とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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東第三鎮守府の方は終わり。


五章 12話『ハズレ:降る飴&虚ろなる大竜巻』

 ゆっくり迫りつつある巨大な竜巻、空から降るは雨ではなく飴玉。そしてこちらに来ていた艦載機群の墜落。信じられない事が目の前でおき音宮の思考は停止していた。

 

音宮「なんで、敵の艦載機が落ちてきているの……? ほんと、空でなにが起きているの」

漣「そんなこと決まってますよ」

 

 秘書艦の漣が得意げにそう言ったとき、音宮の思考は再度動き出した。

 とても食い気味に漣へ問う。

 

音宮「漣ちゃん?! 何か知っているの? それはなにっ」

漣「私たち艦娘と神様でも味方についてくれたんですよ。あくまでも神様は私たちに助力をしただけにすぎないでしょう。ご主人」

 

 フフン、そう鼻を鳴らし振り続ける飴玉をキャッチしては口の中に入れていた。漣の考えを聞いた音宮は再び固まった。しかし思考は停止していないようでぶつぶつ呪文のような独り言を呟き始めた。芙二の正体を知る神城だけが、漣の考えを肯定的に取るも二人は気が付いていないようだった。

 

神城「……あながち間違いではないのかもしれないな」

音宮「漣ちゃんたちがやったのは分かるけど……神様、というか運が味方してくれたってこと?だとすると納得できるような?」

 

漣「そんな感じですよ、ご主人。艦載機群は落ちても避難はしておきましょ。あの変質者の仲間が来るかもしれないし、新たに艦載機が飛んでくるかもしれない」

 

 「そ、そうね。神城提督、漣ちゃん。地下へ避難しましょう」と二人に呼びかけ、手を引いて執務室を抜けていった。室内の窓から見える空模様は依然として悪天候であり、謎の現象として雷が鳴り光る空からは雨ではなく飴が降り落ちていた。被災した人々、海で戦う艦娘。更には東第三鎮守府周辺の生き物は異常な現象に身を震わせるのだった。

 

 

 

 少し戻って芙二は窓を飛び出し、落下し漣たちの視界を遮った後に四枚の黒い翼を生やして上空に飛び上がった。下は東第二、第三所属の艦娘が深海棲艦と戦闘を繰り広げている所に乱入した時雨の処理に追われている様だった。

 

 上はというと、黒、白色といった深海棲艦の艦載機が綺麗に列を作ってゆっくりと進んでいた。この速度でも邪魔はされないだろうということか、と進む列を見て芙二は思った。いつもなら広範囲技でどうにかやるけど。今回は出来ないので一か八かということでこのスキルを発動する。

 

芙二「【狂獄(きょうごく)】」

 

 久しぶりの使用だ。どうなるか分からないが……。お、空が曇り始めた。一雨からの、ということか。なるほどな。コツン、コツン。ん?なんだ? 飴玉?なんで空から飴玉が……。

 

芙二「いや待て待て!いくらなんでも落ちすぎ――え、もしかして雨ではなく飴玉が降るだけ!?いやいやそんなことはないだろ……」

 

 物足りないどころの話ではない。ハズレという概念がこのスキルにも存在するなんて思わなかった、そう呟いた。そして今回は使わないだろうと思っていたいくつかあるとっておきの一つを使用することにした。

 

 空中に手をまっすぐに伸ばし、手のひらを上に向ける。

 

芙二「【虚ろなる大竜巻(ホロウ・テンペスト)】」

 

 手のひらから小さな旋風が生じた。それを海へ投げ捨てる。小さな旋風は着地後、周囲の物体を抉り取りながら徐々に大きくなっていくように見えた。竜巻の大きさは数メートルほど。

 

 だが、急に天候が荒んで落雷、果てには竜巻の発生。空からは雨ではなく飴が降る。それらの異常に気が付いた艦娘や深海棲艦は戦うのを辞めて逃げるように散るのが見えた。

 

芙二「中身が無いというか竜巻の中身なんてないけどそれっぽく見えているだけで幻なんだよね」

 

 生物が一匹もいない環境でただ一人だけの自分が自分の手で戦況を良しにも悪しにも出来る。そのことに優越感を覚えた。

 

 

 背に担いだ【薙刀:煙流】は取り出さず、使い慣れた【大鎌:ソウルイーター】を虚空から取り出して左手で柄を掴んだ。

 

 

芙二「いっそのこと、だ。この手で世界を壊すのも悪くはないかもしれないな」

 

 

 召喚者の行使で未曾有の死を遂げ、輪廻の途中(みち)でお姫様に願いを託れ、そして異世界の呪いを被り、龍神の雷を身に受け獲得した。新たな生の形として歩み、また別れて新天地へ。

 

 

芙二「……なぁお前さん達はどう思う?」

 

 

 ほとんど目と鼻の先という距離になった艦載機に問う。しかし当然であるが、返答はない。ただただゆっくりと目的地まで爆弾を運ぶだけなのだから。

 

芙二「まあ結果は分かっていた。こちらのように妖精さんが搭乗しているわけではない。問いかけても虚しいだけだ……見えているかい?聞こえているかい?侵攻者(愚者)共」

 

 何の反応も返さず、ただ芙二の横を通過した時だ。突然、ボォン!と爆ぜて機体が落ちていった。たかが数機落ちた程度では躍起になって潰しには来ないと知っていた。分かっていた。

 

 通過しては爆ぜ落ちる。通過しては爆ぜ落ちる。数回繰り返したときにようやく変化が訪れた。壊れて落ちた機体を最後にぴたりと停止したのだ。

 

芙二「流石に気が付いたか。100機くらい落とされてようやく止めるとか案外適当なんだな」

 

 嫌味ったらしい言葉は止まった機体たちに向けられていた。眼下では飴が降り、雷鳴が天地に響き竜巻は巨大と言われるほどに成長していた。まあ幻に過ぎないが中断させるには十分だろう。

 

 黒色と白色を半々で塗られたヌ級が芙二の前に出てくる。巨大な頭部、片目からは中口径主砲が生えている。反対側は金色に光っていた。唇はなく上顎から歯が剥き出しになっており下顎も同じようだ。

 

 首はなく球体のような巨大な頭部の下から六本の触腕、灰色の胴体には人型らしい手足がついていた。しかし水膨れみたくぶよぶよしているが。

 

芙二「クトゥルフ神話に出てきそうなバケモンだな」

 

『化け物に化け物と言われるのは心外だな』

 

 ガビガビに掠れた声でヌ級は言葉を流暢に話し出した。まさか返ってくるとは思っていなかったので驚いた顔をしていた。

 

芙二「お、お前さんは反応があって嬉しいなア! で、何の用?まさか壊さないでくれ!降参するから!なんてつまんねーこと言わないよな?」

 

『何を言うか。この程度で我が手を止めるわけないだろう?ただ我は計画の邪魔をするな、と伝えたいが為にこの機体で貴様の元に来たわけだ。無名の邪神よ』

 

芙二「計画ぅ?侵攻することが計画なら(オレ)が徹底的に妨害するが構わんよな。いいや誰も邪魔することは許さないぞ、それがたとえお前さんであってもな。()()()()()

 

『――ッ! 我の名を知っているのか、邪神』

 

芙二「そっちに戦艦棲姫が行っただろ?お前さんに心酔している奴が。それとお姫さんの寵愛っていうやつで場所も割れてんだよ、こっちには」

 

『ふむ、中々面白いことをするな。流石は邪神と言ったところか?』

 

芙二「さっきからどうして吾が邪神なのだ。吾は神ではないが。歳を取り過ぎて耄碌してきたか?」

 

『貴様こそなにをいうのだ。その在り方、能力、思考、姿を見て邪神と言わず何という。ただの人智を越えた異形というには異常すぎる。この世界に存在してはいけない生物そのものだ』

 

芙二「酷い言い草だ。野暮用を終らせたら、そっちに行ってやるよ。せいぜい迎撃態勢でも整えておけ。クソアマ」

 

『口が悪いな』

 

 バキャッ

 

 左手で持っていた大鎌を振り刃はヌ級の頭部を横に裂いた。その後は鎌を横薙ぎにして衝撃波を繰り出した。すぐそこにある艦載機は避ける事もせず破壊されていった。鎮守府に向かっていた機体はすべて破壊し終えると眼下にいる時雨と合流すべく翼をたたみ、重力に身を委ね落下する。

 

 

 

『飴玉が降らなくなった? 見ろ、黒雲が晴れていく』

『竜巻も消えていくわ! 今なら奴らも一方的に――』

 

『で、でも深海化した艦娘はどうするんですか!敵か味方化も分からないのに』

『しかしそう言っている場合ではないんだぞ、羽黒。邪魔をしてくるならば我々の力でねじ伏せるしかない』

 

 

 竜巻の発生と異常気象により散り散りになっていた東第二、第三の連合艦隊の艦娘はやっと集まり異常気象の終わりに歓喜する。その反面では深海化した艦娘(時雨)の処置と深海棲艦を倒す考えを話し合っていた。

 

時雨「……面倒になってきたな。結局提督は大技ってのを打ってきたかと思えば拍子抜け。ということはボクの出番が回ってきた?」

 

『あっ! 見て!空からなにか落ちてくる! 最後の機体かもしれないわ、気をつけて!』

 

時雨「そうくるんだ。それじゃあボクは着地点で受け止めてあげようかな」

 

 深夜なのに空が夕焼けのように明るくなった。再び異常気象の幕開けかと艦娘らは身構えるが違うようだ。落ちてくるのは黒い何か。その何かからは燃え落ちるような光が目立っていた。

 

 自身の提督に注目する艦娘の目を盗んで、時雨は予測した着地点へ速度を上げて向かう。

 

『あっ深海化した艦娘がどこか行っちゃうよ! 追いかけよう、深海棲艦の仲間かもしれないから!』

『バカっいくなって。あっ阿賀野が追いかけていったぞ! 追え! 負傷したら逼迫する原因になるぞ』

 

 

 

 バシャン!

 

 落下が止まった。水の上に落ちたような気がする。そのまま水中へは沈まない。浮上の効果が働いているから。でも冷たくない。それどころか温かい。

 

時雨「提督? 気絶でもしたのかい?」

芙二「ん、あーいいや。口喧嘩で負けたのさ。時雨、受け止めてくれてありがと」

 

時雨「お安い御用さ。誰と口喧嘩したの? 叢雲?大淀さん? それとも神城提督?」

芙二「戦艦神棲姫。この侵攻のラスボスとも言える存在。そいつから邪神とか存在してはいけない生物とか散々よ、もう」

 

時雨「戦艦神っ!? それってボクに憑いていた駆逐神棲姫と関係しているよね」

芙二「もちろん、そうだ。東第四泊地の野暮用が済んだら、元凶の元へ足を運ぶ。時雨は泊地の警備にあたってくれ」

 

時雨「いいやボクも戦うよ。提督だけじゃきつそうだから」

芙二「今は後にしよ、とりあえず保留。下ろして」

 

 抱きかかえられたままだとこちらに近づく数の対応が出来なそうだと感じた。時雨の元から少し離れ周囲を見渡すとそこには深海棲艦と艦隊と艦娘の連合艦隊が自分達に砲先を向けていた。

 

芙二「時雨、速攻で終わらせる。ちょっと悴むかもしれないが、許せ」

時雨「え、ちょっとなにっ? 悴む?」

 

『何をこそこそ話し合っている! 深海化した艦娘と貴様は何者だ、正体を明かせ!』

 

時雨「深海棲艦ごと撃てばいいじゃないか。もしかしてグル?」

 

『フ、貴様ハ何ヲ言ウノダ。艦娘ナゾト仲間ナ訳デハナイ。ソノ異形ト貴様。仲間ダト言ウコトハ理解シタ。艦娘ヨリモ先ニ殺ス、全員構エェッ!!』

 

『――なにッ!? 全員、退避ィィイ――ッ!!』

 

芙二「【氷禍:スノウタイム・パレード】」

 

 とっておきの切り札2弾。深海棲艦が発砲、艦娘が退避するよりも早く満ちた冷気は辺りを包んだ。梅雨明け前なのにも関わらず東第三鎮守府周辺ではマイナス55度を観測したという。だが、それも一瞬で海辺を除くほかは数秒後には氷は徐々に溶けだしていった。

 

時雨「悴むってレベルじゃないでしょ、こんなの……」

芙二「大丈夫か? 手足は動くか?」

 

時雨「提督のおかげで何とか。そっちの艦娘にも付与したの?」

芙二「一応。深海棲艦の魂は魂晶にしたし感情も飴玉に変換したからずらかるよ」

 

時雨「あ、やっぱり一応気は配るんだね。でもぱっと見は凍り付いているように見えるんだけど?」

芙二「型取るように凍らせた。攻撃されたら溜まったもんじゃないから。中身というか艦娘そのものには傷一つないよ。精神までは保証できないけど」

 

時雨「トラウマになってそう。それじゃあ第四へ行こうか?」

芙二「そうだな」

 

 氷禍を解除したが瞬間冷凍された艦娘、深海棲艦を含むすべてが溶けだし動けるようになるまで一時間以上かかったという。そして夜は通常の暗さとなり、いつもの宵の時間となったのだ。

 

 いつのまにか空襲警報も止み、被害を受けたにせよ死傷者が一番少ない結果となった。




現在の状況

芙二
->戦艦神棲姫に邪神扱いされるも内心は納得している。
野暮用(東第四)が終わり次第、レッツラゴーする予定に。
やはり大鎌の方が馴染む。

時雨
->まだ暴れたりない様子。
元凶の元へいくという芙二について行く気満々。

音宮
->地下へ避難後、いつのまにか傷が治っていることに驚きを隠せない。
凍り付くのを回避した三名のうちの一名。


->音宮と共に東第三鎮守府へ加勢に来ていた。緊急要請だったので最低限の装備出来たのが仇となったが芙二の登場により主を喪わずに済んだ。

神城
->鎮守府も周辺もボロボロにされた。珍妙な格好の人物を芙二だと見抜いた(経験則)。逃がすため(本音はその力で屠ってもらうため)にわざとヒントを与えた。

東第二、三の艦娘の皆さん
->正体不明の異形の登場によりしばらく戦闘不能。解凍後、でろでろに溶けている深海棲艦を見てトラウマになる子もしばしば。
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