とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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ひと月ぶりの更新。


五章 43話『回想 希望の残滓』

利根「ワッハッハ! 行け、行けぇい!まったく面白いくらいに深海棲艦が湧いているな!」

 

 楽しくてたまらない、誰もが分かる表情をしながら言った。

 

 利根は事前に限界まで偵察機を飛ばしている。だから仲間よりも早く応援先が被った一部を知ることが出来た。

 

 偵察機から送られてきた情報によると、あるポイントから湧くように発生し続ける深海棲艦。

 艦種は主に水上艦が多いようだ。それ以外にも空母や潜水艦、揚陸艦なども海上へ顔を出してきている。

 

 増え続ける敵影に利根は興奮を隠しきれない様子であった。遭遇した敵の部隊に数の差を感じさせないような勢いを見せつける。

 

阿武隈「ちょ、ちょっと利根さん!そんなに気前よく弾を撃ったら本番でまともに戦えないですよ!」

 

利根「なんじゃあ?これくらい大したことはないぞっ」

 

阿武隈「あります!大いにあります!このままでは第四、第三の方々へ会う前に――」

 

 言葉を言い切る前に砲撃音が響き、水面に浮く阿武隈の身体は立っていられないほど揺す振られる。しゃがみ込んで、何が起きたのかを確認しようとするときに声が聞こえた。

 

利根「ならば、わし……いや私のげんこつで再起不能にすればいいのじゃな?」

 

 再び阿武隈が利根の姿を確認した時には、小さな背中しか見えない。きっと原因を見つけて気持ちを抑えられずに突っ込んでいったのだろう。

 

 しかし利根は敵が複数いようが、囲まれようが関係ない人物であった。むしろ敵が多い方が燃え、囲まれて不況に陥った方が頭の回転が他のよりも頭ひとつ抜けている。

 

阿武隈「旗艦が敵艦隊に突っ込むせいで……どうしようもないですね」

筑摩「そのために私がいるんですよ、阿武隈さん」

 

 溜息を吐いて崩れかけた髪を整える彼女の後ろから声が聞こえる。いつもなら振り返るのだが、今回の舞台には彼女がいる。それは利根の妹である筑摩だと、そう気づいたからだ。

 

阿武隈「そうですね。だけど――」

 

 不満を口にし続けようとするが、筑摩が被せるように少し声を張り上げた。

 

筑摩「今は姉さんの所へ向かいましょう?愚痴はその後で聞いてあげます」

 

 阿武隈は喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

 分かりました、そう返事をして彼女の指示に従う。

 

筑摩「飛鷹さんは姉さんが向かった方へ艦載機を飛ばしてサポートをお願いします。他の方々は弾幕を張るようにお願いします」

 

 冷静に指示を出す。

 各々は首を縦に振り、行動しようとしたときいきなり目の前に水柱が立ち上がる。

 

 始まった、そう思って行動し始めるよりも筑摩の放った言葉がやけに耳に残ったのだ。

 

筑摩「はあ、姉さん……このままでは私たちは全滅してしまいますよ」

 

 小さく溜息を吐く筑摩の表情は疲れと呆れが混ざったモノであった。

 

 

 一方、東第四泊地。

 何とか使えそうな空倉庫を仮の寮として使用を余儀なくされていた。

 

 招集時間まであと三十分もない中で精神統一を図る鳥海。

 彼女の脳裏にはあの日の出来事が鮮明に焼き付けられていたのだ。 

 

 夜、ムカデの化け物に襲われた彼女は瀕死まで追い詰められた。

 隣には姉である高尾や愛宕が倒れておりその呼吸は浅い。

 戦場で嗅ぎなれた匂いを察すると姉たちの終わりが近いことを知る。

 

 頭の中には姉たちの命を繋ぐ方法と化け物をどうやって退けるかの二択しかなく、刻々と迫る状況に鳥海は脂汗を滲ませていた。

 

 化け物が奇声をあげ、瓦礫の散らばる床を這いずりまわる音が鮮明に聞こえた。このどうしようもない状況にいっそのこと「トドメを刺してほしい」と口にしてしまいそうになる。だが化け物は鳥海達へ追撃することはなく壁を突き破って何処かへ消えてしまった。

 

鳥海「消えた? ――あぁっ」

 

 無残になった壁を見て呟くが急に眩暈と痛みが同時に押し寄せてきて、床に座り込む。

 

 息が上がり、胸が痛む。

 心臓の音がうるさい。

 

 次あの化け物と対峙してしまったら、死ぬ。

 見たこともない。深海棲艦とは違うイキモノ。

 

 思い出すと鳥肌が立つ。

 フィクションの世界で敵として出てきそうなビジュアルをした化け物。

 人間の手足と顔が不規則に繋がった悪趣味な怪物。

 

鳥海「そっそうだ。姉さん、姉さんたちは……そんな」

 

 何十分かしてようやく冷静さを取り戻した鳥海は二人の姉を思い出して、様子を確認したがそこにあるのは事切れた艦娘しかいない。

 頬を涙が伝う事はない、また事実を受け入れる事もできなかった。

 

 額から流れた血が乾燥し、身体の至る所から滲む血は染みている。その現実は鳥海の深海化を促した。心の底から絶望し、深海棲艦へ身を変えるほどのエネルギーは既に持っていた。艦娘として生きた輝かしい思い出が糧となり変換されるはずであった。

 

 微かな理性が深海化を拒んだ。

 苦し紛れの言い訳(キレイゴト)を並べて。

 

鳥海「……黙れ、黙れぇええええ!」

 

 半身が白く変わり、表情も変化していくがその分だけ鳥海の精神は深海化を受け入れない。

 骨が軋む痛み、頭蓋を砕かれる痛み、怨みを吐きながら壊れる痛み、一度壊れた心を再構築する痛み。結果としてギリギリを保ち、深海化を拒んでいたおかげもあってか艦娘でいる事は出来た。

 

 目が覚めるとゆっくりと上体を起こすも、意識が途絶える前の光景が頭に浮かんだ鳥海は周囲を見渡す。そのときに驚きの光景を目にした。

 

 息絶えたはずの姉たちが目を覚まして鳥海の姿を見ていた。二人の目は潤んでおり、泣いたのか頬や鼻が赤い。鳥海は低姿勢で姉たちの元へ移動する。

 

鳥海「うそ。高雄姉さん、愛宕姉さん……!」

 

愛宕「よかったぁ!目覚めないかと思ったじゃない!」

 

高雄「でもどうして、私たちはとっくに死んだと思ったのに」

 

 泣きながら愛宕が鳥海を抱きしめる。高雄は泣きながらであるが、疑問を口にする。

 自らの死を自覚していた分だけに謎は深まっていく。 

 

 

『オオオォォォオオオオオオオ――――』

 

 

 突然外から聞こえる巨大な唸り声。

 三人は耳を塞ぎ、ぎゅっと目を瞑りしゃがんだ。

 

 唸り声が止み、崩れかけの壁から漏れ出すのは光の点滅。

 なにか大きな爆発が起きたとか、雷が鳴っているのかと思わせるほど明滅を繰り返していた。

 

 原因が気になった三人は部屋を出てガラスが散乱している廊下を歩きながら窓の外を見る。

 しかし見た方向が悪く原因を知ることが出来なかった。

 

 三人が必死に見晴らしのいい場所を探すなかでも空は色を変えていく。

 

 そこらに転がる惨状を無視して、三人は外へ出てきていた。鳥海は垂れる汗を拭い、両手に両ひざをつきながら呼吸を整えていたとき頭上に影が差す。

 

鳥海「なにあれ」

 

 頭を疑う。目に映る現象を否定しようとしていた。まだ夢を見ているのかと思わざるをえない状況であった。巨大な光る球体がゆっくりと落下していたのだから、こちらへと。

 あれがただ光るだけの空っぽの球体だといい。そんな願いは霞のように消えた。

 

 異常現象を報道しようとしたヘリコプターが近づいた瞬間、蒸発して爆発したのだ。

 

 ムカデの化け物を見てから脳はバグを起こしてしまったらしい。

 人が死んだのに驚かなくなった。

 

 それに今から全力疾走しても回避できないと悟る。この満身創痍の状態で全力疾走などしたら、結果など見えている。

 

 絶望。天災。無慈悲。

 

 この状況を言い表すのであれば、最も適しているだろう。

 『太陽を直視してはいけない。失明してしまうから』そんな子供へ言い聞かせるような注意喚起が頭に響く。だが、目を逸らすことは出来なかった。

 

 艦娘である故か目に痛みは感じない。

 ふと姉たちの方を振り返ると同じことを思っていたようで「これからどうしようか?」なんて聞かれてしまった。

 

鳥海「とりあえず摩耶と合流したい」

 

 その言葉に高雄と愛宕は頷き、摩耶を探しに建物へ進んでいく。

 足音も会話の声もどんどん遠くなっていくなか一人立ち止まっていた。

 

 「最後に一度だけ記憶に焼き付けておこう」と内心考えて振り返るとき、落下していた擬似太陽は爆ぜて周囲へ炎が雨のように降り注ぐ。

 

 驚きで固まる鳥海には爆ぜる太陽、炎の雨。それらから町を守る半透明のバリアが目に止まった。

 音と光に引き寄せられてか、姉二人が外へ出てきた。固まる鳥海の手を引いて少しでも安全な方へ進む。

 

『もう大丈夫だ』

 

 建物へ入る直前に聞こえた言葉は絶望に染まった心へ幽かな希望を灯した。 

 

 あの出来事から大分時間が経った。

 誰かが繋げた昨日を明日へ繋げる為に鳥海は奮起する。

 

 

鳥海「さぁ、皆さん行きましょうッ!臨時邀撃部隊旗艦、鳥海。出撃します!!」

 

 戦闘欲に溢れた面々を率いて第三鎮守府へ向けて出撃した。

 

 戦場の駒は揃いつつあるなかで神城の元へとかつての面影も向かいつつあった。

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