とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

237 / 387
ごーすと おぶ つしま


五章 57話『増える敵勢』

 水葬姫(すいそうき)は戦艦神棲姫のとりまきを砲撃して、隙を見ては攻撃を試みるも一度も成功してなかった。(ユウ)も游で敵味方の区別がつかない菊月から、利根たちを庇いながらの戦闘。

 

水葬姫「本当にっ!次から次へとキリがないっ」

『ハハッ!そうだろう、そうだろう。艦娘に力を奪われる奴など、程度が知れるというものよ』

 

 游の負担となっていたが「戦艦神棲姫、いや■■■と対峙する者の助けになってあげろ。その力を伝えば、なんてことはない」という自分達を受け入れた恩人の言葉に従っていた。

 

游「はあ。それでも少し厳しそうですけどねっ!」

菊月「う゛あ゛ぁああああ!!」

 

 游が張り巡らした蜘蛛の巣状のドームを突き破ろうと、鋭い爪で何度も何度も呻き声をあげながら引っ掻く菊月。一見脆そうに見えるドームは鉄に勝る強度を持っているのか、びくともしない。

 

游「いい加減、しつこいんですよ!」

菊月「ぐぅうっ!?」

 

 游の回し蹴りが菊月の横腹を捉える。悲痛な声をあげて、水面を跳ね、待機している深海棲艦の艦隊の中へ消えていく。そしてドームを解除し、付近の深海棲艦の鎮圧を行おうとしたとき。

 

 「ま、待て!貴様は、貴様たちは味方なのか!?」と声を張り上げて、問う利根。

 

 ピタリと動きを止め「一応、提督の命令ですので。それに……仲間を死なせるわけないじゃないですか」と言いながら目を逸らす。

 

游「こっちには先輩方も来ています。それにもしもが怖いですし、ね!!」

 

 そういうと游は小口径艤装に装填を済ませ、深海棲艦の鎮圧を行い始めた。利根は「提督の命令じゃと?いったい、どいつの……」と考え込んでいた。そこへ不知火が声をかけ、今に意識を戻させる。

 

 ドームが解除されて、菊月が利根たちの方へ飛び込む。ゾンビのような姿勢で獣の唸り声をあげる。利根たちと菊月の間に鳥海が割って入る。彼女は一時的にとはいえ、他の艦娘を越える力を持っていた。

 

鳥海「菊月さん、私たちは味方です!貴方がこのまま、敵味方分からず、攻撃するんでしたら――私にも考えがあります」

 

 さっきまで取り乱していた鳥海とは思えない発言。至極真っ当に、冷静に、艤装のトリガーから手を離し、菊月の方へ歩き出した。

 

 だが、菊月は唸り声をあげ、鉤爪を突き出し、鳥海へ飛び掛かる。「なっ」と驚く利根や不知火が動こうにも遅く、間に合わない距離であった。

 

鳥海「それが答えなら――私もこうします!」

 

 飛び掛かった菊月に対して、身体を右側へずらし、左足で顎を蹴り上げる。ガッチィィィンと固い音が海上へ響くとき、戦艦神棲姫も游も水葬姫も皆、動きを止める。それは深海棲艦も例外ではない。

 

 仰け反りながら、宙を二回転する。

 菊月の口元からかなりの血が出て、弧を描く。

 

 バシャンと音を立てて、仰向けで倒れる。

 鳥海だけは、動きを止めず、菊月の元へ近寄る。ボロボロの海兵服の胸元を雑に掴み、利根のもとへ放り投げる。利根は慌てて、受け止め、文句を言う。

 しかし不知火だけは先に鳥海の考えを理解した。

 

鳥海「……利根さん。菊月さんを連れて、対馬さんと共に撤退してください。彼女はもう戦えない。深海化が収まって、私のようになる、という一縷の望みを託しますね」

 

 利根が頷いた後に、ですが、と続ける。「不知火さんは残って下さい。私のサポートをお願いします」と締めた。不知火は頷くと彼女たち二手に分かれた。

 

利根「鳥海!絶対に死ぬな!」

不知火「利根さん、対馬さんもお気をつけて!」

 

 利根たちが別動隊になった瞬間、戦艦神棲姫の傍にいた一部の深海棲艦が動き出す。距離は二百メートルと少し。敵空母は艦載機を飛ばし、砲撃が可能な個体は絶えず撃ち始める。

 

鳥海「! まずい! このままだと利根さん達に被害が――」

 

 少しでも被害を抑えるために、鳥海も不知火も牽制を仕掛ける。しかしたった二隻ではあまりにも乏しく、被害を受けてしまうのが容易に想像できた。なんならこちらへ飛来する砲弾を防ぐことすらできない。

 

 利根たちが進む方向にいくつもの水柱があがり、攻撃の激しさがうかがえる。また通信障害により、鎮守府や味方に状況を伝えるのも困難と非常に厳しい事態であった。

 

游「水葬姫! 私、アレ使ってもいいですよね?」

水葬姫「ふっ!やぁ!……いいんじゃない?でもさ、それに変身したとき、恥ずかしそうにしていたじゃん。いいの?」

 

游「そ、それは…い、今は緊急事態なんですから!最悪、そんな記憶は提督に消させますので!」

水葬姫「おぉ怖い、怖いね~。なら私も秘密兵器、つかっちゃおうかな~?」

 

『秘密兵器? それに恥ずかしい?なんだ、魔法少女にでも変身するのか?』

 

水葬姫「うぅーん?別にそういうわけじゃないけど……まぁ普段とは違う艦娘の姿を目に焼き付けなよ。深海棲艦もワンパターンで見ていて飽きるからさ」

 

 戦艦神棲姫の言い分を海兵服の少女こと水葬姫は呆れながら返事する。しかし言葉もすぐに砲撃音で消され、全く聞こえない。

 

 「そういう格好はプライベートでお披露目したかったのになぁ」という游の呟きは水葬姫にだけ聞こえた。少し前までは男性どころか人間に対し凄まじい憎悪を抱いていたのに、恩人は()に一体、何をしたのか、水葬姫は気になっていた。

 

 

 ここへ来る前、ほんの少しだけ会話をした。

 

 総司令部の艦娘が暮らす寮内のある一室に二人はいた。外や棟内中が騒がしい。職員も艦娘も、妖精ですら深海棲艦の軍勢が現れた。規模がかつてないと口を揃えていった。二人は艦娘なのに、海へ行かず、陸の、寮内の部屋に軟禁され蚊帳の外であった。

 

 そこへいつもとは違う雰囲気の芙二が現れて、清霜と夕雲に話しかける。 

 

芙二「ちょっと予定が狂ったが、君たちをうちへ引き取る。これは餞別だ。その力を皆の為に使ってくれ」

 

清霜「ちょ、ちょっと芙二提督!いいの?!こんなところに来て!」

芙二「……いい。向こうは向こうで頼もしい仲間がいるからな。その仲間に加わってくれ」

 

夕雲「それは急なことですね、貴方でも対処できない事なんですか?」

芙二「できない」

 

 できないことはないと思いながら、嘘を吐く。きっぱりと断言する。

 二人の表情が曇る。

 

 深海化した艦娘、また神を名乗る者たちのチカラを得た艦娘、深海棲艦の姫、鬼級をものともしない怪物が断言した。自分達が行っても、焼け石に水、なんじゃないかと二人は不安を抱く。

 

芙二「そのままで、というわけじゃない。とりあえず清霜は時雨から聞いた話ですまないが、前に駆逐水葬鬼という名を名乗っているらしいな?」

清霜「そうだけど」

 

芙二「ちょっとこっちへこい、時間が惜しい」

 

 名を呼び、手招きする。

 ゆっくりと立ち上がり、芙二へ近づく。

 

 芙二は左手で清霜の右手を掴み、少しだけ干渉して彼女自身で克服できるよう、施す。

 

清霜「? 何をしたの?」

芙二「今は言えない。それに詳しくは省くが、これからは水葬姫と名乗れ」

 

清霜「ええっ!? ほんと何をしたの!?怖いんだけど!」

芙二「次は夕雲か」

 

 ぎゃあぎゃあと喚く清霜を無視して、夕雲の元へ近寄る。

 椅子に座ったままの夕雲の右手を掴み、自らの力を貸し与える。急に他人の力を使えるようになるわけではない。だから、彼女でも扱えるチカラを。彼女の身体と心を少しだけ、いじくる。

 

夕雲「えっと、芙二さん?私にも何を――つぅっ♡」

 

 小さな悲鳴をあげて、ぶるっと大きく震える。姉の態度の変化を見逃さない清霜は別ベクトルの怒りをあらわにして、芙二に噛みつく。

 

芙二「すまんな、もう少しだけ耐えてくれ。それと君は游蜘蛛…いや游と名乗れ」

夕雲「はぁい♡ 芙二さん♡」

 

 芙二による干渉が終わると、夕雲の表情は蕩けていた。頬はイチゴのように紅く、目は朝露のように潤っている。ゆっくりと温かい雫が、一粒、一粒と流れ落ちる。

 

清霜「芙二提督っ!!夕雲姉さんに何をしたの!」

 

芙二「(オレ)が持つ、一部の力を貸し与えた。あれは強烈ゆえに普通だったら精神が耐えられないが、今耐えられるように調整した。態度の変化は副作用と言ったところだ。そのうち、治まる」

 

 「あんな夕雲姉さん、見たくなかったなぁ」と清霜は呟く。

 「すまんな、苦労をかける」と芙二は一息つくと扉の方へ向き直る。

 

芙二「すぐに戻れると思うが、どーにもならなくなっても、潔く死を選ぶのではなくて、最後の最後まで抗えよな?提督との約束だぞ!」

 

 そういうと壁をすり抜けて、去った。

 未だにホの字の姉の頭を引っ叩いて、職員の元へ向かう。

 

 芙二がこっそり清霜に持たせた異動願――特別異動許可書を握りしめて。

 

水葬姫「――まぁ、ここまで来たら、抗う一択だよねぇ」

 

 姉が奥の手を使うと決めた以上、自分も隠しておく必要はない、と決意する。

 

 と、したところで、海上がざわめく。

 聞こえるのはいないはずの海鳥の鳴き声。

 無風なのに波が揺らぎ、付近にいる深海棲艦の表情が変わる。

 今にもこの場から逃げ出したいと本能が叫び声をあげ、そして鳥肌が立つような感覚は、初めての事である。何かを察した戦艦神棲姫の表情も、雰囲気も変わっていく。

 

『フッハハハハハッ!! なんだ、なんだ!成功しているではないか!北方戦艦神棲鬼!』

 

 ざわめく戦場の中、一段と大きな声をあげる戦艦神棲姫。その言葉を皮切りにブォォォオと法螺貝を吹いたような音、あるいは船の汽笛に似た低い音が海上中に響く。

 

游「これから、なにが現れるというのですか? あの人と対峙したときのような恐ろしさ……!」

  

 主砲の引き金に手を掛けたまま、次々に騒ぎ立てる戦場に驚いている。近くにいた不知火は游の発言を聞いて(あぁ、この游って人も芙二さんに会ったことがあるんですね)と思いながらも、同感です、とは言わなかった。

 

 空が黒く、曇りだす。

 すぐに雷も鳴り始め、雨が降りそうなほど、黒い空。

 

 低い音が鳴りやむ頃、ポツポツと雨が降り出す。

 呼び寄せたのでは、と思うほどタイミングが良い。

 それだけではなく雨足も風も強くなり、視界が悪くなり始める。

 

 いつの間にか、付近の深海棲艦は戦艦神棲姫の傍まで戻り、待機しているように見えた。

 不知火、鳥海も水葬姫も游も移り変わろうとしている戦場の雰囲気に戸惑う。

 

 戦艦神棲姫の隣へ見たことのない深海棲艦が現れて、耳打ちをする。そこへ戦艦棲姫と見たことない人物を連れて現れる。

 

 一人目は全身を黒い触手で覆った獣。背には四連装砲が載せられており、これまでにないニュータイプであった。「ウヴルルル」と目の前にいる游たちへ唸る。

 

 二人目は紺色髪のツインテールの娘。戦艦の艦娘と並ぶ高身長であり、誰かの面影を残しながらも、中途半端に深海化している。不知火は何処かで、と一考する。

 

 三人目は白銀の髪をストレートに伸ばした、青い瞳を持つ深海棲艦。胸元を閉じた黒いドレスに身を包み、他の皆を見下ろすほどに大きな身長はそれだけでプレッシャーを与えていた。

 その体躯に見合わないほどの小さな主砲、副砲を携えている。

 

 四人目は戦国武将のような姿をした深海棲艦。赤黒い鎧兜に身を包み、腰には白い鞘を携えた異形とも言えるモノ。背からは大型の主砲が見え、元は戦艦の艦娘であったことは一目瞭然。

 

 「あの姿、形は――まさか」と何かに気づいた鳥海が口に手を当て、ショックを隠せずにいた。

 

『これからが、本番だ。さぁ、皆の者!!命が燃える限り、武器を持て!』

 

 今まで以上に声を上げ、覇気を出して宣言する。周りにいる深海棲艦は声をあげずとも、一斉に再侵攻を開始する。鳥海たちを無視し、すり抜けていく。

 

 そして深海棲艦の中でも異形な者たちと数隻の深海棲艦が残る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。