とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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後半開始


第五章 抵抗せよ、異深奇侵撃 後編
五章 35話『本土近海防衛戦①』


『こっこちら、観測隊五月雨! 急な連絡失礼致します! と、突然深海棲艦が出現しましたっ各自、邀撃準備をお願いします!』

 

 作戦開始から六時間が経ち、艦娘達へ「適度なタイミングで何か食べておけ」と指示をしているときに上の言葉が聞こえる。

 

『そ、それと……!』

 

 しかし彼女は緊張か焦りからかやたら早口であり、また言葉を詰まらせながら必要な情報を伝えようとしていることは理解できた。

 

 

冷葉「――来たかッ!! あ、今言った指示については各々で考えて行動してくれ。工廠にいる夕張へ連絡を!待機組はすぐに出撃準備を。俺の一言でいけるように!」

 

 近くにいた榛名へ伝える。彼女は頷き、指示通りに動く。

 冷葉は特別チャンネルのマイクオフをオンにして、先ほどの五月雨に深海棲艦の進行方向を問おうとする。だがそれよりも先に五月雨の言葉が聞こえ、続きを聞いた者は一斉に引く。

 

 

『しゅ、出現場所は小笠原諸島…沖。一部の深海棲艦が北上してきていると情報が入り――な、なんでっ』

 

『五月雨さん、どうかしたの!?』

 

『し、失礼しました。新しい情報が入りましたっ……北上してきている深海棲艦の中に空母棲鬼、戦艦棲鬼、装甲空母姫、重巡棲姫の4体が確認されましたっ!それにネ級改、レ級など強敵とされる個体も複数確認されてます!!』

 

『うそでしょ……姫や鬼が4体も!?』

 

 ドン引きな月見の反応を無視するように五月雨は続ける。

 

『それと一部が異常に発達した深海棲艦も確認されています。私たちの知らない個体なので十分に注意しながら――』

 

 途中にも関わらずノイズが混じり応答しなくなる。各指揮官がどうした、応答せよ!と言っているのが聞こえる。しかし観測隊の五月雨からは『……あぁそんな』と諦めたニュアンスの言葉が最後、それ以降は応答しなかった。

 

冷葉「失礼します。先輩方に聞きたいことが一つありますが、いいでしょうか」

月見「手短に。観測隊の安否と確認された姫級の消息について考える時間がほしい」

 

冷葉「もしもこちらがダメそうになったら応援要請は出来るのでしょうか」

 

神城「無理だ。先日のテロ事件の傷がまだ塞がってすらいない。新人であろうが、そうならないように采配してくれ。それとやる前からそのような態度は感心しない」

 

冷葉「……了解しました。失礼します」

 

 

 会話を終え再び、マイクをオフにする。

 神城の言葉を聞き終えた冷葉の顔には予想通りだな、という態度であった。そんなこと、いちいち誰かに聞かなくても分かりきっている。

 

 みんな支え合ってこの悪夢を乗り越えようとしている。誰も頼ることは出来ないのならば。

 

冷葉「ふ、奴らを滅ぼしてやる。……いやこの場合は何もかも撃滅、撃退か?もしくは心を、戦意をへし折ってやろうか」

 

川内「ヒュー~~! 冷葉補佐、だいぶキメてるね? 少なくとも私はもっと先まで行くから、そのつもりで。まぁここにいる大半がそうだけど」

 

 いつのまにか隣には完全武装の川内がいた。普段の冷葉では絶対に口にしないであろう、荒々しい言葉遣い。それだけでやる気は充分に伝わる。

 

冷葉「特別チャンネルのマイクはオフにしておけ。第一波が我々の海へ到達する前に手を打つ。今から行うのは本土近海防衛戦という名の蹂躙だ。だが、敵が撤退したとて深追いはするな。罠かもしれない」

 

那珂「そうだね。こちらをわざと追わせて、一網打尽にされちゃうかもしれない。でも命令を破った娘が出たらどうするの?」

 

 その場合は、そうだな……と少し考える。

 那珂がいうような娘は誰もいないと思っていたが万が一、という可能性は捨てきれない。目標を倒し損ねてあと一歩足りない、という場合。その一歩で変わる結果があり、誰か行ってしまうかも。

 

冷葉「近くにいた艦娘の判断に任せよう。しかし必ず二人以上でかつ絶対に撤退が出来るようにしておけ。勝手に死んだら、俺も芙二も赦さないだろう。それこそ、死んで霊体になってからが地獄の始まりかもしれないぞ?」

 

那珂「はいっ!私と同じ水雷戦隊の仲間()たちに言い聞かせておくよ。それでもいうことを聞かなかったら?」

 

冷葉「その時は意識を奪え。自分勝手な判断、行動ひとつで戦況は簡単にひっくり返る。身をもって実感させるのが一番だと思うがそのときは最悪な状況になっている可能性が高い」

 

川内「了解。那珂の言うことは本当に起きちゃうかもね? 提督とほんの2ヶ月?3ヶ月でかなり濃い時間を過ごせたよ。冷葉補佐とも、ね。最近入ってきた娘以外はみんな全力で戦うんじゃないかな」

 

冷葉「そうだな。俺もあいつの思いを継いで進もうと思ってる。川内、那珂。おまえ達もそうだが……艦娘(みんな)の力を貸してくれ。この悪夢を終わらせたい」

 

 二人の顔を交互に見た後、頭を下げる。

 そうやって改めて言われるとは思っていなかった那珂は頭を上げるよう、言う。川内はひとつ溜息を吐きながら「いいよ。貸してあげる」そう言うと上げかけていた冷葉の頭を掴む。

 

冷葉「な、なんだ。川だ――」

 

川内「ねえ冷葉さん。司令官がいないと私たちは充分に力を発揮できないのは重々分かってるでしょ?だから今更頭を下げる必要なんてないの。私たちも司令官と支え合っているんだから。あっ!それと今回は夜戦バカでも許してくれるよね?」

 

 

 驚いている冷葉の目をみていつになく真面目な表情で話した。そして思い出したかのような声を一回出すと掴んでいた手を放して、いつもの川内と変わらない口調で、声色でそんなことを言うのだから強張っていた冷葉の表情も解け「いいぞ。やつらにおまえの、おまえ達の力を思い知らせてやれ!」言葉で右手のにぎり拳を上げた。

 

 

那珂「そうだね。ほんとうに」

 

『冷葉補佐! 緊急連絡を報告します! 東第一泊地の近海に深海棲艦の反応多数あり! 空だけで200。海は400!! これまでに類を見ない規模です! 妖精さんによる偵察機体から送られてきた映像によりますと――敵旗艦は北方水姫!近くにはネ級改やレ級、フラグシップ個体の存在が確認されています! 補佐はこちらにきて指揮をお願い致します』

 

 ブツ、と短いノイズを生じさせながら終了した。

 いよいよもって始まってしまう。

 

 見渡した限りでは川内と那珂は既に部屋の中にはいない。

 

 ならば、まずやることはひとつ。

 

『コホン。冷葉だ。先ほどの緊急放送を耳にして、早く戦いたい、或いはやらなければならないという気持ちが昂っているだろうが一つ聞いてほしい。これは防衛戦だ。決して深追いはするな。だが、勿体ぶらずに持つ力を揮え。決して躊躇う必要はない。それと待機組!出撃を許可する。敵の第一波なぞものともしない活躍を期待しているッ!』

 

 放送を終えた冷葉はマイクをオフにして溜息を吐く。

 

 火蓋は自らの意志で切った。あとは自分の役割を果たすだけ。

 

 既に止まりかけていた戦場を自分の手でもう一度呼び覚まさせる。

 

 

冷葉「さて、俺たちの反撃はここからだ」

 

 窓から見える水平線は穏やかであった。

 そんな海へ向けて宣言するように呟く。

 




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