とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

193 / 390
五章 13話『鉄錆色の変質者』

 七月一日 深夜一時三十二分 東第四泊地 門前にて。

 

芙二「着いたが、なんだここ」

時雨「うん、その気持ちわかるよ」

 

 東に位置する海軍施設の中で最後の場所。初めて訪れた芙二と時雨。東第三鎮守府とは全く異なる状況になっていた。まず一つ、空襲警報は発令されてないどころかテロリスト、深海棲艦に攻められていないのでは?と疑問に思うほど静寂が漂っている。

 

 いや深夜だとだいたいこのくらい静かだろ、と思われるかも知れない。だが、泊地に戻ったとき留守電にはグラーフの切羽詰まった声色とよろしくない内容が録音されているのだ。ここまで静かだと既に敵の手の内に落ちている、と考えるのが妥当ではないだろうか。

 

芙二「建物の外観はちっとも壊れていないどころか門も閉まっている」

時雨「提督、一度町の方に行ってみようよ」

 

 その提案に「行ってみるか」と返す芙二。携帯からグー〇ルマップを表示して一番近くの町までのアクセスを確認する。

 

芙二「歩いて30分。車で10分か。うちもそんなもんかな?」

時雨「ボクを抱えて提督が飛べばすぐでしょ。ほら、行こうよ」

 

 「少し待て」といい折りたたまれていた翼をゆっくり展開し、右わきに時雨を抱える。その際に艤装を解除させたのは単純に痛そうだったからだ。納得していない表情で何か言いたそうだったが無視をして一番近くの町へ飛んだ。

 

 

芙二「おぉ? 町は普通か。深夜だからシャッターは降りているし人っ子ひとり歩いちゃいない」

時雨「深夜って大半の人は寝ている時間だと思うのだけど」

 

芙二「夜勤とか長距離運ちゃんとかだと動いている訳だけど。時雨の言う通りだな。ちょい待ってテロリスト共が隠れていないか確認する」

 

時雨「え、そんなことできるの? 前は深海棲艦だけじゃなかったの?」

 

芙二「連中、妙な手袋をつけているからな。商店街に火を放った馬鹿ども百人が全員つけていたからここでもつけているとおもう」

 

 時雨は目を丸くしていたが、それ以降はなにも言わなかった。芙二は五分程、辺りをうろうろしている。これじゃまるで本当に変質者みたいじゃなか。ここに誰かいたら確実に通報されていそうだ、と時雨は思っていた。

 

 何もなかったのか、残念そうに時雨の方へ戻ってきた。

 

芙二「町の被害はゼロ。だとすると泊地の方が危険か。グラーフと月見提督の安否が取れてからの戦闘は時雨に任せてもいい?」

 

時雨「え、嬉しい。提督、いいの?暴れたりないんじゃないの?」

 

芙二「どうせこれからボスと二連戦だからな。海がなくなるかどっかの土地が荒地になる。そうなったら周辺の生物は絶えるだろ」

 

時雨「そんな規模の戦闘をする気なの……? もしかしたらこの国の地図から何処か消えるっていうこと?」

 

芙二「大いにあり得る。(オレ)らの戦いで天変地異が起きる可能性もある。それこそ日本だけでなく惑星ごと壊れたりしてな」

 

 ハハハと笑いながらまた時雨を右わきに抱えると泊地へ転移した。

 

 

 再び東第四泊地に戻った二人は閉じられている門を無理矢理こじ開け、侵入する。その際けたたましい警告音が鳴りだし、音を出している箇所を切り替えた盾で殴り壊す。

 

 ブジュッ バチンッ!

 

 一瞬、眩い光を発したかと思えば鳴りださなくなった。時雨は(今更だけど提督、やばい人だ)そう再認識していた。異音は泊地内を響いていた。突然、建物の壁が激しく吹き飛ぶと中から頭、手、足が二つついた化け物が『ウギュウウウウゥウウウウ!!』と奇声を上げながらこちらに向かってきた。

 

時雨「え、気持ち悪いどころの話じゃないんだけど……! て、提督――」

芙二「木っ端微塵になってろ」

 

 化け物の懐に飛び込むと大鎌でバラバラに切り刻んだ。ぼとぼと落ちて肉塊になったのだが、もぞもぞとまだ蠢いている。そして蠢いた肉片同士で接合し始めたのですかさず魂を刈り取った。

 

 『ギィイイギィイギギギ……』と掠れた奇声を上げてから動かなくなり、瞬く間に腐肉塊へと姿を変えた。それがまた途轍もなく臭いのでボールのように蹴り上げ、壊れた門壁にへばりつけておく。

 

芙二「一見落着、と。初見殺しもいいとこだろ、あれ。魂というか核を壊さなかったら無限蘇生のループだったと思うけど」

 

時雨「あれってなんなの? 深海棲艦でもないし……もしかしてここでも人体実験が行われていた?」

芙二「ここの実情を知らんから否定は出来ない。でもあれは特殊なケースだと思ってくれたらいい。あれが何体もいたら絶望だな?」

 

時雨「提督がいるからマシだよ。ボクだけだったら勝てないと思う」

 

 「男のバージョンと女のバージョンあるだろうな、あれ」と呟いた。その後、二人は玄関へ向かいそこでも芙二が正面ガラスを粉砕し侵入していく。が、しかし警告音は鳴らずそれどころかテロリスト共が階段から降りてきたので二人は確信した。

 

『ここは落ちかけている、もしくは落ちた』

 

芙二「時雨、換装しろ。()()()()()十分かもしれないな」

時雨「了解っ! ところで提督はなにを――」

 

芙二「この建物の一階と二階を冱寒の空間に変えてしまう。そこから一歩も前に出るな」

 

 前を向いたまま、左手で斜め下を指していた。テロリスト共と対面し、連中が話しかけたとき急いでそこへ移動する。

 

『あんだぁ? 正義のヒーロー気取りかよッ おい、お前らやっちまえ!後ろの艦娘も食いものにしちまいなぁ』

 

芙二「【氷禍:フロストプリズン】」

 

 ビュォォオオ――芙二を中心として旋風が発生し非常に冷たい風が周囲に吹き付ける。パキパキと音を立てながら芙二の居る空間に大きな氷棘がいたるところに生えていく。テロリスト共は瞬間、熱を奪われてしまい凍死する。旋風が止むころには景色がまるで違う。上下左右からはバラバラの方向へ氷棘が飛び出ている。ほんの数分でこの階は変わり果ててしまった。

 

芙二「時雨。もう出てもいいぞ。吾は奴らの魂と感情を奪うから少し待て」

 

時雨「う、うん」

 

 スタスタと氷の上を歩いて行く。自分の目の前で何か言ったやつは完璧に凍っていた。再び盾に持ち替えて頭を殴って砕いた。不思議なことに血は飛び散らず、ゴトンと音を立てて転がる。次は喉仏から臍まで裂いて、魂と感情を固めてた後にわざと内臓を取り出した。

 

時雨「て、提督?どうしちゃったの、さ?」

 

 無言のまま次の死体に移り同様の事をする。時に大鎌で木っ端微塵にしたり、金的のように蹴り上げて真っ二つにもした。べちゃくちゃと血を被っていた。元の色が分からなくなるほど浴び終わるとそこには鉄錆色の変質者が佇んでいた。

 

時雨「提督? ね、ねえなんとかいって」

 

 ペストマスクの嘴から血が滴り落ちたとき、別の場所から悲鳴が聞こえた。時雨はその悲鳴のする方に駆けて行った。次いで芙二も向かう。

 

 

 

 時刻 深夜〇時 五十七分 中庭にて。

 

?「こっちにこないでッ!!」

 

 時雨が駆け付けるとそこにはウェーブのかかったセミロングの明るい茶髪をポニーテールに纏め、前髪は右で七三分にしている艦娘が何かから逃げるように走っていた。

 

 上には脇部分に開口部を表すような切れ込みが有る白の長袖ブラウス、下には所々破れているが黒いミニプリーツスカートを着用していた。だが脇のあたりのリボンで絞られているため、バニースーツのような印象を与えていた。

 

 そんな艦娘を見て時雨は思わず固まってしまう。明らかに日本艦ではないような気がしたからだ。空母?戦艦?重巡?と艦種をその場で考え込んでしまいそうになる。

 

時雨「と、とりあえず何に追われているかを聞かないと!」

 

芙二「時雨、彼女を任せた。吾は追手を殺す」

時雨「ヒェッ!? て、提督! 急に耳元で囁かないでよ!」

 

芙二「すまん。彼女の後ろを見てみろ、あれは明らかに異常な光景だろ」

時雨「なにを言い出すのさ――え、テロリストとレ級が一緒に行動している!?」

 

 

芙二「そうだ。仲たがいしているように見えない。ということは、だ。人間側と深海側の二つが結託している可能性が高い。だからさっき言ったようにラスボス二連戦が待っている。あとの戦闘は譲ろう」

 

時雨「それよりもっ! 彼女の名前を知ってる?」

 

芙二「アクィラ。確かイタリアの航空母艦だ。敢えて克服状態で行かず助けに来た体で接してほしい。吾も雑魚を片付けたら解除して合流する」

 

時雨「了解」

 

 二手に分かれて行動する。アクィラを追わせないように立ちふさがる。だが、関係ないというように銃を抜き、発砲してきた。レ級も尻尾についた砲を躊躇いもなく撃つ。

 

芙二「おっと危ないねえ?」

 

 右側に大きく避けてナックルのように扱う盾を両手に嵌める。片手で守り、もう片方で殴り飛ばす。まずは一枚。

 

『ブベッ!?』

『なんだ、そのちからァ!』

 

芙二「邪魔をするなよ、ゴミ共が。本当は武器なんて使わなくても十分だ。しかし確実に殺しておきたいからな」

 

 発言させる前に顔面を叩きつぶして二枚目を落とす。三枚、四枚と胸、腹と抉って殺す。二隻いるレ級は一人逃げ出してもう一人は逃がすための囮になったよう。左側を大鎌に切り替えて囮からバックステップで距離を取り”死”の衝撃波を飛ばす。

 

 逃げようとした方の身体に衝撃波は伝わると前のめりに倒れて動かなくなった。右腕で攻撃をいなすついでに盾を解除する。

 

『! 解除した? 舐めプかよ、こいつ……!!』

 

芙二「なわけないだろう。もう片方で狩るためにあるんだよ」

 

 レ級に反論させることはなく左手で握っていた大鎌で下から上へと縦に斬った。左目は芙二を睨みつけるも右目は明後日の方向を見たまま事切れた。

 

 

芙二「感情までは要らね。魂だけとって合流しよう」

 

 そういうと早速、ついさっき事切れたレ級の元へ向かうのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。