編成などしている余裕などなく、準備が出来次第出撃をしていく。皐月は如月と共に来ていたが、明石に呼び止められた如月は「皐月ちゃん、先に行ってて」そういって明石の元へ行った。
遠くなる背を少しのあいだ、見つめていたがすぐに明石が自分専用に作ってくれた
皐月「いつもの夜間哨戒とはわけが違うってもう匂いで分かるよね」
ヴェル「そうだね、皐月。大淀さんが焦っていたのも頷ける。それくらいに奴らは押し迫ってきていた」
曙「タイミングが悪すぎて気持ちが悪いわね、ったく!」
朝潮「本当です。陸の嵐が去ったかと思えば、今度は海の嵐が来ましたね。ここまでタイミングが悪くなると誰かが後ろで仕組んでいるのでは、と思ってしまいます」
皐月の後ろにはヴェールヌイ、曙、朝潮がついてきていた。誰もいないと思い、呟いたのに次から次へと言葉が聞こえて内心びっくりしていた。電探が敵を捉えたようで”ピコーン”と甲高い音を鳴らす。その瞬間、前方に赤、緑、青、黄の様々な光が闇から目立つ。
ヴェル「来たか、ここは私が照らすよ。三人は撃てる準備をしておいてほしい。いや時間がなさそうだ――ライト、オン」
曙「え、ちょっと! 滑りだしたばっかでまとも準備なんて――」
朝潮「なら曙さんの分、頂きますね。主砲、標準よしッ! 撃てッ!」
皐月「朝潮ちゃんが始めたからボクも続こうっと!前に明石さんから貰ったこれの威力を試したいんだっ」
うきうきしながら専用の装備を撫でつつも、敵を視界に入れた途端顔つきは険しくなり撫でていた手は主砲の方に動いていた。目の前にはいつもよりも大きなイ級がこちらに砲口を向けていた。
朝潮「標準――撃て! 一発、二発、三発っ! 直撃しましたッだけど多少傷が入っただけのよう見えます!」ホウコクシマス
ヴェル「了解。曙、朝潮追撃できるかい」ナルホド?
曙「言われなくてもっやっているけどっ硬いわね!」ギリィッ
皐月「あっイ級に火がついたよっ!このまま押せそうかなっ」ツイゲキ、ヨシ……ファイア!
ズドォォ――ン!!
皐月たちの猛攻にイ級は耐えられず、爆発して黒煙を上げて沈む。曙は溜息を吐きつつ、いつもの個体と違うと朝潮、皐月に言うも二人も同じ感想のようだ。いつもはそこまで大きくない。大きなサイズでもニメートルほどだというのに、先程の個体は三メートルはゆうにあった。深海棲艦の特殊個体かもしれない、そう感じた曙は三人に一度連絡をするから周囲を警戒しておいてと伝えた。
曙「……あ、大淀さん? こちら曙。泊地の母港正面の海で特殊な深海棲艦?に遭遇したわ。えぇ、こちらの被害はゼロなのだけど……うん。その個体はいつものよりも大きくて……え?どれぐらい?そうねぇ…」
ヴェル「報告しているところ申し訳ないんだけど、電探に反応がある。数が多いから、少し距離を置こうかと思うけどいいかい?」
曙「はぁ?! 私たちの後ろはすぐ泊地じゃない! こんなところでの撤退はダメだってば! あ、大淀さん、ごめんなさい。大きさはだいたい三メートル強くらいよ。頭の上、胸鰭に魚雷。口内には砲があったわ。――申し訳ないのだけど、後でまた詳しく報告するわ」
ヴェル「そうしてもらえると助かるよ。反応からみていつものやつみたいだ」
曙は一旦無線を切り、ヴェールヌイの探照灯に照らされた深海棲艦を見る。見た目は黒々しい魚ような体。目は赤、青、緑色の個体がちらちらと光っていた。だが、それらも艦娘の姿を捉えるとこちらを砲撃してくる。
曙「当たらないわ」ドボーン
朝潮「主砲、よし。狙いは敵の魚雷管」ガチン……ドーン!
ヴェル「朝潮? そんな距離からだと当たらないんじゃ」ジロ
皐月「もしかしてそっちに誘導すればいいのかな」ミギヲウテ!
射程距離外から撃ち込んだ砲弾は敵の前に水柱を形成しただけだ。数隻のイ級は曙たちに向けて砲撃をするが、彼女らも避けるので当たらない。砲撃が当たらないと思ったイ級たちは魚雷を放したようで水飛沫を上げながら魚雷が迫ってきていた。
曙「曙、前進するわ。当たらなかったら、どうということはないでしょ」ソウテンシツツダケド
ヴェル「それはそうかもしれないけど、リスクがあるしカバーするのはこっちだよ」
朝潮「私は速度を上げて後退します。――皐月さん、お願いしますね」チラリ
皐月「響ちゃん! 曙ちゃんを囮にして、速度を上げて右迂回しながら砲撃して! ボクは左いくよ!」ジャキンッ
曙「え、ちょっと! 私が囮ってどういうっ」ゼンシンシテル
ヴェル「そのままだよ。なんなら曙も撃てるだけ撃ってほしいんだけど」テキトウデイイ?
皐月「主砲だけじゃ数が足りないから、撃てるものは全部撃ってあげるよ!」ダイジョウブ!
曙「ちょ、無視すんな~~ッ!ったく、今はそれを飲んであげるっ! でも帰ったら色々言わせてもらうわ」シュホウ、ヨーイ-
一人前進した曙を囮にした皐月、ヴェールヌイ。信じられない!と言いたそうな曙を遮って色々いう。突然の囮宣言にイラついていた曙だが言いたいことすべて飲み込み視線を二人から眼前に迫りつつあるイ級に変更する。
曙「魚雷撃つだけじゃ、物足りないって目をしているわね。ほんっと気に食わないんだから!」ウテェ!
『――ガコン』ズドォン!
ヴェル「曙ッ――尊い犠牲だったよッ」カズウテバアタルカナ?
皐月「主砲よりも機銃の方が身体に馴染む感じがたまらないね」ホンロウサセルカンジ
曙のいた位置に水柱が三本重なって上がった為にヴェールヌイはわざとらしく犠牲に心を痛めたかのように叫んだ。朝潮がしたいことを汲み取っているヴェールヌイだが、本当に適当な射撃をしていた。イ級に当たる弾もあれば大きく外され、皐月の隣に落ちるものもある。
皐月「響ちゃん! それは適当過ぎるよ!」バララララッ!
ヴェル「おっと失礼。あー、確かここにウォッカがあったような」ゴソゴソ
曙「ちょっと響!なんで戦場に酒なんて持って来てんのよ!」プスプス
ヴェル「なんだ、曙生きてたのかい。あ、あった」ウォッカトリダシ
曙「飲むな!そんな暇あるなら魚雷でもなんでも撃ちなさいよ!」イテテ
ヴェル「弾は撃ち尽くした。そして魚雷を装備する暇がなかったんだ。だから、投げるよ。コレ」トウテキ
皐月「逃げられないように後方に撃つね!朝潮ちゃん、そろそろいいよ!」コウホウニスウハツオトス
茶番をしているヴェールヌイに曙は叱って皐月はやることを終え、少し距離を取った。衝撃波に備えるためだ。懐から数瓶のウォッカを取り出しイ級に向けて全て投擲する。何かが飛んでくると思い、砲撃し瓶を全て破壊して酒を浴びた。
『……?』ビショ
『……』パチクリ
スコープから覗くと酒を浴びたイ級、数隻と退きそうなイ級を退かせないよう立ち回る皐月の姿があった。無線越しに皐月の許可を聞いて決意した時だ。
朝潮「ヴェールヌイさんの件はあとで報告しておきましょう。しかし誘発するには十分すぎます」スチャ
無線から聞こえる二人の会話を聞いて吐き捨てるように呟いた。そして二つの主砲の引き金から指を外し、背にかけていた狙撃銃を取り出す。それが朝潮専用の装備だ。本人が一番戸惑っている。
芙二と紫月が作り出した
朝潮「初めて使います……が、まあ司令官と紫月さんが元々作っていたそうですから威力については申し分ないですよね。それを加工して下さった明石さん――感謝します」ドシュッ!
ヒュン! 撃ったときの反動がやや大きいので小さな朝潮の身体は波に揺られた。再びスコープを除く間もなく弾が貫通し、直撃したイ級は爆発していく。残りの数隻も同時に誘爆を引き起こして激しく燃え上がった。数隻を巻き込んでの爆発だ、高熱を纏った衝撃が強風となり吹き抜けていく。
朝潮「なんとか、当たりました」フゥ
狙ったイ級の脳天を弾丸でぶち抜くことに成功して、この場を乗り切った。その達成感が朝潮の緊張の糸をぷつりと切断した。彼女は海面に腰を下ろして燃えていくものを見つめる事しか出来なかった。
それから程なくして皐月、ヴェールヌイ、曙の三人が朝潮の下にやってきた。戦闘終了してから十分は経っているので朝潮の興奮も収まってきていた。皐月は嬉しそうな顔をして朝潮を褒めた。
皐月「朝潮ちゃん、やったね! 上手くいったね! 流石だよ!」
朝潮「ありがとうございます。ですが、お礼は明石さんや司令官たちに伝えた方がいいかと」
曙「だけど初回でその狙撃銃を使って当てるなんて大したものよ。朝潮の考えた作戦が上手くいったんだから自分を誇ってもいいのよ」
朝潮「……そうでしょうか。ですがッ!曙さんも即興の囮なのにヘイトを買ってくれたのは――」
三人から褒められ始めた朝潮だが、照れながらも曙のことを褒め始めた。実際に囮宣言したが、ちゃんと飲んでくれたからこそ、これほど上手くいったと思っていたからだ。
べた褒めされ始めた曙に皐月も加わって皐月、朝潮vs曙という褒め対決のようなものが始まっていた。戦闘を終え、一人電探を使い周囲に敵がいないことを確認したヴェールヌイは大淀に帰還の旨を伝え無線を切断したのだった。
現在の状況
ヴェールヌイ
->弾も魚雷代わりのウォッカも出し尽くして攻撃手段は持たず。
戦闘終了後、電探で確認したが海を塗りつぶす数は一隻も消えていたことに疑問を浮かべるも泊地へ帰投した。
曙
->朝潮の即興作戦の囮となった。元々朝潮は囮にするつもりはなかったが、皐月が勝手に囮にさせた挙句敵のヘイトを買う大役を担った。ほとんど距離が近い攻撃が被弾するも小破しかしていない。まだ進撃と反撃もできる。
皐月
->明石に自身の専用装備【試製27mm三連装機銃 集中配備】を受け取り使おうとしていたが、今回は活躍の場面がなく少し落ち込んでいたが朝潮の考えた作戦で勝利できたのでそれも嬉しく思っている。
朝潮
->今回のMVP。朝潮の専用装備は【対深海棲艦用 狙撃銃】明石から受け取った時はとても困惑した。それでも説明したら、納得できるかもしれないと思ったが――ダメであった。しかし実際に使ってみると意外にしっくりきて驚いている。