とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 32話『判明:敵の本拠地』 

 大本営 第二会議室にて

 

 冷葉は青葉と共に本営内の会議室にいるのだが、急いで設置されたであろうパイプ椅子に座って場の様子を観察していた。

 

 しかし飽きるとパイプ椅子に腰かけている青葉に待ち時間の合間で川内から聞けなかった内容を聞こうとして声を掛ける。

 

冷葉「なぁ青葉」

青葉「どうしました?冷葉補佐」

 

冷葉「あのさ――いやなんでもない。それよりも、だ。定刻までまだ時間はあるから手洗いに行ってきてもいいぞ」

青葉「いえ、私は大丈夫です。それよりも冷葉補佐、大丈夫ですか?さっきから難しい表情をされていますけど」

 

 こんな感じで、と冷葉の表情を真似てきた青葉に「臨時会議だから緊張しているだけ」そう淡々と返事すると「そうかもしれないけど、ガチガチに固まり過ぎては内容も入ってきませんよ。昨日のように」と言われてしまった。

 

 冷葉は昨日の出来事をぼんやりと思い出し始める。

 

 昨日はあの後、ふらふらとサボっていたのだが放送で大淀に呼ばれ、急いで執務室へ行駆け込んだ。知らされた内容には目や口を大きく開いて固まった。

 

 紙に印字された内容を見せながら説明した後でひどく驚いてしばらく表情筋をすこしも動かさない。なので大淀と青葉の目には自分たちの話を半分以下も聞いていないように見えていた。

 

 青葉に肩を叩かれてから再起動するまで冷葉は「招集命令ってのは別にいい。敵の本拠地を見つけたってのは本当だろうか」と胸の内で自問自答を繰り返していた。

 

大淀「私は提督代理としてここに残りますね。()()の指揮官である冷葉補佐がいないので。私が代わりに指揮を執り情報共有していきます」

 

 冷葉は短く「了解」と呟く。返事を聞いた大淀は「青葉さんは冷葉補佐と共に会議へ参加して情報をまとめてい下さい」と伝えた。青葉は「分かりました」と落ち着いて返事をする。

 

 こうして冷葉と青葉の二名が本日の会議へ参加が決まったのだ。思い返すとまだ着任して二ヵ月か、三か月かそこらでここまでの状況となっていることが信じられないでいた。

 

 

?「失礼します。ひっ……そ、そんなに注目しないでくださいぃぃ」

 

 冷葉が脳内回想を終える頃、ふいに扉が開くと同時に入室の挨拶が聞こえてきた。振り向くとそこには赤髪ショート、童顔の女性が立ち止まっていた。だが予想以上に注目されているのか、入室した当の本人は驚いて固まっていた。自分と同じ新人なのか、それともこういう場は苦手なのか汗が目に視えるほど垂れていた。

 

?「青木さん、どうして立ち止まって……そこで止まっているから注目されるのよ。席順は決まっているのだから早く座りなさい」

 

青木「ひぇ……す、すみません。ビスマルクさん。み、皆さんもお騒がせしました。私、北第三泊地の青木(あおき)紗代(さよ)と申します。い、一応北側の代表としてきました。本日はよろしくお願いします」

 

 びくびくと怖がる素振りを見せながら冷葉の隣の椅子に座り青木の隣にビスマルクも座る。冷葉は”北側代表”という肩書が気になったが隣にいる青木に問う事はやめた。それは再度、扉の開く音を耳にしたからだ。きっと誰かが入ってきたのだろう。そう思って振り向こうとしたら「補佐、元帥閣下と大鳳さんが来られました。もう直に始まります」その一言でピシッと姿勢を正す。

 

冷葉「ありがとう、青葉」

 

青葉「いえ、気にしないで下さい。もうそろそろですかね?」

 

 礼を伝えると冷葉は会議の始まりを待つ。元帥である海堂の入室後、十五分が経つ頃に各提督を緊急招集した臨時会議が始まるのだった。ここに来れない者へはビデオ通話で参加するということになっていた。

 

 現に甚大な被害を受けた東第四泊地の月見は会議の場にはおらず、ビデオ通話での参加である。それ以外にも距離的な問題で集まることが難しい者も例外なく同じように参加していた。

 

 小さく咳ばらいをした後にマイクの電源をオンにして挨拶から始まる。

 

海堂「一同、このような時に臨時会議に参加してくれて感謝する。今回は同時多発テロ事件に深海棲艦の侵攻が重なり、陸海と共にかなりの被害を受けたと報告があった。その中には提督、艦娘もいるという。そのほとんどがテロリストや深海棲艦に立ち向かいそのまま帰らぬ者に。話しの本題に入る前に被災者を弔い、一分間の黙祷を行う。では――」

 

 一度マイクの電源をオフにした海堂が部屋中に響く声で「黙祷」と言う。皆がその言葉を聞きながら目を閉じて、一分間の被害者の冥福を祈るが冷葉だけは違い「芙二が安らかに故郷へ帰れますように」亡き親友の冥福のみを想っていた。

 

海堂「――一同、黙祷止め。では本題に入る。此度の侵攻を起こした首謀者が潜伏場所が判明した。そこはソロモン諸島のサボ島、フロリダ諸島の南方、ガダルカナル島の北方に存在する海域。通称アイアンボトム・サウンドである」

 

 会議室内はざわつく。約百年前に起きた戦争で沈んだ艦や戦闘機が積もりに積もって水底を固めたとされている海域である。

 

 現在もそこを中心に深海棲艦が発生しているとされている場所に首謀者はいると海堂は明言する。会議の本題を聞いてから冷葉は前線志願する気になっていた。自分達の最高戦力で首謀者の首を取ってやる、とやる気に満ちあふれている。

 

 しかし次の言葉でそのやる気は小さく胸の内に潜める事となった。

 

海堂「今回の作戦はこちらから精鋭を絞って部隊へ配属を決める。新人の提督、補佐には各エリアの上官から指示を待つように。くれぐれも復讐などと私欲を優先させるな。その行動は愚人そのものであり、軍人のものではない。なにか質問がある者はいるか」

 

 「質問があります」誰よりも早く挙手をしようとした手前――冷葉の中で『復讐』という二文字が強制される命令のように張り付く。

 その間に誰かが挙手をしたようだ。「この作戦はいつ開始されるのですが」そう質問していた。

 

海堂「作戦開始は一週間後。事前に選ばれた者と艦娘は各地から目的地へ向かうことになる。今は時間が惜しい。後で質問は各エリアの代表に聞いてくれ。この場にいない者は引き続き参加したままで待機だ」

 

 その言葉の後に大鳳から解散の合図が響き、他の者は会議室を後にする。冷葉も青葉も共に外へ出て行く。胸のうちがざわざわして落ち着かない。

 

冷葉「青葉。俺さ、喉乾いたからちょっと自販機行こうと思うから着いて来てくれないか」

 

青葉「えっと――はい。いいですよ。私もちょうど何か飲みたかった気分なんです」

 

 しかし二人は本営に設置してある自販機の位置を知らない。なので職員の方に場所を聞こうと動きかけた時、後ろから声がかかる。振り向くとそこには音宮と漣がいた。音宮は自分の中にある疑問を冷葉へぶつける。

 

音宮「芙二さんが殉職したのは本当ですか?」

冷葉「お、音宮提督殿。それは事実です。あいつ――いえ、芙二提督殿は戦地で殉職したと報告を聞きました」

 

音宮「ふむ。では、どうして東第四泊地の方に彼がいたのか、ご存じですか?」

冷葉「それ、は」

 

 言葉に詰まる。冷葉は推測を口にすることしか出来ないが、あの場に芙二がいた理由をこの人に話すのはダメだと思っていた。それに冷葉も最近起きて川内から事の顛末を聞くまで生きていると思っていたのだから――「分からないです。私はテロ事件が発生した日以降意識を失っていました」と芙二の秘密を隠しながら自らに起きた事実を伝えた。

 

漣「その……青葉さん、冷葉補佐が言っていることは本当なのですか?」

青葉「はい。冷葉補佐はテロリストの攻撃から私を庇い、胸を負傷しました。幸いなことに弾は貫通していましたし、応急処置できる者がいたので助かりました。ですが、その日から意識は戻らず最近まで植物状態に近い状態でした」

 

音宮「では芙二提督殿が泊地を見捨てて一人で戦場で向かったということですか?我々は艦娘と協力して深海棲艦を討つというのに」

冷葉「芙二提督殿が私たちを見捨てるなんて言い方――」

 

 事情を知っている冷葉は音宮の言葉に不快感を覚え、訂正してもらおうとしたがしかしその気が失せてしまう。目の前にいる彼女が眉間に皺を寄せて、下唇を噛んでいる事に気づく。

 

音宮「たかが人間一人でなにが出来ると言うんですかッ!深海棲艦とテロリストが集まり、更には化け物が襲来している地にどうして突っ込んだのですか。今回で多くの候補生が亡くなったというのに、現役の方も亡くし現場復帰できない者もちらほらといるのに」

 

漣「提督。感情的になりすぎですよ。幸いなことに冷葉補佐がいるではないですか。すみませんね。冷葉補佐に青葉さん。提督は可愛い後輩が死んでしまって悲しいんです。言い方がきつかったかもしれませんが、悪意はありませんから提督を憎まないでやってください」

 

 感情的になって胸に秘めていた思いを叫んでいた音宮は秘書艦の漣に連れられて別の場所へ向かった。冷葉は音宮の言葉を聞いてより一層、芙二への疑問が強まる。しかし青葉が「そんな顔しないでください。きっと提督は帰ってきますから、ね?」と沈みかけた冷葉を励ますのだった。

 




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