とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 41話『(ふち)落ちる、艦娘の夢』

叢雲「あら?どこよ、ここ」

 

 叢雲が目を覚ますとそこは暗い空間であった。何かないかと探りで布団の上にいることを知り、また足元にあるのは掛布団だということも。次は身体を触り、そのままの格好をしていることを知る。

 

 そして目を瞑った所までは覚えていて、戦闘後の疲れからかいつのまにか眠ってしまい、夕立たちのうち誰かに泊地へ送ってきてもらったのかと考えていた中で部屋内が急に明るくなった。

 

叢雲「ぅわ!……誰か居るなら、先に声をかけなさい。あと今は何時か誰かおしえてちょうだい」

 

 しかし返答はない。

 叢雲の言葉に返事をする者はおらず、苛立った様子で布団をどかす。

 ゆっくり上体を起こしたときに気づく。

 

叢雲「――って誰もいないわね。そもそもここは泊地なのかしら……?」

 

 部屋中を見渡しながら、自分がいる場所は知るところなのか、探り始めた。

 壁は白く、床には畳が敷かれており、自分の真後ろには緑色の襖があるだけ。

 

 それ以外には何もない。

 机も棚も。自分が寝ていた布団には枕さえも。

 

叢雲「もしかしてここは泊地じゃない?私が知っている限りじゃ、こんな部屋はないし」

 

 その事実を認識すると心臓がどきりとした。

 今の自分は丸腰で反抗できる手段がほぼない。

 肉体も疲弊しきっていて、まともに動けないだろうし、何よりも視界が少しぼやけている。

 

 まいった。ほんとうに。

 

 深海棲艦の基地か何かだったら――そう思うと身体が小刻みに震え始めた。

 しかし逃げるなら、今チャンスだと思った。何故ならここには自分以外誰もいない。ここが深海棲艦の基地だろうが、自身を攫った組織の住処であったとしても。

 

叢雲「とりあえず、そこの襖を開けて外へ」

 

 襖を開けて敵とエンカウント、なんてオチはやめてほしい。 

 人間なら相手が出来ても深海棲艦であったら、抵抗できない。

 

 うだうだ考えても意味がない。

 時間が惜しい気がしてきた叢雲は布団から出ると立ち上がり、襖を開ける。

 

 視界の先は闇である。

 今いる部屋と対称的に見え、光を吸収する闇が広がっており、安心させる情報がひとつもない。

 

叢雲「真っ暗ね。廊下にしては窓が一つもない。ここは地下の通路なのかしら? とりあえず、足元に気を付けながら進みましょう」

 

 

 明るい部屋を出て、闇の中へ足を入れる。

 相変わらずの闇。次第に夜目が利いてきてこの闇の中を理解できる、そんなことを望むときもあった。しかし一向に何も見えない。

 このまま歩いていると自分がどこへ向かっているか、ちっとも分からなくて不安感が強くなってくる。 

 

 既に左右が分からない。だが上下の感覚はある。

 歩行、その行為が叢雲の精神を狂わせずにいた。

 

叢雲「終わりが見えない。もしかして、この先は地獄へ繋がっている?私たちは戦争で命を奪っている。本当に地獄へ向かっているのだとしたら……。ふ、艦娘も深海棲艦も例外なく地獄へ舵を切る羽目になるわね」 

 

 仮に違ったとしても、滑稽極まりないとこの状況を嗤う。

 

 決して歩き疲れる事はない。それでも歩みは止まる。

 ふと自分がいなくなっても、大丈夫であろうか。その悩みを考えてしまう。

 

 深海棲艦への抵抗は大丈夫。今の今まで、抵抗出来てきたのだから。

 大丈夫。きっと、大丈夫。

 

叢雲「――無理ね。なんか知らないけれどバランス崩れてきているもの。確か深海棲艦って怨念などが集まり、それぞれのイメージを得て誕生している、そんなだったと思うけど」

 

 しかし人間をベースにして深海棲艦の力を取り込ませてしまったら艦娘と同等の化け物が出来てしまった。いやそれ以上の化け物というべきか。

 下手したら鬼や姫よりも強くなるかもしれない。

 

 そして言い方が悪いかもしれないが、とてもコスパがいい。

 人間を滅ぼしたい側の深海棲艦陣営にとってはこの上なく都合もコスパもいい手段を得られた、と今考えれば強く思う。

 

 適当な人間を攫って、改造してまた陸へ放り込んだら良い結果を得られるだろう。多少のリスクもあるが、それ以上のリターンを得られるなんて考えれば――いや自分はなにを考えているのだ。とツッコミをいれた。

 

叢雲「……自害をするべきかしら」

 

 深海化が進行してきているからか、思考が邪悪なものへと知らずのうちに変化してきている。

 ひとつ溜息を吐きながら、再び歩こうとした時、自身の足元から微かな光源が出現する。

 

 蛍のような優しくも儚い光。

 それらは一つではなくいくつも現れる。

 

 あ、と無意識の呟きが出た。自身の行く先を示している、そう感じていたと同時に小さな光源を掴もうと手を伸ばしていたようだ。

 

 叢雲の指先とその光源が触れたとき、それは眩い光を発して叢雲ごと周囲を包んだ。

 

 そして気が付くと花畑にいた。

 自分の知らない色とりどりの花が咲いている、そんな空間であった。

 

 

 深海神域 忘却の花畑

  

 

時雨「そしたら、提督ってばさ」

 

 花を掻き分けて進んだ先で知り合いが楽しそうに丸いテーブルを囲み、他人と雑談をしていた。

 かつて泊地で共に過ごし、敵と戦い、傷ついた艦娘。

 夏の始まり頃に、失われつつあった命。

 そして最近、歩みを止めた命。

 

叢雲「時雨……なの?」

 

 驚きのあまりその名前を呼んでしまう。

 叢雲の言葉を聞いた途端、楽しそうな会話は終わり、視線は一点に集中する。

 

時雨「叢雲? どうして、ここに?」

 

 そう呟く時雨を一瞥したミアは再び、叢雲に視線を戻して頭を傾げる。

 同じく叢雲を一目見たエルナだったが、苦い表情をしたまま左手親指の爪を噛む。

 

叢雲「時雨っ」

 

 叢雲は真っ直ぐに走り出す。

 その表情には涙が流れていた。

 互いが触れ合う距離になっている頃には深海化する前の姿に戻っていた。

 

時雨「ほんとうにどうして、君がここに……」

叢雲「それは私が知りたいわっ!泊地で眠っていたあんたはもう死んじゃった。呼吸も心臓も停止したから会えないかと思ったじゃない」

 

時雨「え、僕の身体もうダメになってたの? それは困ったなぁ……どうやって戻ろう」

叢雲「うん? もしかして戻れるの? ここは地獄とか極楽浄土とか、そういうところじゃないの?!」

 

 泊地にある肉体が崩壊しつつある時雨とは思えないセリフだ。

 てっきり叢雲は一度死んだのだから、次はないと思っていての反応だった。

 

 例外が存在するのは知っている。

 だが、その例外も既に失われているから上の発言が理解できないでいた。

 

時雨「違うよ。ここは地獄でも極楽浄土でもない。ここは――あっエルナさん、教えてもいい?」

 

 構わない、と一言。

 ありがとう、そう返事をした時雨は叢雲に現在地を教える。

 

時雨「ここは深海神域。そこにいる赤いドレスの人はミアさん。僕が旧駆逐神棲姫、なんて言われたキッカケをつくった人物。そして提督のおかげで艦娘として力を取り戻せたんだけど、後遺症が残ったよ」

 

 後遺症?と叢雲は聞く。

 

時雨「そう。まぁ静電気を少しだけ扱うチカラ。ちゃんと当てたら敵の艤装ごと爆破させられたり、痺れさせたりできるかな。それでもだいたいは自爆特攻になっちゃう」

 

 静電気だけでそんなにいくの?

 と、また聞き返す叢雲。

 

時雨「静電気って溜まると一瞬だけど小さな火花と共に放電するの。でまぁ火災なんかが起きたりするわけで。それに僕の身体は静電気を溜め込みやすいらしい。少しずつ扱えるようになっているから、実戦でまともに仕えたら有利になるよね」

 

叢雲「それは便利そうだけど……話が逸れたわね。黒いドレスをきた人の名前はなんていうの?」

 

時雨「あの人はエルナ。死ぬ直前だった提督を救った命の恩人。そして人智を越えた力を付与した代わりに深海棲艦を救ってあげてほしいと提督に言った人物さ」

 

 叢雲の視線はエルナへ向く。

 数秒間、見つめた後にエルナが『如何にも。もうずいぶん前の話だがな』と言った。

 

叢雲「そう。そんな昔に……それじゃあ提督が人間だった頃の話ということかしら」

時雨「え? 叢雲知っていたの?」

 

叢雲「着任して、七日目か八日目の夜に教えてもらったと思ったのだけど。ここに来るまでの内容が濃すぎて朧気なのよね」

時雨「そっか、それじゃあエルナさんから聞いたことを話してあげる」

 

 叢雲と時雨は青い草の生い茂った地面へ座り、談笑を始めた。

 

 少し離れたところにいた二人。

 その様子をみてエルナは溜息を吐く。

 ミアにはエルナの機嫌が悪い様に見え、その理由を聞いた。

 

エルナ「いやな縁が結ばれたものだ」

ミア「縁? 叢雲っていう艦娘と時雨が、か?」

 

エルナ「そうではない。私とあの娘との縁だ。彼女の魂の在り方を見て、深海化していたのは分かる。芙二が抑える為に能力を使用したのだろう。だが……」

ミア「言い切る前に話に割り込むぞ。その方式だと、あいつが能力を使用して助けた艦娘全員が嫌でもエルナと縁を結ぶことになるだろ。あったとしても、ここに来ることなど滅多とない筈だ」

 

エルナ「そうだ。普通はそれで合っている。しかしここに来たということは――芙二の能力行使とやつの思いが強すぎた結果とも言えるな?」

ミア「だとすると……一方の重すぎる片思いとか?それと能力行使により出来上がった薄い縁が片思いや願いを基に太く長くなった、そんなところか?」

 

 そうだと思いたい。それか奇跡と呼ばれる出来事かもしれないな。

 なんにせよ、普通ではあり得んことだ。溜息を吐きながら不服そうに言った。

 

ミア「そうならこれは大恋愛だな」

エルナ「おまえからその言葉が出るとは思わなかった」

 

 なんだと?と少し苛立った様子のミア。

 冗談だ。さて、二人の元へ行こうか、と冗談めかしく笑うエルナ。

 

エルナ「二人とも私の話を聞いてくれ。叢雲の言っていたことが事実ならば早く現世(うつしよ)へ帰らないと本当の手遅れになる。そこで今回だけ、私が直々に送ろう。この提案を呑むか?」

 

 首を縦に振る、時雨と叢雲。

 エルナが小さな声で何かを唱えだした隣でミアは問う。

 

ミア「おい、いいのか。エルナ? おまえの身体、持つか?」

 

 その問いに対して得意げに言った。

 

エルナ「あの頃みたく負傷してすぐならば、無理だったろう。だが今は殆ど回復している。故に問題はない」

 

 その言葉を聞いたミアは「そうか……でも」と相手を気遣うように心配そうな声音で言う。

 

エルナ「とりあえず!今は二人を現世へ帰す!それが私のやることだ。ミア、話はあとだ」

 

 時雨と叢雲の足元には二人を囲うほどの魔法陣が展開される。

 驚く、二人を放置しエルナは「仕上げだ」と言いながら自身の力を送り込む。

 

 最終的に大小の魔法陣が交わるように展開され、淡い緑色の光を放ち始める。

 

エルナ「あまりこちらへ来るもんじゃないぞ。特に時雨!」

 

 身体が半透明になりながらも、聴力はまだあるようでエルナの言葉は聞こえた。 

 そして光の消滅と共に二人の姿は花畑からいなくなった。

 




完結、無理でした。
申し訳ないです。
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