とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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久しぶりに長くなった。



五章 19話『最悪のニュース』

芙二「――裁断ッ」

 

 ズバァッ!

 

『ギエエェエッ』 

 

 ムカデのキメラの上半身を真っ二つにする。「からの~」と言いながら縦に薙ぐ。黒い血が噴水のように吹きだす。悲鳴が上がり、キメラは倒れる。だが、すぐに復活し極太触手と細く鋭い手足で攻撃してくる。

 

芙二「ぶった切れろ――【グリム・リーパー】」

 

 建物ごと横に薙ぐ。命を刈り取った、はずなのに次から次へと再生する。核を破壊してもキリがない。ならば――と【氷禍:フロストプリズン】を発動させキメラの足を氷漬けにしようとする。廃墟同然の応接室どころか建物を半壊させ、なり損ないもテロリスト共も氷棘の餌食となった。

 

『■■■■■■■■■』

 

芙二「人間から生まれたんだろう?ならば、言語能力もあるはずだがそこまで都合のいいわけないか」

 

 触手で氷を砕こうとするもその氷棘は対象の熱を全て奪い凍死させるのがメインとなっている。時間の問題だろうと思った芙二はキメラの魂に干渉を試みる。――成功。ぐちゃぐちゃになった魂と核を分離させ、体外へ取り出した。

 

芙二「あーやっと崩れていく。ほんと(オレ)じゃなければ殺せんだろ、これ。この世のすべての生物の敵。語り継がれるクトゥルフ神話生物みたいな感じがぬぐえないな」

 

 核は砕いて、溶けて絡まっていた魂の塊は魂晶にしてから砕いた。砕かれた結晶から色とりどりの魂が昇天していくのを見届けていると空がゆっくりと色を変えていく。また何かあるのか、と警戒するも何もなく夜が明けた事を知らせる灯りが見えたのだった。

 

芙二「終わりか?」

 

 周囲に敵正反応がないことを確認すると簡易結界(バリア)を解除してから周囲を見渡す。そこかしこと酷い有様だった。血は染み付いている、謎の肉片も転がっている。あるエリアは氷漬け。建物は大きく崩れており、敷地内はボロボロである。

 

芙二「……サービスしておいてやるか」

 

 建物を歩きながら、直せそうなところは修復していく。といっても芙二が氷漬けにしたりぶち抜いた箇所だけだが。ついでに時雨を探す。どこかで倒れているのか、死んでいるのか。それすら分からない。

 

芙二「発見。ん、死に損な……なり損ないの娘が時雨の元にいるな。やっぱり死んだか?ここ、結構酷い。かなり苦戦したか?」

 

?「! 誰ですか、あなた」

 

芙二「あー、そこに倒れているやつの上司」

 

?「嘘は言っていないと見ました。時雨を救った偉大な存在である、そんな気がします」

芙二「え、時雨。そんなこと言ってたの? 過大評価しすぎだろ。不知火であっているか?」

 

不知火「はい。合っています。この姿になっても不知火(わたし)のことは分かるんですね。その目が原因でしょうか? 人間じゃない。そんな気がします」

 

芙二「こんな世界でも直感的に吾の正体を見抜くやつはいるんだな。どうだ、形まで見えるか?」

不知火「わたしの目は誤魔化せませんよ。――これは蛇ですか?首が八つありますが」

 

芙二「首が八つ? それは知らないな。何処まで見える?というか何が見えている?」

 

不知火「ぼやっとしたシルエットでいいなら。まず首が八つあり、それぞれが異なる色をしています。首でひとつの色が合って身体は山のように大きい。背には小さな環境が出来上がっています。ですが、尾は二つしかないです」

 

芙二「ヒュドラとかその辺か? それか西洋の、というよりかは古代中国の玄武とかそっちの方が見えているのか?でもあれは亀みたいな見た目だった気がするし……いまいちわからん」

 

不知火「すみません。不知火に見えるのはそれまで、です。しかし否定しないのですね」

芙二「これから死ぬやつに怯えてどうする?見えているか分からんが不知火、アイリはどう見えた?」

 

不知火「アイリ? あぁ私たちを無理矢理変えた少女ですね。彼女は――暴威の権化です。あれを野放しにしては環境が変わって、気候も変動して色々なものが反転するでしょう」

 

芙二「そこまで見えているのに――あぁそうか。見えているだけか」

 

不知火「はい。私には人外が人間に扮していることを見破るだけです。はっきりと映るということはその者の力がはっきりしていて且つ目的があって私の脅威となる、その条件だけです」

 

芙二「生まれつきか?」

 

 そういって時雨に高速修復材をぶっかける。がしかし、目覚めない。おかしいなと首をかしげる。脈もあって呼吸も安定している。すぐに目覚めるか、そう判断し不知火に任せて反応のある二人の元へ向かう。

 

不知火「そうですよ。不知火のこの力は生まれつきです。霊感のある人間と同じ事ですよ。ただ見えるだけです」

 

芙二「そうか。これは那智か。吾の知る那智じゃないな。一瞬、誰かと思った。こっちに倒れているのは祥鳳か。誰だよ、こいつら」

 

不知火「既に死亡しているし、原形を留めていないのに分かるのですね。それは紫雨がアイリ(少女)から借りた能力で魔改造したんですよ」

 

芙二「しぐれ? ここのしぐれか?」

 

不知火「えぇ。紫の雨と書いて紫雨というらしいです。本人がそう名乗ってました。彼女もここに不満があったのでしょうか。酷い変わりようでした」

 

芙二「そいつは逃げたか?」

 

不知火「えぇ、まぁ。本人はあのお方に呼ばれたから戻るそうですが、不知火は知らないので何とも。紫雨に施されると全く異なる存在になるようです。それはともかく――なにをやっているのですか?」

 

芙二「魂の分離。呪いってほどじゃないけど艦娘とそれを蝕むものの除去。ふぅ、二人分は何とかなった。不知火のも取るがいいな?」

 

不知火「殺すのではないのですね。あなたは優しいのですね」

芙二「どーだろうな。吾は優しいわけではない、と思うがな。少し体のちからが抜ける感覚に陥るぞ。気をしっかり持て」

 

 こくりと頷く不知火。朝日が照らす中で芙二は不知火の胸元に手を当てて、魂と生を蝕むものを取り出し、分離させる。その瞬間、力なく芙二に寄りかかる。命の根源を絶ってしまえば気など保つのは不可能だったか、と思っていた。

 

 不純物が取り除かれてピカピカと輝く純白の魂を本人の元に返す。止まっていた呼吸は徐々に動き出し、灰褐色の肌に血が巡り、散っていた意識も戻っていく。

 

不知火「すみません。気が付いたら寄りかかってしまいました」

芙二「気にすんなよ、命の根源を絶ったら誰だって仮死状態になるわ。肌も髪色も、元に戻ったな。服はすまん、生成する時間がない。あー、これ持っていて」

 

不知火「これは、軍服? 軍人だったのですか。時雨の上司……もしや提督ですか? それに名札が。あぁ芙二。最近提督が気にしていたのはあなただったのですか」

 

芙二「他言無用」

 

不知火「えぇ理解してます。そんな人外がどうして提督をやっているのか、俄然知りたくなりました。このごたごたが終わり次第、不知火が提督に聞いてみます」

 

芙二「勝手にしてくれ。吾はテロリストと深海棲艦にトドメを差しに行くが、不知火はどうする?」

不知火「お供します。それと時雨さんはどうしますか?」

 

芙二「泊地へ送る。吾の私室でいいか。一応、不壊を付与しておこう。不慮の事故で空間内にて行方不明になっても困る。それか空間の狭間で落下したら探すのが面倒そうだ」

 

 未だ寝ている時雨の身体を包み込むように付与を施し、現在地と泊地の私室を繋げて放り込む。スポッと音が聞こえ、後に空間は閉じる。芙二の動作を見ていた不知火は目を丸くして言葉を失くしていた。

 

芙二「そんなに驚く事か?」

 

不知火「感覚が麻痺しているのは芙二さんですよ。虚空に人が消えたら誰だって驚いて、何度も確認するものですから」

 

芙二「そういうものか」

 

 興味なさそうに言い返し、棟内へ戻る。隣に不知火が寄りつき会話しながら泊地内の敷地を隅から隅まで歩き回る。既に死亡している職員のうち原形を留めているものには蘇生を。それ以外は無視して歩く。

 

 見る影もなくなっている内部は異常なほど冷えた空気が充満しており、不知火でも「ここは他の場所とは違うようですね」と腕を組んでは擦りだした。

 

 芙二は「そら、(オレ)が容赦なくやったからな。ここも解除しないと」そう見ずに解除しようとする。スリスリと擦る音を耳にしたので不知火に視線を向けると小さな体で必死に寒さに耐えており、すぐに冷める摩擦熱で凌ごうとしていた。

 

芙二「寒そうだな。我慢するな、病み上がりだぞ」

不知火「! い、いえ不知火は大丈夫ですっ っくち! ずずず……」

 

芙二「……すぐに解除する。多少マシになるだろう」

不知火「早めにお願いします」

 

 広範囲に発生している氷塊を溶かしていく。熱で溶かしているのか水蒸気が発生し、濃霧のようになり視界が悪いが徐々に冷えた空気がなくなっていくのを耳や肌で感じていた。

 

不知火「本当に多才ですね。ですが、少しだけ生き辛そうな気もします」

芙二「まさか。ただ少しだけ長生きをしていたから、学ぶ機会が多かっただけよ」

 

不知火「そうですか、では行きましょう。生存者を探すことに尽力を出しましょう」

芙二「こっちは深海棲艦とテロリスト、なり損ないの殲滅。及び魂の分離、変換だけどな」

 

 満ちていた冷気がなくなった後の廊下は水浸しにあったようになっていた。解凍されたのか、嗅ぎたくない臭いも発生しだすことに不知火は気が付いた。芙二は気にする素振りなく死体を見つけては胸の辺りから小さな球体を抜き取ってしまっていた。

 

 しかし違う行動をする相手もいたということを不知火は見逃さなかった。それは少し前の不知火と同じようななり損ないの誰か。傍には既に事切れている艦娘と職員がおり、その誰かは血に濡れた手で両目を覆って泣き言を呟いていた。

 

『たし、のせいで。わたしが、わたしの所為でみんなが――ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……』

 

芙二「泣いていても何も始まらないぞ。懺悔していても変わらない。あんたはもうそこのステージにはいないだろが。取り返しのつかないことをした責任を贖え」

 

『だ、れなの? そこにいるのは――死に、神?それともあのお方……?でも近くには不知火、がいるから……分からない。私にはそこにいるソレの正体が分からないっ!』

 

芙二「喚いていても事態は変わらない。無情に時だけが過ぎていく。吾についてはすぐに理解しなくていい。あんたは一度眠り、その後に大切なものと再び会うことができる。道は二つあるが、選べるのは一つだけだ」

 

『それは、生か死? あぁつまり死に神、が見えるようになったのね。不幸――いいえ、幸運なことよね。わたしはあなたの正体が何であれ、従います』

 

芙二「目を瞑れ。力を抜け――そうだ。それでいい」

 

 芙二の指示に従うなり損ないの首を落とした。不知火の表情が少し強張った。勢いよく血が飛び出る事、その首が落下することない。死亡確認をした途端、芙二の力で蘇生を行う。抜き取った魂から邪悪なものを分離して、綺麗になったら持ち主の元に返す。

 

不知火「光、だした? それも既に死んでいた艦娘も職員の身体も――」

 

芙二「これでいい。二度目の奇跡はない。これはこの世の理に反することだ。しかし今回は――慈悲をくれてやる」

 

?「あ、れ。私は――そう。ここは――」

 

芙二「ここは東第四泊地の何処かだ。感傷に耽るのはあとにしてくれ。今はそこに寝ているあんたの妹とその職員の安否を確認してくれ」

 

?「まだ死に神が見える……?」

 

芙二「解釈は任せるぞ、扶桑(ふそう)。そこで静かに寝ている山城(やましろ)と職員と一緒に寝ていたらどうだ? ――ほれ、タオルケット。これは返さなくていい」

 

 蘇生したなり損ない――扶桑に人数分のタオルケットを渡して、不知火と共に去る。ほとんどの艦娘と原形を留めている職員の蘇生が完了した。次に向かうのは応接室だが、その前にやることを思い出す。

 

芙二「少し待ってくれ。不知火。やることを思い出した」

不知火「はい、いいですよ。でもなにをするんですか?」

 

芙二「安否報告」

 

 不知火に貸していた軍服の内ポケットに手を入れると不知火から「な、なにを一体――」と顔を赤らめて恥ずかしがる。芙二は「携帯が必要なのよ」そういって取り出しマナーモードをオフにするとヴーヴーと大量の着信音が来て少し驚く。

 

 内容は個人宛てに神城から「応援助かった。それと失言を謝罪させてくれ」という内容が。他は提督グループからで被害内容と不審者と異常気象、被害状況の報告が次々と上がっていた。

 

芙二「『芙二凌也、なんとか生存してます。ただ建物と物資、および商店街の被害が甚大です』っと。これでいいか……ぅお!? 着信……相手は音宮提督か」

 

不知火「出ればいいのでは?」

 

芙二「あー、正体を話していないから今は困るんだよね。あ、切れたか――でも解除しておくかな」

 

不知火「素顔は普通なのですね。しかし思ったよりも目つきが悪くて安心しました」

芙二「そりゃどーも。イケメンだと思ったか? 残念だったな……【ブラック・ビースト】」

 

不知火「姿形、自由自在に変えられるのですか……今度は送り狼? 人狼?」

芙二「こっちなら色々自由が利く。【空間認識:改変】【気配:無音】。通話に出るか。もしも――」

 

『芙二提督! やぁっと出ましたね!! 今までどこで何をしていたのですか!!こちらは不審者とか異常気象でほんっとに……ガガガガッ……ジジッ』

 

芙二「まだ電波が安定していないのか。通信終わっちゃった。不知火~~月見の所に行くけどいい?」

 

不知火「はい。構いません」

 

 強制終了した通信に対してまだ電波環境が戻らないのだろうと芙二は思っていた。なので、次の目的地を不知火に教え、確認を取り移動しようとしたときだ。また携帯が発信音を出しながら震えた。

 

芙二「相手は――非通知? 一体誰なんだ?」

 

 何の気なしに出た。すると耳を貫くような大きな悲鳴が聞こえてきた。電話向こうは相当焦っているようでよく聞き取れなかった。だから、落ち着くように伝え宥める。なんとか落ち着いて来た相手はいつもの声の調子になっていく。その声と内容を聞いて芙二は驚く。

 

『先ほどはすみません。ですが、これは落ち着いている状況でもないんです。何故なら――カイン・アッドレアが見たことのない少女に拉致されたのです!』

 

芙二「少女に関してなにか言っていたか? カインが!!」

 

『アイリ、とだけ。涙を流してとても嬉しそうだったのも束の間――忽然と姿を消しました』

 

芙二「分かった。細かいことは後で聞く。とりあえず一度、切るよ。また後で」

 

『はい。芙二(フジ)様も気をつけてください。聞いた話ではテロリストが出現しているのですよね?なら、なおさらです』

 

 通話を終えた芙二は次から次へとくる事柄に頭を悩ませる。月見の元へ行っている場合ではない。すぐに葉月さんの家に向かわないと。不知火にどう伝えるか悩んでいると「急ぎの用が出来たのですよね?ならそっちを優先してください。そうでないと芙二さんの、いえ失礼しました。では、不知火は先に提督の元へ向かいますね」そう一方的に捲し立てると階段の方へ向かって行く。

 

 芙二は彼女に言い返すことも止める事もせず苦痛を我慢した表情で「すまない」と消え入りそうに呟くと葉月宅へ転移したのだった。

 

 

 

 

不知火「はぁ。いっそ、この目を潰してしまいたい」

 

 階段の手すりを掴み、右足で段を踏んだまま立ち止まっていた。その手には汗が滲み、顔色はあまりよくない。単に病み上がりだからだとか、そんな事が理由でないのは不知火自身が一番分かっていた。

 

 一回目の通信が強制終了した後の非通知に応答した時点で不知火の目には裡に存在する形が変わっていくのを見ている事しか出来なかった。

 

 最初の首が八つあり、山のような大きさの蛇ではなく――もっと恐ろしい何かに変化を遂げていた。それはこの世のものではない、と言い切れる。芙二という常識の範囲内に収まらない存在もいたが、それでも言葉に出来ない、またはしてはいけないという直感が警鐘を鳴らしていた。

 

不知火「はぁ、はぁ。あんな存在に出くわすのは、生れて初めてです。見た目や行いは悪とまではいかないのに、裡に秘めるものは禁忌そのもの。芙二さんはよくもまぁそんなものを――いえこれ以上はやめましょう」

 

 ドッドッドッドッ……考えれば考えるほど心臓の音が早くなるような気がする。先程貰ったもう一つの生がこんなことで消失するのはなんだか馬鹿みたい。そう思った不知火は芙二の事を一旦考えるのを止めて今は提督である月見のいる応接室へ向かおうと足を一歩ずつ動かすのだった。




現在の状況

芙二
->生者、死者の区別が終了した。不知火に色々バレたが、特に気にしていない。ただアイリがカインを拉致ったという情報が入ったときはやはりこうなるか、と思っていた。特定作業が終わっていない為、出方を伺うしかないと考えた。

時雨
->まだ魂は深海神域なので意識は戻らない。芙二はとりあえず壊れないようにしながら自分の部屋へ投げ入れられた。

不知火
->生まれつき、人外が人間に扮していることを見破るだけの能力が備わっている。相手の力が強くはっきりしていればその後の進化後の姿や正体を知ることが出来る。ただ、見破るだけなのでそれ以外はなにも出来ないと本人は悔しそうにしている。

――――
令和5年12月17日

さきほど読み直して、矛盾点に気が付いたので少し本文を修正しました。
悪化していたら申し訳ないです。

 
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