海を見てください!」
大淀「海……? えっ!? う、うう嘘ですよね」
息を切らした榛名が切羽詰まった表情で海を見ろと催促するので窓からは覗く。夜だし黒い海面しか見えないと思い、確認するとそこには異常な光景があり信じたくないものだった。
榛名「赤、緑、青、黄色の点。わらわらと蠢く海面を照らすあの光、全て深海棲艦です!幸い、空母級はいませんが……フラグシップの戦艦、重巡洋艦が確認されています。それでもあの数をどうにかしないと確実に不味いことになりますよね。だから――」
大淀「いいですよ。許可します。提督も責めたりしません。出撃出来そうな方をこれから招集し、すぐに出てもらいます! 榛名さんは工廠へ向かってください。資材?資源?知りませんねッ!」
榛名「大淀さん、ありがとうございますっ! では、先に失礼します!」
大淀「……指揮を執れる二人が今は不在。私では皆さんに指揮を……いえ、今はたじろいでいる場合ではありませんね」
迫りくる深海棲艦の艦隊を撃滅させる為に大淀は考えながら動く。頭の中に浮かべるのは冷葉の姿。彼だったらどうするか、それを思い出しながら各所に伝えようと放送室へ向かった。
乱暴に扉を開けてマイクの電源を付けようとする。焦っているせいか起動したときに”キーン!”と耳を塞ぎたくなる嫌な音が泊地全体へスピーカーを伝って響いた。執務室へ工廠へ、仲間の安否を確認しようと動く者たちの足を止めた。
大淀(……胸が痛い。話す内容がこんがらがってきそう……いや冷葉補佐を頭の中に思い浮かべてッ――)
深呼吸する音がマイクに入り、泊地中へ響く。誰かが何かを伝えようとしているのだと場所は違えど皆、感じていた。一拍、二拍、三拍おいてから意を決し大淀は現状を話し出した。
『こちら放送室……皆さん、落ち着いて聞いてください。先程の襲撃者により冷葉補佐が重傷を負わされました。提督は被害拡大して言える商店街の方へ向かいました。指示を執れるお二人がいないので代理である私がします』
一瞬、言葉を続けずに止める。ダラダラ長くなってしまうと思ったから。しかし緊張を覆い隠すようすぐに本題に入り、動ける者に事の深刻さを伝えるのだ。
『単刀直入に言います。動ける者はすぐに海へ出撃してください。現在、こちらに深海棲艦の大艦隊が迫ってきてます。正確な数は不明ですが、前哨部隊だと思われます。入ってきた情報には空母級は一隻も確認されていませんが、増える可能性があります。夜間ということもあり、非常に困難極める戦闘になる場合もあります。なので被弾したら速攻、帰投して入渠してください』
また言葉の途中で切り、マイクに入らないよう気を使い溜息を吐いた。油断ならない状況になりつつある。それが大淀の精神をゆっくりと戦闘モードに切り替えさせる。無意識のうちに『敵が弱っていても無理な深追いはしないでください』そう低い声で呟いていた。もちろん、それもマイクに入っていたが本人は気づかない。
大淀の指示を聞いている艦娘は彼女が本気になっていると気が付いていた。言葉の続きを待つ者を除いて変に興奮していた時雨はとても喜んだ顔をし何処かへ走って行く。夕立は追わず、続きを待っていた。
『動ける者はすぐに行けと言いましたが、先程の実行犯がまた来ないとは限りません。なので、練度の高い方はいってください。泊地の警備が足りてない状況なので何名か残って下さると助かります。これにて締めます。何か用があれば、執務室へ来てください』
そういってマイクの電源を切る。何とか言い切った。言い終えたと感じていたが、今は達成感に浸っている場合ではない。放送室の扉を開けっ放しにして執務室へ向かう。その途中に川内型三姉妹に出会い、言葉の前者を聞かれたので簡潔に答えた。
川内「てことは、補佐は生きているんだね? はぁぁ~……よかったあ。提督、ナイスタイミングだよ」
神通「川内姉さん。今はそれどころじゃないです。私たちの中で誰が向かうべきでしょうか?」
那珂「私は神通ちゃんがいいと思うな。探照灯を装備したら、性能が向上するじゃん?だからみんなの支援ができると思うの」
神通「なら、私は向かいますね。川内姉さん、那珂さん、またここで会いましょう」
トタタッと駆け足で工廠へ向かう神通を見送ると大淀は二人にある頼みごとをする。一つは初期艦である叢雲、共に冷葉の手足となった青葉を探してきてほしい、ということ。もう一つは外部と連絡が取れるか、試してほしいということ。後者に関しては第二、第三、第四の提督たちと連携を取らねばならないという思いが強い。
大淀「後者は私が後でも出来るのですが、今は人手と時間がまったく足りないです。二人で決めて連れて来てください」
そういうと大淀は執務室へ早足で向かうのだった。大淀に頼まれた二人だが、川内がふと疑問を口にする。「片方か両方、海へ向かっていたらどうすればいいのかな」その疑問はもっともだが那珂は「そうなったら私たちで大淀さんをサポートすれば解決じゃないかな」と返した後に即行動するのだった。