とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 50話『砕ける心②』

 黒い鯨が再び浮上した先には東第三所属の蒼龍、吹雪、武蔵、瑞鶴、涼月がいた。突然のことに全員驚き、硬直している。そして浮上後の鯨は威圧するように唸る。

 

 巨体の出現により海面は荒れ、高波が生じる。海面が常に揺れるせいか、安定しない。鯨の他にツ級、タ級、ヲ級が列を成して出現したことを皮切りに二十を越える艦隊が揃う。そしてその奥には一度致命傷を負ったはずの戦艦棲姫が全快して現れる。

 

 そして東第三鎮守府の面々の知らない深海棲艦が蒼龍たちをじっと見つめている。蒼龍から涼月まで目を動かす。その様子は懐かしいものを眺めるような眼差しであった。

 

武蔵「戦艦棲姫、まだ息があったか。それに隣にいるのは………」

 

 

 黒い武装を纏いつつ、黒を基調とした服装に身を包む戦艦棲姫。その隣には白い軍服風の服装をした深海棲艦。黒と白のモノトーンの軍帽を被っている。

 背筋を伸ばし、自信満々に胸を張る姿は自らが指揮官であると伝えているようであった。隣にいる戦艦棲姫がその名を口にする前に白い深海棲艦が手で制す。

 

『私の名は北方戦艦神棲鬼(ほっぽうせんかんしんせいき)。最初に言っておくが、降伏は認めない。最後の最期、命が潰えるそのひと時まで我々に抗ってみせろ。それが貴様らに出来ることだ』

 

 静かに警告をする。蒼龍たちが何か発する、行動する前に戦艦神棲鬼が右手を振り上げる。

 ()()合図を待っていた深海棲艦たちは各々が持つ武装の引き金に手を掛ける。

 いつでも撃つことが出来るよう、支度を済ませていた。

 

 合図、準備完了までがあまりにも早く、すぐに反応できたのは武蔵だけであった。

 

武蔵「皆、急いで散れッ!このままでは―――」

 

 危機を感じた彼女が声を荒げても、彼女以外の反応はひとつ遅れていた。

 

『そうだ、最後にひとつ。今も後も多くを話す必要はない。―――これから貴様らは勝手に話し始めるだろう?絶望と後悔の二つを、だ』

 

 上げた右手を下ろした時、深海棲艦の砲撃は一斉に蒼龍らに向かう。

 無数の砲撃音の後にひとつの大きな水の柱が高く立ちあがった。

 

 

 鎮守府 近海付近にて

 

 四十七体目のイ級を屠った利根は焦っていた。敵艦隊と会敵してからはや六時間。

 利根たち第二鎮守府の面々と鳥海たち第四泊地の面々は補給なしで戦闘を続けており、未知の状況下で燃料、弾薬はなるべく残しておこうという方針になっていた。そして敵と会敵後も最低限の砲撃戦を行ってきており、結果的にはそれがよかった。しかし肉体、精神的な疲労は積み重なり個人の判断を狂わせる。

 

利根「なんっじゃあここはぁっ!あまりにも多い、多すぎるぞ!」

筑摩「と、利根姉さん? 急にどう………」

 

利根「筑摩、不思議に思わんのか?種類はいつも遭遇する奴らとほとんど変わらないのじゃが………如何せん数が多い。それにさっきから何か不穏な気配が消えぬ」

 

 話を振られた筑摩は困ったような顔をして何も言わなかった。鳥海が筑摩の代わりに振られた話へ言葉を返す。

 

鳥海「分かりますよ、利根さん。実は私もずっと感じていまして………この海域に来てからずっと見られているような感覚なんです。でも視界にも電探にも映らないので気味が悪くって」

 

 利根と鳥海の会話を聞いた他の面々は顔を見合わせて困惑している。ずっと戦っているが、そのような気配や感覚に陥らなかった。

 緊迫した状況下でまともな感覚が働いていないのでは?や長時間の航行、戦闘の疲労で正常な判断が出来なくなっているのか、と考えるメンバーもいる。

 

 そして利根が最後に屠ったイ級を最後に電探へは何も表示されず、セーフティーゾーンになったこの場では束の間の休息を取ることが許されていた。

 

 休憩を取る者、兵装の具合を見る者、仲間と作戦会議を行う者と分かれていた。その中で旗艦を務める利根と鳥海の二人は東第三鎮守府にある司令部へ現状の報告を行っている。

 

音宮「そう。大体の事は分かったわ。それにしても菊月と親潮の安否不明というのが心配ですね。それでも報告、ありがとう。それでそれ以外は何かある?」

鳥海「…今いる海域へ入ってからというものの、誰かに見張られているような感覚がしてます。いくら見渡しても視界はおろか電探にも映らないのが不気味で」

 

音宮「うーん、その感覚に陥っている者は他に誰かいますか?」

鳥海「私と利根さんだけです。どうして私たち二人だけなのか―――」

 

 しかし突然、鳥海の言葉をかき消すほどの悲鳴が聞こえた。通信機片手に悲鳴がした方を振り向くと休息を取っていた摩耶、天霧、球磨が蹲っていた。肩を抱えるように蹲ったかと思えば、横に転がり始める。相当の事が起きているのか、白目を剥いて必死な声音で鳥海たちに何かを呼びかけていた。

 

 何があったの!まさか敵襲?!と音宮の声で鳥海の思考は元に戻る。鳥海はありのままを話し、利根や大和、霧島は転がる摩耶たちを押さえつけるも物凄い力で抵抗される。

 だが、すぐに静止し抵抗をやめた。その隙に声をかけるも三人はガタガタと震え何かに怯え始め、懺悔や後悔を繰り言のように吐いていた。

 やがて涙を流し自分達の顔や首に爪を立て掻き始める。

 

対馬「や、やめてください。どうしちゃったんですか、摩耶さん」

 

 この異常な状態を繰り返している摩耶たちを拘束しようと対馬が駆け寄ろうとしたとき、ぴたりと動きを止めた。

 

大和「い、一体何がおきているんですかっ」

不知火「あっ……そ、それは、その状態は深海化!?」

 

 突然狂い始め、死んだように動かなくなった仲間に啞然とするしかない。

 だが、僅かな静寂も一瞬で崩壊する。

 

鳥海「お、音宮さん!ま、摩耶達が急に深海化し始めてます!なんで、どうして?さっきまで何もなかった、被弾も負傷もなかったはずなのに!」

音宮「鳥海さん、鳥海さん!まずは落ち着いて。すぐに距離をとって、陣形を組んでください。艦娘がこうなった以上、殺してあげるしかありません」

 

 音宮の言葉は鳥海の心に鉛玉のように沈みこんだ。信じられないと言った表情でそんな、なんで、と絶望を繰り返し吐き続ける。その間も摩耶たちの身体に変化が起きていた。制服はそのままに肌や髪は白く、爪が鋭く伸び、砲も何かの生き物を模った形へと変化している。

 

利根「チッ、鳥海!気をちゃんと持たんか!」

 

 姿かたちが変わっていく仲間を受け入れられずにいた。だがそれだけではなく、霧島や大和、能代、阿武隈、筑摩、飛鷹も摩耶たちと同じ状態へ陥っていた。

 懺悔や後悔の繰り言を吐き、やがては深海化する。大和に至っては髪の色はそのままに両のこめかみのあたりから曲線を描くように角が生えてきている。

 

利根「鬼じゃとっ!?鳥海、ひとまずは撤退だ。聞いているか、提督!非常事態じゃ!艦隊の大半が深海化して、大和にいたっては鬼のような姿になっておるわ!」

音宮「なっなんですって、また深海化した艦――……」

 

利根「提督?! 急にどうした、通信が――あぁ妨害電波か、くそっ!」

 

 悪態をつく。一分、一秒ごとに焦りが酷くなっていく。

 まずい。このままでは全員、死ぬ。

 

 この異常なまでの深海化の原因を突き止めないと、とそう思ったときだ。

 

『ほぉ。全員ひっくり返ったかと思ったのだが、存外しぶといな』

 

 突然響くは聞いたことのない少女の言葉。姿は依然として見えないが、その内容はこちらを嘲笑うものだと利根は思った。

 何者だ、そう問おうとした利根の視界には数十体の深海棲艦がこの場に出現していた。

 

利根「あ、ぁあ………いつの、まに?この数、この質量は―――」

 

 言葉は尻すぼみになりやがて口を閉ざす。

 利根に最後まで言わせないほどの圧力が存在していた。

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