とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 15話『急遽、現場へ』

加古「おまえはなにをしているのだと聞いているッ」

 

 怒鳴った先にはアクィラの腹部を薙刀で貫いた芙二がいる。深海化途中のアクィラは突然の痛みとショックにより錯乱状態が解除され悲鳴を上げ始める。

 

芙二「(オレ)はある仮説を立てた。深海化途中の艦娘に強い衝撃を与えたら、進行が止まる、または遅れるのでは?と。実際に形態変化などで邪魔されたら不完全な状態になるだろ。――結果は仮説通り。現在、アクィラの深海化は止まっている」

 

加古「それがどうしたッ化け物に仲間を刺されて平気なわけがないだろう!」

芙二「意思を示す彼女の権利を奪っておいてそれはないだろう? 吾や時雨がしなくても殺したはずだぞ」

 

文月「それが最善だからッ!新たな被害を出す前にやるしか……わたしたちだって本当は仲間同士での殺し合いなんてしたくない!」

 

時雨「まぁ普通はそうなるよね。ボクもそれは正しい気持ちだと思うよ。現に提督たちに助けられるまでは深海化が完全体となって暴れていたわけだし」

 

天霧「また提督って……妙な格好をしているやつが提督なわけないだろう! おまえは深海化している。だから幻覚を見ているんだ」

 

時雨「だってよ、提督。傷つくかい?」

芙二「いいや、まったく。吾の行動は善行とは思っていない。そして悪行ともな。しかし今は緊急事態だ。任された我が責務を全うするのみ」

 

時雨「そぉ?ま、提督がいいならボクは別に気にしないよ」

 

加古「な、なにを話している――」

 

 ごぼッ! ごぼごぼッ

 

 泡を吹いていたアクィラが口から血が混じったものを吐き始めた。青い顔をしながらじたばたと暴れ始めるが芙二を知らない天霧たちは提督と呼ばれる不審者は依然として薙刀を抜く素振りを見せない。このままではアクィラの命が危ないと思っているだろう。

 

天霧「お、おい。このままだとアクィラが――」

芙二「ん、あぁそうだな。死ぬな、普通だったら」

 

加古「普通も何もないだろがっ!!」

芙二「ほんとうにそうか?彼女の顔色や変わりかけたものがどうなっていくのかを見てから文句を言え」

 

 そういうと芙二は時雨を呼んでアクィラの身体を預けた。両手柄を掴み薙刀をゆっくりと抜き空中に放り投げてそのまま仕舞う。芙二は時雨に預けた彼女の容態をみながら、話し合っていた。天霧たちはとんでもない光景を目の当たりにしていた。

 

天霧「治っている? い、いやそんなはず」

文月「で、でも深海化の痣が引いていくのを見たよね……これだったら他の皆さんももしかして」

 

加古「いや治したように見せただけかもしれない。まだ信頼するのはまずいだろう」

 

 芙二が行ったかのように見える奇跡は深海化したら殺すしかないという三人の常識を覆すものだった。今回に至るまで誰一人として轟沈者を出していない東第四泊地。しかし今回は異常中の異常。突然深海化した仲間を自分達の手で葬ることになるかもしれない。その不安、恐怖が確かにあった。

 

文月「でもあの人外を味方につけたら、きっとこの騒動は治まるかもしれないよ?」

天霧「文月さんの言う通りです。先程責務がどうとか言っていたので、味方である可能性は高いです。とりあえず非礼を詫びて――」

 

芙二「その必要はない。吾が勝手に侵入し、事を起こしたまでだ。アクィラの深海化というハプニングはありはしたが、ここに参上する理由を片していない」

 

加古「どわぁ!? き、急に現れるな! ここに来る理由? 他の仲間と共に私たちから甘い汁を啜りに来たのでは?」

 

芙二「吾はそんなことをしない。逆だ。グラーフから留守番が入っていた。だから来たまで。建物含めた周囲の状況は普通なのに中身はとんでもないことになっているな?襲い来るものには粛清を。救いを乞うものには慈悲を。吾が全員、元に戻す。深海化した艦娘に対してだが、時雨は暴れてもいい」

 

 「最悪、身体の一部を吹き飛ばしても噛み千切っても構わん」そう言うと天霧たちに背を見せ、アクィラを担いで時雨と共に半壊している窓から屋内へ侵入しようとしていた。

 

文月「ま、待って! あなたは敵なの?味方なの? あなたのちからがあったらこの戦争を――」

 

 他の2人を差し置いて一進し、問う。だが視線を向けた先には既におらず、窓枠に足をかける芙二と時雨がいた。芙二は時雨にアクィラを任せ、文月たちの方を向いて叫んだ。

 

芙二「吾の邪魔をするならば、敵。そうでないのなら味方でもない!吾にとって、てめえらの立ち位置は味方でもないってこった! てめえらが深海化した仲間を殺すなら勝手にやれ!それが最善なのだろう?吾は勝手に自分の方法で行う。許可を貰ったわけではないが、文句があったらグラーフに言え!!」

 

 耳の奥に響くような芯のこもった声は三人どころかその周辺にいたテロリスト共、深海化した艦娘の心に響いた。上記の事を叫ぶと闇の中に消えた芙二に対して三人はなにも言えずにいた。だが、自分達から見て右側から足音がこちらに近づいてくるのでどこか隠れれる場所に逃げた。

 

 

 同日 深夜二時二十分 応接室にて。

 

 テロリストと深海棲艦に占拠された東第四泊地。アイリの手により深海化した艦娘が発生し、その中でも人質として価値のある月見とグラーフがいる場所が応接室であった。彼女らの付近には爆発により焦げた机、ソファが横に倒されている。そして既に事切れている職員や負傷したまま身動きの取れない職員などが窓側に固められるように集められていた。

 

 

月見「はぁ、はぁ……ぐっ、はは――傷が痛みます、ね」

グラーフ「提督すまない、私が傍でついていながら――」

 

職員A「月見提督殿……私たちは助かるのでしょうか」

月見「きっと助かります。既に応援要請は出していますから。それまで辛抱強く――」

 

 辛そうな顔をしたまま患部を撫でる職員に月見は励ます言葉をかける。手を拘束されているグラーフも月見の考えに賛成しているようで「第一はなしとしても音宮や神城が来てくれると思うから」と続いた。

 

『ぷっ――くくくく……あんたら、外がどうなっているのか分かっていないのか?』

職員B「何を言っているんですか!」

 

『頭の中お花畑なおまえらに速報だ。今、外はこうなっている』

 

 部屋内に設置されたテレビの電源をオンにするとどのチャンネルも内容は『速報! 国内同時多発テロ事件発生、被害甚大か』そう発表されていた。アナウンサーが『昨日夕方頃、東京駅近辺で爆発が起こりそこから銃撃戦が発生したとのことです。また死傷者も出ており、交通機関は麻痺して――』途中までだが不自然に映像が途切れる。

 

『で、感想は?これを見てもまだ希望は捨てきれないって?交通機関だけだと思うか?馬鹿じゃねぇなら分かるだろ?』

 

職員A「軍の施設も同様にこのような地獄になっている……」

 

 テロリストが笑みを浮かべ、小型のトランシーバーを出すと何処かへ連絡している。人質たちは自分が助かると思い、表情は明るくなりまた周囲も答えた職員に注目していた。

 

『そう! 正解だ。正解したあんたには――雌奴隷として生きる権利をあげよう!人質からランクアップだ!おめでとう!死ぬまで〇処〇の肉オ〇ホだ。喜べよ、生物のメスとしてオスに奉仕できるのは最高の名誉だと思うぞ』

 

 大小それぞれ、目元以外を黒い服でシルエットを隠した男や女が銃器を持って応接室内に入って来る。職員らに話しかけたテロリストの男はニコニコしながら女性職員を連れて外で出ろ、と指示をする。ぎゃぎゃあと騒ぎ始めたとき、テロリストの一人が銃器で壁に大穴を開けた。

 

 発砲音と崩れ去る壁の音は室内を静かにさせた。

 銃口を縦に向けてフッと息を吹きかけこう言った。

 

『……貴様らの身体にも穴を増やしてもいいんだぞ?耳に開けるピアス穴だけじゃなくて腕や足にも開けて専用のピアスを着けてやろうか?』

 

『もぉー!そんなこと言ったら、縮みあがってナニも勃たなくなるじゃん! あたしの楽しみを奪う気?!』

 

 冷ややかな視線を職員に送る。ぎゃあぎゃあ騒いでいた職員らは精気を失ったような表情をしたままどこかへ連れ去られた。銃器を発砲した男の後ろに控えていたテロリストの女が男に食って掛かる。

 

『この色情魔が。ここじゃなくても男なら無駄にいるだろ、それに女は鮮度が落ちるとダメになる生き物なんだよ。情報と食い物と同じカテゴリーだ』

 

『それだったら男もおんなじよ! ぶっさいくで顔はよくなくても首から下は最高の逸材が隠されているかもしれないんだからー!』

 

『いっそここで死ぬか?クソビッチ風情が。その腐った性器でデブスでも抱いてろ。案外お似合いかもしれないぞ??それか死体同士で肌でも擦り合わせていろ、その鼻をつく臭いが多少マシになるか』

 

『あァっ!? いまなんつった玉無しホモ便器野郎!!てめえこそ、デブスの一物でケツ掘られて喘いでろってんだ。もの扱いできるほど器用でもねえくせしてなにかこつけてやんだよ!』

 

 少しずつ人質の職員が少なくなっていく応接室内で互いに切れて口撃を開始する二人にグラーフと月見はぽかんと口を開けたまま見ている。拘束されていた男性、女性職員はほとんどいなくなっていた。テロリスト同士の醜い口喧嘩はヒートアップしていき、放送禁止用語をベラベラと並びたてている。

 

『ストップ。お二人さん、そこまでにしよう。味方で口喧嘩して時間を無駄にするなんて僕らの雇い主が怒ってしまう。僕は君たちの上司だ。――嫌なもんだよ、雇い主から説教されるなんて』

 

 瞼の裏に今でも映るあの悍ましい光景にテロリスト共を鎮めようとする少年の目に憎悪が宿る。それでもまだ辞めない二人の間を裂くように懐から取り出したナイフを数本投擲する。

 

『――っなんだよ、リーダー。邪魔を……う、その目はやめてくれ。いや、やめてください』

『なんでリーダーが邪魔を――騒ぎ過ぎました。申し訳ございません』

 

『分かってくれればいいんだよ。君たちは僕よりも二回りも上なんだから、場の過ごし方は分かるよね?男漁りも女漁りも好きにしてくれてもいいけど――やることやったあとでなら、ね』

 

 

 二人を鎮めた小柄な少年は事切れた職員を踏みつけ、拘束されている月見とグラーフを見下ろしてこういった。なお、先ほどまで口喧嘩していた二人には待機命令を出している。

 

『さてさて、賢い提督とそのお付きさん。状況の理解は大丈夫?自分達の立場を理解できた?ならこれからどうするか、分かるよね?』

 

 微笑み、柔らかい表情をする。目元しか分からないが、先ほどとは打って変わって言葉遣いも異なり、リーダーと呼ばれた少年の真意が分からなくなる月見。

 

月見「降参は――しません。決して」

 

『そっか。残念だよ、()()()()提督さん』

 

 死体の首を踏みつけると二人から視線を外して、待機させていた男と女に命令を出していた。それを聞き取り次第、室外へ行ったようだ。残っているのはリーダーの少年と月見、グラーフだけだ。

 

『お付きさんは要らないや。肉達磨でも家畜にでも成り下がって。その無駄に大きな乳だと牛や豚くらいにはなるんじゃないかな?――提督さんもそうだね、手足は要らないよね』

 

 冷たい声色でそう告げると小型のトランシーバーを取り出し『壁に穴を開けろ』何処かに指示を送ると電源を切って振り返る。

 

『人間はすぐに死んじゃうと思うけど、お付きさんは再利用の価値はあるかもしれないね』

 

 そう言うと何処かへ行ってしまう。

 月見もグラーフもこれから起こる何かの見当がつかなく表情が強張るのだった。

 

 

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