とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 61話『異深奮戦Ⅲ』

『こんなものか? カンムス、という生物のチカラはぁッ!!』

 

水葬姫「こんな、で片付くわけがないだろうがっ!!」

 

 曇り空の元、一隻の深海棲艦と一人の艦娘が互いの得物をぶつけ合う。ときにガキン、ギャリンなどと弾け、擦れる音が一段と響かせ合っていた。

 

 海乱鬼の揮う軍刀から繰り出される一撃は力任せのものではなく、的確に切断箇所を見極めたようなもの。一人称の変化。荒い言葉遣い。そして大型の主砲よりも軍刀や体術に頼る戦法。

 そして物の節を狙い、断ち切る様は艦娘という器にナニカが憑りついたと思わせる。

 

水葬姫「その主砲は飾り?それとも私への驕り?」

 

 機械の四つ腕をそれぞれ独立して操る水葬姫はずっと感じていた疑問をぶつけた。

 海乱鬼は仮面の下で、はんっと鼻で笑い「扱い方が分からない」と返答する。

 

水葬姫「肉体は艦娘、なんでしょ?記憶を覗き視て、覚えちゃえばいいじゃない」

 

『そんなことは我にはできぬな。この肉体とは波長が合った。たまたま、出会い。たまたま得ることが出来ただけのこと』

 

 「へぇ」と短く返事をして一撃を受け止める。ガチン、と大きな音が発せられ、両者の動きが止まる。海乱鬼はフッと素早い動作で軍刀を鞘に納め、游たちや静止している深海棲艦へ「邪魔をするな」と呼びかける。その一言で場の加勢という考えを放棄させるほど覇気を放つ。

 

 浮遊する四つ腕を背に戻した水葬姫は自分の提督がおかしいだけ、と再度認識を改めた。

 

『それはできない相談ね』

 

 海乱鬼の忠告を無視するのは、游でもなく鳥海、不知火でもない。浅黄色の長いポニーテール、少し幼い顔、夕雲型の制服を着た深海棲艦(カンムス)が立っていた。顔には下顎のない骸骨のようなヘルメットを装着している。

 だが、不満げな雰囲気を感じさせ、海乱鬼は苛立ちを隠さず、問う。

 

『誰だ、貴様』

『武蔵さんの戦友のようなものよ』

 

『それで邪魔を企てるか。なに雌雄決すれば、余計な血を流さずに済むのではないか?』

『時間の無駄よ。とっとと武蔵さんに身体を返しなさい。さもなくば、命令に背いたモノとして全員で処分することになるけれど』

 

『断る。全てには段取りというものがある。この器を返せというのなら、出来かねる』

『なら、そのままそこの怪物と共にゴミとなりなさい』

 

 冷たく言い放つと、今まで静止していた深海棲艦が動き始める。何十隻という数を前に海乱鬼は余裕ある雰囲気を放ったまま水葬姫へ話しかけた。

 

『雌雄決すればと言ったが、此度の勝負は貴様の勝ちだ。このまま大人しく軍門に下る、という結末は我には訪れないらしい。貴様となら……いや聞かなかったことにしろ』

 

水葬姫「深海棲艦にも色んなのがいると思っていたけど、酷いヤツもいたもんだね~?」

 

『なに、そういうときもある。だが、ただ死ぬのは惜しい。だから、それを貰うぞ』

 

 何を言っているんだ、と頭にクエスチョンマークを作り出す水葬姫を余所に海乱鬼は浮遊する四つの腕の中から、槍を握る腕から強引に奪う。

 

 そして十文字槍の先を海面につくか、つかないかのギリギリの位置に保ち、構える。左から右へと一本の棒を通すように、左手を支点にし、右手で柄を握り固定する。

 

『久しい。実に久しいな、この感触は。あの頃の光景が蘇る。否――』

 

『死ぬにはちょうどいい時間ね。艦隊全体、撃ちなさいッ!攻撃、開始ッ!』

 

『再び屍山を築こうか、海に浮かぶ小さな島を』

 

 再び、戦闘が始まる。砲撃音と水飛沫の上がる音が何重にも聞こえだす。

 先程とは違い、全てがよく見える。敵の形も数も砲撃の予測さえも。

 

 游が展開した糸は敵を端から切断し、鳥海と不知火が協力し、カバーし合うように奮戦する。水葬姫は機械の腕を巧みに扱い、敵を殲滅させていく。だが、湧き水のように出現する深海棲艦は一種の恐怖になりつつあった。

 

 十三体目の駆逐級を屠った海乱鬼がこの異様な湧き具合に心当たりがあるのか、呟く。

 

『まだ息があるか、海の鬼よ。貴様も案外、しぶとい。一度や二度の死では飽き足らぬか』

 

 それに水葬姫、と名乗ったヤツは気が付いているのか?と少々余計な事を考える。しかし次の瞬間、致命傷に近い砲撃が集中した。飛来するものを見て、仮面の下で笑みを作るが捌き切れる数にも限度があり、無数の砲弾を浴びた。

 

『ぐぅ■■■■がぁぁ■■あッッ!』

 

 鎧兜を壊され、肉を削がれる痛みに思わず叫び、物凄い勢いで深海棲艦の艦隊へ前進する。

 指令を下した深海棲艦は、呆れ更に追い打ちをかけるように指示を出す。

 

 絶えず続く痛みを無視し、目の前に出てくる首という首を貫き、肉という肉を削ぎ、砕けるモノを砕く。だが、次第に勢いを弱め、力なく突き出す十文字槍が突き刺さって抜けなくなった。

 大声を上げ死体を十文字槍で切り裂く。

 

不知火「あれが、鬼武蔵と呼ばれた理由ですか?」

鳥海「一瞬の殲滅力が群を抜いてます。渾名をつけられるのも納得ですね」

 

游「でももう終わりのようです。あの傷では、次の集中砲火は避けられないでしょう」

 

 ふぅ、と息を吐きだし、死体に刺さった十文字槍を抜き、血肉を払う。自身の血と返り血の区別がつかなくなるほどの出血。その結果の首や体の欠けた深海棲艦の死体が小さい足場を作り出していた。そこへ腰かけて「トばし過ぎた」と満足げに言う。

 

『満足しましたか』

『少しだけな』

 

 その言葉にムッとする深海棲艦の少女。

 一人でそれだけの数を葬っても、と言いかける。海乱鬼は「だが、もう指一つ動けそうにない」と言いながら、十文字槍を足場へ突き立てた。

 

『惜しいが、ここで逝くとしよう』

『手間が省ける、と言うとでも思ったのですか。前に命令違反は処分だと伝えたはずです』

 

 少女が艤装を海乱鬼の方へ向き、砲門を展開する。海乱鬼は(こうべ)を垂れたまま、微動だにしない。無情にも、そのまま撃ち放つ。いつもの水飛沫。いつもの音が辺りに響く。

 

 『処分完了』と短く言い放ち、艦隊へ再び指示を出そうとした瞬間。顔面へ何かが直撃し、後方へ吹き飛んだ。意識が途切れかけたとき、海乱鬼が突き立てた槍の傍に誰かがいた気がした。

 

『ガッ■ペ、ロッ■■■』

 

 水切り石のように跳ね、待機していた艦隊の方に入っていく。

 ハッとして起き上がった深海棲艦の耳へぐちゃ、と何かを潰したが聞こえる。

 

 手で鼻を触ると、僅かにへこみ、ぬるぬると鉄臭い。

 何かが直撃した事実はすぐに認識できた。だが、それだけではなく足元も生暖かく、ぬるぬるとしており、臭うだけではなく僅かに固い。

 

 明滅を繰り返す(まなこ)はまともに機能してはおらず、映像がモノクロ調になって見えづらい。それどころか、星々が見える気がする。

 

『アッ、カァッ、グィッ』

 

 思うように発声ができないことに今気づく。早く指示を出さないといけない、その思考が徐々に脳内を占めていく。早く!早く!早く!しないと、焦りだすも口から出るのは言葉ではない。

 

『艦タ、イ』

 

 何分か経ち、ようやく言葉らしい言葉が出てきたとき目の前が赤く染まる。強烈な熱を帯びた風を浴び、あまりの痛みにバタバタと暴れるが手足は(くう)を切る。

 

『ちょっとだけ加勢に来たわ。最悪なお知らせがあるのだけど、今聞ける状態?』

 

 その言葉を最期に深海棲艦の少女の意識は途切れるのだった。

 

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