とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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無知は罪になるか


五章 16話『VSなり損ない』

 同日 午前二時四十五分 本棟二階廊下にて。

 

芙二「時雨。戦闘準備を。そろそろ目的地に到着する。今、携帯の画面に浮かび上がる反応は二つ。一つはとても弱っていてもう一つはそれなりといったところか」

 

時雨「あんなところにアクィラさんを置いて良かったのかな……」

 

芙二「錯乱状態のときに聞きだせた死体安置所だが、案外すぐそこにあったな。意識はあるとはいえ、あの怪我じゃ生存は絶望的だった」

 

 そのときの光景を思い出しながら、時雨と共に応接室へ向かっている。アクィラの言う通り、致命傷未満であるが憲兵、艦娘問わず負傷していて部屋内はとても酷い臭いであった。そこへ芙二と時雨が現れたわけだが、動かすのも辛いであろう首を擡げるも誰一人として言葉を発することはなく、そこにある異常な存在を見つめるだけだった。

 

時雨「あれは酷かった。目は死んでいるし、どうしてか蛆が湧き始めていたからね。提督が治療してくれなかったら朝には死んでいたと思うよ」

 

芙二「ゴミの掃除で徳を積んだからな。ちっとばかり違法な事をしても誰にも叱られないだろ」

時雨「その後はみんな寝てしまったからね。起きたらアクィラさんも元通りだといいけど」

 

芙二「その辺はぬかりない。まぁ東第三の長門のような例がなければ、だけど」

時雨「ん? あの長門さんがどうかしたの?」

 

芙二「戦艦棲姫に変貌して敵に回った。今回の深海側のボスの手足となった」

時雨「え……?」

 

 芙二の言葉により時雨の足は止まる。少し先で芙二も足を止めた。

 

芙二「詳しくはあとで話す。推測だが、戦艦棲姫が率いる艦隊は陸翔殿の元へ向かうと思う。根拠は肉親を奪われた復讐、又は一番弱いと知っているから、か」

 

時雨「……こんなときになんで」

 

芙二「それは(オレ)にも分からない。しかし計画はしていたのだと思う。それかたまたま目的が一致して関係を持った。陸と海の強者が手を組んだ結果、これだ」

 

時雨「目を覆いたくなるほどの、惨劇。それは始まったばかり……終わりはまだ見えない、か」

 

芙二「だが、その強者を潰せば終わりは見える。吾の目的はそれだ」

 

時雨「……ボクは。いやボクの役目は――」

 

芙二「第一は深海棲艦の殲滅。海域の管理の一端を担うこと。あとは――沢山ありすぎてこの場では言えないな。すまん」

 

時雨「提督、ありがと。ごめんね、足を止めて。それじゃ向かおっか、これからがボクの見せ場ということで。行こう」

 

芙二「おう。吾は時雨さんの活躍を見聞きしながら生存者の治癒を行いますわ」

 

 二人は駆け足で応接室へ向かう。扉は閉められており、中からは騒がしい音が聞こえてきた。芙二の脳内に浮かび上がる命の反応が一つ消失しかけている。このままでは――と思い、ヤクザキックで扉をぶち抜いた。

 

 ガシャン!

 

?「……な、なに?今度は――」

 

 部屋の中から女性の声が聞こえてきた。芙二は月見だと思った。次に理解したのが、死臭と腐臭がミックスした空気がこちらへ流れ込んできたということ。それが鼻先を掠めると時雨は顔を顰め、鼻を摘まむ。

 

芙二「うぇ……ひっでえ臭いだな。こりゃあ」

 

グラーフ「………………化け、もの。あぁこれは年貢の納め時というやつ、か。こいつらは私が食い止める。だから、アドミラル……逃げろォッ!」

 

 芙二の姿を見た満身創痍のグラーフが声を張り上げて、負傷している月見に言い聞かせた。その瞬間、深海化に失敗している艦娘が六名、襲い掛かった。

 

 死を覚悟してボロボロのグラーフは身構える。かつての仲間からの暴力と未知の存在への対処、月見を逃走させないといけない。これらは彼女を精神を蝕むと同時に今まで生きてきて出したことのない出力を見せる事になる――はずだった。

 

時雨「酷い怪我だね。深海化した艦娘ってのは――あれ?数が少ないけどもこいつら」

 

芙二「なり損ない。まるで奇形みたいだな。羽化する生物が羽化不全になるのと同じ原理だな。これで死んでいたら蘇生は楽だったが、都合のいいことはないわな」

 

 時雨と会話しながらグラーフに襲い掛かる雑魚に【ブレイン・ジャック】を使用し寸でのところで拘束した。魂を縛り付けている為、行動は出来ない。芙二の力で意識以外の全てを手に取った。

 

芙二「時雨。拘束しているあいつらは多分”月見沙良を殺せ”みたいな命令を下されていると思う。だからおまえさんは今だけ月見沙良になれ。喜んで奴らは向かってくるはずだから」

 

時雨「それで部屋の外へ行けばいいって事?でもグラーフの後ろに居る月見提督はどうするの?」

芙二「適当な人物の役を被せる。といっても吾の知る人間でしか無理だがな」

 

時雨「タイミングは?」

芙二「今から」

 

 そういうと【煙流】の刃とは逆側の棍で応接室の壁を殴打して壊す。室内の濁った空気ごと拘束した奴らを外へ放り投げた。着地したからか外で鈍い音が立つもそこに時雨が降りた。

 

時雨「アハハハハッ! こっちだよ、ほら!」

 

 楽しそうな時雨の声がどんどん遠ざかっていく。芙二は脳内でひとつの事柄にチェックをつけて次の目的を達成すべく啞然としている二人の元へ向かって歩いた。

 

 

 一方、時雨は建物の壁を壊しながら広そうなところへ探しながら移動していた。なり損ないの艦娘達は月見を殺そうとするばかりで自分の行いで仲間が負傷してもお構いなしという感じであった。

 

時雨(うん、提督の仮説は正しかった。追手は月見提督の殺害がメインみたい)

 

なり損ないA「…待て、待てェッ」

なり損ないB「てぇートく?どうして、逃げルノ? ねェ前みたいにッあたしのこと褒めてヨォ!」

 

時雨「あまりやりすぎると廃墟みたいになっちゃうか。――ならッ」

 

 片言で複数の音が混じった声を、言葉を無視して泊地の入口へ駆け、ギリギリ敷地内という線を見定めて立つ。建物を壊し走った所為か額に汗が伝い、息は上がっていた。汗を手で拭い、深海化克服状態へと切り替える。

 

 変化したことで芙二が掛けた役の効果がなくなったのか、ターゲットが消え失せ目の前に見知らぬ深海化した艦娘の出現に追手は困惑して立ち止まった。

 

なり損ないB「ねェ? てえトクはどこにいったの? それに、時雨……ちゃんも私たちの仲間になッタの?」

 

なり損ないC「分からない。おい、時雨。提督はどこにいったか、分かるか」

 

時雨「知らないよ。ボクは、ね。どうして提督を襲うの?命令されたから?」

なり損ないC「あのお方が我々に新たな力を授けてくれたのだ。貴様もその一端を見ていただろう?」

 

時雨(第四)「ネェ? どうして、僕がもう一人いるみたい、に――」

 

時雨「こんばんは、ここのボク。改二の姿のまま深海化したんだね。場所と出会った存在がこうも違ったらこうなるのか。非常に興味深いってボクの提督はそう考えそうだ」

 

なり損ないB「てえとく? いま、てーとくって言ったの? わたしの提督をどこに隠したァ!」

 

 元が分からない艦娘に問われたので時雨は答えていた。そこの時雨である風に。が、しかし思ったよりも早くここ所属の時雨が顔を出し即興の作戦は呆気ない終わりを知らせた。

 

 芙二に救われていなかったら、違う場所でこういう風になっていたかもしれない。それに互いの道を辿った時雨が二体居る。自分の提督が知ったら興味を示していたはずだろうと思っていたところにヒステリックな怒号が響く。

 

なり損ないB「どぉこにやったぁぁあああああ!!!」

 

 目を血走らせて、中途半端な艦載機を繰り出してきたところを見ると彼女は空母なのだろう。他の五名が遅れて行動したときには艦載機は時雨の頭上に到達していた。距離がない為か、小さなそれはずっと早く、深海棲艦を殺す爆弾が降り落ちた。

 

時雨「ほっ……とっ――」

 

なり損ないB「避けた? 深海化しただけなのに、あり得ない!ほとんどゼロ距離なのにッなら避けきれないほど鉄の雨をッ」

 

なり損ないC「辞めろ馬鹿、私まで巻き込むような――」

 

 

 声を上げて、非難したのも束の間。周囲には艦載機が羽虫のように飛来しており、仲間ごと吹き飛ばすつもりという魂胆が見え見えであった。周りのなり損ないたちは艦載機を繰り出す彼女を止めに躍起になっていた。しかし時雨だけ”こんな夜に泊地の方で爆発が起きたら、近隣住民はびっくりするんじゃないか”などと余裕そうであった。

 

 ドゴォォォオオン!

 

 瞬間、爆撃が炸裂し高熱風と眩い光はその場にいる者に影響を与えた。本人や仲間を生け贄にするような特攻は門だけではなく近くの建物の壁に大きな亀裂を入れた。艦娘であっても深海棲艦であっても致命傷は免れない。実際、六名いたはずのなり損ないは二人ほど黒焦げでダウンしていた。

 

 辛うじて息はしている。しかし、既に手遅れである。片方は左手、もう片方は右足。それ以外が吹き飛んでおり、近くで見つかった部分は表面も中も炭化していたからである。

 

時雨「そういえば、深海海月姫もそんな攻撃をしてきたらしかったような?」

 

なり損ないA「~~! 痛いナァ! 理性が吹き飛んでいるなら、トットト特攻しろ!」

なり損ないB「ハァ?! てえとくを隠した外部を再起不能にしてから、が本番だって言うのに!」

 

時雨「どーも。ボクは生きているよ。これくらいじゃあ死なないし、ぜんっぜん傷は入らないよ」

 

なり損ないB「……んで、ほぼ無傷なの!? ありえない!ならもう一機――」

なり損ないC「敵の挑発に乗るな、バカタレ。おい、そこの虫の息は放置しておいてこいつを殺すぞ。時雨も付き合え!」

 

時雨(第四)『う、わ、分かったけど……で、でも僕は』

 

時雨「ボクの事は気にしないで。ちっとも殺される気はないから。むしろ――こっちが強者だということを教えてあげるよ」

 

なり損ないC『言ってろ』

 

 時雨は少しだけ関節を柔らかくするためにストレッチを行う。相手の準備を待つほどお人よしではないらしく、砲弾やら艦載機の爆撃が飛んでくる。時雨は相手の行動を見て、予測して避けて身体を温める。

 

時雨「向こうの艤装の状態は……うん、ちょうどひびが入っているし、なんなら煙も出ている。少しだけバチっといかせようかな。その後は――なるべく次に備えるために」

 

なり損ないB「次弾装填を済ませろ! こいつは異常だ。私たちのようになっていない。中途半端でもない。鬼や姫のポテンシャルを秘めた化け物だ」

 

時雨「結構、言うね。ならキミからにしてあげるよ」

 

 「ハッタリを」と聞き流す。時雨の表情は笑みへ変わり、瞬間――なり損ないCこと那智は身の毛がよだつ恐怖を感じた。時雨が動く前に後ろへ飛び、距離を取った。艦載機を待機させていたなり損ないB(祥鳳)も感じ取った。時雨(てき)が本気を出したということを。混ざりかけた身体で、魂で。

 

那智「深海化シてるだけじゃない……この、悍ましい気配はいったい」

 

時雨「あれ? なり損ないだったはずなのに……いやどっちつかず、か。キミの名前はなんていうの?倒れた死体を呼ぶ名には必要ないと言うなら、いいよね?」

 

那智「私の名は那智だ。所属は東第四泊地、足柄、羽黒はまだ私の様にはなっていない。だけど、妙高姉さんは私の手で……殺してしまった」

 

時雨「ふぅん――で、さっきから艦載機を無暗矢鱈に振り回しているキミは?」

 

祥鳳「私は祥鳳です。……頭の中が掻き混ぜられている感覚が――ドウシテ、ドウシテ? 今更、拒否しないでヨォ!」

 

 自己紹介を済ませた後の祥鳳に異変が起きる。頭を押さえ、幼い子供のような口調で自問自答を繰り返す。ときに涙を流し、絶叫した祥鳳の異変に那智は驚いていると時雨が東第四所属の時雨に問いかける。

 

時雨「祥鳳はあぁだけどキミはもう済んでいるのでしょ?というかそもそも深海化していた?オンオフ機能がついているのか、それは困ったな」

 

時雨(第四)「気づいていたとは、流石。その姿はなに?君はもしかして艦娘と深海棲艦のハイブリッド?並みの艦娘とか深海棲艦の動きじゃないんだけど」

 

 第四泊地所属時雨の違和感を指摘すると、それは作り笑顔で時雨を褒める。先程の行動を振り返り、思ったことを単刀直入に言葉にしていた。異なる(みち)を辿った二人の間を裂くように那智は第四の時雨に理解しがたい内容を聞く。

 

那智「し、時雨?貴様はなにを言って――」

時雨(第四)「那智さんも己を解放しようよ、それっ!」

 

那智「ああぁあああ――ワタシは、私は、違うッ姉さん――そんな、あぁぁああ!!」

時雨「深海化が進行していく。キミはそんな力を手に入れていたの?」

 

 発狂しだす那智を無視して、時雨は那智の変化に釘付けであった。彼女の胸中には言い表せない感情を必死に言葉にしようとしている自分がいた。

 

 祥鳳も那智の深海化も進む。なり損ないであったはずなのに見た目が変化していく。数分が立つ頃には艦娘の面影は消え、正真正銘の深海棲艦とまではいかないが時雨が驚く見た目になっていた。

 

『妙高姉サン……アァ、可哀そうな姉サン。私ガすぐに迎エニ行きます』

 

 那智の背は縮み見た目は中学生くらいになっていた。白髪のツインテール、目は赤色に、顔も艦娘の頃とは違い幼くなっていた。黒と白のドレススカートを着ており、その間から見えるのは血色の悪そうな白い肌は艦娘ではないと自覚させるには充分であった。足には関節を護る鎧と黒いヒールを履いていた。

 

 

『瑞鳳。イエ、提督もグラーフさんもこちら側に来るべきです。時雨さん、いえ――』

 

 祥鳳も祥鳳で艦娘だった頃の面影は消え、まったくの別人となっていた。黒い髪は銀髪へ染まり、ショートヘアに変わる。上着は白色のフリル付きワンピースだが、その上に黒いトレンチコートを着ている。そして刺々しいブーツを履きつつも、自分の姿を変えた者に呼び名を改めようとしていた。

 

紫雨「呼び名は紫雨(しぐれ)でいいよ。僕は名乗っていなかったね。東第四泊地の時雨もとい紫雨。紫の雨でしぐれ、ね。……夜は時期に終わる。それが僕たちの勝利であることを祈ろうか、那智、祥鳳」

 

 薄汚れた制服を着ていた紫雨は制服の胸元を掴むと破くように脱ぐように時雨に投げつけた。たかが布一枚。時雨の視界を遮った瞬間には換装し終えていた。

 

 黒いブラウスの上に黒と金が基調となっているジャケットを羽織る。黒いワイドパンツに黒いハイヒール。全身黒ずくめだが、それとは対照的に髪も装備も白かった。

 

 結局は船だということを自覚せざるを得ない、見慣れた艤装。腰から生えるのは機械の巨腕。それらは芙二が持っていたであろう巨盾と同じサイズのものを時雨に振り下ろした。数メートルは離れているのに凄まじい速度で降ろされたものを見て、時雨の興奮具合は高まった。

 

時雨「良かった。物足りなかったところなんだ。キミたちはすぐに壊れないでね?」

 

 

 夜明けまで残り――三時間。時雨は紫雨と那智、祥鳳。それと湧いて出てきたなり損ない数体を相手する羽目になるのだが、その表情は楽しみで仕方がない。そんな目つきで相手のことを見ていたのだ。

 




現在の状況

芙二
->月見とグラーフの治療。事切れている職員の蘇生を試している。および時雨の引き付けたなり損ない以外の相手。

時雨
->なり損ないと鬼ごっこが終わり、ようやく戦闘になるかと思ったら第四所属の時雨が出現し、更にはなんだかデジャブを感じていた。

なり損ないB→祥鳳
->完全な深海化できずに中途半端な個体として生きていたが、時雨の殺気に当てられ進行は収まるも仲間の時雨の所為で再度錯乱し元々の人格も姿も異なるものに変貌した。

なり損ないC→那智
->祥鳳と同じく不完全であったが、仲間である時雨に強制的に深海化&発狂させられ艦娘だった頃の面影は完全に消滅しまた深海棲艦とも違う姿で生を得た。

時雨(第四)→紫雨(しぐれ)
->初登場時は怯えたなり損ないを演じていたが、素振りと態度を疑問に感じた時雨に感づかれて正体を現した。仲間になにかを与え、まったく異なる姿に変えさせた。ある少女からその能力(限定)を貰ったというが果てしてその効果は……。


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