神通が返ってくるまで川内はある動画を見せていた。動画内には二次元の産物と認識されている黒い巨龍が次元の垣根を越え、圧倒的存在感を放っていた。大きな黒い四枚の翼を動かしながら空の端々に届かんばかりの咆哮の直後、異変をカメラは捉える。撮影者が海から無数の黒い人影が湧いてきていたのを確認して驚きに満ちた声を上げていた。
冷葉「
人影が凍っていく映像を見ながら「これは芙二の所為か?」と言いいながら川内に話を振る。
川内「この映像だと黒く見えているけど、テロリストの配信だと白と黒が混じった感じだったよ。そう見えるのは距離の問題なのかなぁ?それとも光の角度?」
冷葉が答える前に「まぁどうでもいいよね」と話題を元に戻した。嵐のような気候を保ったまま絶対零度を体感させられた人々は大変だっただろうと冷葉は思っていた。
生まれてこの方、このような超常現象に出くわすなんて考えられないはずであるからだ。だが、撮影者は寒さに耐えて映像を残してくれたお陰で見れるというもの。その人物がいたら感謝を伝えたいほどになっていた。
冷葉「嵐、凍土、竜巻の次は隕石が降るか。もうなんでもありだな。あんなものが直撃したら跡形もないだろ。でも芙二がどうにかしたよな、きっと」
川内「今も復興支援されているから、提督が頑張った結果だと思う。その提督も今はもういないんだけどね。この地域を護るのも務めだろうけど、ここだけの話しそれを放棄して生きて帰ってきてくれたらどんなによかったことか」
冷葉「……ある一定の高さで隕石が消滅していく。流石の撮影者も今のままではいられないか。衝撃映像を残そうとしてくれているのは分かるけど画面が揺れていてろくに分かりやしないな」
川内「仕方ないよ、それについては。私たちですら死ぬよ、あんなの。それをどうにかできる提督がイカレているだけであって普通の対応だと思う」
芙二に対して辛辣なことを口にする川内。五分程度、映像が揺れていたがふいに巨大な鳴き声に驚いたのか、立ち止まり音の発生源を探る様にしていた。ある角度でそれが捉えられた。
沖合の一部が急に隆起し、海面へ這い出てきた。それはあまりにも巨大な亀のように見えた。小さな島を背負っていたが、違う事はすぐに理解が出来たのは撮影者も冷葉も同じであった。
冷葉「全部は見えないが、首が四つある?尾までは流石に見えないか。首も長く大きいせいで頭が見えないし……あっ!一本の光がカイン・アッドレアに命中した!だけど、撮影者目線じゃあ何が起きているかよく分からないな」
川内「あの正体はきっと提督。根拠はそんな事が出来る人物が限られているから。あと別角度も視聴して分かったことが合ってさ。首が八つあったからネット上では八岐大蛇が出現したって言われていたよ」
冷葉が「それは伝説上の怪物じゃないか。だが芙二なら可能にしていそうだな」と頷きながら言っていた。そのあと川内が「だけどすぐに消えちゃった」と寂しそうに言う。その発言を聞いて、居た堪れない表情をする冷葉。
川内「私はね、あの黒い巨龍がバラバラになっていくから終わったと思っていたんだよ。でも終わりじゃなかった」
冷葉「やっぱり一筋縄ではいかないか。その後はどうなったんだ?」
川内から見せられていた動画は既に終わっていてその先を知ることが出来なかった。タブレット端末を返すと受け取った川内は新しい動画を引っ張り出してきた。
川内「これはまた別の人が載せていた動画。これは提督が死ぬ理由がはっきりとあるから覚悟して見てほしい」
声のトーンが一段階下がるのを聞き逃さなかった。冷葉、まさか死体が映っているのかと内容を見るまでは思っていた。再生された内容の冒頭では親友の死体が映ることはなく、安堵の息を吐いた。
川内「まだ溜息を吐くのは早いよ、補佐。提督はもうこの世にいない。それが変わらない事実なんだからさ」
冷葉「変わらない事実か。川内、あいつが死ぬと思われるシーンまで飛ばすことはできないか?このままそれを見ているとあいつが死んだという事実が俺の中で確定になってしまうから――」
川内「ダメだよ、それは出来ない。しちゃいけないんだ。提督が、あの人が命を懸けて行ったものを補佐には逃げずに見届けてほしいと私は思っている。それが補佐の中で確定となってしまうことであっても」
そこまで言われ、冷葉は眉間に皺を寄せ目を瞑り黙ってしまう。続きを促す言葉を川内は何時間でも待つ覚悟でいた。神通があれを持ち帰ってきても、話題を変えずいるつもりであった。
黙ってから五分ほどが経つ頃冷葉は「分かった。俺はあいつが最後にやり遂げたことを見届ける。だから続きを頼むよ、川内」タブレット端末から目を離して震える声で川内に続きを促した。
川内「ありがとう、
冷葉「なぜ笑ってさん付けで物騒なことを言うんだ、川内。まさかおまえも叢雲と同じ選択肢を取るつもりじゃないだろうなッ!?させない。誰一人として欠かすことは俺の命に代えても阻止するぞッ」
川内「違うよ、私がするのは叢雲ちゃんを止めるのに全力を出すだけだよ。多少、どうにかなっても私の穴は埋められるだろうからね」
冷葉「おまえという戦力の穴の代わりはいないと思うから辞めてくれ。しかしそんなに危険な状態なのか。いや深海化しているし、治せるやつがいないし当然か」
「まぁね」と冷葉から視線を外して目を細めて何か言いたそうにしていた。だがすぐに「ごめんなさい、冷葉補佐。話しが逸れたね。それじゃあ続きを再生しようか」そう画面をタップした。
冷葉「なんだ、爆弾?さっきの隕石?いや規模が違うだろ……あんなのは!」
二人が見ている動画の投稿者も驚くだろう。白く輝く球体がゆっくりと落ちてきているからだ。
付近に飛んでいる深海棲艦の艦載機や海鳥が呆気なく巻き込まれて消滅していく。
しかし次の瞬間、それは爆ぜた。ぴっちり空気を入れられた風船が破裂して空気が外へ出るように炎の波が四方へ広がった。東第四泊地の街と目と鼻の先の為、あっという間に巻き込まれて焼かれてしまうと冷葉は思いながら動画を見ていた。炎の波は街を飲み込む。「うわぁぁあっ」と動画内から更に悲鳴と泣き言が合わさったものが聞こえ始める。
居た堪れない気持ちになった冷葉が動画を止め川内に「復興支援されているとはいえ、これは地獄絵図じゃないか?泊地も街もダメだろう」と渋い顔で言う。だが川内は「私もそれは思った。でも動画はまだ終わっていないからよく見てよ」と動画を再生した。
後悔の嗚咽が聞こえると冷葉はぎゅっと目を瞑って現実から目を背けようとした。川内は阻止して「逃げないで」「事実を知って」と伝える。諦めたかのような表情で冷葉は川内に一言謝罪すると最後まで見ようとしていた。
下へ炎が出尽くしたときに見える景色は炎の波に呑み込まれる前の街そのものであり、そのあと街を包み込むようにしてあったドーム状の結界が砕ける様子が鮮明に確認できた。その映像が終わる頃に冷葉はハンカチを取り出して汗を拭う。再び目を瞑り、動画内の出来事をまとめる。
冷葉「あの街こそが芙二が護ったものか。だけどあいつが死ぬ瞬間は載ってなかった。よかった、よかった。あ、結界だっけ?それを貼る為に全力を尽くして死んだんだろ?」
川内「それもあるかもしれないけど、一番はあの巨大な球体を破壊した張本人だからだよ。死体は左腕以外焼け熔けてなくなっていたんだって」
冷葉「残った遺体からのDNA鑑定で発覚したのか? あと白い球体を破壊した張本人ってのは誰から知ったんだ?本営の職員が知るわけないよな」
川内「東第四泊地の不知火だよ。直前まで一緒にいたんだって。そこで東第四泊地の惨劇も聞かされたんだけど、もう酷くてね。提督がいなかったらみんな死んでたってさ」
冷葉「あいつ、やっぱすげえやつだわ。ほんと……なんで相討ちみたいなことしたんだよ」
言葉が尻窄みしまいには嗚咽を漏らし始める。しばらく冷葉がずっと悔やんで声を殺して泣いていた。途中白い壺を持って帰ってきた神通は驚くも事情が事情なので川内へ「この状態で白い壺のことを話すのですか?」と聞くも当の本人も精神的に堪えている様子で「いや今日は辞めるようかな。明日も……明後日なら話せそうな気がする」と返していた。
目を腫らし、赤い鼻を擦りながら「すまない。待たせた」と川内と神通に伝える。しかし川内は神通にした返事を言葉を変えて冷葉に伝えるのだった。