とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 51話『崩れ去る境界』

 利根の眼前には目から青、黄、赤の光を放つ深海棲艦がいる。これまで会敵し沈めてきた者共と変わりはないのだが、状況がとても悪い。フルメンバーだったなら容易く返り討ちにすることができたはずだが、今まともに動けるのは不知火と鳥海、対馬しかいない。

 

利根(まずいなこの状況は。だが幸いなことに鎮守府へ戻るだけの弾薬と燃料はある!)

 

 二人の状況を判断するために目線を向ける。警戒態勢を取っている不知火と目が合い、こくりと敵に気づかれないように頷いた。あとは鳥海だけだと彼女に目線を動かすとそこに彼女の姿はない。

 

利根(なっ!どこに行ったというのだ!ま、まさかわしたちを囮に逃げよったか!?)

 

 目を開いて驚き、ふいに不知火の方へ身体を向けると彼女の目線は真正面へ向けられていた。そして直後に砲撃音と叫び声が聞こえ、水飛沫と硝煙を纏った風が降りかかる。

 

利根「ち、鳥海!貴様、なにをやって―――」

 

鳥海「私の妹と友人を返せぇえええええ

 

『ほぉ!今の攻撃をものともしないか、面白い!それに深海化した艦娘の中ではやけに理性的ではないか。ふむ、実に姿を見てみたいものだな』

 

 言葉の終わり頃、一斉に深海棲艦が中央を分けるように動き始める。そして互いに向き合い跪いて首を前に傾け、一切乱れのないその動きに利根たちは言葉を発することはできない。

 

 眼前にいる艦隊には人型の個体しかいないことを知る。そしてこの艦隊を統治している者の正体に悪寒が走る。それに気が付けば中央を注視してしまっていた。首が固定されてしまったかに思え、向きを変えようにも上手くいかない。いつの間にか身体の自由が利かないことに気づく。

 

不知火「一体なにが起きているんですかっ」

利根「分からぬ!まばたきすることもできんとは、これから何が来るんと云うんじゃ……」

 

『ふむ、貴様らは遠隔だと深海化させることは叶わなくても、こうして近づいただけで制御できてしまうのか。何とも奇妙なものだな』

 

 意図的に深海化させることができる、という言葉は衝撃を与えた。急な深海化の原因が分かったからである。四人の中で鳥海だけは人一倍殺意を宿らせる、思いのまま行動しようと藻掻く。まばたきをする事も声を発することも出来ず抗う中で僅かに制御下から外れる事が出来た。だが、唸り声を上げて殺意のこもった表情を向けるのが精一杯であった。

 

『ふ、ハハハハッ―――あぁ本当に艦娘という存在は面白い。そうだ、自己紹介をしていなかったな?我が名は戦艦神棲姫(せんかんしんせいき)。これは是非、名を聞いておきたいものだな』

 

 薄い青色の髪、銀の目に童顔、白いワンピースを着た白金のティアラを身に着けた幼い少女がそこにはいた。腕や足にはティアラと同じ色の防具を身に着けている。楽しそうな表情を浮かべて、ずっと睨み続ける鳥海の前に立つ。

 

鳥海「おまえが、おまえがぁあああ!」

 

 手や足に力を込めて、今にも襲い掛かろうとするもその場から動けないのかぶるぶると小刻みに震えているだけであった。その様子を見て目を細め、楽し気な表情を戦艦神棲姫はしている。

 

『む!ほとんど我の制御下を脱したのか、見事だ。だが、他の艦娘はというと……残念だな。そこの奴ほどの力はないか』

 

 左目を瞑り、両手を組み考える素振りをし始める。今にも鳥海が発する怒りの声だけが海上へ響く。しかし戦艦神棲姫は気にする素振りを見せず、また何か思いついたのか閉じていた左目を開けこう言った。

 

『今から貴様らは自由だ、何をしてもいい。そこの艦娘のように暴れてもこいつらは動かさないでいてやろう。――いや先に行かせるか。おまえ達、目的地は既に教えているだろう?』

 

 指を弾くと三人の拘束は解け、海面に手をつく二人と戦艦神棲姫に飛び掛かる鳥海。

 怒号を飛ばしながら近づいてくる鳥海を気にしていない様子で「行け」とだけ伝える。

 

 その瞬間、跪いていた深海棲艦が一斉に海の中へと姿を消す。

 今この場に残っているのは最低限の装備をつけた戦艦神棲姫と鳥海、利根、不知火、対馬の四人。他の深海化した仲間も他の深海棲艦と共に姿を消した――風に思えたがそうではなかった。

 

 戦艦神棲姫と鳥海の間に黒い人影が入り込む。

 そして鳥海の攻撃を防いだ。

 

 防がれると思っていなかった鳥海に油断が生じ、油断を逃さんとばかりに脇腹を殴られて転がっていく。目を開け、上半身を起こし戦艦神棲姫のあたりを見ると言葉を失った。そこには仲間の面影を残している深海棲艦たちが戦艦神棲姫を護るようにして立っていた。

 

鳥海「そんなっ……あぁあああああ

 

 妹の変わり果てた姿を見てもう元に戻すことは不可能だと悟る。これまでの思い出が走馬灯のように駆け抜けていき、今も睨み続ける目からは熱いものが頬を伝う。

 

『だが、このまま一方的に殺すのは惜しい。そうだ、我を存分に楽しませてみろ。そうすればこの者たちを解放してやろう』

 

 そう戦艦神棲姫は無邪気に笑い、提案する。その言葉を皮切りに完全に深海化した摩耶たちは武装状態となり海上には緊張の糸が張り詰めていく。

 

『お前たちもやる気なのか、手駒に出来て嬉しく思うぞ。では――始めるとしようか』

 

 鳥海たちの返事を待たずにはじめられた。向かい来る砲弾、仲間に対応が遅れた四人。さほど距離のない懐へ一人目がすぐに到達しようとしていた。

 

――すぐには死んでくれるなよ?お前たちの死体が必要なのだからな。

 

 

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