芙二は再び泊地の玄関へ戻り、周辺を歩いて被害を確認しながら執務室へ向かう。道中、足柄や霞にあったのだが、真剣な顔をして「まだ侵入者が居たのね!」と砲先を向けられてしまった。誤解を解こうと声を発しようとしたら「応援を呼ぶわ!」と高らかに宣言されてしまい面倒なことになったと帽子の上から頭を掻いた。
芙二「――というわけなんだが。襲撃されて興奮しているのかもしれないけど」
霞「いや司令官、ほんと凄い格好してるんだからっ敵と間違えたじゃない!」
芙二「そんなにか? 一応本来の姿に戻りつつあるんだけど」
足柄「提督の周りに黒い煙が立ち込めてて燃えているのかと思ったじゃない。でもよく見たら煙じゃないのよね、それ。汚れている空気を可視化したら、こんな感じなのかしら」
芙二「なるほど。瘴気が発生しているのね。流石に濃度までは分からないけど生者が触れたり、吸い込んだらよくないな」
霞「さっき大淀さんがぼやいてたからとっとと戻りなさいよ」
芙二「応援呼んだんだろ? 誤解とくのは任せてもいいか?」
足柄「大丈夫よ。気が立っていたとはいえ、上官に刃を向けてしまったし。ただ今度から見慣れている姿で現れてくれると助かるわ」
「それは
七月一日 深夜〇時〇六分 執務室にて。
芙二「失礼します。今、戻りましたっとあれ、大淀は?」
叢雲「大淀さんならさっき上がったところ。それよりも……」
芙二「あれ叢雲と青葉じゃん。二人は寝ないの?」
青葉「私はもう少ししたら食堂へ行きます。でも叢雲ちゃんは司令官が帰ってくるまではって話していたところです」
芙二「なるほどね。商店街を鎮圧しまわっていたらだいぶかかっちゃった。戻るのが遅れて申し訳ないね」
申し訳なさそうに言いながら、二人のどちらかにまとめているであろうメモを見させて貰おうとしたとき。叢雲が機嫌悪そうにこちらに近づいて来ては何やらパタパタと手で煽っている。
叢雲「臭いわね。血の匂いと……煙の匂い、それとよく分からないけど酷い臭い。一度お風呂に入ってきたら?なんなら一緒に入る?」
芙二(おっと気になる子からの誘い。しかも混浴ッ……ふぅ。落ち着け、落ち着けよ。愚息よ、今は情事に発展しそうな場を攻略しているときではない。せっかくだが断ろう)
青葉「あ、じゃあ青葉は二人が上がるまで待っていますね」
芙二「いや叢雲、その誘いはまた今度ということで。今夜は切り上げてもう休みな」
叢雲「司令官とじゃ事故は起きないでしょ。なによ、それとも襲うつもりがあるってこと?」
芙二「(好きな艦娘だから)あるが、そうじゃなくて!どうせ、また明日か明後日海へでる羽目になる。そうじゃなくても被災した人々に支援をしに行くかもしれない。休める時は休んで。艦娘も生き物だ」
叢雲「ある? はは、冗談よしなさい。ほんっと疲れているのね、私もあんたも。後で青葉と共に上がるわ。司令官はどうするの?」
芙二「
話がまとまり、自分の後の予定を聞かれた芙二。海へ行って適当に狩りを行う、つもりだと答えようとしたら着信。相手は陸翔殿だ。なんの気なしに出てみると酷いノイズが聞こえ、内容はまともに聞こえない。
「まだ復旧はしないか。それなら吾の能力で補助してあげれば……繋がった。えっと通知数は99+件!?うぉっと大量の通知がここで……グループのメッセージ数がカンスト?! 何があったんだ」
「とりあえず出てみたら?」
「そうするか」
『ジジッ――ブツッ あ、繋がったか? 繋がってなくても関係ない! こちら神城! 現在、鎮守府は無数の深海棲艦から空襲、襲撃を受けているッ陸へ上がろうとするのを抑えるので手一杯だ! 今音宮提督と月見提督に連絡を取っているが、厳しそうだ。こちらの被害は----ブツッ』
『芙二提督! 生きていますか! 生きていたらなにかリアクションをお願いします。こちら東第二音宮でした!!』
『こちら東第四のグラーフだ。提督が襲撃者に傷を負わされて指揮できない状況になっている。襲撃者は全員、殺して泊地内は今のところ安置となっている。が、そんなとき奴らからの侵攻がッ!! すまない、空いている人員がいたらうちにも――』
バァン!!ズガァァ――……謎の破裂音と崩れる音を最後にグラーフの音声が途切れた。他にも切羽詰まった声色で用件を伝える神城、こちらの安否を心配する音宮。寝るに寝れない状況となった叢雲、青葉は顔を合わせる。そんななか、芙二が口を開いた。
芙二「……とりあえず陸翔殿の方に行って最速の処置をしてくる。ついさっきの形態だと広範囲の能力行使は出来なくなっていたが、狭い範囲なら出来るだろう。それと余裕があったら、ここと第三を繋げる。渡せる物資は渡してあげてくれ」
時雨「提督、聞いたよ。ボクもついて行っていい? ここは多分大丈夫。さっき工廠いったら明石さんと夕張さんが基地航空隊の設営をしていたから。あと夜間警備をしてくれている子たちもいるから安全だよ」
芙二「時雨、疲労状態は? これやるから食っときな」
時雨「これは? 飴? なに味?」
芙二「不思議な味。甘くて蕩けるような味。毒ではない」
時雨「ふーん? んむ、ほんとだ。甘いそれに舐めていると身体がポカポカする。眠気もスッキリしそうだ」
芙二「原材料は人の命。感情を混ぜたもの。死ぬ時に甘い汁を啜っていたからな、大変に甘露であろう?」
時雨「ぶほっ!? ごほっごほ……吐いてもいい?」
芙二「吐いたら今度は直接、胃の中に液体にして注いでやるよ」
時雨「……ナチュラルS?」
とぼけたように「さあな」といい叢雲、青葉に夜の挨拶をしてから執務室から直接、東第三の執務室へ転移する。叢雲は「なにを見せられたのかしら……」と疲れ気味にぼやく。青葉は「あれはきっと無自覚惚気というやつですよ」そう返したのだった。