とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 38話『本土近海防衛戦④』

 同日 十六時〇七分

 

 時は少し遡り、泊地母港付近の海上にて。

 

磯波「おかしいですね。赤城さん達からなにも連絡が来ません。これは……」

皐月「何かあった、そう捉えるべきだよね」

 

 迫りくる艦載機をある程度だが、撃墜させることに成功した。しかし撃ち漏らしによる攻撃は損害を与えると誰もが思い、建物の方へ向きを変える。

 

夕張「えぇっ?! 艦載機が爆発していく……まさか自爆特攻?!」

 

『いやそうではなさそうだ』

 

 

 母港で赤城たちを待っていた那珂達、第三水雷戦隊の無線機から唐突に冷葉の声が聞こえる。

 皆、驚くも、自分達の考えを否定する冷葉の言葉が気になっていた。

 

『こちらからでも確認は出来たから、ついな。撃ち漏らしは仕方ない。なにせ艦娘の数が足りていないからな。っと、そうじゃなかった』

 

 コホン。一回、咳ばらいする。

 

 『艦載機が爆発する瞬間を見てくれ』

 

 と、一言告げると無線は終了してしまい冷葉の言葉が何を意味するのか、真意が分からずじまいであった。

 

秋雲「冷葉補佐はいったい何をいって……クソッごめん! 数機落とせなかった!カバーしたいけど装填が間に合わな…」 

 

 先ほどの無線機からの一言が理解できた瞬間である。秋雲よりも遥か上空にある艦載機が見えない壁にぶつかったように鈍い音を立てる。

 

秋雲「えっ」

 

 ほんとうに短い驚き。

 言葉ひとつ短く、本人が呟いたこともすぐに忘れるほど。

 

 見えない壁に数機がぶつかり、途端に爆ぜる。そこには何もないというのに。

 秋雲が撃ち漏らしたはずの機体はあっという間に小さな鉄屑へと姿を変えて落下していく。

 

磯波「あれは……透明なドーム?一瞬しか見えなかったですけど、かなりの範囲を包んでいそうな感じでしたよね?」

叢雲「……いなくなってなお、こうして見せてくれるのね、提督」

 

 今無き提督である芙二の張ったものが作用しているおり、鉄壁のバリアを形成していた。

 もっとも鉄の壁どころではないが。例え爆弾を落とされようと惑星が滅びる一撃を受けても傷はつかない。術を施した者が生きている限り、であるが。

 

那珂「冷葉補佐の言葉が理解できたよ。本当に何でもできる人だったんだね、提督。あーあ、私たちは惜しい人を喪った。……そのツケは支払わせてやるんだから!」

 

 その言葉は空中で溶けるように消えた。引き続き警戒をしている第三水雷戦隊である。

 

 

 あれから四十分が経過したが、一向に電探には引っ掛からない。あちらも最後の艦載機であったのだろうか、と思ったのも束の間。

 

磯波「あっ! す、水中から反応! 数はにじゅう……ご! ですが、反応からしてワ級だと考えられますがどうしますか」

 

『殲滅だ。奴らに補給なぞさせて堪るか。赤城たち機動部隊の捜索班は既に結成しているが、如何せん数が足りていない状況だ。ワ級を殲滅後は自分達の状況を確認後、直ちに向かってくれ』

 

 左右上下といったバラバラな返事が海上に響く。

 非戦闘区域になりつつある場所の空気を変える存在が出現するのは時間の問題であった。

 

『いい返事だ。補給が必要な場合や負傷している場合は即撤退だ。一人だと急なことに対応できない可能性がある。だからもう一人付き添いを付けてから来い。妖精さんと明石が待機しているからな。俺からは以上だ。何か他にある者は遠慮なく言ってほしい』

 

 そのあとは少しだけ艦隊の雰囲気は静まり、何かを考えているみたいだと冷葉は捉えていた。

 無理に、と言いかけたとき叢雲がいつも以上に声を上げて疑問を吐き出す。

 

叢雲「あの痛ましい事件のとき、皐月が上げていた報告書を見たの。そこには稀に異常な個体が出現するとあった。それと遭遇した場合はどうしたらいいかしら?」

 

『俺もそれには今回、一番目を通している。そうだな、その場合は……いや関係ないか。もしかしたら言葉巧みに油断を誘うかもしれないが、無情、無慈悲に撃滅しろ。弾や燃料の消費を最低限にしたらなおいい。俺の回答はどうだ?』

 

叢雲「充分よ」

 

 叢雲の回答に対して何も言うことなく、咳ばらいを一回する。そして少しトーン下げた声で『武運を祈る』そういうと無線は終了した。

 

 

 水面にいくつも黒い影ができはじめる。

 一同は緊張しつつも装填を済ませ、首を出した直後に吹き飛ばす算段でいた。

 

那珂「出てくるよ! みんな、射げ――いや避けて!」

 

 那珂の合図で一斉に撃ち始める手筈だったが、それは叶わない。水面へワ級の頭が出てくると同時に蛸のような吸盤を持つ触手が襲ってきたからだ。

 

那珂「ワ級が触手を持つなんて聞いたことがないよ……捕まってたら引きずり込まれていたかも」

 

 ずるずると音を立てながら戻っていく様子を見ていたら、唐突に仲間の悲鳴が聞こえ、その方向を向くと夕張が拘束されていた。

 

 本人は「うわ、わ! 捕まっちゃった……ひゃんっ!? も、も~!どこを触っているのよ~!」とテカリ輝く触手と抗戦していたが。

 

那珂「夕張さん! 今すぐ、助けに……こんなときに邪魔をしてくるなんて」

 

 那珂のすぐ後ろを砲撃してくるのは先ほどの触手を伸ばしてきたワ級。その目的は攻撃よりも那珂の注意を引き付ける為の行動であると確信させる。

 だが一度の視認だけで一隻だけではなく十隻以上、この戦場には存在するという点は眉間に皺を寄せて、舌打ちをした。

 

那珂「夕張さん! もう少しだけ粘って!」

 

 目線を眼前の個体へ向ける。その個体はいつも目撃するものよりも腹部が膨張していて自分よりもひと回りいくか、いかないかの大きさであった。

 腹部は半透明で身籠っているのか黒い赤ん坊のようなシルエットが見え隠れしている。

 

 砲門をワ級の腹部に向け、撃つ。

 微動だにしないワ級に砲弾は直撃し、その体は炎に包まれ始める。

 

長波「報告されていたものとは異なるけど、あの触手だけが異常なところかな?」

 

 やがて炎はワ級を焦がし、燃やす。周囲でも似たような音と臭いが立ち込め始めたので、見渡すと那珂だけではなく他の仲間も砲撃してターゲットを倒していた。

 

 ’補給艦を撃破して相手の補給路を断つ’

 

 その目的は達成されたというのに電探に映る数は一向に減らない。燃えカス同然の死体と電探を交互に見ていた、そのとき。

 

 

 

 パンパンに空気が入った袋を裂くような音と共に黒い影が出現したのだ。

 その形はすべてが異なり、またすべてが歪である。

 

皐月「なに、あれ」

長波「いやいや!私にもさっぱりだって! あんなの見たことも聞いたこともないよ」

 

 駆逐イ級の胴体ムキムキの手足が生え、二足歩行の個体もいればイ級のような頭を持つ個体もいた。そのほかには角の生えた者、銛のような尾をもつ者、両手が主砲と融合している者など。

 これまでの記憶を上書きするレベルのモノがほぼ同時に出現した。

 

『あうぅう』

『おおうぇえ』

 

 言葉にならない声を呻きながら、ゆっくりと艦娘の元へ近づく。

 問うまでもなく皆、一斉に距離をとる。

 向こうが一歩進めば、こちらも一歩下がるというように。

 

那珂「! そ、そうだ、夕張さんは――」

 

叢雲「……ふぅ。ギリギリ、なんとかなったわ。ただ艤装を無理矢理剥がされているから、少し損傷しているわ」

 

 叢雲に担がれながらであるが、夕張が確認できた。彼女の説明通り、夕張の表情は痛みに歪んでいる。あの一瞬で服も装備も溶かされ、奪われていた。

 皆が気を取られている間に夕張を救出していなかったらどうなっていたかなど、考えるだけで恐ろしい。

 

那珂「叢雲ちゃんの方のワ級はどうしたの? 今進んできている個体がでてきたの?」

 

叢雲「出てくる前に潰したわ。ワ級の首を引き千切った後でも電探の反応が消えないから、動かなくなっても無駄に膨らんだ腹を裂いてソレごと潰したわ」

 

 那珂が驚くのを気にも留めないように続けて『だから私は夕張さんを助けれた。頭を潰せばおかしなのも出てこないでしょう?機能する脳がないのだから』

 と、説明する。

 

叢雲「――そんなことはいいの。夕張さんはもう戦えない。誰かに預けて戦うか、そのまま帰投するか。すぐに決めて。それと今の私でしか、あれらの相手は出来ないでしょうから。あ、戦力外とかじゃなくて私が戦うのが最適解ということよ」

 

那珂「分かった。私は夕張さんを連れて、戻るわ。距離が遠くないから戻れると思うし、応援も呼んで来れると思うの」

 

 叢雲は申し訳ない顔をしながら那珂にお礼をする。

 那珂は「いいよ、一番動けるし戦力になるのはまだいるから、その()たちと共にお願い!」そう言い残し、あまり動けない夕張を連れて戻った。

 

 二人の姿が見えなくなると、叢雲は向き直る。すぐ近くには残ってくれた仲間が。四、五十メートル先には異形がいた。連中は不思議な事に動きを止めており、こちらの様子を伺っているようだ。

 

叢雲「生れたばかりだから分からないのかしら?」

皐月「そうかもしれないね。攻撃してこなかったのはこちらにとって良いこと。それもここまでだけどね」

 

 二人の後ろへ深海化した叢雲が歩み寄る。

 彼女の右目には静かに青い光が宿る。

 

叢雲「皐月の言う通りよ、もうここまで。この先は命のやり取りでしかモノの価値を証明できない戦場へ変わる。とっとと片付けるわよ」

 

 ――それは陽炎のようにゆらめき、周囲へ緊張感をもたらせた。

 

 




久しぶりの投稿。
執筆、投稿が義務になりつつある。
義務になっちゃうと楽しく書けないんだよなぁ
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