東第四泊地付近で起きた出来事はまるで終末という表現が合うほどの衝撃を世間に与えた。しかしその時間はあっけなく終わった。雲の間から落ちてくる輝く球体は突然爆ぜたのだ。その中から吹き出すように出てきた炎の範囲はとても広く泊地ごと焦土と化すだろうと誰もがそんなことを考えた。
しかし実際はそんなことは起きず、炎はある高さから下へは迫ってはこなかった。それに配信は途中で途切れてしまい、見ていた者は最終的に何が何だか分からなくなってしまっていた。だが、周辺地域にいる者はその輝きが消えるまでのあいだ建物内にて安堵の息を漏らす者がほとんどであった。
月見「私たちは生き残った……のでしょうか」
グラーフ「そうだな、アドミラル。だが、これからが忙しくなるぞ。互いに気を引き締めていこう」
人生で最も大きな衝撃をこの身体で体験した二人は共に頷いて、自分達のやることを見つけていこうと決めた瞬間であった。
時間はあっという間に過ぎる。あの埒外共が終末とも言える戦いからもう二週間が経過していた。今ではテロリストの大半は逮捕、拘束され痛ましいテロ事件は収束に向かっていた。幹部は殆どが拘束されたが、首謀者である少女の居場所だけは掴めていないと報道されていた。
そして都市部は様々なものが揃っているので既に復旧作業が行われ、ほぼ完了直前だと報道されていた。しかし大本営や沿岸部にある軍関係の施設の復旧作業は遅れが出ていた。都市部のようにすぐ取り掛かれば良かったが軽く調べた結果でも被害甚大だということはすぐに分かり、まずは自分達の手が届く範囲からやりはじめていた。
それは全国の各泊地、鎮守府の司令官への指令にも繋がる。被害状況を記した報告書を分かる範囲で提出してくれということ。期日は決まっていないが、なるべく早くに出した方がいいだろうと聞いた司令官や補佐、秘書艦でなくとも聞いた人物は思ったはずである。
東第一泊地 執務室
大淀「はい、はい。分かりました。神城提督、そちらも深海棲艦以外の存在も気にしておいてください」
神城との通話を終えると小さな溜息を吐いた。それは予想が的中したからである。
如月「大淀さん、司令官について何か分かることはあった?」
大淀「一日の夜に東第四泊地へ向かったそうです。その後の動向はテレビで報道されていた映像を見ればわかると思いますが、やはり――」
最後まで言い切らない。それは芙二が”死んだかもしれない”という旨だからであった。如月の隣にいて静かだった叢雲が口を開く。『殉職した。そう言いたいのでしょう? 最前線であんな怪物と戦っていたら、いつかそうなっていても仕方ない。それよりも指令の内容はなに?』二の句を続けなかった大淀に対して叢雲の反応は酷く淡白なものであった。
大淀「ここの被害状況の確認です」
叢雲「分かったわ。夕立、丁度居合わせたんだから寮へ戻りながら誰かと合流しなさい。それか憲兵の二人を探してさっき大淀さんから聞いた指令の内容を伝えてちょうだい」
夢のような衝撃映像を見た後に思考停止していた夕立の肩を揺すりながら伝えると大きく肩を震わせた後に「叢雲ちゃんは提督さんが死んじゃったかもしれないのに悲しくないの?」と寂しそうな声色で呟いた。
叢雲「そうね、とても悲しいわ」
目を閉じて、静かにそう言った。しかし少しの沈黙のあと、ゆっくりと目蓋を上げ、続けて「だけどあの人は自分の役目を全うしただけ。私たちにはまだ役目が残ってるそれが終わった後でも再会は出来るでしょう」言い終えると動かない夕立の両脇に手を入れて無理矢理持ち上げていた。
大淀には自らの役目を見つけ、その目的の為に命を捧げる事を躊躇わない叢雲の姿が浮かんだ。だが、口を開く前に少し泣いている夕立を連れて叢雲が退室していった。
如月「大淀さん、冷葉補佐の様子はどうなの? 心臓を撃たれるって私たちでも致命的なのに人間だったら――」
大淀「……提督が命を繋いだのですから、きっとすぐに目を覚ましますよ」
そう言いながら、受けた指令の内容を再度確認する大淀を見て何処か心配そうに見つめる如月。
如月(あれだけ心地よい場所がこうも悪くなるなんて――)
それだけ芙二が与え続けたものは大きかったということを実感していた。致命傷を受け、ギリギリの状態で施しを受けた冷葉も目を覚まさない。憲兵もわずか二名のみ。妖精の数は数えず、勤務している職員の数はゼロという事実。司令官が二人もいないという状況は危機迫ることだということを如月は強く実感しているのだった。
冷葉「…ここは医務室か」
ゆっくりと目蓋を開けて、掠れた声を出しながら目を覚ました。銃弾で心臓を貫かれた日からひと月と二週間。明石に「最悪は植物状態」とまで言われた男が今、目を覚ました。身体を起こそうにも思い通りに起こせないでいた。筋肉が落ちて細くなっている手を、指を動かして手すりを掴んだ。その動作を目撃した曙は悲鳴を上げた。
それは耳が痛くなるほどの声量であった。あまりのことに反射的に片耳を塞いで、空いている手で頭に布を被せ音を遮断しようと試みた。しかし無駄であった。寝起きで爆音を流された冷葉は気絶してしまい、更に三日寝る事となったのであった。
とても久しぶりの投稿になりました。
私自身、どういう風に書いて行けばいいか、悩んでしまい筆が遠のいてしまいまして皆様にご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。
ちょくちょく直しているのですが異世界転生でも混ぜるな危険があるんだなーと当たり前の事を知りました。なので、そのうち数話分、少なくなっていると思います。
やっとこさ、続きが書けたので少しずつ書いていくつもりであります。
この駄作に最後までお付き合いくださいませ。