泊地へ帰投した曙たちは艤装を着けたまま、執務室内に入ろうか悩んでいた。が、しかしヴェールヌイは悩んでいる三人をお構いなしに扉をノックしながら開けて入室した。部屋内ににいる大淀、叢雲、青葉と目が合った三人は思わず会釈をした。
ヴェル「失礼するよ。今帰投した。……司令官はまだ帰って来てないのか」
大淀「はい。まだ戻って来てはいません。皆さん、戦闘が終わってそうそう安心したいと思いますが、決して気は抜かずにお願いします」
ヴェル「了解したよ。曙から戦闘報告を聞いてくれると助かる。さっきの続きを話したいだろうから、ね。私は皐月と朝潮と共に工廠へ向かおう」
皐月「響ちゃん、了解だよ~。それじゃ朝潮ちゃん、工廠へいこ?」
朝潮「いえ、私も大淀さんに話すべき内容があるので後で曙さんと共に向かいますので、お二人は先に行っていてください」
ヴェル「了解した。それじゃ皐月、いこうか。曙、朝潮はまた後でね」
二人は大淀たちに軽く頭を下げた後、手を振りながら皐月と共に執務室を退出していく。扉が閉まると朝潮は大淀にヴェールヌイが酒を戦場に持ち込んでいたことを報告した。大淀、青葉は驚いていたが叢雲は「でも、誘爆材として一役買ったのだから今回は不問にしましょ」そう言いながら減った資材の数を確認するために工廠に問い合わせていた。
朝潮「……それもそうですね。では、曙さん。先程の話の続きというのをお願いします。私は後ろのソファーで少し休憩させていただきます」
曙「いいけど、疲れた?それともやっぱりあれは少し扱いにくかったかしら?」
朝潮「ははは……反動が大きいのが考えものですが、威力は申し分ないのでこれから馴染ませていきます」
曙「熱心なのか勤勉なのか……っとそうじゃないわね。大淀さん、さっきの続きいいかしら?」
大淀「はい。青葉さん、先ほどのメモ書きを貸してください」
青葉の斜め左にあるメモ帳を指差して、指示をする。用紙の上で踊るペンを一度、止めると指示されたメモ帳を大淀に渡す。「ありがとうございます」そういって何枚か捲り終えると曙へ向けて「では続きを」と報告の続きを促した。
曙「あの個体はいつも見る個体と違うのは言ったわよね」
大淀「はい。三メートル強ほどあると聞きました。器官の見た目も全く違うとも」
曙「それが私たちと戦った特殊な個体ってやつだけど、実はもう一隻いたのよね。あ、それはイ級じゃないの。黄色いオーラを纏った輸送ワ級なのだけど」
大淀「フラグシップのワ級ですか。……近くに補給施設又は拠点があるのでしょうか……。そのワ級も特殊個体なのですか? そのどの辺が」
曙「大きさは言わずもがな。だけど通常のとは違って胸部、腹部が異常発達していたわ。三メートル強はありそうなイ級よりも大きかったわ。胸部はどのくらいかしら?西瓜?」
大淀「妊婦のようになっているのですか?」
曙「うーん。そうなんだけどいい例えがないわね…ってそうじゃなくて腹部は破裂するんじゃないかってくらい膨れているのよ。腹の中にエネルギーため込んでいるとしたら早めに潰さないといけないんじゃないかしら」
大淀「それもそうですね。他にはありますか?」
曙「そのくらいね。私たちが戦った敵は規格外な大きさの――いや肝心な事を伝え忘れていたわ。最初に話したイ級、もの凄く硬いの。何発がもろに直撃しても傷一つ付かなかった。脅威の耐久性よ」
大淀「それは軽巡級、重巡級を凌ぐということですか?」
曙「そうかもしれないわ。戦艦までの装甲かは分からないけど、あんなのが量産されたらかなりやばいわね」
ふむふむ、と細かくメモをしている大淀。曙は血のついている床を見てまだ書いている大淀に質問した「ここで本当に冷葉補佐が……」言い切ろうとしたとき「そうですよ。私も拘束されて殴られました」淡々と言いながら、まとめていく。
曙「ちょ、それは大丈夫なの!? けがはっ!」
大淀「提督が間一髪で到着したので何とかなりました」
曙「それなら良かった。あ、でも提督は今どこにいんのよ」
大淀「外で八崎さんと紫月さんのお二人と合流して話すと言ってからかれこれ……二時間経ちますが」
曙「遅すぎるって事ね。この無差別テロみたいなのはここだけ?それとも――」
叢雲「全国の都市部、または軍施設が狙われていたみたい。ラジオの情報が交錯しているから正確なことは分からないけど、これは長そう」
曙「そんな他人事みたいに」
叢雲「実際、今情報が錯綜して嘘と真を聞き分けるのに忙しい。それに冷葉補佐があんなになっているのが信じられなくて情緒がどうにかしているの。分かってちょうだい」
「それはそうかもしれないけど」そう言いしぼむ曙。話しが終わり、朝潮の方を見るとうとうとしていた。それもそのはず普段ならもう寝ているか、寝る支度をしている時間だからだ。普段の習慣が無意識に夢の世界へ誘っているようだ。
曙「起こした方がいい?」
大淀「そうですね……今は敵の情報がない安全な時間ですが、艤装は下ろして入渠だけさせましょう。朝潮さん、起きてください」
朝潮「ぅ……ん――はっ! すすす、すみません! ついうたた寝をっ」
青葉「いえいえ仕方ありませんよ。曙さんと共に工廠行った後にお風呂行ってきちゃってください!あとは寝てしまっても構いませんから」
朝潮「は、はい。青葉さん。ありがとうございます……曙さ、ん。行きましょ……」
曙「眠そうね、大丈夫? 霞に見つかったら説教されそうだけど」
朝潮「……あの子はそんなこと、しないですよ」
目を擦りながら曙に向けていう。妹の霞のことを心の底から信頼していることが伝わり「そうよね」と頷く曙だった。その後はふらふらする朝潮を曙が支えながら執務室を後にした。
青葉が少し席を立つといい、二人の後を追うように出ていった。黙々と作業している大淀、叢雲。時刻は二十二時 二十一分となったとき、叢雲が「司令官遅いわね。もしかして元凶の方にいったの?」と呟く。大淀はペンを止めて「そうかもしれないですね」と独り言を拾った。
叢雲「……冷葉補佐は目を覚まさない、司令官は帰ってこない。こんなことで職員の数が不足していることが仇となるなんて思いもしなかったわ」
大淀「それは同感です。いくら慣れているとはいえ、流石にきついです。叢雲さん、外部への連絡はどうですか?繋がりそうですか?」
叢雲「いや一向にダメね。それが纏まり次第、大淀さんは一度休んでちょうだい。私は帰ってきた子の対応をするわ」
大淀「叢雲さん、ありがとうございます。でも帰ってきていない方なんて――」
叢雲「時雨。夕立は帰ってきたわ。少し火傷をしていたから、すぐに入渠を進めたのだけどね」
大淀「ああ時雨さんですか。妖精さんづてなのですが、結構不満そうでしたので……触らない方がいいかと思って放置しています」
ハハ、と苦笑いをしながら続きに取り掛かる大淀に叢雲は「それが正解よ」と短く返し、ラジオから情報を聞き取ってはまとめるのだった。