とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

216 / 388
久しぶりの投稿


五章 36話『本土近海防衛戦②』

サラ「赤城さん、大丈夫ですか?」

 

 敵の出現場所へ向かう途中、突然赤城に声を掛ける。

 

赤城「え、サラトガさん?大丈夫かと言われたら私は大丈夫、としか言えないです。私は、これから自分の責務を果たすだけですので」

 

 サラトガの顔は見ずに、淡々とした口調で返す。少々の沈黙のあと、彼女から「そうですか」と落ち込んでいるような、ちいさな言葉が聞こえた。

 

龍驤「明石から受け取った艦載機、流星改四:一航戦/熟練。ええなぁ専用機体なんて。まっ、うちもうちでええもん貰ったけどな~~」

 

赤城「確か龍驤さんのは飛行甲板と式神の強化でしたっけ。私みたいな空母専用の機体こそないですが、良い装備ではないですか。私もこの作戦後に明石さんに聞いてみたいものですよ」

 

 こう、なんて言いながら海上を走りながらやってみたい動作を見せていた。

 

 天気はよく360度、周囲を見渡せるほどである。穏やかな海、緩やかな海風。その二つが存在するということは現在、自分達がいる場所は非戦闘区域ということだと分かった。

 

 あと数メートルか数十メートルか、正確な距離は分からない。少しでも進んだら現在の環境からおさらばしていつも通りの日常に変わるのだと誰もが思っていた。

 

名取「赤城さんはそういうことしなくても十分お強いではないですか」

 

 と思ったままのことを言葉にしていた。

 

 そう言われるも「矢を発射したときに四つに増えるとかそういうのですよ。そうしたら結構、殲滅力が上がると思うんです」

 

 と実際に矢を引く体勢を取っていた。

 

龍驤「撃ったら拡散する矢、かぁ。そんなことされたらうちらの出番なくなって」

 

 赤城の案にひとり突っ込みを入れている最中、彼女の表情が変わった。偵察中の妖精さんから傍にいる妖精さんへ一本の連絡が入ったからだ。

 

龍驤「ささ、いったん楽しい話はこれで終いね。――みんな、気ィ引き締めてッ! 奴さん、中々な戦力で登場したみたいやで」

 

 彼女が静かに発艦した艦載機が向かう先には――ネ級改二隻を旗艦とする水上部隊が確認できる。ヲ級、ヌ級などの空母が放つ艦載機の機体は白く不吉な赤いオーラを纏っている。敵駆逐も軽巡、重巡、戦艦とそのすべてに共通して言える事があった。

 

名取「なんだか、見たことない形状の武装をしていますね。これはいっそう気をつけた方がよさそうです」

 

霞「そうね。それにしても、動かないわね。不気味なくらいに」

 

「そうですね」とサラトガがひとこと。続けて「私たちの姿が見えているでしょう。それでも動かないのは」そう言いかけた時、全員の無線へ一本の連絡が入る。

 

『我、敵艦隊を発見。これより爆撃を開始する』

 

 第一艦隊の頭上を追い越す影があった。おおよその数は把握できなかったが、視界に入った数だけでも二十はいただろう。艦娘が扱う艦載機よりも二回り大きな艦載機が敵に向かって直進していく。

 

 誰かが声を発するよりも前に――視界は途端に眩い白へ変わり、謎の硬直が解けた赤城たちは刺すような光に対し、目蓋を閉じるしかない。そして来るであろう衝撃に耐える体勢をとった。

 

 直後、痛みに叫ぶ複数の声と爆発音が響く。百メートル以上離れているのにも関わらず、焦げる臭いが混じった熱風が頬に伝わる。

 

 

 

赤城「……今の無線は支援でしょうか」

龍驤「そうかもしれへんけど、なぁ。ってえぇ!? ネ級たちが全滅しとる!」

 

 赤城の呟きに反応した龍驤がふと敵艦隊がいた方へ目をやるとそこには焼けた(むくろ)しか残されておらず、先ほどの航空部隊によって全滅していたのである。

 

 それとして既に航空部隊はおらず、一瞬で壊滅させられていたネ級たちの脇をゆっくりと通過していた。二十以上の骸はあっという間に空気の抜けた風船のようにしぼみ、海底へ沈んでいく。

 

名取「あの航空部隊は、うちの基地航空隊でしょうか」

龍驤「どこもみんな大変な事になってるって言うてたし、そう考えるのが妥当やない?」

 

霞「まぁそうよね。基地航空隊の爆撃で、ああはならないでしょう」

 

 半分以上沈んでいる深海棲艦の骸に指を差す。見れば見るほど、理解できない状態に仕上がっていた。深海棲艦同士でくっついている所もあれば、身に着けている砲と顔、上半身が融合している個体もいる。

 

霞「あまり見ない方がいいわ。このまま見ていたら気持ち悪くなりそう」

 

如月「それが正解だと思う。それに随時、送られてくる情報によれば、もう少し行ったら北方水姫がいるとされている海域に到着よ。ここで気を引き締めないと命を落としかねない、と思うの」

 

赤城「はい。如月さんの言うとおり、情報を確認し直した方がいいかもしれないです。龍驤さん、サラトガさんは索敵をお願いします。これから再度、前方を警戒しながら進みます」

 

 「名取さんたちは電探に敵影が映ったらすぐに報告をお願いします」と指示をする。

 

 3人からは揃った返事があり、その様子をみて少し緊張が解れたのを感じた。しかし警戒レベルを元に戻し、速度を変えず進む。

 

 出撃から2時間が経った時点でようやく北方水姫がいるとされている海域へ突入した。それは何も知らない民間人でも理解できるほどだ。

 

 海域へ足を進めた瞬間、これまでとは一変、景色が変わった。太陽は月と変じ、しかし夜が始まるわけでもなく。

 結果、空は青から赤へ変わり、海も赤く変わっている。赤い輝きを放つ月光が反射して、ではなく海水の色が赤いのだ。

 

霞「不気味ね。ここまで変わるなんて――別の世界が隣にあるみたい」

名取「あながち間違ってないと思いますよ。私たちがどこに進もうと関係なく、戦闘は始まります」

 

龍驤「うちら、かなり歓迎されているん?あ、ふざけてるわけちゃうよ。コホン、まぁサラトガの言葉とおりっちゃな。ここらだけ深海棲艦の密度がおかしいことになってる」

 

 その言葉に全員が頷く。

 

龍驤「うちらの存在をもう勘づいていると思うのに、攻撃してこないんは舐めとるって捉えてもええよね」

霞「ま、向こうの方が圧倒的に優位だし?あとは――こちらの動き次第、と言ったところかしら」

 

赤城「皆さん。戦闘は避けて通れない道ですが、私たちの役割は北方水姫の正確な座標を泊地の冷葉補佐がいるところへ送るということを忘れないで下さい。その後は、後方部隊に任せて戻りましょう」

 

 赤城の頭上を緑色の艦載機が駆け抜ける。そのあとに続いて、艦載機の数は増えていく。

 

 艦載機を操縦する妖精さんの目には、白い髑髏のような艦載機が複数迫ってきていた。

 戦闘は既に始まっている。全員、赤城の言葉を胸の内で何度も復唱しながら自分のやるべきことに意識を切り替える。

 

 

『……なぁんだ。あの怪物は来ていないのか。たかだか艦娘6体に対して、私が出向く必要なかったな』

 

 部下から報告を受けた北方水姫は残念そうに呟く。

 北方棲姫に深手を与え、かの巨龍を屠った怪物と戦ってみたかっただけあってひどく落胆する態度をしていた。

 

『とはいえ、ね。艦娘も人間も、おろすことはできるから。その材料にはしてあげようかな』

 

 不吉な事を言いながら、嗤う。 




一ヶ月ぶりですね。
間が開かないように少しずつ書いて行こうと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。