とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 56話『規格外 対 規格外』

紫雨(シグレ)「ハハハッハハハハ……これが私の!! ち、か、らだ!!」

 

 左指の五指全てから銃弾が放たれる。機関銃のように繰り出される弾を全て躱しながら、時雨は足元へ近づく。そして深海棲艦の吸い殻の近くにあった小口径砲を力任せに壊し、足へ振りかぶって「そんなもの――とっくに見飽きた、よ!」と強打した。

 

 ガッキィンと鉄同士がぶつかった高音を響かせるも、紫雨にはちっともダメージが通っていないのか「渾身の一撃も、今の私の前では無力!」と叫ぶ。

 

 続いてこちらの番とでも言いたげに背から先端の尖った棘の蔓を無数に飛び出させ、捕縛しようと伸ばす。空気が変わるのを感じた時雨は瞬時に後方へ避け、あるいは棘の蔓と時雨が持っている小物とで摩擦帯電を生じさせ、それに伴う爆発で防いでいた。

 

時雨「ふぅ、危ないなぁ」

 

 火の粉やふわりと舞う燃えカスを手で払い、紫雨と距離をとる。次の攻撃を予想しながら、どうにかして有効打を考えていた。

 

 以前のように静電気放電による火花を用いて、艤装あるいは機械を時限爆弾のようにする手段は可能である。もう一つは指先から、スタンガン程度の電気を放ち、隙を作る手段は微妙だと考えた。

 理由は二つ。先程、足を強打して理解したことであるがスタンガン程度では怯ませることは出来ない。ただの鉄、というわけではないらしいということ。へこみも傷もつかない所を見ると下半身よりも柔らかそうな上半身を狙うべきだと。

 

時雨「参ったな。このままじゃ、ジリ貧だ」

 

 ちらと自らの状況を確認する。長時間の航行及び戦闘。弾薬はともかく、燃料がなくなりそうであった。このままだと撃破するどころか叢雲との合流も果たせそうにない。

 

 そんな風に考えていると、上から骨の棘が降り注ぐ。後ろへ跳び、死体の丘を渡り回避していく。たまに死体の首や胴体をボールのように蹴り飛ばして攻撃するも当たる直前で白い棘の蔓で防がれる。

 

時雨(時限爆弾のような爆発の威力。スタンガンのような攻撃方法。はぁ、どこまで行ってもボクは近接特化なんだよなあ)

 

 なんて考え事をしていると、足に痛みが走り、視線を向けると足元から飛び出てきた蔓が巻き付いた。そこへ五指から射出される銃弾が飛来した。

 

 水飛沫の中に血が混じる。多少、負傷はしたが蔓からの脱出は出来た時雨は硬く細長い棘の蔓の破片をいくつか手に取る。チクチクと刺さる感触を覚えながら「これ使えるかも」とダーツのように投擲するが、やはり上半身への有効打にはならない。

 

 防がれ、パラパラと散る破片を見ながら「うーん、ダメだったかあ」と呟いた。

 

紫雨「そろそろ諦めた?もう私には勝てないって」

時雨「まさか、全くだよ。全身がゴムで絶縁体ですーとか、皮膚が裂けても無限に回復しますーとかじゃないのは分かってるから、さ」

 

 良い笑顔のまま死体の丘に登り、そこに転がる殴り壊して、火花が生じた艤装を複数投擲する。上半身目掛けて。直撃した瞬間、あるいは直前に爆発して鉄の破片が飛び散った。

 

 その中で少し大きな鉄片が紫雨の左乳房を掠め、僅かに出血させた。紫雨は舌打ちをして、背から伸ばした骨の棘を握り、へし折る。それを二つ作りだし、杖または槍のようにして接近する。

 

時雨「わあ、思ったよりも素早いんだね!」

 

 右から下へ振るわれた一撃を時雨は半身を仰け反らせ、避ける。直後、海面を割り、激しい水飛沫が生じる。顔に掛からないよう、片手で守りながら、壊せそうな箇所を視線で探る。

 探っていたとき、おっと、と真っ直ぐ飛ぶものを寸でのところでひらりと避けた。

 

 

 紫雨は左手に握っていた骨の棘槍(ヤリ)を思いきり投げつけた。人外の膂力をもってすれば、自らよりも小さく素早い的に(あた)る、はずだったのに。

 はぁ、はぁと肩で息をしながら、その場に留まる。

 

紫雨「相変わらず、化け物みたいな能力してるよね」

時雨「まぁね。そういえばキミは知っているんだっけか、ボクたちの提督のこと」

 

紫雨「そんなに知らないかな。ただアイリからは厄介な同郷の客、とだけ」

時雨「ふぅん。ボクは一度だけ提督はどうしたいんだろうって考えちゃった」

 

紫雨「この騒動について?」

時雨「うん。でも、ボクが考えて伝えたところできっと提督の考えは変わらないんだ。そう考えたら、どうでもよくなっちゃったってわけじゃないけど――」

 

紫雨「――その答えに続くだけ、とか」

時雨「そんな感じ。ボク、いやボクたちは提督が出した答えに従うだけ」

 

紫雨「私から見た芙二凌也は……いや、いい。――東第一泊地の時雨。もう終わらせよう、この不毛な戦いに」

 

 その言葉が言い終わると紫雨の雰囲気が一変する。ビリビリと身体を、その奥にある魂をひりつかせるような感覚に時雨は覚えがあった。それは――死の予感。

 

 今までの僅かにあった躊躇いもない、攻撃。紫雨を中心に水面が激しく揺らぐ。飛沫となった水滴が空へ吸い込まれる。ヒュゥゥゥーーと周囲の空気が紫雨へ集まっていく。そしてもう一本の骨の棘を杖のように扱い、海面に突き刺した。

 

紫雨「これで終わりだ」

 

 そして紫雨、本人を囲うようにドゴッといくつもの音が重なる。

 同時に剣山のように骨の棘が海面から突出し、全てを串刺す。

 それだけではなく、水飛沫が散った範囲にも骨の棘が突出して針地獄と化す。

 

 海面は揺らぎ、付近の死体の丘は原形を留めない。時雨のいた場所にも例外なく骨の棘は生じ、互いに絡み合っていた。水飛沫も晴れ、海面が穏やかになると反撃がないことを確認した紫雨はゆっくりと息を吐く。

 

紫雨「回避の隙も与えず、ゆえに全身を針が貫いた。死んだな。なんにせよ、強敵だった」

 

 そう言うと突き刺した一本の槍を抜き、その場を後にしようとする。振り返る必要はない。無数の棘に埋もれ、全身を損傷した死体など必要ないからだ。再利用できないまでに壊したことは反省するべきかもしれない。

 

 しかし背を向けた瞬間、全身に悪寒が走り、一回大きくぶるっと震える。胸に無数の刃物を突き立てられたような幻覚を見る。ゆっくりと振り返った先で見たものは涼しい顔で立つ時雨の姿であった。

 

紫雨「まだ、生きていたのか。しぶといやつだ」

時雨「危なかったよ、命の危機すらあった」

 

 紫雨の問いに表情を変えることなく答え、そして骨の棘に手をかけるとひょいと軽い動作で登る。そして剣山の上を軽快に走りながら、紫雨との距離を詰める。まだ息があるのか、と言いながら一度生成した骨の棘を全て制御し、時雨に向けて飛ばした。

 

紫雨「なんでっどうして、突き刺さらないっ!」

 

 一本は細くても、幾重にも重なると太くなる。時雨が走りながら左右避けたり、時に跳び、互いに相殺させる。避けきれないときは殴り壊していくおかげで即席の足場を作り出していた。

 

 制御に全神経を使い、上下左右、斜めに操り棘を向かわせる。しかしそれでも時雨の進軍を止める事は出来ない。それならば、と時雨が攻撃をする瞬間に一点集中させようと決め、新たに生成していく。八方から一点を狙う。それが最後になる、と紫雨は確信していた。

 

 そしてダンッと強く足場を踏み込み、膝を曲げて跳躍する。「突き刺さっていないわけじゃないよ」と言いながら右の拳を握りしめ、振りかぶる。

 

紫雨「あぁ、危なかった。でも君は一手遅かった、それが敗因だよ」

 

 八方から時雨を狙う黒い棘が射出される。

 全身を滅多刺しにするであろう、一撃。

 

 時雨の放つ必殺技が届く前に、紫雨の方が先手を取る。

 勝ちを確信する。紫雨の顔が笑顔になりつつあった。

 

『それじゃ、あんたの敗因は、私が生きていることを想定してなかったことね!』

 

 そんな言葉の後に優しい風が吹き、八方に伸びた棘と共に根元が徐々にズレていく。途端に右側が軽く感じ、少し左によろける。

 

紫雨「おっと……」

 

 不思議と痛みはない。

 だが、身体が身軽になった。

 そんな嫌なものの答えは――すぐに分かった。

 

紫雨「切り落としたか、私の右腕を。……あぁ、叢雲!!君がこの場に来ることは正直想定外だっ!!」

 

 予想外の角度から登場した叢雲の姿を見て、叫ばずにはいられなかった。そして叢雲により、斬り落とされた腕から紫色の血が滴り落ちる。

 

時雨「紫雨、君はこれから地獄を味わうんだ。終わらない、地獄を」

 

 右の拳は紫雨の顔に直撃する。バチンという破裂音を立て、海面に足からのめり込む。その瞬間、無数の骨の棘は一斉に砕け散り、霧散していく。

 

 これまでで一番の水柱があがり、海面を大きく揺らした。沈む紫雨が最後に見たのは、青色の中に混じる橙色の泡だった。

 

 パチャンと音を立てて、着地した時雨は叢雲に対して笑顔で「みんなの仇取ったよ」と言うのであった。

 

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