とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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中編は終わり予定


五章 26話『終焉の太陽Ⅱ』

 恐怖を駆り立てられた二人の反応に少しだけ機嫌をよくする、カイン。だが、すぐに表情を曇らせて威圧するように言葉を吐き出した。

 

『アイリの言う通りだ。貴様ら二人と足元の命(その他)が死んだところでこの世界の人間はすぐに絶滅などしない。だからこそ、見せしめになってもらうぞ。この我を怒らせるとどうなるかをッ!』

 

 彼女は両手の平から紫の光を放つ粒をいくつも作り出しては眼前にて集結させていく。ゴルフボールほどの大きさから徐々に変化していく。直径五メートルほどになってからはそれを更に上空へ打ち上げた。

 

芙二「アイリ、あんたも阻止に手伝え! こうなった原因に一枚噛んでるだろ!?」

 

アイリ「いやだね。そうやって話してるけど、敵同士なの忘れた? そんなわけないよね?」

 

芙二「それはそうかもしれないけど――――やっぱりあんたはクソアマだな! この期に及んで拘束してくるってよォッ」

 

アイリ「特等席だよ。それは腐蝕の檻。まんまだね、名前も効果も。少し違うと言えば異世界人である君にも作用するという点。無理に出ようとすれば、その無敵の肉体をも腐らせて朽ちるよ。君が必死に抗うという行いはここで終わりだ」

 

 更に手を合わせて、満足したような表情をして「護りたかったものがゆっくりと奪われるとき、君はどんな表情をするか楽しみで仕方がないよ」口角を上げながらそういった。

 

 芙二は窮屈な檻を壊そうと藻掻くも、説明された通り一切傷はつかない。それどころか自身の指先が融けて肉や骨が剥き出しになる苦痛を感じていた。

 

 「クソがッ! 空間に干渉して――」欠けた手を精一杯開いて外へ行こうとする時、下から黒い粒が上へ上がってきているということに隙をつかれた。

 

 「はい、残念。二重にさせてもらうよ。いや五重くらいにしておこうか?」そう楽しそうな口調で檻を厚く、硬く更に腐蝕効果を張り付けて完全に出口を封じた。強固になった檻を破れない焦りは芙二の心を追い詰める。どんなに思考を巡らせても、得た力を使ってもこの檻を破壊することは叶わないと知り絶望していく。

 

 

アイリ「床に座り込んで動かなくなっちゃった、あれ!? とうとう壊れちゃった?! フフフ、アハハハハハッ!! 未だ仮面の下にある面は拝めないけど、あーあ君も結局自分を可愛く見えちゃったのか。弱い奴ほど威勢のいい啖呵を切るものさ。私たち(強者)というどうすることもできない存在を前にすると、その酷く大きな自尊心も壊れちゃったか!」

 

 バカにするような言葉遣いで座り込んで動かない芙二を貶す。しかしそれは芙二には届かない。言葉は一言一句耳には届いていないからだ。無視をされたと思ったアイリだが特に気にする様子はなくただただこれから起きる破壊活動の結末が楽しみで仕方がないという表情をしていた。

 

 

アイリ「あ、でも私もこのままだと巻き添えを食らっちゃうか。特等席に芙二君は座らせてあげたし、下へ戻ってろくでなし共の醜態を見てくるかな」

 

 目線をカインへ変えこのままでは巻き添え必死だと眉を八の字に、口をへの字にしていうと再度芙二を見て満足そうにしたあとに半壊している東第四泊地へ戻っていくのだった。

 

 

 五重腐蝕結界の中で囚われていた芙二は自己嫌悪に陥っていた。檻自体は生きているかのように脈動し蠢いている。下から沸き上がっていたモノは既になくなった代わりに空がやけに明るくなりだした。

 

 

 

 (オレ)はチートを手に入れても結局は守れない。

 何も壊せない。

 口にした目標も達成することが出来ない。

 

 勢いよく啖呵を切ったのに、情けない。

 艦娘も深海棲艦も中途半端にしか救えなかった。

 

 自身の楽しみの為と躊躇ったから。何もかも。

 人間であった時となにも変わらない。

 

 大口を叩く愚かさは健在で、無知無謀に惨さがついて回って

 巨大な力を思いのままに振りかざし、他人に希望を持たせ

 

 自分が神にでもなったつもりだったのか

 実に愚かだ。愚かで、救いようがない。

 

 

芙二「かつての吾は罪もない人々に対し、復讐を……いやただ八つ当たりしたかっただけか。父も母も吾を馬鹿にするクソ共も。吾が口にしたことを前から否定し決めつけた、ゴミ共の人生を破滅に追い込みたかった」

 

 淡々と吐き出すように気持ちが言葉となってボロボロと出てくる。

 ジーゴが言っていた自身の奥底に眠る望みは破滅。

 

 御伽噺の悪龍であるジーゴから直々に依代へ選ばれるほどの望みである。

 後天的であるとはいえ、他者の破滅だけを願う精神は一見弱そうに見えるが、逆であった。

 

 

 十五歳という若さでそれしか望まないほどに、芙二の心は渇き切り血を求め始めていた。

 転機は訪れ、元々の地頭の良さが頼もしい相棒を得て規模も大きくなっていく。

 

 同じ意思を持つ同志を世界中から集め、決行の当日――気が付けば薄暗い部屋で意識を取り戻した。

 そこからは深海神棲姫との出会い、後に異世界転生を果たしたのだが。

 

芙二「今思い返すと吾を召喚した人物に対して腹が立ってきた。このごたごたが片付いたら探しに行くか?どんな人物か興味があるから」

 

 

 諦観し、追憶に耽り自分を嘲ることから一転、召喚者への怒りが物凄い勢いで沸き上がり肉体と精神は呼応したように身体中には高熱を帯びていく。死んだ目にやる気に満ち溢れた熱がこもる。

 

 立ち上がり、頭上へ視線を向けるとそこには『これより、全ては我の手により輪廻の輪に導かれるのだ。甘んじて受けよ、小さな命共――――廻生楽土』そういうカインがいた。

 

 彼女から見て一瞬。巨大な眩い光を放つ球体が、更に膨張した。そしてゆっくりと落下していく。それの近くにあった雲が溶けるかのように蒸発していく。

 

芙二「……片道切符、か。はは、そうだな。あれを凌ぎつつカインを再起不能にするにはそれしかない」

 

 巨大かつ目を焼き切る光を放つそれを芙二は”太陽”と感じた。また全てを焼き尽く熱を帯びているのだと理解した。この異常事態はまさしく一般人からしたら終焉と言えるのではないかとも。

 

芙二「はぁ……深海棲艦は冷葉達に任せて、吾はここいらでお暇させてもらおうかな」

 

 視線を変えて、泊地のある地域全域に全力の多重結界を貼る。

 もしもの保険だ。何かあっても防げるだろうということで。深海棲艦の空襲、砲撃などでは傷すらつかないだろうと自負していた。ストックも残り少ない。今になって「二兎追うものは一兎も得ず」という諺を思い出した。

 

 

芙二「二つの事を同時に成し遂げようとすると両方失敗する、か。アイリも倒せないし、カインも倒せない。それに足元の命も救えず、ただただ死ぬ。それほど馬鹿な話があっていいのだろうか」

 

 これから使用するのは片道切符だ。まぁ大切なもんを護れるならそれはそれで吾の心の一部は救われるのだろう。痛みも喜びも感じるのは生きていたらだ。

 

 今は覚悟を決めて全てを――最高、最速、最強の一撃で打ち砕け。

 

芙二「決まったなら早い方がいい。まずは大鎌で檻の一部を斬りとばす。流石、全てを殺す鎌だ。切れ味は落ちちまうけど隙は作れた。まずは【赫淵一閃】を使用して――あちち、檻の効果はまだ健在とは恐れ入った」

 

 檻の上に立つとカインと一瞬目が合った。その表情は驚きも困りもしていない、そんなものであった。とりあえず中指を立てて「今に見てろ」と呟き不敵の笑みを創り出していた。

 

 カインの表情に苛立ちが加わったとき、その姿は忽然と消えた。

 

『まだそんな余裕があった――消えッ あぁそうか、奴は落ちたのか。ふん、我を落とすと言っていたが結局やれずじまいか、愚か、実に愚かッ!! ……ぐぅううッ き、貴様ァ』

 

芙二「言ったろ、ばぁかッ! あ、安置で胡坐を掻きすぎていたのが運の尽きってなぁ! ゴハッ、ヒヒ……この速度には肉体がついていかないか……」

 

 カインの腹を芙二の腕が突き破っていた。手には心臓が握られており、それを潰した。

 

『心臓を貫いたからって我が絶命するとでも、思ったのか。崩天……』

 

芙二「そんな余裕だろうってのは百も承知だよ、こんちくしょう。そのタフネスが吾にもあったらよかったが、ないものねだりはやめておこう」

 

 だがそれだけでは彼女の生命活動は停止を余儀なくされなかった。

 それは分かっていた。だから――わざと手を開き硬化させて引き抜いた。

 

 内臓が抉りだされたら流石にダメージを負ったのか、血を吐いてそこに床があるように膝をついた。顔色が悪くなりつつある。だが、少しずつ再生していくのが見えてきていたので次の手に出た。

 

芙二「がぁあッ……比じゃないくらいに痛む。絶えれてあと二回。ハハッならば、全力全霊で向かうのみだ。腕が引きちぎれそう。だがまだ揮える腕はあるっ――森羅斬響(しんらざんきょう)ッ!」

 

 

 鎌を揮う腕が勢いに耐えられなくて砕け散った。持てるすべてを駆使して再生、破壊を繰り返す。すべて絶つ斬撃の嵐はカインを細切れにして意識を奪う事に成功した。

 

 しかし太陽と見間違えるそれの落下は止まっていない。だが、芙二の意識は消えかけていた。これまで育んできた命を燃料にしてようやく神速猛攻の域に突入したのだ。故に肉体への負荷は大きく【祟殻龍骸】で纏う装備も所々なくなってきていた。

 

芙二「まだ、だ。まだ、死ねない。あー……結局、何も守れないのは嫌だ。それに――告白も済ませてないのに、勝手に意識がなくなるのは吾自身、赦されないぞッ!」

 

 かつてない痛みと異常な速度での消費から来る倦怠感。そして途切れつつある意識をくだらない意地で起こし、後悔のないように自身へ喝を入れる。

 

 そして最後の一回は【赫淵一閃】を使用する。小さな音が聞こえたような気がした。その音は硬いものを落としたときの、そんな音が胸の方から聞こえたような気がした。目からも鼻からも負傷している部分からとめどなく流れる血も乾き固まりつつあった。

 

芙二「……ッ! ハハ、クソッ。頭ん中で火花が散ってんのか?急に目の前がチカチカしてきやがった。まともに対象が見れなくなってきたか。それに気を抜くとそのまま無駄死にしちまいそうだ」

 

 助走をつけて地上に落ちる太陽を破壊するべく、再度上昇する。そのとき胸から黒い染みが広がっていくが、芙二はそれに気がつけなかった。もはやマスクは嘴以外すべて砕けてなくなっていた。身に纏う服ですら、汚れほつれている。

 

芙二「対象を捕捉。我が全力、全霊の一撃を以てソレを破壊するッ!さて行こうか、今生最期の技を!」

 

 

 だがこの時、芙二の精神に変化が訪れる。復讐を誓い行動し始めてからというものの転生しようがしまいがすべての生物の破滅を渇望していた。善人、悪人であろうが関係なく。すべての生物に心の底へ響き渡る様に破滅を望み、願っていた。

 

 

 その終わりを望む心でジーゴの依代として生まれあがった概念が書き換わる。恨みのあまりに変貌したもの姿、風格ゆえに邪神と揶揄されていたが祟り(がみ)の名を口にしたことで()()()決まった。

 

 イレギュラー。芙二の変化の仕方はそういうしかない。

 

 呪いの悪龍、ジーゴの依代としての肉体(うつわ)ではなく。前世から蓄積した憎悪(のろい)、今世で蓄積、抽出、精錬された憎悪(のろい)は芙二の在り方を変える力へと変換されていく。

 

 死ぬ間際だが芙二の肉体、精神は己の裡なるすべてを許容し身に宿す龍神として完成された。今まで覚えたスキル、能力の大半はこのとき消費され、一つとなる。

 

 この間、僅か十秒と少し。その一瞬で完成され、すぐに理解して使用する。途端、叫ばずにはいられないほどの痛みが全身を駆け巡り、再度意識を手放しそうになる。

 

芙二「ッ! くそッふ、ふ……こんな時に笑う者ではないが、あまりの痛みに笑いが。痛みの上塗りとはひでえもんだよ、ったく」

 

 だが、迫り落ちるソレは待ってはくれない。すぐに切り替えて――使用途中の【赫淵一閃】の勢いで他の選択肢を失くす。すぐ目の前には燦燦と輝く球体がある。そこで再度口にするのは新たに生まれ変わった雷神の一撃。痛みが巡る前に腰にはエンチャントしておいた刀剣を持ち出して鞘から抜刀する。

 

芙二「【轟迅霹靂神(ごうじんはたたがみ) —天砕(あまくだき)—】」

 

 貫通。音も光も置いて、芙二だけが。切り込みが入った落ちる太陽に似たものは勢いよく膨れ上がるとたちまち爆ぜた。

 

 「多重結界を予め貼っておいたから被害はそこまで多くはないはずだ」と守りきれた街を見下ろして少し満足した表情をしていた。

 

 徐々に意識がなくなりつつある満身創痍の芙二の肉体に最後の追い打ちと言わんばかりに業火が包み込む。爆発直後、映し出された影は炎に包まれると形なく消失した。

 

 

 途轍もない被害を出した埒外共が繰り広げる戦闘はひとまず幕を下ろした。

 

 一人の異世界少女を残して。




 暗い一室。中央を照らす照明の下には青い炎の人外頭が手招きをしている。首から下は紫色のスーツに身を包んでいた。あなたはそのまま足を進めると彼は話し始める。それは興味がそそられる話かもしれないし、そうではないかもしれない。

芙二君(主人公)には少しお休みを。死ぬ間際での覚醒は皆さんしているでしょう?それに次は彼らの番ですから。過剰労働気味でしたので、ね」

「なぁに!ちょっとやそっとじゃ、へこたれませんよ。彼らは特に。大切なものを失うことはあれどそれは人生の醍醐味でしょう。出会いと別れは唐突に。だから何気ない日常がとても良いんです。これが!」

 あなたは何を言い出すのだ、と思っている。それがなんだとも。

 青い炎の人外頭は見透かすような態度を取って「まぁまぁそういう顔はしないでくださいよ。それに続きはとても楽しくなると思うのです、私」そう声音は明るく楽しんでいる様だった。

 あなたはしばらくの沈黙した後に「ごめんなさい。興味がそそられなかったよ」そういって部屋を後にする。その直前「そっか、それは残念」と寂しそうな声を耳にした。
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