とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 33話『帰還せず②』

 会議を終え、感情的になった音宮の言葉を反芻しながら帰ろうと思う冷葉と青葉の二名。既にタクシーを手配し終え、現在は待機中である。他地方からの提督と同行艦娘はまばらに帰路につき、比較的近場の者はまだ残って話し合っていた。

 

 内容は様々であり自分達の現状、今作戦への不安、まだ逃走中であるテロリスト首謀者について。その他にも突然の出来事に対しなんとかやっている、という声も聞こえてくる。

 冷葉は青葉に「帰ったら大淀さんへ報告しようか。それから――」続きを話そうとしたとき携帯に着信があり一度会話を断つ。

 

冷葉「もしもし……」

 

神城「こちら東第三鎮守府……神城だ。冷葉補佐、私たちのグループへは参加しているか?していないのであれば――いや今はそういう場合じゃないか。東第一泊地への指示は明日にでも出るだろう。芙二提督殿のことは残念だと思うが今は作戦に集中してほしい。今後は執務室に備え付けてある機械で指示を送る」

 

 送るまで言い切ると少しのあいだ静かになり、通信が安定していないと思った冷葉は「神城提督殿。どうかされたんですか」そう聞いた。

 しかし電話口から蚊の鳴くような声が聞こえてくるだけであって聞き取れない。「もういちど」と言いかけたとき、手配していたタクシーが到着し、通話中の冷葉に変わって青葉が応対している。急に咳ばらいが一つ聞こえ、再び神城は話を続ける。

 

神城「急な仕事が舞い込んできてな、会話の途中だった。申し訳ない……分からないことがあれば、私や音宮提督殿たちを頼ってほしい。強大すぎる者(芙二殿)の恩恵がない今がとても辛い状況なのだろう。導く者はいないが教え寄り添う事はできるからな」

 

冷葉「ありがとうございます。迎えが来ているので、失礼します」

 

 プツと音が鳴り、通話が終了する。携帯をスボンのポッケにしまうと「冷葉補佐。通話は終わりましたか」と青葉が寄ってきてそう言った。少し元気なさげに彼女の顔を見つめる。きょとんとする彼女であったがそれはいつも執務を共にするときの顔つきである。

 

冷葉(そうだ。今は芙二がいない。指揮官である俺がくよくよしてると士気が下がる。青葉だって辛いのに公私分けているじゃないか)

 

青葉「あ、あの冷葉補佐?そんなに見つめられると……私の顔に何か付いてます?」

 

 「いやなにも」と返すが「本当ですか?顔じゃなくて髪に虫や落ち葉でもくっついているのでは?」と聞いてくる。本心をそのまま口にするのは気恥ずかしさがあると思った冷葉は「ただ青葉はいつも可愛いなって思ってただけだよ」そういって待たせているタクシーへ向かい運転手に軽く頭を下げる。

 

 その言葉を聞いた後にまばたきをして「え、ほんとうにどうしたんですか? 一度に心臓を失うだけじゃなくて頭も……?」と心配そうに小さい声で呟く。その後、タクシー内にて冷葉に言葉の真意を聞こうとする青葉であったが、当の本人はまだ本調子ではないのか眠りについており聞くことは叶わなかった。

 

 

 

 

 翌日。十時過ぎに冷葉と青葉は泊地へ戻ったあとに会議の内容を大淀に伝える。彼女は頷きながら、交互に話す二人が終えるのを待った。そこから疑問に感じたことを質問していく。メモを片手に質問の答えを言い、それとは別に作戦内容についても深く考える。自分達に割り振られる役割は何なのか。また連携が必要な場合はどうしたらいいのか、と。

 

 あれこれ考え、ときに休憩を取りながら内容をまとめ、先のことを考える三人。たまに明石も工廠からわざわざ出て来ては「専用装備の開発は順調」と嬉しい報告もしてきていた。資材の事が頭を過るが、芙二が力を貸してくれたお陰で何とか少ない消費でどうにかなっていると聞いて胸をなでおろす冷葉。

 

明石「では私はこれで失礼しますね。また何かあったら、妖精さんに伝言を頼むなり他の方を頼るなりしますので!」

 

冷葉「ありがとな、明石。並みの深海棲艦には負けないだろうし。天候とか運が絡む場合の話は無視で。あとの気がかりと言えば他人に指摘されたときにどうやって返答するか、か?」

 

明石「その辺は適当に説明しておけばいいんですよ。開発していたらたまたま出来た、みたいに。うちで作れるから余所でも作れると思っていた!なんてどうですかね」

 

 それはいいな、と思う冷葉。考え直してからポジティブな思考回路が育ってくる。背けたいと思ってきた現実を見ると言うのは辛いことかもしれないが、今を進み生きる者としての在り方を思い出した。

 

 久しぶりに執務室が和気あいあいとしている。青葉や大淀だけではなく、榛名や龍驤までも話し合いに参加してきた。「少し休憩」そう言って数歩下がって様子を見守る。”あーでもない、こーでもない。それじゃあ逆に”などと自分達が知り得た感覚、学んだ知識を生かそうと動く。そういう彼女らを微笑ましく、また懐かしく感じている。

 

 ほんの一ヶ月、いや二か月前は些細な事も会話していた。それなのに親友がいないこの場所はひどく寂しいものに見えて、目覚めてから近づくのも嫌であった。あの映像を見てからたまに逃げ出してしまいたい、と強く感じる時があっても逃げず、立ち直れたのは艦娘たちのおかげであると確信している。

 

 

冷葉(ちょ~~っと用を済ませた後、気分転換に紫月さんを探して護身用防具でも武器でも作ってもらおうか)

 

 今回の一件で強く感じた冷葉は音を立てないように、邪魔をしないように執務室を後にする。普通に考えて軍服の下に防弾チョッキなんて仕込むのは異常だと思われそうではあるが、次はないということを確信している。最初に自分の命を守れるのは、自分だけしかいない。ならば徹底的にやるしかない。

 

 歩きながらそう思っていた。二階から一階へ降りるべく階段へ向かう途中で元気のない夕立に出会う。

 

冷葉「こんにちは、夕立。どうしてそんなに――」

 

 言葉が続かない。それどころか、顔を見た途端に後退してしまうくらいだ。それに尻もちをつき、見上げる形になる。ぱっと見て白くなっている彼女は叢雲とは違うと思った。事実、深海化はしていないように見える。

 

 度重なる不幸が舞い込んできて立ち直れずメンタルブレイクを起こした人間の表情にそっくりである。人間であれば鬱病の気がある、なんて思われるほどに沈んでいた。艦娘に鬱病があるのかは分からない、なんて野暮なことはナシだ。

 

夕立「……? あ、冷葉補佐。帰って来てた……ぽい?」

冷葉「昨日は一日会議の方に参加していたからね。ところで夕立、深刻そうな顔して何かあったのか」

 

 視線の下にいる冷葉に気が付いたようだ。返事をしながら冷葉はゆっくりと立ち上がる。そして理由を聞いた。冷葉の方が身長が高く、目線を上げながら今まで聞いたことがない声で言った。

 

夕立「さっき時雨の心臓が止まってたの。急いで心肺蘇生を試したんだけど、手の施しようがないって驚いてきた妖精さん達から言われちゃって……明石さんはどこ?入渠させたら目を覚ます?ねえ、教えて。教えてよ

 

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