とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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過去一、見た目の気持ち悪い化け物が登場。もはや世界観が壊れる。


五章 18話『芙二のSAN値、直葬』

 時は少し遡り、時雨に月見沙良という役を被せた後のはなしである。あれだけ騒がしかった応接室は静かになり、傷ついた二人と芙二だけとなった。

 

 生者の数は、であるが。原形を留めており、事切れている職員の数は七名とそれなりに多い。負傷して動かない職員の数は三名。それ以外の職員はもはや原形など留めておらずただのミンチとなっていた。

 

芙二「酷い臭いの原因はそれか」

グラーフ「な、お、おい! なにをするんだ」

 

芙二「なにって?掃除だよ。これ、消去しちまうけどいいよな?」

グラーフ「消去?なにを言っているのか、さっぱり」

 

 様々な色が混じり腐臭を発するミンチを小さな旋風で巻き上げてから大鎌で更に微粒子レベルに分解していく。目で捉えられない速度で大鎌を動かしているのに部屋は何処も傷つかない。もはや肉は極小の粒子となり旋風に巻かれるただの赤い霧と化していた。

 

芙二「窓は……月見とグラーフ、職員がいるから無理か? なら時雨が抜けた穴から外へ流すか」

月見「時雨? それにどうして私の名を――」

 

 赤い旋風を外に放つと海の方へ流れた後に霧散していく。自分達の危機脱してくれた化け物が艦娘の名を口にするので首の痛みに構わず、傾げる。

 

芙二「あー、それはあんたら軍人だろ?だから調べれば馬鹿みたいに出てくるんだよ。そういう情報は、さ」

グラーフ「機密が漏れているんじゃないか……それ」

 

 溜息を吐くグラーフ。少し余裕が出てきたのか、月見は芙二のことを上から下まで見てから何かを考えていた。しかし職員はあの惨劇をすぐ思い出してしまうのかこの世の終わりみたく表情を硬くさせたまま黙っていた。

 

芙二「ひとまずは、だ。ここいらに脅威となる存在はいない。ここには死体含めて十二名いる。先に言っておくが医療班とか警察、憲兵が来るのは絶望的だろう」

 

月見「それはテロ事件がどこかしこで発生してるからですか?」

 

芙二「あぁそうだ。実際にあちらこちらで起きていて、邪魔だったから殺したまでだが。おっと殺人鬼め!とか咎めるのはナシだぞ」

 

月見「咎めませんよ。でも傷の痛みを感じないのは、もしかしてあなたがやったのですか?」

 

芙二「そうだ。このままでは人間も艦娘もすぐに死ぬ。特にグラーフ。あんたの傷のレベルは今、普通に立っていられないはずだ。自分で不思議に思うだろう? どうして痛みを感じないのか」

 

 「確かにそうだ」首を縦に振り、頷く。芙二は肉体の崩壊は防いでいるが、精神の傷が原因で崩壊するのは防げる術を持たない。特に人間は脆く壊れやすい。生きている精密機器のような感じさえする。

 

 故に記憶処理はなるべくしない方向で事をこなそうと考えたのだ。職員のうちの一人が挙手をする。視線を向けると青ざめて、小刻みに震えている。その職員は「あなたの正体は一体……」と言いかけた時、建物が大きく揺れる。

 

月見「きゃっ! じ、地震? それとも」

 

芙二「――この建物が攻撃されている。既に外でドンパチやってんだろ。後で月見、グラーフはまだまともな艦娘を連れて見回りでもしたらいい」

 

グラーフ「なんでそこまで」

芙二「きっと卒倒するから。時間もない。それじゃ治療するか」

 

グラーフ「治療? ここには器材も何もない、が。その見た目で持ってます、なんて信じるわけないだろう?」

芙二「ちょっと解除するから、耐えて。特にグラーフ。あんたが一番深刻だ。失神するなよ」

 

 他人の言葉を無視して芙二は虚空から小さな瓶を取り出す。その中身は緑色の飴玉が瓶の中にぎっしり入っている。「数は充分そうだな」そういって肉体の崩壊を防ぐ術を解除する。

 

グラーフ「あッ――ぐぉ、ガァッ!? う゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛――ごふ、ゲホ。……あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

月見「ぐ、グラーフ!? 一体どうしたの……彼女になにをした、のッ?」

 

 芙二が解除した瞬間、グラーフはその場に蹲り、激痛に呻く。長い時間正座した後に立ち上がると血管が元に戻る時に感じるびりびりの感覚に似たものと放水されたダムのような勢いの激痛が全身を行き来する。突然の悲鳴に職員たちは更に顔を強張らせる。

 

芙二「あー、待ってろ。五分もしないうちに直してやる。先に職員だな」

グラーフ「ご、ごぶん゛?! ダメだ、た゛え゛ら゛れ゛な゛い゛!!」

 

芙二「艦娘だろ、大丈夫。これ以上の痛みはないと思うから。いい体験が出来てよかったなあ?職員たちはこれを口に中に入れて転がしてて。溶けきる頃には傷はすべて治っていると思うから」

 

職員A「飴、玉? 気を紛らわせるだけ……?」

職員B「いやそれでもマシだ。命があるだけ、でも他の者は――」

 

職員C「素直に従っていよう。気分を損ねたら、命の保証ができない」

職員A「もしかしてあなたの正体は神様なの? それだったら合点がいくから」

 

芙二「いんや? 性格の悪い変質者。格好見れば分かるでしょ、そんなん。ほら、あれだ。人質と共に立て籠もるうちに犯人が好きになる、そんな現象と似たようなもん。それか修羅場を乗り越えた戦友」

 

職員A「でも私にはそんなことをする人には――」

芙二「なあ名前は?あんたの名前。この中では随分、精神が丈夫だと思うけど耐性でも獲得してるの?」

 

 治癒効果のある飴玉を口の中に入れて、コロコロと舐めまわす職員たち。こそこそと芙二の行動に対して言っていたが、本人は特に気にしていない。だが、先ほど質問をしてきた職員が再度質問をしてきた。

 

 ここまで食い下がるのには何か理由があるのではないか、と思いその職員の名を聞く。すると彼女は口の中にある飴玉を片方に寄せてから「八崎(やつさき) (かえで)」という。

 

芙二「八崎、楓?」

楓「は、はい。なにか――」

 

グラーフ「ごほ、ごほ……そ、の飴玉をわた、しにもくだ……さい」

芙二「いいや、何も。失礼。五分経ってしまっていたか。艦娘にはこっちの方がいいだろ」

 

 虫の息のグラーフの頭には取り出した高速修復材をぶっかけた。びちゃびちゃと飛沫があがるもその大部分はグラーフに吸収された。高速修復材で濡れた髪も服もすぐに乾いていく。グラーフほどじゃないが痛みに喘ぐ月見には簡易だが治癒のポーションもどきが入った青い瓶を渡して飲ませる。

 

 もはや先ほどの余裕など月見には内容で瓶を受け取ると芙二を見て一言、呟く。

 

月見「毒だったら、恨みます」

芙二「おう、恨まれたその時は思いきり回収してやるから。黙って飲め」

 

 感情という概念すらアイテムに出来る能力を身に着けた芙二。元々負の感情を抽出して結晶化させる力が備わっている為、恨んでくれると有難い限りだと思う程度であった。

 

 あっという間に青い瓶の中身は空となって月見は「体が熱くなってきている?」と感想を口にした。空き瓶は芙二が回収し、グラーフの方へ視線を向けるとそこには人目をはばからず制服を脱いで肉体の傷を確認していた。

 

「おい、脱いでいるとこ悪いがこれを追加で飲め。疼痛予防だ。職員には月見に渡してから、だ。あ、いや面倒だ。おい、楓。あんた含めて七本。こっちに来て受け取れ」

 

楓「あ、は、はい。分かりました……っと持ちにくい」

職員B「楓ちゃん、手伝うよ」

 

楓「保木(またぎ)さん。ありがとうございます」

保木「いいって。なあ、あんた。そこで寝ている奴らにもその、飴とかこの黄色い瓶を渡してやれないか?」

 

芙二「いや渡さない。どうして?という顔をするな。単純なことだ。あんたらと月見、グラーフだけだ。生きているのは、な?」

 

楓「そんな……」

保木「それじゃあ、一、二、三……七人の死体を安置所に置くしかないのか」

 

 楓も保木も悲しい表情をする。先程が状況が状況のために生死の区別がつかなかったのだろう、と考えた。自分が数秒後に死ぬかもしれない。そんな状況下で一々確認なんてできやしないか、と。

 

 だが、芙二は違う。幾度も蘇生をしてきた。これまでに大人数の蘇生、記憶処理も。しかし今回は記憶処理は出来そうにない。状況が状況であるのと個人的な諸事情だ。仕方あるまい、と自分に言い聞かせる。

 

芙二「これから見たことは他言無用にしてくれ。この世界の理に反する。邪神(オレ)のいたずらと思えばいいさ」

 

楓「それってもしかして」

 

芙二「……。あと、何があってもそこから出るなよ」

 

 窓際から芙二のすぐ後ろまでの範囲を大鎌の刃先で指す。その範囲は決して広くはない。それから語気を強め「何があっても、だ。吾が許可するまで出るな」と釘を刺す。程なくして死者蘇生に入る。そこかしこに倒れている死体を集め、彷徨っている魂を肉体に再び戻す。

 

芙二(来たか)

 

 こちらに向かって来る生命の反応を感知する。今のところ数は三体。このままでは意識の戻らない職員を再度死なせてしまうと思った芙二は大鎌を解除して一人の職員の足を掴み時雨が去った穴へ放り込む。

 

 落下することはあってもそこは地面ではない。死体安置所の床、であると思いたい。初めて空間同士をつないで生物を放り込む。自身と私室を繋ぐのは緊張しないが人の命を預かっていると思うと、掴む手に汗がにじむ。だが、時間はない。成功していることを祈って次から次へと投げていく。

 

月見「なにをしているんですかっ!?」

芙二「今は! 理解する必要はない。あんたらは吾が指し示したエリアから絶対に出るなよ!」

 

 ボゴォン!

 

楓「! 部屋が壊されッ――ああ、あの化け物はッ!!」

グラーフ「なんで、こんなときにッ!」

 

芙二「よっし最後が終わったな。やっぱ――その巨体はこの部屋に入りきらないよな?」

 

 職員も月見もグラーフも顔色は悪く、絶望しているというのがひしひしと伝わる。天井が崩れ落ちてなおも気にすることなくソレは起きあがり虫のように多い腕で瓦礫を掴む。

 

『ウギュウウウウアアアアア!!!!!』

 

 ドード〇オのようにある頭のうち左右の二つは大きくかけており、脳みそがこぼれているにも関わらず目玉が動く。そして胴体で何人分あるかは知らないが肉の塊がミキミキと蠢いていた。腕は九本あり、足の部分には無数の触手と人間の手が地についている。

 

「こんなのがあと二体? SAN値が直葬でもお釣りがくるんだけど?」

 

『エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛』

 

 三つの口から濁った叫び声を上げ、瓦礫を投擲してきた。それと同時に右側の壁から太い触手が生え、そこに瓦礫が直撃した。だが、ひるむことなくキメラの右側を拘束しつつ、壁を破壊して出現したソレを見て流石の芙二でもSAN値が手を振って別れた。

 

芙二「うーん。なんだろうこの失敗作感。例えるなら彼〇島とバ〇オハ〇ードに出てくるキャラをミックスした化け物は。あとは口はヤツメウナギ。身体は複乳にしたバ〇ルヘッ〇ナースをムカデ人間のように繋げた、みたいな?」

 

 なにはともあれ、悍ましい化け物と戦闘になった。化け物二体同時出現に耐え切れなかった職員は気絶していた。グラーフは上半身、複乳バ〇ルヘ〇ドナ〇ス。下半身、ムカデ人間+触手の見た目に流石に耐え切れなかったようで目を瞑って月見に膝枕されていた。

 

芙二「あれ、案外あんたは余裕だったりする?」

月見「なんだか夢みたいで、緊張しないのですよ。それにあなたが護ってくれるでしょう?」

 

芙二「そらね。一応緊急要請貰ってるから」

月見「え? 緊急要請……?それって――」

 

 聞き返そうとするとき、芙二が大鎌を取り出し伸びてきていた触手と投擲物を木っ端微塵に切り刻んだ。キメラ二体は奇声を上げながら、応接室内を暴れまわり、部屋とそこに位置する廊下を破壊した。

 

月見「! あ、れ? 落下していない……どうして?」

 

 崩落する天井、舞い上がる砂塵、黒煙が襲い来るのを感じた月見はきゅっと目を瞑る。化け物二体を相手している芙二の守備範囲外だと感じていたからだ。しかしそれらは落ちて当たることも被ることもなかった。 

 

芙二「ここが頑丈に作られているってことだ。それとまずは二体だな」

 

 そういうと化け物二体の身体がバラバラに切り刻まれていく。一切、太刀筋は目視出来なかった。数秒後にゆっくりと肉片同士がズレて、崩れて自らで開けた落とし穴から下の階へ落ちていく。

 

芙二「残りは一体。どんなやつが――――」

 

 下の階から先ほどの二体がくっついたかのような化け物が這い上がってきた。しかもベースはムカデ。関節の隙間から無数の触手がにゅるにゅる蠢いている。上半身は六つに分かれており、それぞれ男女の肉を纏った何かであるのは分かった。

 

 その全身をはっきり見たわけではないが、十メートルはありそうであった。

 

芙二「ふ。んー、悪夢かな? え、ここだけなんか世界観違くなぁい??」

 

 奇声こそは上げないが、六つの首にそれぞれついた大顎を利用して低い唸り声を発した。流石の月見も堪えたようで膝枕しているグラーフを退けて蹲った。ゴチンと頭を打ったグラーフは痛いなぁと声をあげてソレを見た。

 

グラーフ「……」

 

 あまりにも悪趣味なソレはグラーフのSAN値も直葬した。

 ゆらゆらと蠢くそれを見て芙二は大鎌を構えつつ、どうしようかとのんきに考えるのだった。




現在の状況
芙二
->負傷者の治療と死者蘇生の完了。しかし後半に登場した化け物の容姿を直視したことによりSAN値が直葬された。三体目には抱いた感想はもはや無である。

月見
->治療されてわりと余裕そうなのは現実離れしたことを脳が受け付けていないからだったが、化け物の登場により脳が拒絶したことにより行動不能に。

グラーフ
->化け物の登場によりSAN値が直葬され、芙二が止めるまで半永久に発狂。現実逃避をするようになる。某ホラゲーのように館内で終われる夢を見る。

職員A→八崎(やつさき) (かえで)
->東第四泊地の事務職員。今回の事で神様は存在すると思った彼女は後に姉に相談するも姉から衝撃的な告白をされる。

職員B→保木(またぎ) (つかさ)
->東第四泊地の事務職員。帰宅途中に巻き込まれ、同僚を失う。が、しかし命あっての物種と受け入れ、少しずつ前に進む。

職員C→川西(かわにし) 摩那佳(まなか)
->東第四泊地の整備職員。工廠にいるところを拘束され、ここまで連れてこられたうちの一人であった。工廠にいた同僚、後輩は彼女以外全員化け物にされ心を病む。後に退職する羽目になった。

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