とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 49話『砕ける心①』

『……本当に久しぶり。またこの目でここを見れるなんて思ってなかった。今度は私たちが手にかける事になるなんて思いもしなかったわ』

 

 黒い鯨の背に立ちながら北方戦艦神棲鬼は嘆く。

 視線の先には東第三鎮守府が見える。

 

『そうだな。私がそこを目指すのは、何度目になるのだろうな?陸奥――いや北方戦艦神棲鬼。今はその名の方がいいか』

 

 北方戦艦神棲鬼の背後からそう話しかけるのは治療され、全快した戦艦棲姫。何度か掌を開閉させ、ときにぎゅっと握りしめて拳に力が入ることを確認していた。

 

『もういいの?』

 

『大丈夫だ。余計な心配をかけさせて申し訳ない。やはり油断は禁物だ。話し合いなぞに応じず、速攻殺せばよかったと後悔しているよ』

 

 少し調子に乗り過ぎた、と苦笑いをしていた。

 

『長門――戦艦棲姫。あなたを待っていたけど、時間がかかりそうだったから先に皆を向かわせたのよ?あとは私たちだけ。あちらに敵がどのくらいいようが関係ない。数時間後にはあそこは落ちるの』

『それは待たせて申し訳なかった。艦娘では扱う事の出来ない、この力っ!見せつけてやる、あの者どもになぁっ』

 

 怒りに満ちた表情で吼える。その瞬間に二体の生体艤装が出現する。灰色のゴーレムの見た目を持つ戦艦棲姫の生体艤装は両肩に黒い連装砲を一つずつ身に着け、目や鼻はなく見えず、ぴっちりと閉じた口がゆっくりと開く。掠れたような咆哮を上げ、戦艦棲姫の元でしゃがみ込んだ。その姿は命令を待つ従者のようであった。

 

『その子たちも準備完了してるようだし……行こうかしら』

 

 一度海上に行かせた黒い鯨がこちらへ泳いで戻って来るのを確認した、北方深海神棲鬼はもう一度浮上するように指示を出し自らも戦場へ赴く。

 

 現在、東第三鎮守府

 

 鳥海の処遇を巡る話し合いから二時間が経つ。近海に現れた深海棲艦との戦闘は激しくなり、今では視界も通信状況も芳しくなく味方の状況が掴めないでいた。戦力は分断され、個々での戦闘を強いられていた。そんな中でル級を葬った菊月は声をあげる。そこへ同所属の親潮が駆け付けた。

 

菊月「おい、電探に何か表示されたのだが――なんだ、この表示?!」

親潮「そ、そんな敵の数が増えて……それに一部の海面が上昇していく?ここで一体なにが起こっているのですか」

 

 二人の電探には無数の反応が示されていた。だが、それだけじゃない。二人がいる場所は地震でも起きたかのように海面がゆっくり揺れている。

 何かただならぬ事態に巻き込まれているのは既に分かっていた二人だが、根本的な原因は分からずじまいだった。そのため一度第三鎮守府へ撤退を考え、行動するも阻むように深海棲艦は目の前に現われ対処しなくてはいけない状況に陥っていた。

 

菊月「邪魔をするなっ!」

 

 砲撃をしようと装填させようとするが、ガチンと詰まった音が聞こえる。驚いて意識が単装砲へ向いたとき、見計らっていたように数機のイ級が砲撃をしてきた。目と鼻の先である彼女らは回避できず攻撃を受け、数発が直撃し身体には焼けるような痛み、金属で殴られた痛みが生じた。

 そして普段以上に感じる痛みと連戦による疲労感により立っていられずに崩れ落ちた。攻撃手段を奪われた菊月たちは撤退するしかない。だが、足も負傷してしまったのか動けない。

 

菊月「くそ……これで終わりか」

 

 全身が痛む。身を守る武器も壊れ、自身の肉体も思うように動かせない。既に菊月には反撃手段はなくどうすることもできない状況を受け入れつつあった。

 

菊月(そうだ、親潮。あいつは大丈夫だろうか)

 

 それでもどうにかこの場を切り抜けないといけない、そう強く感じていた菊月はふと親潮の方を向く。菊月の目に映った親潮の姿に対して脳が処理できずに固まってしまう。それもそのはず数分前の面影はなく肌が焼けて、黒く固まっていた。右足と左手が吹き飛び、筋肉と骨が見えている。彼女の肉体は先の砲撃により著しく損壊され、立つこともままならなくなっていた。

 

菊月「ッ……! お、親潮!大丈夫かっ! 生きては、いるか? 」

 

 痛みなんて気にせず、一心不乱に彼女の元へ向かい、口元へ顔を寄せる。血の匂いが混じった息を鼻で感じ、生きていると理解した。早く鎮守府へ運び込まないと間に合わないはすぐに分かる。だが、菊月たちのいる場所は危険な状態となっており、この状態では撤退は叶わない。四方八方から聞こえる悲鳴や爆発音。視界はとても悪く、どこに敵がいて味方がいるか分からない状況だ。

 

菊月「あいつらの所為で二人とも死ぬくらいなら……」

 

 自爆特攻を考え始める。今のボロボロの状態では艤装もまともに扱えない。視界が悪い中で何とか見つからずに生き残れている。しかし壊れずに電探には未だに多くの影が映っていた。ここで自らが倒れるわけにはいかない。焦りは正常は判断を失わせる。だが仲間を、親潮を見捨てる決断は菊月には出来ない。既に詰みである。だからといって撤退もできない。

 

 時間がない。次の策を急いで考えていたとき――ズズズ、と固いものを擦り合わせる音が聞こえる。だが一瞬で戦禍にかき消され、音の発生源を辿ることが出来なくなっていた。

 

菊月(な、なんだ?! いいや、今は親潮の事を考えろ。どうする、どうするッ!このままでは親潮の命は、ないぞ!)

 

 一瞬、気を取られたものの、すぐに親潮が生存するための方法を考え始める。重度の火傷、欠損という致命傷を受けて尚、生存しているのは頑丈な艦娘だからと言えるだろう。すぐに治療を受ける事が出来れば助かるかもしれない。

 

 考えるよりも行動するしか、と結論を出した。親潮の艤装を捨て、身軽になった彼女を背負う。そして敵に見つからないように、ゆっくりと移動をしようと試みる。どの方向へ進めば、味方がいるという情報はなく、ただただ戦闘の中心から遠ざかるのが精一杯であった。

 

菊月(はぁ、はぁ……ここはどこなんだ)

 

 激しい戦闘による疲労の蓄積、受けた損傷により、菊月の肉体も限界に近づいていく。背にかかるなくなりつつある温もりに焦りを感じながらも、進む。

 自分が何処へ向かっているかも分からない。それに目先も霞んで見えるようになってきた。飛沫の奥に黒い影が見えれば敵と認識し、避けるようになっていた。

 

 

 何分、何時間彷徨ったか分からない。

 気が付けば背は冷え、軽くなっていた。

 

 何かに躓き、よろけて、前のめりに転ぶ。

 背に抱えていた彼女が音を立てて、転がり落ちた。

 

 再び意識が向いた先の物は血は既に止まり、肌は白くなりつつあった。

 そして菊月の周囲には拒絶したくなる匂いが漂う。

 

菊月「親潮! 親潮!!」

 

 必死に身体を揺すり、名前を呼ぶ。

 涙を流しながら、仲間の名を呼ぶ。

 

 だが、彼女は、長年の仲間は反応を示さない。

 脈を測るために触った彼女の肌。

 温もりは既に失われていた。

 

菊月「アアアアアアア!!」

 

 親潮を抱きしめ、泣き叫ぶ。

 心が砕ける。

 空の心に黒い絶望が入り込む。

 

 聞きつけて、イ級が、深海棲艦が集まり始める。

 死が、蠢く影が、菊月を追い詰めた。

 

 




脈絡がないかも。
もうダメかも。
弱音を吐いてすみません。
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