とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 53話『深海の刺客』

 一方、叢雲達は負傷していた北方水姫の後を追っていく。壊れかけの電探を使い、深海棲艦特有の血の跡を辿りながら。

 

時雨「やっと見つけた」

叢雲「どれだけの駆逐級を囮や盾にすれば気が済むのかしら?」

 

 時雨と叢雲の二人は軽く息を切らしながら、負傷した方を庇い、青ざめ引いている北方水姫に声をかけた。足元には少々壊れた艤装と焼け焦げた肉が落ちている。

 

『しつ、こいぞ!私がどれほど前から、この作戦を練りに練ったと思っている!仲間も人間を改造する準備も、ほとんど無駄にさせやがって!』

 

 顔を赤くさせ、ジタバタと癇癪を起した子供みたいに喚き散らす姿を見て叢雲は「知らないわよ、そんなこと」と言いながらゆっくり距離を詰める。

 

 既に満身創痍の状態に等しい北方水姫は目の前に現われた叢雲へ悲鳴をあげる事しか出来ない。「人の顔を見て、悲鳴をあげるなんて、失礼よ」そう言いながら後ろへ突き飛ばす。

 

『痛いなあ、もう!――って』よろけて前のめりに転んだ北方水姫は愚痴をこぼしながら、体勢を立て直そうとした。そこへ一本の細い影が差し込み、言葉を失う。

 

叢雲「これで私たちの勝ち、ねえ!」

 

 既に得物を抜刀していた叢雲が言葉を言い終わると同時に右目が一段と輝きを増す。青い炎を思わせるオーラは北方水姫に対して有効打になった。

 

 腰が抜けて、動くことも出来ずに頭から股の先まで両断される。断末魔をあげる事もさせず、静かに戦いは終結した。北方水姫が倒された直後、張り詰めていた敵愾心は弾けるようになくなる。

 

叢雲は深く息を吐き「やっと終わったわね?」とここまで来た仲間である時雨へ声をかける。そこへ「まずは一体、だね」と緊張を解きながら歩いてくる時雨。

 

叢雲「時雨、単刀直入に聞くけれどまだ戦えそう?」

時雨「余裕かな。弾薬は殆ど尽きちゃったけど、燃料はまだあるし、そこまで疲れている訳じゃないから北上さん達への友軍行為は出来るよ」

 

 なんたって、と続けた。楽しそうな顔で両手のひらをパンと一回合わせる。手のひらの隙間から小さな火花が生じ、燃え尽きる寸前の線香花火のように消えた。

 

時雨「ボクにはこの力がまだ残っているからね。並みの深海棲艦はおろか艦娘も姫や鬼級にも負けないよ」

叢雲「それは頼もしい限りね。私は物理特化なのよね。今はこの得物を使いこなそうとするだけで精一杯よ。今度、紫月さんや八崎さんに稽古をつけてもらおうかしら」

 

時雨「いいんじゃない?それか提督にで、も」

 

 言葉が途切れ途切れになっていく。ここへ来る前に冷葉から芙二の死亡を聞かされてきたのに、忘れていた。気が付けば、叢雲は俯き黙っている。時雨は訂正に入ろうとするが「そうね。あの人、直に帰ってきそうな気がするもの」と言う。

 

時雨「うん、提督だもんね」

 

 二人の間がしんみりとする。時雨が続きを話そうとした時、無線に着信が入る。びっくりして肩を一度震わせ、応答するがノイズが酷く聞き取れない。

 

「泊地に何かあったの?」と問うも返答はなく、何かを擦る音だけが聞こえてくる。「時雨?どうかしたの?」そう少し不安そうな顔をした叢雲が近寄り無線を覗き込んだ。

 

 『ひやは 連絡が つっ――ない。こちらの 被害はははは…………

 

 そう、ノイズ交じりで掠れた音声が聞こえる。だが、最後の方は同じ言葉が繰り返され、最後は途切れてしまった。

 

叢雲「冷葉代理に何かあったのかしら。一度、泊地へ戻らないといけなそうね」

時雨「連絡がつかない、か。もしかして冷葉代理に今連絡が着かないことを伝えようとしてきた?」

 

 まだ途切れていない無線に耳を傾けるも既に切断されているようで以降は何も聞けなかった。

 二人はすぐに泊地へ戻ろうとする。泊地が敵襲に遭っているかもしれない。そう思ったら、北上らに加勢などしてはいられない、と結論付ける。

 急に頭上から何か迫っている気配を察知し、その場から離れた。

 

ザッバーーン!!!

 

 二人がいたところに何かが落ちてきたようで大きな水飛沫があがり、海面が揺れる。

 (早く泊地へ戻らないといけないのに)と叢雲の思いとは裏腹に事は進んでいった。

 

『あれ、あれ??どうして北方水姫が死んで、君たちが残っているの?』

 

 そこには海兵服を着た黒髪の少女――時雨がいた。叢雲は他所属(よそ)の艦娘が応援に来てくれた、そう思い話しかける。現れた時雨は叢雲を労う言葉をかけ、こちらへ来るように伝える。

 どうして?と問う叢雲に対し、もうすぐ仲間がここへ到着し、護衛しながら泊地へ送り届けるように言われているから、と答える。

 

叢雲「そうなのね。時雨、彼女達に護衛を任せていきましょ?」とその場から動かない時雨に手を伸ばして催促する。

 

時雨「そうだね、叢雲」

 

 手を取り、自身の方へ引く。そして殺意全開の様相で「案外白々しいな。やり方も誘い方も」そう言い放つと目の前にいる少女に対し砲撃をした。

 

 ドッッゴーーン!

 

 少女がいた場所は炎と黒煙が入り混じり、容易には近づけない。砲撃の強さを物語るように焼ける嫌な臭いが風に乗って伝わる。言葉を失っている叢雲は目を大きく見開いて、時雨と少女がいたところを交互に見ていた。

 

叢雲「時雨、あんたっ何してっ!」

時雨「いいんだよ、叢雲。あいつは、あっちで話した原因の一つだからさ」

 

 「それって」と言葉を区切る。叢雲は言葉の続きは話さない。時雨の言いたいことが分かってしまったから。

 

時雨「そう。敵だよ。これから来る仲間というのもきっと深海化の艦娘か深海棲艦のどちらかだろうね?」

 

 パチパチと炎がまだ音を立てて燃えている。中から映るシルエットは一向に膝をつく気配などなく、時折一部分が巨大化していた。

 

 二人は目の前にいる少女に対し、戦闘状態に切り替え、警戒を最大に引き上げ様子を伺っていた。その後に来る仲間、という言葉も忘れずに。

 

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