とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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ちょっと長めです。


五章 44話『クソ失礼な新人から貰った小瓶』

 鳥海たちは東第三鎮守府へ向かっている。

 今のところ電探へ敵影は映らず、静かな進軍。いつ深海棲艦と戦闘になってもいいように皆細心の注意を払いながら、至って真面目で私語を挟まなかった。

 

大和「鳥海さん、すみません。質問いいでしょうか」

 

 艦隊の沈黙を破るひとつの声があがる。旗艦として皆の先頭に立つ鳥海は速度を少し落として「なんですか?大和さん」と振り向かずに言葉を返す。

 

大和「あっえっと……今回の作戦について、どう思っているのかなと聞きたくなりまして」

 

鳥海「どう思っているか、ですか。今からの発言が不謹慎だと思われるので一つお詫び申しあげます。こほん、実のところ暇を持て余していました。本来の役割を果たせないのが気に食わなかった」

 

大和「それは出撃が出来なくて?ですが私たちの居場所は再起不能に等しい状態になってしまっていますので仕方がないかと思います」

 

鳥海「現状についての不満は沢山ありますよ。でも贅沢を言っていられないでしょう?だって沿岸部のみならず要となる市街までも復興に追われている現実。奴らとの戦闘以外でも求められるのは仕方がないことです。人の形をしていながら人外の領域にいるのですから」

 

 言葉が増えるにつれて進軍の速度が落ちていく。

 それは徐行運転の速度まで落ちていき、徐々に鳥海の表情が曇る。

 

鳥海「ストレスが溜まっていくんですよ、本当に。ここまで何十年と生きてきて全員が全員、善人でないのは分かるでしょう?特に私たち艦娘を神か何かだと思っているバカから役立たずと罵倒されて感情的にならない方がどうかしてると思うんですよ」

 

 視線を海面へと向けて裡に溜まっていたものを吐き出す。

 

鳥海「ですが、東第三鎮守府が応援要請をしてくれたことにこの上ない感謝をしています。だって発散させるにはもってこいのガラクタが集まっているんですから」

 

摩耶「鳥海。その発言はどうかと思うぞ。それじゃあ応援要請に応えるという名目で私刑を行うと宣言しているようなものだ。個人で向かっている訳じゃないんだぞ」

 

 最後まで聞いていようとした摩耶が会話を割って口出しをしていく。鳥海の様子がおかしくなっていくことに耐えられない、と他のメンバーには見えた。

 

 沈黙。

 

 鳥海はほんの少しの時間だけ口を開かなかった。小さな溜息を吐いた摩耶が続きを話そうとしたとき鳥海の姿がブレはじめ、異変を感じた者は一斉に距離をとる。

 何度も鳥海の姿がズレていく。白と黒が拘束で入れ替わるような点滅をしているように見える。

 

 言葉を投げかけても本人には届いていない。鳥海自身が何か言葉を発するたびに酷いノイズがかかったようになり、まともに聞こえないのだ。

 

摩耶「こんなときに深海化かよッ!! 鳥海! 呑まれるな!おまえの手で仲間も何もかも壊すつもりなのかよッ」

 

 主砲に弾を装填して、反撃できるようにして問いかける。大和も「鳥海さん!戻ってきてください!」と叫ぶ。

 それでも鳥海の深海化は収まる気をしらないようで髪の色も肌の色も変化していく。

 

鳥海「アァアアアアア!!――悲しい。悲しみが溢れてくるっ終わりを知らせないと。皆に終わりを知らせないといけないッ馬鹿には分からせないと。私たちの方が上だって!!」

 

 悲鳴が木霊する。鳥海の内で溜まっていた澱みが溢れ始める。一部の艤装も深海仕様に成り替わりつつあることを踏まえ考える。すぐに事態が深刻化する前に戦闘不能へしないといけない状況になってしまった。

 

摩耶「鳥海っ!鳥海っ!! あぁこんな、こんなところで我を失いやがってーーぶん殴って元に戻してやるからなぁ!」

 

 焦りが表情に出る。舌打ちもする。

 だが摩耶の戻そうとするその言葉に大和、能代、天霧が戦闘態勢に移り始める。対馬は執務室へ現在の状況を伝えるべく、焦らないように通信の手順を踏んでいた。

 

 闘う前だというのに鳥海は苦しみしゃがむ。鋭い爪を頭へ立てて、掻きむしり涙を流す。胸の内から溢れる後悔を言葉という形にせず、ただ叫ぶ。

 激しい憎しみに駆られながらも行動せずにいる姿を見て固まる。そんな状況を見て摩耶はまだ理性があるのだと思い、他の三人に砲撃命令は出さずただただ距離をとれとだけ伝える。

 

 人間への憎悪、苦しみを抱えながら泣き叫ぶ鳥海。摩耶はいつ総攻撃して戦闘不能にしようか機を伺っている。他の三人は摩耶の指示以外で動くことを念頭に入れて、様子を見守っていた。対馬は月見へ要点だけをまとめた簡易報告をしていた。

 

不知火「待ってください。私にいい案があります」

 

 ただひとり不知火だけは違った。感情のままに泣き叫ぶ鳥海以外、全員が不知火を見ている。摩耶は「こんなときになに言ってんだよ」と小さな声で呟いている。

 

 大和が「そのいい案は鳥海さんを失う、といった内容でしょうか?」と威圧するように言う。

 続けて「それならばいい案、とは言えません。ですが、私はそれ以外にこの場を切り抜ける(すべ)は持っていないし、知りません」と言いきった。能代も天霧も頷いている。

 

不知火「いい案とは、これです。これを飲ませれば一時的に深海化を克服させた状態にできます」

 

 自身の制服の懐から青い液体の入った小さな瓶を取り出した。摩耶に中身を問われると飲み薬と答えた。それは艦娘にだけしか効力を発揮しない代物だと付け加える。

 誰から貰ったのだと、事細かに聞かれ渋りかけたものの「芙二さんです。彼は私が提督の次に信頼できる人物です」と言った。

 

摩耶「芙二?――て芙二凌也かっ!?あの挨拶に来なかった新人! そんなのに信頼を置いてるって不知火、おまえまさか」

不知火「裏切はないです、決して。それに彼は深海化しかけた()()()()さんを救ってくださいました。私も、ですが。それに彼の実力を知っているのは他にも居ます。そうでしょう、天霧さん」

 

 急に名前を呼ばれて、驚き変な声をあげる天霧。「天霧?あのクソ失礼な新人の実力を知ってんのか?」と摩耶は聞く。

 

天霧「い、一応。アクィラさんが深海化したとき、あの場にいました。そ、それに」

 

 どもりながら続けようとするが摩耶が遮り「信憑性にかける代物だが……今は賭けてみるか。不知火、それ全部飲ませればいいのか?」と言う。

 

不知火「それで十分かと思います」

摩耶「うっし、万が一を考えて、しばらく動けなくするわ! これからちょっと隙つくるから待ってろ」

 

 少し前までの張り詰めた表情から一転し、少し笑みを浮かべ軽快に泣き叫ぶ鳥海の前まで向かう。「触るな!近寄るな」と憎しみの籠った眼差しを向けられるも摩耶は気にしていない。

 鳥海の両肩を強く掴み、彼女が何か発する前に頭突きをした。ゴチンと鈍い音が聞こえ、不意を突かれたのかよろけて後ろへ倒れ込んだ。

 

摩耶「今だ!それをこっちに投げろ!」

 

 言われるがままにする不知火。小瓶が縦方向へ回転して飛んでいき、摩耶は無事に掴むことが出来た。起き上がられてしまっては不意を突いたことが無駄になる、そう思った摩耶は蓋を開けてすぐに喉へ小瓶を押し込む。

 

 異物を流し込まれる感覚に鳥海の意識は覚醒して暴れ始める。流石に深海化していてあっという間に剥がされてしまいそうになっていた。

 そこへ様子を見守っていた大和が加わったことにより、二人の力には敵わず大人しくなっていく。だが目は強い怒りが宿っており、飲ませた代物が効力を発揮していないように見えた。

 

鳥海「離せ、離せえええ! あぁっ!? ふぐぅうう……」

 

 暴れていた鳥海の身体から蒸気が発生してきたので、驚いて思わず二人は離れてしまった。ゆっくりと立ち上がった鳥海の髪や肌が元に戻っていく。効果が出てきていると実感していた一同。しかし未だに蒸気が立ち昇るので効きすぎてしまったのかと思い始める。

 

鳥海「……ごめんなさい。心配をおかけしました」

 

 乱れた服を戻し、落ちた眼鏡を拾いながら鳥海は謝罪したのだ。

 目を丸くして言葉を詰まらせる中、摩耶だけは一人抱きしめていた。普段泣かない彼女でさえも涙を流している。姉や妹を二度も失いかけた恐怖、絶望と孤独、最善の決断を迫られる痛みは摩耶にとって耐えがたいものだった。

 

対馬「――はい。鳥海さんの深海化が一時的とはいえ完治しました。予定の時間よりも少し遅れてしまいますが、向かう事はできそうです」

 

 対馬は月見へ鳥海の処分をどうするか、聞こうとした。

 深海化は一度発症したら治せない。だが再び艦娘となった彼女の容態を目の当たりにした対馬は進軍の旨を伝えると通話を終了したのだった。

 

 

 

 東第三鎮守府 近海にて。

 

 主砲をへし折られ、酷い火傷を負い、片膝をつく武蔵の前には余裕の表情をした戦艦棲姫。

 その両隣には皮膚は黒く、肩や腰に大砲を纏った顔のない二つの巨人はそれぞれに赤城と加賀を人質にしている。

 

『武蔵よ。あの日のように仲間としてあのクズもクズが護ろうとしたものを皆殺しにしないか?』

 

武蔵「断る。あの日の私と思うなよ、長門。過去は過去。今は今だ。同じ勧誘に乗ると思うか? それに潰えたはずの焔が灯る魂が貴様を倒せと叫ぶのでな」

 

 現在、不利なはずなのに武蔵は強気な表情をしていた。戦艦棲姫は目を細め、溜息を吐いて「呆れた。馬鹿も移ったか」と口にして二つの巨人へ指示を送る。

 

『人質を海面に叩きつけろ。次に私が指示をするまで停止は許さない』

 

 オオオオオオーーと低い唸り声をあげて腕を振り上げる。彼女らの意識はなく、抵抗を感じさせずに両手を投げだしていた。

 数秒前まで強気だった武蔵は崩れ、戦艦棲姫に止めろと口を大きくしていう。

 

『敵の話を聞くやつが何処にいる?やはり貴様は救いようのないバカだったか』

 

 武蔵は怒りを滲ませ、一発ぶん殴ってやろうとしたが足が動かない事に気づく。

 足元を見ると底から湧き上がってくる敵艦――死してなおも深海棲艦として活動を続ける元仲間がしがみついていた。

 

 どうして 助けてくれなかったの?

 なんであのとき 見殺しにしたの?

 

 罪をなすりつけたのは ワタシ じゃないのに。

 武蔵サンはドウシテ 生きているの?

 

 ワタシタチ みんな 望めなかったのに。

 あの地獄で 狂った 世界で。命を散らしたのに。

 

武蔵「あぁああ! そんなことがあっていいわけがない! 皆、各海で――長門ぉ!!あの子たちの魂まで穢すなぁあ!」

『ハハ、酷い話だ。貴様の足元へ縋りつくのはみんなだ。姿や形は違えども、この海域には皆が揃っている。それは実に素晴らしいことじゃない?』

 

 さぁ懐かしい日常の再開だ。

 全部を壊して奪った後に復讐をしようじゃないか、人間へ。

 狂った私たちで。それにあの方も賛同してくれている。

 

 戦艦棲姫の高笑い、そのほかの深海棲艦の不気味な笑い声が一斉に響く。

 それと同時にぶちゃっと柔らかい物が潰れる音も混じった。

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