とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 23話『空想的存在たち』

 日の照らす空にピカリと赤い光がひと際大きく輝いた。最初、ソレに気が付くのはほんのわずかな視聴者たち。配信を行っている者やアイリ、カイン。そして建物半壊、死屍累々の泊地で生き残った者たちは気が付かない。

 

 ジェット機や飛行機がすぐ下を滑空した時の音が東第四泊地の、それも屋外に者共の耳を刺激する。あまりの音にベリアルたちは片耳を抑え『何かがこちらに迫ってきています』などと大きな声で叫んでいた。

 

アイリ「お……来たか。ヒーローの登場だ」

カイン「そのような存在を我は認めぬ。決して、だ」

 

 アイリとカイン目掛けて衝突というよりかは拷問、凌辱などの配信を行おうとしているベリアルたち目掛けて赤い光は直撃した。

 

 四台あるうちの携帯二つが、機能を停止した。停止する瞬間、携帯を持っていた者ごと砕ける生々しい音や映像が視聴者たちの目を耳を、五感を支配した。揺れ動き明滅する画面、落下物の凄まじさが分かる衝撃音、突風と舞い上がる土煙。それらが収まった後に正体を現したのは異形と無残な死体だった。

 

芙二「……アイリ・ブルグレス。この姿で会うのは初めましてだな?……いいやそんなわけはないな」

 

 

 死体の上で起き上がり、元凶に挨拶をする。目の前には腰近くまで伸びた薄い水色の髪、切れ長で緑色の目。黒いコートを着て首元には白いファー巻きつけた少女――アイリがいた。しかし二人して仮面をつけているので表情は伝わらないが、芙二の言葉には激しい怒りが滲んでいることが分かる。

 

 その異形は自分達と同じ言語を話したことに酷く驚き、その場を静かに見守る視聴者と生き残ったベリアルたち。

 

 異形の姿は左右に短い角が二つある帽子をつけており、目、鼻、口を隠すように黒いペストマスクを被っていた。上下半身も黒を基調とした服、ズボン。腕、膝などの関節を護るよう黒い装甲に包まれている。そして手には黒い手袋をつけている。傍から見れば全身、黒づくめの如何にも怪しい人物、またはコスプレ野郎だ。

 

アイリ「あれ? 龍神じゃないんだ、まだ。半神半龍みたいな状態だ。良かった、それほど脅威じゃない」

芙二「脅威じゃない? それはどういう意味だ。龍神じゃないのは吾が一番よく知っている。あんたの相方には邪神だのなんだの言われたがな」

 

アイリ「そりゃあそうだ。神としての部類というかこちらとは質、格が違う。あまり比べるのもなんだが、ね」

芙二「天然と人工を比べるな。っとそうじゃない。あんたの用意してくれたオードブルは平らげたからな、メインディッシュを貰いに来た」

 

 虚空から大鎌を取りだして、左手で柄を掴み、刃先はアイリの首元を差した。それでもアイリは余裕そうだ。隣にいるカインの表情は苛ついているように見えた。ベリアルは『皆さん、見ましたか!? 異形が虚空から大鎌を取り出しましたよ』と注目を集めるようなおどけた口調で話している。

 

芙二「うるさいな」

 

 くるりと回して刃先は相変わらずアイリの方を向いているものの、大鎌を地面に突き刺し【ブレインイーター】と口にした。対象はそこでまだおどけた口調で実況をしているベリアルに。『なにかつびぃやぁつ!?』と言いながら頭がシャボン玉のように破裂した。なんの予備動作も音もなく、更には膨らむこともなくベリアルは唐突な死を迎えた。目玉が左右に飛び散り、ピンクの液体が様々な角度で飛び散る。

 

『ひ、うぁあああああああ!!!!!』

 

芙二「お前も邪魔だな。ブレイン――『そこまで』邪魔をするな。アイリ・ブルグレス」

 

 様々なものを飛び散らせながら倒れた死体が傍らで配信をしていたテロリストの胸に寄りかかって悲鳴を上げていた。それを癪だと思った芙二が殺そうとしたのだが、アイリが何処からか取り出したアサルトライフルの銃口が芙二の顔面を捉えていた。

 

芙二「早く撃てよ、撃たないのか?」

アイリ「撃って死ぬやつじゃないでしょ。無駄撃ちはしない主義なんだ。だから、君の相手はカインちゃん。ただ一人だよ」

 

芙二「そうは言いつつも、後で加勢する気だろう?」

 

 何かの残像が銃を握るアイリの小面と腕を切り飛ばした。細長い黒い布と赤い色の液体が弧を描くように地面に転がっていく。軽い音を立ててアサルトライフルも転がった。小面は派手に割れて下へ落ちていくが、顔色一つ変えないで「ふつー会話中に斬る?」と信じられないという表情をした。

 

芙二「ふ、殺してから連れて帰る。それだけよ。でも大人しく死んでくれないだろ?」

アイリ「まだやることあるからね。連れて帰るっていう案には賛成。だけど私のやることが終わってからならいいよ」

 

芙二「あんたが目的を終わらせるの、待っていたらこの世界が崩壊していそうだな」

アイリ「そうだね! この世界は全てが息絶え、文明もゼロからになるだろうね?」

 

芙二「おいおい、人類全員滅ぼすことないだろ。小さな子供の癇癪程度で壊れる世界もどうだと思うが」

アイリ「それは君も同じでしょう?()()君?」

 

 空から落ちる異形の名を明かす。しかし芙二は「今更か」とつまらなそうに呟いた。

 

アイリ「いやいや! 名前って言うのは特に大事でしょ。特に君の場合は所属も――」

 

カイン「あぁっ! こんな事が起きていい筈がない。ふじ、ふじ、フジィィイイイ!!」

 

 ぶるぶると小刻みに震えていたカインは怨みの籠った声を上げてアイリの命令を待たずに芙二の元へ飛び出した。それは一般人には目視出来ない速度で芙二を貫こうと黒い槍を構えていた。

 

アイリ「アッ、カインちゃん! ……まぁいっか。遅かれ早かれこうなる事だし」

 

 音速に近い状態での刺突による移動はカインの行く道にあるもの全てを吹き飛ばす。まだ放送されている映像には舞い上がる土煙と死体の肉片。聞き取れない音声がはっきりと聞こえ、視聴者の大半は理解できないでいる。

 

 テレビの砂嵐状態に近く音声しか聞くことは出来ないのだが金属同士がぶつかる音、擦れあう音、そして「貴様の存在を我は、我は認めぬッ!!」「なら、魂の隅まで(オレ)の存在を知らしめてやるまでよ!」という会話らしくもない言葉なら辛うじて聞くことが出来た。

 

アイリ「カインちゃん! ()()()()へ移行しても大丈夫だよ! もう前とは違うって理解(わか)らせてあげなよ。どうあがいたって私たちには勝てないって事を、さ!」

 

カイン「うむ、分かった。貴様には、いや貴様らには我のちからを見てから死ね。これが人の存在などでは到底倒せぬ存在というものよ」

 

 映像の砂嵐状態が少しずつ直り、音声もよく聞き取れるようになった。アイリとカインという人物の言っている事が理解できないでいたが、しばらくして映像の視点が切り替わり理解できるようになった。

 

芙二「天獄龍(前の)……じゃないな。本当に最悪だ。吾とは別ベクトルの禍々しさ、おぞましさがある。そうだ。正体くらいの把握は出来るよな?」

 

 

 映像を通して視聴者たちはゲームや漫画に出てくる空想生物(ワイバーン)が空に君臨していることが信じられなかった。その大きさだけでも何十メートルもあり、艦娘、人間……この世に存在する生物が蟻と同義になるとはこういう事かと思い知らされた。

 

『な、んだあれは……まるで漫画の世界に入ったようだ』

 

 白い頭部には鼻先、目の上、首の後ろと数本の角が生えている。体表には純白と漆黒の鱗が身体中に入り交わり、大きな四枚の翼にも同じようになっている。流石のアイリでもカインの在り方までは堕としきれていないようで完全な堕天状態とまでにはいかない様子である。だが、この世に相容れない生物は畏れ、神々しさを放ち、地上にいる全てを威圧している。

 

 前脚、後脚、鉤爪が発達しており、黒い炎を身に纏っている。視聴者も瀕死の艦娘、憲兵も圧倒されていた。目の前の空想的存在の一息で死ぬのは想像に難くない、と。

 

 ただ一人違うことを考えるものがいるといれば、それは芙二である。変化を終えたカインを見て、うやって無力化させるかだけを考えていた。

 

芙二「天獄龍の時よりも大きくなっているな。混〇ゴアみたいな感じか。あれは、脱皮不全みたいなもんだけどこいつは中途半端に混ざっただけと視た。それも自分よりも大きなものか同格か。厄介だな」

 

アイリ「私の力を与えてるからね。君が戦ったときと比べものにならないくらい、賢いし強いよ。本気でやらないと大事なもの、大切なものを失うよ?」

 

芙二「それは勘弁だが。逆にカインを戦闘不能にさせられたからってすぐに降参するなよ?こっちの被害からあんたの死を引いても赤字なんだけど」

 

アイリ「必要な犠牲さ。深海棲艦(戦争)で死ぬか、病死で死ぬか誰かに殺されて死ぬか。はたまた老衰か。死因となる原因なんて沢山ある。今回は私たちの所為で死んだだけであって、自分の番が回ってきた。死ぬべくして死んだんだよ。その人たちは」

 

芙二「理解に苦しむ。人の心が無くなりつつある吾でさえ、若干引く」

 

アイリ「いや理解しなくていいよ。する必要がない。だって、君は今日ここで消滅するんだから」

 

 真に受けない。自分の死、消滅を考えていないからだ。奥の手はまだある。それをここで披露するまでだと思っていたからだ。半壊の泊地が消し飛ばされるだけ、と考えたが月見提督(センパイ)を見殺しにするのはまたまた面倒だと思い、戦う場所を変えようと思った。

 

 龍の形となったカインが下で会話する芙二に対して更に苛立つ。神として君臨する自分に対して余裕綽々の態度が気に食わない。無意識のうちに息を大きく吸い込み――喉に力を入れて

 

『ガゴァァァアアアァァァァ!!!!』

 

 周囲の生物を威圧感を与え、萎縮させる為に咆哮を放つ。巨体の龍が吼える。それだけで風が起こり、小さな竜巻となって砂浜の砂は舞い上がり、波は荒立ち空気を揺らす。配信を見入っていた流石の視聴者たちも巨大な咆哮には画面から身体を隠すように離れ、耳を塞いで小さくなったのだとか。

 

芙二「そんなに吼えなくても、相手してやるよ」

 

 大鎌を地面から抜き取って、空を舞う巨竜の元へ跳ぶ。「第二回ジャイアントキリングと行こうじゃないかぁ、なぁ!!」好敵手を見つけたような、楽しそうな表情が絶望に変わる瞬間を楽しみにするアイリであった。




次回はセンスのない厨二病的必殺技が沢山出てきます。
温かいお飲み物が必要になりそうです。
お茶か珈琲などを片手にお読みください。
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