『貴様の存在は認めぬが、それよりも我の下で蠢く生者が目障りだ。蓄積された思念は形となり、牙を剥くことになるだろう。 【
そう言うとカインの足元――海上には黒い影がまるで沸騰しだした水ように少しずつ下から上へ沸き上がりだした。芙二も未だ続く配信を見続けている視聴者も海面が沸騰しているように見えた。だがそれから先どうなるのか、全く予想できないでいた。
時間が数分経つにつれて大小さまざまな黒い影は集まると形を成していく。見た目は深海棲艦から、海辺で亡くなった者などであり下半身が崩れている者、そうではない者と分かれていた。個の形が完成したのか、目に赤い光を宿し、掠れた叫び声を上げて陸へゆっくりと向かい始めたのだ。
芙二「! 死者蘇生に見せかけて、強い怨念で動く
『命を刈り取る斬撃か。ふむ、甘い。実に甘い。ただ冥界から死者を連れてきただけかと思うのか?』
芙二「何が来ようとも、防いでかつ吾は貴様を失墜させる。その翼を捥いで、奈落の底に落としてやんよ」
死の斬撃を自らの爪で弾き飛ばすカインは芙二の甘さを見て馬鹿にするような言い方をしていた。芙二は自分よりも高く飛ぶカインに対し挑発を口にするが、まったくカインには響いていないようだ。だが、ゾンビたちは徐々に海岸端へ近づいていた。何が効くかも分からない状況下で自分以外の人間に任せるのは得策ではないと考えた芙二は次なる行動に出る。
芙二「【氷禍:アイシクルレクイエム】」
構える鎌の刃全体が青い輝きを放ち始める。カインはそれが自分を落とす技かと多少警戒するもその一撃は下で蠢くゾンビたちに向けられたのだと理解すると呆れたように溜息を吐いた。
『余裕があると思わないが?存在自体を認めるつもりはなかったが、流石に認めざるを得ない。貴様はどうしようもないほどの――大馬鹿者だな。舐めているのか?この我を倒してかつ、そこな命を救うおうと動くか』
芙二「ただ凍らせるだけなわけないだろう。絶対零度とのコンボでその鱗ぐらいは削ぎ落せるだろうか――
『ふむ、我の呼んだ者たちが凍りついたか。よい、
空が曇り、強風が吹き始める。二人のいる海上は勿論の事、泊地にまで被害が及んでいた。一瞬でマイナス273℃まで冷やされたのだ。ありとあらゆる物質がカチコチに凍りつき、尋常ではない寒さが被害を拡大させていく。芙二の扱う冷気は全ての生物の体温を奪う効果も含まれている。なので戦いが長引けば長引くほど、凍死者が続出するという悪循環であった。
だが、アイリの付近にいる者は効果を受けずに目を丸くして異常な速度で凍っていく周囲を配信で見せながら何か今の現象にあう言葉を必死に選んでいた。そのとき仲間が『まるで今日が地球最後の日だ』そう言った。自らの意志でテロリストになったやつが言うのもなんだが、自分たち以上のやらかしが目の前にあるということが信じられなかった。ひと通り見渡し終えた後、また目を疑う光景がそこにはあった。
高層ビルの高さほどありそうな竜巻が複数出現し、凍っている海上を砕き巻き上げながらカインの方へ向かって行くのだ。だが、脅威じゃないのか回避行動は取らず、依然としてそこに佇み続けていた。どうみても逃げるしかない災厄が迫っているのに。そして巻き上げ続け黒く変色した竜巻群はカインにぶつかり、体を削っていくはずだが予想とは大きく異なる現実が突き出された。
『ふむ、痒いな。……そろそろか、ここまで来るのに随分とかかったな』
自分が出せる広範囲攻撃をあっさりと耐え、どうでもいいことを呟いている。最初に一つの技を使用しただけ。それに対し落とすべく自分の持ちうる手数を尽くすのにも関わらず、全く相手にされていないと感じた芙二の感情に火をつける。だが、アイリ以外は気づいていない。カインが何もせず周囲に見せつけるかのように佇んでいる理由を。彼女は既に攻撃をし終えたからであるということ。それで終わらなければ、次を放つ準備も出来ていることを。
芙二「カイン、余裕そうだな? 吾はそれが気に食わん。ならばこちらもストックはケチらずに行こうか。狂獄龍忌呪を使用して、と。
これが極致の一つ。【祟り
『なんだ、あの呪いの存在を頼るのかと思ったが、違うのか。まぁよい。その威勢の良さは愚凡な人間そのものだがな。そこまで言うのならばやってみよ、フジ。だが、呑気にしていると護れるモノを失うことになるが――あぁ高い授業料と思えばいいか?』
芙二「なにを言って――はぁ!? なんだ、ありゃあ!!」
空に影がいくつもでき始めたので、一度変化を一度辞めそれをよく確認するように見つめた。カインが余裕そうにしている理由がようやくわかった。理解できた。あれはまずい。
雲を割いて降り始めるは軽トラほどの大きさがある岩――もとい隕石。それも一つなど優しいものではなくゲリラ豪雨みたく集中して落ちてきていた。泊地にいる者、配信をしている者、視聴者と全員が言葉を失くし絶望していた。そんなものが無数に落ちてきたら、逃げても意味を成さない為であるからだ。
芙二「範囲が広すぎて――ッ、だけど躊躇っている場合じゃねえよなぁ。コホン……星の龍骸に宿りしモノの名は――祟り
その声は誰の耳にも届かない。距離故ではなく、万物には届かないという点。
絵空事が現実になっていく、空想が牙を剥き確実な死を連れてくる。
『……カインちゃん。沖の方へ移動してくれる? 面白いものが見れるよ』
『分かった。そろそろ次に移行するが構わないな?』
『いいけど、全部やらないでね。私の楽しみがなくなっちゃうから』
『心配無用』
アイリとの会話を終えたカインは沖へ移動する。そのとき気が付くと既に芙二の姿はないが、特に気にする事もなくただ待っていた。
雨のように隕石が降っていく。
そんな中で巨大な咆哮を耳にする。その声の主はひとつの身体に小さな島ひとつを背負い、蛇の首は八つ。しかし尾は七つ。身体の大きさは頭から尾まで五十メートルはあろう、と視聴者内で誰かが推測形で話していた。八首の蛇と聞いてすぐに正体が分かる者が多かった。しかしそれは伝説上の怪物であった。
だが、空想上のワイバーンがいるのだ。それを打ち取る者もいる。
誰も不思議には思わなかった。いつの間にか隕石の雨は止み、空は所々陽射しが見える。
『ほぉッ!それが貴様の形か、フジよ』
『へぇ~面白いね。御伽の呪いを宿しているかと思ったら、まさか伝説上の怪物になるなんて』
八首の蛇が沖にいる生物へ威嚇を放つ。その巨体ゆえに衝撃は凄まじく、波が立つ。声を聞いた一帯の生物は人、艦娘、その他問わず離れていく。しかしテロリストだけはアイリからその場にいるように命令されて動けないでいた。彼らは何もかもを垂れ流し、海で起こっているすべてを配信していた。
『あれ?話せなくなっちゃった? カインちゃん、そっちはどう?』
呑気に会話を試みるアイリだがカインからの応答はない。巨体の蛇は首をそれぞれに動かしているように見えはするが、冥獄龍に変貌した彼女が苦戦を強いられているとは到底思えなかった。
『あっこれは……避けきれなかったか』
その先の光景はカインに向かって一本の極太ビームが放たれていた。高を括っていたのか、動かなかったのが命取りとなったようだ。接触した箇所から中心に向かって石化していた。
『蛇ごときが――』
全身が固められ、身動きが取れなくなったところで複数の攻撃が直撃し冥獄龍はバラバラに砕け散って海へ落ちていく。
『ありゃりゃ。これは私も出なくちゃいけないかな?』
配信をしていたテロリストに再度待機命令を出しておく。もうなんの反応も返さない彼らを無視して戦いがあった沖へと向かった。
八つの首はそれぞれに独立していて、また違う権能を持つ。一つは石化。一つは嵐。一つは業火とある。残り四つは待機状態で終わったため、お披露目とはいかなかった。だが、怨念結晶も感情を抽出した飴玉も込みでの発動となり消費も芙二自身の消耗も激しいのは予想で来ていたことであった。なので開発当時は使用しないつもりであったが、それほど追い込まれていたのだ。次から次へとカードを切らなければならないほどに。
芙二「高を括るから、そうなるんだ。馬鹿が……しかし次はアイリか。連戦はキツいな」
額から流れてくる汗を拭うも止まる気配はない。かなり消耗しており、精一杯酸素を取り込もうと浅い呼吸を繰り返していたが、海へ沈んだカインへ毒を吐く。今が小休憩だと瞬時に理解して虚空へ手を伸ばし、黄昏の欠片へとアクセスする。ストックがかなり少ないことに少々焦りながらアイリへの対策を考えようとしたが、現実は優しくなかった。
アイリ「あれ?人の姿に戻ってるじゃん。なんだ、残念。会話できない木偶だったら私の手足に出来るかと思ったのに」
芙二「たわけが。本音を言うと楽しい分、結構キツい。だが、次はあんただ。まだ余裕はあるからな、カインと同じく再起不能にさせてもらう」
強気に嘘を吐く。そんな余裕はない。
しかし余裕がないことを悟らせたくない。目の前にいるアイリの表情はただ微笑むばかりだった。
大鎌:ソウルイーターを取り出して、斬りかかろうと思った時だ。身体に電気を流されたかのような痺れと共に頭上から声がした。考えたくもない現実が頭上にはあり、舌打ちをする。
『一度の死で我が死ぬと思ったか。やはりなり損ないは愚かであるな』
芙二「でも龍の方じゃないだろ。それだけでもダメージを与えられたと見てもいいだろう?」
『減らず口を……まぁいい、時は満ちた。これからが本番であり、全ての命は冥界に堕つ。
【
黒い翼は生えているものの人の姿であったカインがそう言ったとき、直感で命の危機を感じ取り【禍毒の盾】を取り出して攻撃を防いだ――ように思えた。
芙二「ぐ、ぁぁあッ……ァハハッ! いってえな、クソ!ギリギリ盾で防げたかと思ったがそれごと熔けて腕ごとなくなっちまった。再生するとはいえ、武器が一個なくなるのは痛手だな」
両肘まで熔けてなくなっていた。泊地の方まで見れないが、どうなっているのか。あれほどの熱量だ。きっと酷いことになっているだろう。熔けた腕を再生して薙刀を取り出して構え、相手の出方を伺う。
『ふふ、そうか。かなり威力を落としたとはいえ、それほどのダメージを受けたか。ならば、元の威力のまま貴様諸共、灰燼に帰そうではないか。肉は熔け、魂は冥土へ還る。極楽浄土ではないがそれも答えであろうな』
高笑いをしながら空へ上昇する。芙二もアイリも何も見えなくなったとき、カインはもう一度【廻生楽土】を放とうと準備を進めるのだった。