とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 14話『事の始まりは少女の言葉から』

芙二「時雨。やっと追いついた。アクィラの様子はどうだ……って生きているか?これ」

 

 【祟殻龍骸】を解除し、普段の軍服を羽織った姿で登場した芙二だが時雨の隣にいるアクィラは青い顔をしてガタガタと震えている。余程怖い目にあったのか、または恐ろしいものを間近で見たのかというくらい震えていた。

 

時雨「さっき盛大にこけてね。それからずっとこんな感じなんだ」

 

アクィラ「………………」

 

芙二「なるほど。もしもーし、アクィラ。(オレ)のこと分かる?」

アクィラ「ひっ……に、人間がいる!? さっきの狼は何処にいったの……?!こ、殺さないと、いけないッ!!」

 

 芙二が話しかけると顔を見た途端上記のことを言い出し、青い顔をしながら大量の汗を流しながら艤装を展開しようとしていた。その呼吸は荒く、何かを我慢するように機銃を撃とうとするも上手くはいかない。

 

アクィラ「なん、で。上手く行かないの……奴らの仲間でしょ!? 少女が、人間が居るから、ここが壊れたのよ。ここの提督と職員以外の部外者は――」

 

 あぁ!と艦載機を手から落として、その場に蹲る。かなり錯乱していると見た芙二は普段の姿から【ブラック・ビースト】を使用して燕尾服を着た青い人狼の姿に変化して話しかけた。これでも発狂紛いなことをされたらとてもじゃないが精神的に黙らせるしかない。

 

芙二「……お望み通りの姿にしてやったぞ。満足か」

 

アクィラ「! あぁシエナのシンボルが私を救いに来たのね!それにその姿、現世に順応したのですね。とても素敵です」

 

時雨「シエナ?」

 

芙二「確かイタリアの都市だったと思う。で、そのシンボルは狼なんだけどその理由は古代ローマ神話とかまあここだと時間食うから説明は省くよ。なにより彼女、錯乱しているっぽいし」

 

時雨「ふーん。なんか提督を崇拝しそうな勢いなんだけど」

芙二「精神に異常をきたしているんだろ。アクィラの生まれは全く違ったと思うけど話せる状態なら大丈夫でしょう」

 

アクィラ「先ほどは無礼を働いてしまい申し訳ありません。あなた様が来てくださったのですからきっとこのような事件、簡単に片がつくでしょう。それで軍神様はどちらに?」

 

時雨「話を合わせた方がいいよね」

 

芙二「そうだな……ゴホン。我が主であるマルス様はこちらには来ていない。此度の件は吾の試練でもあるからだ。故に成し遂げよ、そう仰られた」

 

アクィラ「ではそこの時雨さんは……?」

芙二「共に試練を受ける友である。時雨、切り替えてもよいぞ」

 

時雨「了解したよ」

 

 芙二の演技により普段の姿から深海化克服した姿へ変化させる。普通なら構えるのだが、錯乱しているアクィラには神の遣いが艦娘にも力を与えたのだとそういう風に見えている。目を輝かせて『凄い、凄いわ!』と興奮したように手を叩いている。

 

芙二「本題に入ろう。アクィラ、どうして貴様は追われていたのだ?」

 

 手を叩くのをやめ、悲し気な表情を見せるとゆっくりと少しづつ話し始めた。今さっきとは打って変わって物悲しい雰囲気が伝わってくる。

 

アクィラ「……昨晩のことです。執務を終え、食堂で皆さんと食事をしていたら窓が割られテロリストと思わしき者共に取り囲まれたのです。私たちは戦うために生まれました。だからすぐに応戦しようとしたのですが、食堂の方々が人質にされてしまいました」

 

芙二「ふむ。続けなさい」

 

アクィラ「武器になり得るものは全て回収されてしまい、拳一つで戦おうと決めたときです。奴らの中を割いて現れる人物がいました。その少女の影響でここは瞬く間に戦場となってしまいました」

 

時雨「その少女は名乗ったの?」

 

アクィラ「はい。彼女は自分をアイリと名乗りました。目的は分かりませんでしたが、ここの提督と話がしたいとそう言ってきました。最初は提督を呼ぼうとはしませんでした。ですが、痺れを切らしたのか人質の足に数発弾丸を撃ち込みました」

 

芙二「その被害者はどちらに? 後で案内しなさい」

 

アクィラ「はい。それで人質の悲鳴が聞こえてきたと思った時、提督が現れました。そして交渉すべくグラーフと共にアイリは応接室へ向かったと聞きます。そこからは睨み合い、その一言に尽きます。テロリストは銃を構え、私たちは眼力で睨みを利かせることしか出来なかったです」

 

時雨「アイリと名乗った少女はどこにいったの?」

 

アクィラ「既にここを去っています。提督がいるはずの応接室から甲高い悲鳴と爆発音が聞こえた事により状況は一変します」

 

時雨「ここの艦娘が連中を殺したんだね。銃を構えているとはいえ、人間だから容易い」

 

アクィラ「時雨さんの言う通りです。私たちは初めて人間を殺しました。法律で裁かれるかはどうかとしてそうしないといけない状況だったのですから」

 

 何度も頷いて自分の中で考えた予想を比較する。そして分かったことは今回のボスは()()()()()()()()()()()()()()ということ。やり方が大分残忍で狡猾だと感じた。ここまでだとテロリスト共は殆どが死んだはずだ。どこからあの化け物が出現したのか、それを知りたくなった。

 

芙二「続きを話しなさい。大丈夫。吾が救済を、慈悲を与えよう」

 

アクィラ「あぁ光栄。長くここまで生きてきてよかったような気がします。コホン。……それで、ですね。殺し損ねた者が数名、尻尾撒いて食堂から出たかと思えば次は深海棲艦の登場です。上陸した音も空襲もなく人型のものがいつの間にか工廠にいて――私たちの装備倉庫ごと壊されました」

 

時雨「巡回中の憲兵や艦娘がいたのでは?」

アクィラ「巡回中の皆さんも憲兵の方も負傷させられ、死体安置所に投げ捨てられたといいます」

 

時雨「……ごめんなさい」

 

アクィラ「いえ大丈夫です。それで帰り支度をしていた職員も付近にいた一般人の方も、ここの施設に囚われてしまいました。そこから………………言葉に出来ないほど凄惨なことが起きました」

 

芙二「不気味な化け物が創りだされた、ということか」

 

アクィラ「それの解釈であっています。最初は信じられませんでした。ですが、艦娘と深海棲艦を除いて人間だけがバラバラにされ、混ぜられ捏ねられてガワすら違う未知の生物へ変えられました。それが四体。犠牲になった人数は30名ほどです」

 

時雨「そんなことをして何が――」

 

アクィラ「私にもわかりません!! ……失礼しました。で、ですがアイリと名乗る少女は楽しそうに粘土細工のように死体同士を混ぜて成形していたんですから。形作るのが楽しくてたまらないといった様に」

 

 そのときの光景を思い出したのかうっと吐き気を催し、口元を抑える。時雨が背中をさすり温かい言葉を掛けている。芙二はやはりアイリ・ブルグレスも常識外の存在だったと感じていた。

 

 青い顔をしたまま、アクィラは衝撃の言葉を発した。それは信じられない事であり、とてもじゃないが戦艦神棲姫を先に始末している場合ではないと思うほどだ。

 

アクィラ「人々を殺して化け物を創り出す彼女を止めようと仲間が飛びついたときです。急に仲間が深海化したんです。全員、突然のことで驚いて言葉を失いました。幻覚かと思ったのですが、事実でした。実際に仲間が呻き、苦しみ少しずつ深海化が進行していきました」

 

時雨「触れられてもいないのに、深海化? それまで兆候はあったのかい?」

 

アクィラ「いいえ、ありません。触れられてもいないのに急に深海化しだして、人間を殺す。そう宣言して暴れ始めました。そこからはもうパニックで酷い状態が続きました」

 

時雨「それはそうだよね。職員の方はどうなったの?」

 

アクィラ「仲間の抑えでほとんどが逃げ切ったと思います。ですが、一部の方は犠牲になってしまいました。少しして分かったことがあります。それはただの深海化ではなく中途半端に鬼や姫級に近づいていること。そしてウィルスの様な感染力を持っているということです」

 

芙二「それはまずいな。被害をここだけに抑えなくては。アクィラ、場所を教えなさ――!」

 

 バシュゥッ――ガキンッ!!

 

 アクィラに問おうとした瞬間、こちらに飛んできた弾丸を鈎爪で弾く。飛んできた方向を確認すると暗くなっている所からの狙撃だと分かった。

 

?「アクィラさん、そこに居たんだ。あれ、なんか見慣れないのと深海化した時雨がいるね?文月、加古さん。もう一回、出来る? 外れちゃったからさ」

 

芙二「随分な挨拶だな。天霧。二階の窓際からの狙撃なんて。一度通じなかったからと言って二度目があると思うなよ?」

 

天霧「――ッ! こいつなんで名前を知って。変な被り物取れっ!」

 

芙二「被り物ではない。吾は狼の遣いだ。ほとんど寿命のない貴様らだからこそ、博識であると思っていたが知らぬとはな」

 

時雨「いやボクも知らなかったし、歳は関係ないよ」

アクィラ「敬虔な信徒である私は知っていましたとも!」

 

芙二「何が目的だ。話さぬのなら、吾が直接出向いて聞いてやる」

 

加古「深海化した仲間を葬ること。治し方なんてない。だからこそ、仲間の手で葬るのが最善だと知っている……!邪魔をするなよ、化け物め!」

 

芙二「ほぉ。ならば吾は化け物らしく慈悲など無くした一撃をくれてやろう――」

 

時雨「いやそれだとボクも犠牲になる未来が見えるんだけど」

 

アクィラ「な、なんて無礼な! シエナのシンボルを化け物だなんて――う゛あ゛あ゛ッ!!」

 

 

 加古に化け物と言われた芙二は悪い笑みを浮かべ、薙刀を取り出そうとする。アクィラの隣にいた時雨はつっこみをいれ芙二をシエナのシンボルと疑わないアクィラはショックを受け加古に説教をしようとしていたときだ。

 

 突然、悲鳴を上げてその場に蹲る。呼吸は荒く、吐き始める。彼女の身体からはどす黒い靄が滲み、肉体、精神を蝕んでいるようだ。

 

アクィラ「か、身体が痛む……! それに患部が熱い。いいや寒い? 分からない。分からないけど私は、感染していたの?」

 

芙二「これが感染しているというのか。いや待てよ、深海化になるには感染などしないはず。可能に出来ると言えば――」

 

時雨「て、提督! 呑気に分析している場合!? アクィラさんをなんとかしないと……!」

 

文月「今提督って言ったの?」

 

芙二「アイリ・ブルグレスはウイルス系の能力かまたは――」

 

時雨「だ・か・ら! 分析している場合!? ああもうボクが殴り飛ばしてくるよ」

 

 時雨の足元に弾丸が撃ち込まれる。視線を上げるとやはりそこには天霧たちが見下ろしていた。次弾装填を済ませる文月、加古。何やら分析している芙二とアクィラそっちのけで天霧をシバこうとしている時雨。

 

 

天霧「部外者が邪魔をするからだ。大人しく殺しておけば、彼女の進行は抑えられたのに……」

加古「提督を名乗る不届き者は死を。大人しく死ね」

 

 バシュッ!

 

 弾丸は芙二の脳天を貫通し、瞬間血が撒かれた。天霧たちは次の標的を今だ藻掻くアクィラに合わせたときだ。時雨がスコープ内に写った。深海化を克服しさらには芙二からやや改造を受けた彼女の力は並大抵の艦娘の力を凌駕するものだ。

 

時雨「よくも提督をッ!」

文月「えぇ?! 深海化しても自我を保っている?……信じられない」

 

芙二「なるほど。アイリ・ブルグレスもカインの様になっている可能性があるか。――時雨。こちらへ戻りなさい。彼女らを殺してはいけない」

 

加古「ばかなっ脳天を貫かれて生きている生物など……見た目通りの化け物か。いいのか、その時雨を引っ込めて?」

 

芙二「貴様らの敵は深海棲艦だろうが」

 

 言い終えた瞬間、薙刀を振り下ろして地面をたたき割る。砕ける音が聞こえ、更に土埃が立ち視界を悪くする。アクィラが静かになったのを確認して【祟殻龍骸】を使用して姿形を変える。

 

時雨「提督? なにをしたの――――え? アクィラ、さん?」

アクィラ「あ、が……ごぼっ」

 

芙二「乙女の柔肌はいいねえ。飽きないよ、まったく」

加古「は、なにをやって――――」

 

 土ぼこりが腫れた先には深海化途中のアクィラを貫く芙二がいた。即死させていないのか、彼女はまだ痙攣し、血泡を吹きだしていた。時雨も天霧たちも芙二の思考が理解できないでいた。

 

 

 

 

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