とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 31話『亡き親友の贈り物』

 あれから四日が経った。二日前に冷葉が川内の元を訪れるも本人は「ごめんね、今日は体調が悪いんだ」そう言って部屋内から出てこなかった。いち早く真実を知りたかった冷葉はすれ違う艦娘全員に白い壺の話を聞こうと行動する。

 

 そのことを口にするたび辛そうな表情して言葉を詰まらせそのまま去る者。冷葉に聞かれた瞬間、泣き出してしまった者もいた。そんなことが続くと冷葉は次第に声すらかけなくなる。 

 

 そんなとき、泊地のどこかで何か固いものが砕ける音が響く。食堂で誰かが皿やコップを落として割ったのかもしれないし、今は閉じられている工房内に誰かが入ってうっかり物に触ってしまったのかもしれない。

 

 泊地内で活動している者はその瞬間だけ手を止めて音のした方向を探ろうとする。しかしほんとうに一瞬しか聞こえない音はすぐに周囲の喧騒に呑まれ特定は困難と判断し諦める者は復旧作業や哨戒任務を行おうと元の場所に戻っていく。

 

 しかし冷葉だけは妙な胸騒ぎを覚えていた。そして亡き親友から貰った仮初の心臓がどきりと大きく跳ねた気がしたのだ。自身の中心から脈打つ正常な鼓動のせいか脆い精神を更に不安定にさせ、執務もままならないようになってきた。事実を言えばいいのに、ちっぽけな嘘を口にする。

 

冷葉「うーん、何故かとても頭が痛む。大淀さん、一度俺は頭痛薬を明石から貰って来るよ」

 

 適当に嘘をついて執務室を後にする。大淀は何か言いたそうにしていたが、叢雲の代わりで来てくれている青葉と共に『東第一泊地、泊地周辺の被害報告書』をまとめる。

 

 泊地の被害はだいたい確認することが出来た。幸いなことに妖精さんと協力して簡易的な建物の修繕、および業者の手配までスムーズに済ませる事が出来た。ふらふらと落ち着きのない様子で執務室を去った冷葉を心配している口調で大淀に話しかけた。

 

青葉「冷葉補佐大丈夫ですかね……?」

 

大淀「状況が状況でなければ戦線復帰などさせたくありませんが……事が事ですからね。精神、肉体的に不安定な環境ですが皆さんの士気向上の為にも補佐の存在は欠かせません」

 

青葉「叢雲さんは大丈夫――なわけないですもんね。本人の口から深海化が取り返しのつかない所まで進んでいると聞かされた時は」

 

 ぽとりと小さな音が青葉の隣から聞こえる。話しを中断させ、大淀の方を見ると口を開け顔を青くさせながら硬直していた。しかし目だけは青葉のことを凝視していた。「あ、えっと私なにか驚かれるようなこと言いました?」そう聞くと大淀は足元に落とした万年筆を拾い、一回咳ばらいをする。

 

大淀「本当なのですか、青葉さん。取り返しのつかない……具体的には時雨ちゃんと同じことなの?」

 

青葉「そんな感じですね。並みの深海化ではなく魔改造?されている雰囲気もあります。今の叢雲ちゃんは極めて危険な存在そのものです。邪魔をしなければこちらに牙を剥くことはないでしょうけど」

 

大淀「邪魔をしたら危害を加える、ですか。味方同士で戦力を削り合っている場合じゃないのに」

 

青葉「正直冷葉補佐でもあの状態の叢雲さんを扱えるかというと無理があると思います。形はそうであっても、中身は絶対に違う。身内の話で済めば、ですが最悪の場合も考えられます」

 

 それは総司令部をも巻き込んだ掃討戦であろうか。従来の常識であれば深海化した艦娘は元の所属内で処理されるケースが多い。しかし対象が手に負えない場合は総司令部から処理班の肩書を持つ艦娘が派遣される。陸海の戦いにおける専門家だそうだ。

 

 異質な存在が確認されたらこの合間に乗じて派遣されるかもしれないと思うと安易に叢雲を泊地の外へ出したくなくなるが――それは不可能に近い。仲間の言葉に耳をろくに傾けない、とも報告されている。磯波の言葉には何とか反応する様だがそれもいつまで続くか分からない。

 

 

 大淀の深い溜息と同時に漏れる「どうしたら」その弱音は最後まで続かない。その理由は普段は特別な内容の電報しか出力しない機械が「ウィーン、ウィーン」と作動音を鳴らしながら動き始めたからだ。はじめて動くのを確認した青葉も文字が印刷された紙がゆっくりと出てくる様を注目していた。

 

 ジジー、ガチョン

 

 奇妙な音を出すとすぐに機械は停止した。一枚の紙が右、左と揺れながら裏面で落ちた。大淀が椅子から立ち上がり、紙を拾い上げ内容を見ては険しい表情かつ無言のまま青葉に渡す。

 

青葉「いったいこの紙に何が――えぇ!? あ、明日ですかっ!!」

 

大淀「そうですよ。明日、本営で臨時会議を開催するから動ける提督や補佐は集まってくれという内容。一応冷葉補佐が目覚めたことは伝えてあるけれど――仕方ないわ。もしも深海棲艦が現れたときは私が指揮を執ります」

 

 青葉の返事は待たずに「放送で冷葉補佐をここに呼んでください」そう命令を下す。大淀の指揮を執る発言を聞いたときの青葉は驚くが、すぐに表情を戻して命令を聞き入れ行動したのだった。




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