とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 52話『余興』

利根「あぁくそっ――戦艦神棲姫と言ったか?あとで覚悟しろ!このツケは必ず払わせてやるからのッ!」

 

 戦艦神棲姫の提案を呑んだ利根らは深海化した仲間を元に戻すべく、戦闘を強いられていた。

 その中で容赦のない近距離攻撃と遠距離攻撃の両方を捌く。

 

 操り人形のような彼女達は表情を一切変えず、ただ攻撃を繰り返していた。そんな中で鳥海はなるべく傷つけないように、と心の中で思いながら戦闘に徹していたが一方で、利根と不知火は加減など一切せずに砲撃、近接攻撃を交互に繰り出していた。

 

利根「ぐううッ!」

 

 右頬に霧島の拳を受けて殴り飛ばす。角の生えた彼女は無表情で拳についた血を払うと次に砲撃の準備を始めた。

 

鳥海「ちょ、ちょっと二人とも!なんでそんなに」

 

 血が混じった唾を吐き、息を切らしながらゆっくりと身を起こした先で鳥海は利根を批難するような言葉を並べた。

 声の方を一切見ず、敵だけを凝視していた利根であったが、鳥海の表情と続きの言葉を想像して頭に血が上り、そうして利根は怒りを抑えることができず戦闘中であるというのに食って掛かる。

 

利根「なんで、だと?鳥海、貴様!今自分が何処に立っているか、分かっておるのか?!」

鳥海「う、海の上です。それでもっ」

 

利根「そうだ!わしたちがここへ出る理由はいくつかあれど一番の理由は敵が攻めてきたからであろう!深海化した仲間であろうと、それはっ」

 

 能代の雷撃を直撃寸前で回避し、言葉を続ける。

 

利根「それは手を抜く理由にならん!既に敵の手に落ちた者を、こちらを殺さんと動く輩を前に加減をしろというのか!」

 

 言い合いをしている利根の前に出てきた摩耶の顔面へ右のストレートが突き刺さった。鳥海の隣を横切り後方へ勢いよく飛んでいく。驚きと恐怖が混じった表情をしながら後方へ飛んだ摩耶の元へ駆け寄ろうとした。そんな鳥海を抑え、何度も言い聞かせる不知火。

 

不知火「鳥海さん!摩耶さんはもう私たちの知る摩耶さんじゃない!」

鳥海「でも摩耶が、摩耶がッーー」

 

『――はぁ。がっかりだ、もう終わろう。こんな茶番に時間を使うのは勿体ない。それと鳥海、だったか?貴様は我の思い違いだった。最近耳にした克服個体かと思えば、そうじゃない。善悪の区別すらつかないとは所詮、ただの艦娘か。艦隊、全員―――構えろッ!』

 

 そう言うと退屈そうな顔をしたまま、深海化した摩耶たちへ指示をする。その言葉は攻撃を仕掛けようとしていた者を静止させるほどの力を持っていた。三人を囲うように展開されてしまい、逃げ道を失う。

 

不知火「――ッ!どう、しましょうか。利根さん、鳥海さん!」

利根「これは命運、尽きたかの……もはやこれまでか」

 

鳥海「諦めるんですか!?まだ突破口を作れるかもしれないじゃないですか」

利根「いや実際にもう何もできん。囲まれて退路を断たれておる。それに――」

 

 くい、と顎である方角を示す。そこには先ほどまで居なかった菊月がおり、その傍らには黒く焦げた布切れが纏わりついていた。思わぬ再開に鳥海は僅かに安心した表情を見せ、菊月に向かって声をかけようとするも、不知火が肩を掴んで止める。

 鳥海が再び不機嫌になるもすぐに言葉を失う。

 

鳥海「そ、そんな……う、嘘ですよね。き、菊月ちゃんも?」

 

 菊月も、というように彼女は深海化していた。菊月の姿はまるで姫や鬼といった存在に近しいものへと変貌を遂げていた。数時間前の戦いに赴く彼女は消え失せ、目の前には赤い涙を流し続ける彼女しかいない。

 

……さない。――さない。――ん、赦さない

 

 全員 赦さない

 私の手で 殺してやる 

 

 その瞬間、菊月は目を大きく開くと獣のような唸り声をあげ、戦艦神棲姫へ襲い掛かる。護衛も反応できないほどの速度。肉食獣のように発達した爪で戦艦神棲姫の首を捥ごうとしていた。

 

『邪魔だ、伏せよ。この獣風情がッ!』

 

 戦艦神棲姫の発した圧により、菊月は利根たちの元へ吹き飛ばされ、フォローすべく不知火が抱きかかえた。だが、予想外の重さによろめき、海面へ落としてしまいすぐに菊月を心配する。

 ぱっと見ての負傷はないが変わらず両の目から赤い涙を流し、口から呪詛を垂れる姿は生前の彼女ではなく、不知火の胸中に悲しみが黒い染みを作る。

 

『ぐぁ!う゛う゛う゛……ぎざまだけは、絶対に赦さないぞ。戦艦神棲姫!』

 

 聞いたこともない声で叫び、目の前にいる戦艦神棲姫を睨みつける。

 しかし戦艦神棲姫は少し苛立った表情を見せる。表情が少し変わっただけなのに発せられる存在感に四人は萎縮してしまい、動けなくなっていた。

 

『とんだ邪魔が入った。艦娘と失敗作諸共、海の瓦礫になるがいい』

 

 そう言いながら再度、総攻撃の命令を下す。

 四人を囲んでいた深海棲艦の一斉砲撃が行われ、回避もままならず肉片となり海へ還る。

 

――はずだった。 

 

『き――水葬姫(すいそうき)。ここからは手筈通りに行きましょう?』

『そうだね、(ユウ)。その借り物の力すら、まだ使いこなせていないんでしょ?』

 

 その会話は戦艦神棲姫の耳にだけ聞こえ、苛立っていた顔を綻ばせる。

 

 爆撃、砲撃、雷撃が重なった一撃は目の前に黒煙がはるか上空まで立ち上るほどの威力を見せた。雲と同時に肌を焦がすほどの熱風が通り抜けていく。悲鳴のひとつも聞こえないのは、凄まじい威力の前に死んでしまったから?それは違うだろうと否定する。

 

 次第に黒煙が晴れ、爆心地が露わになってくる。先程の会話を元に考えると第三の勢力が来たと見ていいだろう。そう考えながら、その方向を見ると今度は笑顔になった。

 

 ぎゅっと小さくする不知火。艤装で衝撃を緩和させようとする利根。菊月に覆いかぶさる鳥海――を護るように蜘蛛の巣状のドームが形成されていた。

 

『もう解除でいいかしら?』

『いいと思うよ』

 

 戦艦神棲姫と艦娘の間には白い海兵服を着た灰色髪の少女と灰色髪の少女と同じ格好を薄緑髪の少女が現れた。背は不知火よりも少しだけ高く、顔も幼かった。

 突然の事に不知火を除く、三人は言葉を詰まらせ状況が飲み込めないでいる。

 

 戦艦神棲姫も深海化した仲間も、その場からまったく動かないでいる。総攻撃から僅かな時間が経ち、戦場が静寂に包まれたとき、薄緑髪の少女が両手を合わせ一言「解除」と呟く。

 

鳥海「わわっ……これは一体、なにが起きているんですか」

利根「何がなんだか、分からんことになってきたし、また深海化した艦娘が増えよったわ」

 

不知火「時雨さんと似た状態の艦娘、ですか……一体、芙二殿はどこから

利根「ほぉ、不知火。貴様、何か知っておるようだな?」

 

 つい、呟いてしまい聞き逃さなかった利根からの追及が始まった。ほんの少しの間、不知火は黙っていたが観念したように話し始める。

 

不知火「私たちの泊地が襲撃され、阿鼻叫喚の地獄を治めた者の一人が時雨という艦娘です。第四泊地所属の時雨ではありません。そしてあの地獄を治めた者はもう一人いました。その方は――」

 

『もうよい、小娘よ。聞きたいことは充分知れた、これ以上口を開くな』

 

 少し黙っていた戦艦神棲姫が口を開いた。いつの間にか、深海化した元仲間も戦闘態勢に入っている。一方でまともに戦えるのは水葬姫と游を除けば、不知火と菊月の二人のみ。人数差は変わらずの不利であったがそんな戦況を鼻で笑うのは水葬姫。

 

『随分と余裕そうじゃないか、()()()。それにそこの小娘も妙な気配だ。これは我が直々に出て、相手をする必要がありそうだな?』

 

 ピリピリとした緊張が周囲に響く。

 水葬姫――清霜を釈放し、自らの場へ招いた人物が知らせてくれた中でもトップクラスの危険度を誇る相手が目の前にいる。それに深葬姫なんて単語を口にする者は限られている。

 

『聞こえていなかったのか?私の名前は水葬姫。深海の姫は自己紹介もまともに聞けないの?』

『フン。水葬姫、か。まさか艦娘に魂を売るとは思いもよらなかった。それに貴様も裏切るとは思わなかったがな』

 

 名に神の名を持つ者とかつて神に憑かれ、残滓を糧に進化した艦娘との闘いが、今始まった。

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