とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 37話『本土近海防衛戦③』

赤城「きゃあっ……くぅぅう」

 

 敵駆逐の砲撃が直撃する。

 戦闘開始から数時間が既に経過しているのにも関わらず、次から次へと出現する。倒してもキリがないと焦り始めたときの攻撃はいとも簡単にあたる。

 

 赤城の悲鳴と同時に艤装へ亀裂が入った。

 

如月「赤城さん! あぁッ 明石さんから渡されたアレを持って来ていたら――邪魔をしないで!」

 

 如月は目の前に迫りくる駆逐の頭を吹き飛ばして、赤城の方を見る。

 黒く焦げた艤装を見て、小さく舌打ちをする。

 

 空母にとって飛行甲板の損壊は致命的である。そして赤城とは目と鼻の先の距離であり、カバーできないことを責めた。

 'アレ'――出撃直前で渡された自身の専用装備を持っていかない選択をしたことを悔いる。

 

龍驤「如月ッ! いま悔いとる場合ちゃうやろがッ」

 

 龍驤の言葉によって如月はすぐに切り替えできた。無線機へ向けて「ありがとうございます」

 と、短く感謝を伝える。

 

『あれらを処理できなかったのは私です。だから被弾したのは自分の責任ですから、如月さんは気を落とさないで』

 

 と、無線機越しの赤城の声は優しく宥めるようであった。

 

『皆さん! 私から見て三時の方向に異変が発生してます!』

 

 無線機から戦闘が始まり、すぐに分断されたはずの名取の声が聞こえる。その声を聞けてホッと安心したのも束の間。

 

『水平線を埋め尽くすほどの無数の深海棲艦が左右に分かれて――あっあれはっ』

 

 少々、雑音によって聞き取りにくいが目的が出現したと知らせるには充分であった。確認できる姿、形を目にした名取は知らせようと大きな声を上げかけるも、制止を余儀なくされる。

 

『はい。あなたはここでお終い。』 

 

 突然、彼女のものではない声が割り込むように入る。内容は最後まで伝えられることなく、通信は終えた。直後全員、彼女の身に何か起きたことを把握したが壁のように阻む深海棲艦を越える事は出来ずにいる。だが、砲先がこちらに向いているだけで動きは止まっていた。

 

 

 空、海の色は相変わらず不気味である。不気味さといえば(そと)(なか)から濡れ、照らされ黒々とした光沢を放つ深海棲艦。

 自分の強さを示すように各々で違う色を灯した眼が光り続ける様子はいっそう恐怖を与える。

 そして数が一や二ではないことが、かなり消耗している赤城たちにとっては絶望と変わらない。

 

 急な通信のすぐ後に異変はますます実感できる形へと現れる。

 

 

如月「攻撃が、止まった?」

霞「そうね。急に収まったわ。さっきの名取さんからの無線……嫌な予感がする」

 

『深海棲艦が急に離れていく――目的を捕捉。現在の位置を送信、完了。皆さん、今のうちに撤退しましょう』

 

 少し姿が見えただけであるが、サラが役目(しごと)をやり遂げる。攻撃が止んでも偵察機を飛ばしていたことが成功した瞬間である。

 

『させるわけがないだろう?たった六隻で私の艦隊に立ち向かうということが愚かだということをまだ実感していなかったか?』

 

 ドン、と砲を撃つ音が何十と重なり海上に響く。

 不意の大きな音に驚き、首を竦める如月と龍驤。

 

 発生源の方を向くとそこにはネ級改やレ級、ヌ級、ナ級といった普段相手にしない個体から戦艦棲姫や装甲空母姫、離島棲鬼と姫や鬼も見られる。

 

 その中央には白い深海棲艦――北方水姫と思われる個体がおり、その表情は憐れむようであった。

 

『さぁ、さぁ。艦娘の――東第一泊地の方々。私からの警告だ。すぐに帰るのは辞めた方がいい。それと今の私には攻撃をするという意思がない。のにも関わらず、攻撃してきたら……結果は分かっているだろう?』

 

 北方水姫が右手を上げると鬼、姫を除くすべての砲先が向けられる。中には装填を済ませる音も聞こえる。

 それも前方だけではなく、左右、後方からも聞こえてくる。ほんの瞬きをする間で包囲されてしまったことを意味していた。

 

 状況を理解した艦娘を見た後は満足そうな態度で手を降ろす。

 

龍驤「赤城、これじゃあ撤退することが」

赤城「大丈夫です。既にサラトガさんが位置情報を伝えています。一時間か二時間後には応援が来るでしょう。それまで耐えることが出来れば」

 

『応援、ねえ。ふふふ、本当に情報が伝えられていると思っているの?』

 

 小さな声で会話していたが、北方水姫が割り込んで馬鹿にするような態度をしている。

 

霞「何が言いたいの!」

 

『正確な情報は基地との連絡をする上、必要不可欠であることは分かるよな?そして、ここは海上。それも異常な現象が常にある場所。この意味が分かるか?』

 

サラ「そんなことはありません。ちゃんと応答する声が聞こえました。肯定する言葉も」

 

 何かに気が付いたのか、途中で口を閉じてしまう。

 

 小さな声で

 「情報がうまく伝えられてない?」

 「いやそんなことはないはず」

 「別の座標を送ってしまったの?」

 

 そんなことを繰り返し始めてしまった。

 

『あーあ。一人脱落、か。はぁーあ、まっどうでもいいんだけどさ。意味が分かろうと分からなかろうと』

 

 青い顔をしたまま自問自答を繰り返すサラトガ。その様子を見て鼻で嗤う。赤城や龍驤が何か伝えようにもその言葉は届かない。

 それどころか少しずつ深海化の兆候が出始めていることが信じられなかった。

 

『あれ?その様子は……なんだ、オロす必要もなかったか。それじゃあ次はこれだな』

 

 あどけない少女のような笑みを浮かべながらパン、と手を叩く。

 

 赤城たちと北方水姫のあいだに大きな影が水中へ出現し、海上へ這い出た。

 それは輸送ワ級である。小型の個体が二隻、通常よりも二回り大きな個体が一隻。

 

 ”黒い球体の艤装から人に似た上半身が生えるという妊婦のような姿をしており、

  顔にあたる部分はキノコの傘を思わせるヘルメット状の被り物に覆われている。”

 

 資料の説明はそうである。しかし眼前で見るワ級は異なる部分がある。

 

霞「小さな方は腹部が少し透けて……何か入っている? あれは人?人型の個体?」

赤城「逆に大きな方は……名取さん!? どうして彼女が――いやまさかッ!」

 

 赤城の言葉により深海化しかけていたサラトガも正気に戻る。確認と同時に囚われている彼女を救おうと無意識に艦載機を発艦させようとしていた。

 

『その行動は褒められたものではないな。このとおり』

 

 再度右手を上げ、許可を出した。

 サラトガが「発艦」この二文字を口にする前に砲弾は四方から飛んできて、彼女を確実に負傷させる。小さな悲鳴と大きな爆発音が木霊する。近くにいた霞と如月の鼻先を焦げた肉や血の臭いが混じった海風が撫でた。

 

霞「あんたを――殺すわ。数が何よ、そんなものッ」

『ふむ。そうやって啖呵を切るのはいいが、数秒前を繰り返すほど愚かなのか? そしてこれから私だけを睨んでいられる余裕があると思うなよ?』

 

 怒り心頭の霞を無視して、待機させていた姫や鬼を下げる。それどころかほとんどの戦力を下げ始めた。自分達にはそこまでの価値がない、それを証明されている気分にさせられる。

 今にも攻撃したいほど腸が煮えくり返る思いだ。

 

 一人の行動で皆が危険を被る可能性がまだ高い状態にあった。ほとんどを下げたと言えど赤城たちの周囲を囲むほどの数は残っていたからだ。

 

『……待たせて申し訳ない。ちゃんと'待て'が出来る知能があったか。それか、あの怪物に躾けられたか。そんなことはどうでもいいな。まずは一人目』

 

 馬鹿にした態度をしながら再び手を叩く。

 

 小型のワ級の膨れていた腹がしぼみ始める。それは消化活動に思えた。

 なかの人型は形を失ったようで透けた腹からは薄黄色の液体が見える。

 

『栄養は確保できたな。次でオロそう』

 

 栄養?オロす?

 

 少し愉しそうな北方水姫が何を言っているのか、分からない赤城たち。

 

 もう一隻の腹がしぼみ始めたときだ。内容物が激しく動き始める。

 その行動は腹を裂いて、出てこようとしている風に見えた。

 

『あちゃ~……目が覚めたか?』

 

 肩を竦めた瞬間、ワ級の腹から二本、手が生える。

 そして乱暴に腹を裂いて、全裸の女が出てきたのだ。

 

 ゲホゲホと噎せている。ワ級の上に座り、何度か嘔吐しているようであった。

 腹を裂かれたワ級は死んだようにぴくりとも動かない。

 

龍驤「民間人……?」

如月「あの人を保護しないと」

 

赤城「それじゃあ――さっき溶かされた人型の正体は」

 

 艦娘の声に気が付いた女の表情に希望が灯る。

 すぐ隣には死ニ神がいるというのに。

 

 

 

 助けて

 

 

 

 ほんとうに小さなひと言。

 四文字を耳にする前でも、口が動いたら弾かれるように動き出した赤城たち。

 

 北方水姫は粛清の行動は出さず、眺めていた。

 待機状態の部下は静かに装填を済ませる。

 

赤城(北方水姫が右手を上げない……!今なら保護できる。私はその後の行動を予測して)

 

 亀裂の入った艤装から専用機体を飛ばして、逃げる時間を稼ごうとする。

 

 一番に駆け寄った如月の左手と女性の右手を握った。

 

 ザシュ

 

 何処からか何かを切断する音が聞こえたかと思えば、後ろへ押されるように尻もちをつく。

 そして信じられないことを目の当たりにする。目の前の女性の右腕に自身の左腕がついていた。

 

『あ~~と少しだったね。惜しい、惜しい。でももう一本腕はあるから、まだチャレンジできるね!あなた以外もいれると……あと九つだね』

 

 悲鳴を上げる間もなく、失ったショックにより嘔吐する如月だが立てずに、そのまま横向きに倒れた。その様子を見て溜息を吐いて、呆れるといった態度をする北方水姫。

 

 すぐに霞や龍驤が如月の元へ駆け寄り声をかけるも反応がない。

 

『ハハ。本当に惜しかったけど、これからだ』

 

 小型のワ級の腰から無数の触手が出て、女を捕らえた。

 そのまま丸呑みして、最初の液体の中に落ちる。

 最初と同じく腹がしぼまるとそこからほんの十数秒で静かになった。

 

龍驤「こンの外道がぁ……!」

 

『希望を打ち砕かれる瞬間を想像したけど、イマイチだった。腕じゃなくて胴体真っ二つを期待していたのだが』

 

 憎悪が心を支配しそうになる。

 赤城、サラトガは怪我をものともしない動きを見せる。

 

『そうさせたいのは山々だが、もう完成するのだ!だから、それらの相手をするといい。ただの艦娘である君たちでは、決して傷もつけられないだろう』

 

 その言葉が終わると同時にワ級の腹を裂いて、黒い影が出現する。

 

 これまでの深海棲艦のどれにも当てはまらない――そんな個体であった。




今年終わる前に完結させよう。
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