とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 47話『辿った気配の奥』

 少し前、第三鎮守府近海にて。北上、潮、島風、ガングートの四名は海上警備を行いながら、周囲を見て回っていた。あれだけの戦闘だ。万が一、億が一で誰かがドロップ艦として再び生を受けているかもしれない。だが、予想とは裏腹に先程まで戦闘をしていた箇所は未だ深海棲艦の残骸が浮いており、航行の邪魔になっていた。

 

北上「うわぁ凄いね。ほんとうに」

 

 プカプカと浮いている残骸を押しどかしながら量の多さに溜息を吐く。空は曇っていて太陽の光は見えない。足元や隣に佇むは黒々と鈍色の光を放つはかつての仲間の成れの果て。

 この中に面影残る姿があったとしたら――戻って来れないかも知れないと北上は考える。

 だが実際に長門、いや戦艦棲姫と対峙した武蔵達は深海棲艦となった元仲間の誰かに遭ったと云う。形があまりにも崩れていて、艦娘だった面影はなにもなかったと付け加えた。

 

ガングート「結局なにも残らないな。ヴェールヌイもタシュケントも帰って来ない、か。やはりあの男が異質なだけだったか」

北上「そりゃあね。だって私たちですら歯が立たない強さを持った狂人だよ?それにさ深海化した私たちもあの場所で眠るみんなを起こしてくれたじゃん。それで十分だよ、ほんと」

 

ガングート「北上はそう思っているのか。だが、私はそうは思わん。提督から聞いたがあの男は約束したそうじゃないか」

 

 少しだけ流れる涙を拭いながら「約束?それって海底からみんなを引っ張り上げるみたいなやつ?」と聞く。

 その言葉を聞いて知っているのか、なら話は早いなと感じたガングートは「そうだ。確かサルベージ作戦とか言っていたが、先日あの男は殉職したそうだ。その作戦とやらは白紙に戻ったな」

 

 そう言い切った後に小さな声で「二度と再会は叶わないか」と呟いた。

 

 深海化の兆候がある鳥海を巡って神城たちが口論している中で海の脅威は迫ってきていた。

 それにいち早く気が付いたのは二人の会話を聞きながらも電探で敵を探っていた潮であり、同時に島風も気が付く。その他にも異変を察知する者もいた。

 連装砲と同じ形をし、短い手と足を持つロボットのような存在――連装砲ちゃんである。駆逐艦島風が従えている連装砲ちゃんは三体全員が一方向を凝視し威嚇していた。

 

潮「北上さん、電探に無数の敵影が映りま――」

 

 危機を知らせる為、いつも以上に声を張り上げて伝えようとする。だが、すぐ近くで爆発音と共にいくつもの水柱が立ち上がり全員の意識がそちらへ向く。

 海面に散らばるは四肢を損壊させられ身動きが取れない個体。様々な光を目に宿す者らはカ級、ヨ級、ソ級といって潜水艦に分類される深海棲艦である。

 

島風「電探に映っていない個体っ?!それにこの声は叢雲ちゃん!だけど、その姿は……」

 

 島風は叢雲の姿を見て硬直し、連装砲ちゃんたちはまだ威嚇を続けていた。島風ひいては北上たちの目に映る叢雲は髪の色はやや薄くなり、特徴的なのは頭部には二本の角が生えている。

 

 右側が短く左側が長く角先が二つに分かれていた。オレンジ色の目は青紫色へ変化し右目は青い光を放つ。以前着ていたセーラー服すらも変わり肩、腕、腰、脚には黒色と白色が互いに交わった軽鎧を纏っていた。その姿は深海棲艦の姫級や鬼級と遜色ない存在感を放っている。

 

叢雲「先に言っておくけど私たちは助っ人ではないわ」

 

ガングート「じゃあ何をしに来たんだ、こんなところへ」

 

叢雲「仕留め損ねたヤツがこっちへ来ているの、それだけよ。ついでに今回の騒動の大元も向かってきているみたいだから、それが終わったら沈めてあげる」

 

 フフ、と不敵の笑みを浮かべる叢雲。一瞬、右目の光が強く輝くが本人は気がつかないようだ。

 

時雨「……叢雲。ガングートたちと話をしている場合じゃない、もう出てくるよ。ヤツらが」

 

 そこへ時雨も集まって叢雲を注意する。一度だけきょとんとしたがすぐに謝罪をし、北上たちに「すぐに戻って仲間を連れて戻ってきなさい。私たちが相手をするヤツとは違うヤツもここへ向かっているから気を緩めない事ね」と言い鎮守府とは反対方向へ進んでいく。

 

北上「あっちょっと!――もう見えないや。助っ人ではないって言っておきながらもそっちの任務が終わったら残ってくれるなんて素直じゃないなあ」

 

ガングート「また始まったか」

 

 四人がいる場所よりもずっと奥で爆音と水柱がいくつも上がっては消え、また上がる光景を見ていた。一旦鎮守府へ戻ろうかという時に潮が「あっ!」と声をあげる。

「どうしたの?潮ちゃん」と島風が聞く。潮は電探の画面を指差して表示されていた敵影が一つもなくなっていると伝える。

 

 島風と潮は二人して電探を持ち、向きを変えながら敵影を探っている。北上もガングートも妙な気配を感じ取る。自分達が何処からか見られている、そんな感覚がするのだ。

 北上達の周囲は海。海上には深海棲艦の残骸が――ない。いつの間にかなくなっていた。

 

北上「ッ!? みんなに早く戻るよ!知らせないと!」

 

 三人の元を少しだけ離れ、残骸があった場所の水面を見渡していた。あれだけあった残骸が音もなく消えている。それに足元へあった残骸が沈んだにしても衝撃、波紋のひとつもなく消えるのは何処か変だ。

 

 叢雲と時雨が戦闘をして水柱があがったとしてもここまで衝撃が波となっては来ない。

 熱を帯びた強風が吹きつけるくらいで残骸はピクリとも動いていなかったはずだ。

 

ガングート「北上! 足元、何か来ているぞッ!急いでそこを離れろ!」

 

 北上の足元には大きな影が見えていた。その影は徐々に色を濃くしていき海面へと近づいているのが分かる。海上を立つことが出来る艦娘ですら立っていられないほどに水面を強く揺す振っていた。北上が影の範囲外へ出ようとするも間に合わなかった。

 

 オオオオオォォォオ――――

 

 巨大な黒色の鯨が北上を突き上げる。何メートルか飛ばされて、水面と激しく衝突し跳ねて止まる。巨大な黒い鯨が再び水へ潜るとそれだけで大きな波を起こし、三人を散り散りにした。水に呑まれる前、ガングートは鯨の腹にびっしりとコバンザメのようにくっつく小型なイ級の姿を見た。

 

『私の可愛い姉をこんな風にした代償を払わせてあげる。さぁ行きましょ。私たちの変えるべき場所へ』

 

 黒い鯨が空へ向かったのを見た北方戦艦神棲鬼はボロボロになり、意識が混濁している戦艦棲姫を撫でていた。そして戦艦棲姫が纏め損ねたかつての仲間を成型し面影を持たせていく。最後の一人が出来上がると声をかけて自らの指揮する艦隊へ組み込んだ。

 

『もう何も覚えていないわ。だってもう艦娘としての記憶なんてこれっぽっちもないのだから』

 

 小さく笑い、産まれたばかりの先兵を送り込む。未だぐったりとしている戦艦棲姫と共に明るい場所へ向かった。

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