とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 63話『ゴルヴルチカⅠ』

『フッ、早くしないと全員エサになってしまうぞ?』

 

 深海棲艦と戦闘中に触手が襲い来る。捕まってもすぐに離す。

 触手へ気を散らしていると深海棲艦の数にやられてしまいそうになる。

 

 戦闘が始まり、ずっとそれだ。

 水葬姫たちを触手(ねぶ)る様な態度は余裕ということを暗に伝えていた。

 

 ワ級の頭と体を切り離して、息を整える。水葬姫は瑞鶴が死ぬ間際に言ったことについて考えていた。自分を襲った時とは違い、身体に変化があらわれていることも気掛かりになっていた。

 

水葬姫「むっかつくな……。だけどあいつの傷がどんどん癒えてきてる。それに深海棲艦でも艦娘でもないってどういうことだろう?」

 

游「私の推測ですが、全く別の存在になるということでは?さっき戦った獣のようになっているということ。まぁ厄介な相手ということです」

 

水葬姫「それもそうかっ!なら、游は周りごと纏めて攻撃してみて!無理だったら、私が穴を作って戦略的撤退だ!」

 

 四つの腕を個別に扱い、深海棲艦を一隻ずつ確実に殺す。水葬姫の言葉に游は頷いて、糸を張り巡らせる。その瞬間、艦載機も砲弾も全てが宙に張り付いたように止まる。

 

游「くぅッ……今回は数が、多い!ですがこの量なら致命傷にはなるはず!!」

 

 深海棲艦の数がこれまでの比ではない為、巣のような糸に張り付く物体で空が埋め尽くされる。その重さに糸を操る手が悲鳴をあげ、游が辛そうな声を漏らす。

 

『これがあの人間が手を施し、克服した艦娘の力か。大したものだな』

 

 游の攻撃を一身に受ける。これまで以上の衝撃波を生み出し、海上が激しく揺らぐ。凄まじい轟音と熱を生み出し、チリリと肌が火傷しそうになる。しかし直前での発言で見せた余裕が嘘ではない、と確信せざるを得ない結果となった。

 

『今のは攻撃というよりか、プレゼントか?おかげでどんどん傷が癒える、癒えるぞ』

 

游「う、うそ……あれだけの数の爆弾や砲弾、それに深海棲艦だって巻き込んで」

 

 そこで何かに気が付く。

 言葉通りに深海棲艦を糧にしているとしたら、だ。

 敵へ塩を送ったようなものになってしまう。損傷を受けるよりも回復速度が速いのだとしたら、発言にも態度にも納得がいく。

 

水葬姫「游! 大丈夫、游のおかげで突破口が掴めた!だから自分を追い詰めないで!そのまま戦っていたいところだけど、今は戦略的撤退だ!このままじゃあ埒が明かない!」

 

『逃がすと思っているのか?』

 

水葬姫「その発言に対してはノーだろう。でもこっちにはもしも、の為に策がある!提督、つかわせてもらうよ!」

 

 触腕を伸ばす北方戦艦神棲鬼。周りの深海棲艦を有無を言わさず、全て取り込んでいく。鳥海や不知火はまだ戦っているがどこか表情が辛そうだ。鳥海の肩の辺りには妖精さんが見え、何かを話しかけている風にも見える。距離がある為言葉は聞こえないものの不知火の表情で大体は分かる。

 

水葬姫「深海神姫の真愛(アビサラーズ・コール)!!」

 

 その言葉と共に水葬姫の左目が橙色の光を放つ。突然放ち始めた明かりに惹かれる深海棲艦は硬直する。攻撃の手が止まり、ゆっくりと下へ下ろす。北方戦艦神棲鬼以外の深海棲艦は全て行動を停止し皆が皆、頭を垂れて、跪き命令を待機する兵と化した。

 頭は垂れずとも北方戦艦神棲鬼の動きは止めることが出来ている。身体が動かないと叫びながら、停止した個体を端から取り込んでいる。

 

水葬姫「みんな、よく聞いて。そこにいる異物を排除してほしい。皆の命を使い捨てる用で申し訳ないけれど……」

 

 提督から聞いた深海神棲姫(おひめさん)という人を頭の中でイメージしてみたけど効果はイマイチどころか、全くなく皆が動かない。時間がないのに、と焦る。

 

游「水葬姫。多分、強い命令口調の方が彼女らは頷くかもしれないです。その呪文の拘束時間はあまりないのでしょう?なら、ここは思い切って。私たちは彼女らの命を頂くんですから」

 

水葬姫「う~ん、分かったよ。あまりこういうのは気が進まないけれど……こほん。

    皆の者!私の話に耳を傾けよ!

    我々は今しがた敵の攻撃を受けている!皆の後ろに居る奴は裏切り者だ!

    私たちに謀反を起こした愚か者だ。皆の手で奴に、奴らに裁きを下してやれ!

    我々を裏切ったら、どういう末路を辿るかを!!

    全艦隊――今こそ、行動を起こし敵を殲滅せよ!!」

 

 勢いよく口上を叫ぶ。変わり様に游たちは目を丸くする。

 気持ちを切り替えたら、考えるよりも先にベラベラと出てしまったと後悔する水葬姫。

 

 だが効果はあったのか深海棲艦たちが一斉に立ち上がり、北方戦艦神棲鬼の方を向く。

 そして一隻の駆逐艦の砲撃を皮切りに戦いが始まった。

 

 未だ動けない北方戦艦神棲鬼は悲鳴をあげ、恨みを吐きながら黒煙に沈む。

 その隙に水葬姫たちは鎮守府を目指して撤退をする。燃料切れが近い鳥海や不知火の為でもあり、万全の状態で挑まなければ勝ちはないと確信していた。

 

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