とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

205 / 387
 東第一泊地 ある一室にて。

 映像には『東第四泊地の辺りで未曾有の戦闘が繰り広げられている】と臨時ニュースのテロップが表示されていた。

 荒れる映像の中で見えたのは翼を持ち、人智を越えた力を揮う存在とそれに立ち向かう小さな影。それだけでこの映像が意味することが分かる者は少ない。

 逆に分かってしまう者の行動は二つ。大切な人が危険に晒されている中で自分達はなにも助け舟を出せない悔しさを募らせているか、あるいは他の民衆と同じく悪者を倒すヒーローを応援する如く、映像へ向かって応援しているかである。

 その中でもカインを詳しく知る者は酷く感情的になっていたのだ。

「夕張さん。今戦っているのは……司令官。彼は必死に戦っているのに、私は何の役にも立たないなんて」

「自分を責めないでひび…ヴェールヌイさん。私も同じ気持ちよ。でも私たちじゃ敵わないの。同じ土俵の深海棲艦だったら勝機はある。だけど違うのよ。アレとは。幸いなことにアレをどうにかできる人物が味方でいてよかったわね」

「……司令官が返ってきたら迎えてあげないとだね」

「えぇそうね。だから今はこの戦いがどうなるかを見ていましょ」

 そう言葉を締める夕張は内心で「お願い。あんなを倒して、生きて私たちの元へ帰ってきて」と祈るばかりであった。


五章 25話『終焉の太陽Ⅰ』

 芙二は準備を始めたカインの元へ急いで向かおうとしていた。だが、アイリはそれを許さなかった。高い位置に飛び上がり、見下ろしながら「カインちゃんの邪魔はさせないよ」そういって黒いアサルトライフルを取り出し銃口を芙二へ向けていた。

 

芙二「邪魔だ、どけ。いいのか、あんなものを地上へ落とされたらあんたの楽しみがなくなるだろう」

 

アイリ「別に地球上には数十億と人間が居るじゃない。たった数百、数千が死んだところでなにも変わらない。それと深海棲艦もまぁ一万はいなくてもそれなりには楽しめる数はいるし、ね?」

 

芙二「結局、深海棲艦(あっち)も裏切るのか。いやたまたま目的が一致した仲なだけか」

 

アイリ「そうそう。向こうは沿岸部を落としたくて、私はこの国から落としたかった。向こうは場所の指定があったけど私は何処からでもよかったから」

 

芙二「沿岸部……泊地や鎮守府を再起不能にして陸への足掛かりにするつもりだったのか。ならば交通機関、公的機関へのテロ行為は内部破壊、復旧復興の遅延行為。あとは向こうとの橋渡し役か」

 

アイリ「そうそう。陸は私が、海は向こうが。使い捨ての人員を大量に用意できたのは運が良かったよ。報酬に釣られてのこのこ集まって来た時は笑えてしまったけどね」

 

芙二「で、あの不気味な肉人形は?あんたが作ったんだろう」

 

アイリ「まぁね。どうだった?いくらか進化の道を残しておいたんだけど楽しめた?」

 

芙二「気持ちが悪くなる程度には。趣味、人形の質も悪い。吾から見ればほんとうに酷い出来だった」

 

アイリ「そっか。なら今度は艦娘でも混ぜてみようか。必要なものがあれば彼女らほぼ無限に生きられるんだろう?テストケース1は無事に機能しているから次は2だね」

 

芙二「その次があればいいな。……お話はここまでにして、と。十分に後悔する時間は与えた。これから死ぬ覚悟はできたか?」

 

アイリ「ふふふ、その余裕がどこまで持つのか。楽しみで仕方がないよ」

 

 

 睨み合う両者。相変わらず銃口は自分を捉えている。余裕そうな表情。そして気が付けば周囲には某英雄王のような射出口が出現していた。

 

 どちらかが動いたら始まる戦いに芙二はとても緊張していた。薙刀の柄を持つ指が、手が自然と力むのを感じるている。楽しみで仕方がない。絶対に勝てるという確証はないが。それでもこの世界で初めて渇ききった心の裡を満たせる望みが出来たということはとても喜ばしいことであった。

 

 いつまでも睨み合っても仕方がない。

 昂りが少し治まる瞬間で勝負に賭けようとしていた。

 

 それは焦りから来るモノだ。

 楽しい戦いをしていたいが、あいにくとその時間はない。

 

 

芙二(今だ。空間干渉で距離を詰めて――)

 

 その高ぶりが鳴りを潜めたのを確認したので、アイリに近づこうとした時だ。

 

 自分に近づいてくる複数の気配を察知してしまった。僅かにアイリから気が逸れ、気配の正体を確認したことが芙二の命運を左右した。

 

アイリ「ふぅん。ここで水を差しに来るなんて――戦艦神棲姫も随分と野暮ったいひとだ。――ま、私には関係ないけどさ」

 

 引き金に掛けていた指を内側に引いた。ひどく軽い音が芙二の鼓膜を刺激した時にはもう高速の弾丸と付随する腐蝕弾。

 

芙二「チッ 空間干渉ッ! 邪魔をするな、深海棲艦どもッ!

 

 【ブレインジャック】で拘束してからの【マッドマリオネット】!!」

 

 気配の正体は深海棲艦の艦隊。それらの思考を奪い、傀儡人形とさせアイリからの攻撃を対処した。肉の壁は腐蝕弾によりみるみるうちに溶けて骨や筋肉などが剥き出しとなった姿となっていた。

 

アイリ「ふふ、あはははは!奴らを肉壁にするなんて君も大概じゃないか。それに私よりもずっと酷い扱いだ」

 

芙二「あのクソ共が使っていた弾はこれか。原理は知らんが、随分と酷い効果だな。撃ち込まれたら最後、肉が溶けてきて負傷部分から垂れ流しになるということか」

 

アイリ「みんなには劣化版を与えてるから、すぐには発揮しないと思うよ。それでも並みの人間だったらイチコロだろうけど」

 

芙二「だろうな。だが、それで吾の親友は…」

 

アイリ「ありゃ? その反応は……まぁその人は運が悪かったんだよ。私が達成したい事のひとつは成功したみたいだ」

 

芙二「ほんとクソだな、クソ。吾が認めたクソアマの称号をくれてやる」

 

アイリ「それはどーも!さて話し合いはここまでにして、本番いこうか?」

 

芙二「その方がありがたい。こっちとしても茶番にはいい加減飽きてきていたんだ」

 

 言い合いを終え、芙二は【祟殻龍骸(すいかくりゅうがい)】を使用して角付いた帽子を被り、ペストマスクに黒い服を纏う。両腕には五指の指先がナイフのように鋭くなっているナックルを身に着け上にいるアイリを見やる。

 

アイリ「私の力は、この惑星のものすべてに適応されるの。だからこうやれば――」

 

 そう呟くと彼女の手には赤黒く輝くものが収められている。それから漏れる光は陽炎のように揺らぎアイリの姿が視認できにくくなっていた。それを口元へ持っていき、飲み干した。一瞬、喉元から眩きが放たれるもすぐに消えた。

 

アイリ「待たせたね。これで準備は出来たからいつでもいいよ」

 

芙二「すぐに片をつけてやるよ。あまり時間は残されていないんでね」

 

 戦いの火蓋は落ちた。芙二はアイリの元へ翼を生やし、飛んで向かいながら彼女が放ってくる銃弾を全て弾き落として。だが腐蝕弾は弾いただけで効果を発揮していく。少しずつナックルが融けて朽ちて、芙二自身の能力を駆使しても意味がなかった。

 

芙二「あぁっ! くそ、付き合いの長いナックルがダメになっちまった。なら、食らいやがれ!」

 

アイリ「え、ただ投げてくるだけ? 随分とまぁ原始的な行動に出たんだね? でも撃ったら壊せ―――ないか。こっちならどうだ?」

 

 アサルトライフルを手放し、虚空からショットガンを取り出して構える。落下していく中でアサルトライフルは影も形も霧のように消えていく。投擲された愛用ナックルに対して発砲する。弾は全て腐蝕弾のため、小さな欠片となり散った。銃口からは硝煙が上がっており、アイリは小さな溜息を吐いた。

 

アイリ「――なにを考えているのか分からないけど。次は――また投擲?それとも刺突?」

 

 視線の先には右手に雷の槍を握ったままの芙二がおり、アイリは呆れたように話しかけていた。だが、芙二はやる気のなさそうなそんな表情をして彼女を見つめてこう言った。

 

芙二「なにをやっているんだろうか。吾は。結局、あんたとカインがこの世界を破壊しようが時期にこの世界は……止めよう。すまんね、長年使用した武器が壊されて少し感傷に浸っていたよ」

 

アイリ「この世界は、なに?壊れるって?どうせ何千、何万、何十万年後とかでしょう?見るからに戦う気はないみたいだし、もうこのまま終わりが来るのを見ていたら?」

 

芙二「それは出来ないな。一応、この世界というか大切な人たちを見殺しには出来ない。戦艦神棲姫との闘いの為に力を残していようと思ったのだけど辞めよう。片道切符だな、これは」

 

アイリ「自爆特攻する気? お国の為にって?バカみたい」

 

芙二「いやいや誤解してもらっては困る。あんたらを再起不能にしてから暫く休暇を貰おうと思ってさ。その為にも最速で深海棲艦を絶滅寸前まで追い込む必要があるんだけど」

 

アイリ「大きく出たもんだね、実現できるといいねぇ?」

 

 啖呵を切った芙二を見て、クスクスと笑う。その横を雷の槍が高速で通り抜けたときにはアイリの顔から笑みは消え、苛立った表情をしていた。しかしそのまま苛立ったままの彼女ではない。

 

アイリ「その気なら完全に壊してあげる!

 

 【反転する重力(リバースグラビティ)

 

 【消失する天空(ロストスカイ)】」

 

芙二「なんだ、あんたもそういうこと口にするん……あー、規模が違ったか。たしかにこれは惑星に適応されるわな」

 

 スキル名を口にしたアイリに対してそういうの言うんだなーと思っていた芙二。【大鎌:ソウルイーター】を取り出して「未だ詠唱途中みたいだけど切り刻むか」などと考えていたが、そんなものも吹き飛んでしまった。

 

 なぜなら下から海水が迫ってきていたからである。アイリの力で海面が押し上げられたのだと思い、迫りくる水を凍らせてみるも勢いは収まらない。滝の様に上から下へ勢いよく水は落ちてきていた。

 

芙二「凍らせてもキリがない。とりあえず範囲の外へ……【転移】。っと、泊地の上空まで来ちまった。―ッ!? はァ?! ありゃあなんだ、いったい」

 

 そこに映るものは沖の水、いや地形諸共長方形に切り取られており底は全く見えない。下でそうなっているのなら上は、と自然に目がいく。そこに見えるものはまさしく非現実的な現象であった。

 

アイリ「これが私の実力、その一端。どう?勝てないと諦めた?」

 

芙二「いやまったく。地形破壊だけなら吾でも可能だ。これでも体験して大人しく死ね。

 

 【虚ろなる大竜巻(ホロウ・テンペスト)

 【神雷雨(じんらいう)】」

 

 

アイリ「それならさっき見たって……あー、感電死か。嵐じゃなくて、竜巻の中で無数の落雷が発生しているのね。え? 一体どういう原理?」

 

 白く輝く大きな竜巻はアイリを飲み込むもすぐに弾けてなくなった。芙二は想定内という表情をしていた。竜巻の中から出てきた彼女は感想を口にするも芙二はとぼけて話題を変えた。

 

 

芙二「そういえば、カインはいいのか? あんたのがもろかぶりだと思うんだけどさ」

 

 緊迫していく状況下で「あ」と間抜けな声を漏らす。水を差すようで悪いと思いながらも、口にしたことを後悔する芙二。

 

『……アイリ、貴様。この我の事を忘れていたのか? その不注意さが原因で我自らが汚れを払うなどと不要なことをさせたのか?――貴様も一度、死んでおけ。冥土で我が直々に歓迎しようではないかッ!』

 

 冥獄龍(カイン)の怒号が空の端まで響く。聞いていると頭痛がしだすような気がしたので思わず、耳を塞いでしまう二人。視線はカインを注目していたので彼女が何をしようとしているのか、すぐに分かってしまった。

 

芙二「最悪だ。ほんっと最悪」

 

 そう言い終えると小さく溜息を吐いた。

 能力で無敵となっているはずなのに胃が痛む気がした。




長いので分けました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。