とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 64話『ゴルヴルチカⅡ』

鳥海「す、すみません! たった今、戻りました!」

 

 艤装を装備し、ボロボロの格好で母港にて出迎えてくれた神城と音宮に伝える。不知火も鳥海に倣い頭を下げ簡潔に報告をする。神城と音宮は戻ってきた者が半数以下になっていることに酷く悲しんでいた。

 

神城「ふむ、報告感謝する。連絡のつかない吹雪達も似たような状況だろう。こちらも通信を試みたが全くダメでな。他の者は残念でならないが、先ほど帰投した利根たちと君たちでも戻って来てくれてありがとう」

 

音宮「そんなうちの艦隊は利根以外、全滅だなんて……彼女達は本当に死んだというの?!」

 

 

 音宮は涙を滲ませながら、二人に問う。鳥海も不知火も首を横に振り言ったとおり、深海化しましたと口を揃えて伝える。報告の中で聞いたことのない深海棲艦の名を耳にした神城は東第四泊地で行われた報告会の内容を思い出す。

 

神城「まさかその二体の深海棲艦も人智を超越しているのか?」

不知火「そうです。一体は現在行方不明。もう一体は現在、鎮守府より三十キロ南へ行った地点付近にいると思います」

 

 戦艦神棲姫は本当に行方不明である。艦娘を強制的に深海棲艦へ変貌させる能力は神の如き権能だろうと音宮は思う反面、そんなものが存在するのかと疑問を抱く。

 

音宮「その…これを言ってしまうのは失礼だと承知なのですが極限状態で集団幻覚を見たのではないでしょうか」

鳥海「証拠がないので、そう思われても仕方ありません。それに心強い助っ人が参入してくれなければ、皆死んでいたでしょう」

 

 水葬姫と游の事を話す。自力で深海化を克服し、更に異なる力を身に着けている艦娘の話に音宮は半信半疑であったが、神城は受け入れた様子で話を進める。

 

神城「その二人は何処に?」

 

不知火「母港から少し離れた浜で待機してもらっています。自分達の姿は受け入れられるものではないから、と。あとは先に進んだとされている戦艦神棲姫こと()()()への警戒です」

 

神城「了解した。音宮提督殿、二人を入渠させてください。ついでに補給も。あとは軽食をとらせて……小休憩をはさませてください。他の艦娘への呼びかけは私の方で行います」

 

 神城の指示に従う音宮。鳥海と不知火を連れて、鎮守府内へ歩いて行く。一人になった神城の耳には忙しく駆け回る臨時スタッフの音。妖精さんが復旧作業にあたってくれている音。

 艦娘同士の会話。そしてこちらへ近づいてくる足音とそれを警戒する言葉。

 

神城「君たちが利根たちや鳥海たちと共に戦ってくれたのだろう?ありがとう。そして深海化した吹雪達とも交戦したのだろう。でなければ、触手に蠢く獣なんて言葉を耳にしないからな」

 

游「そうです。流石提督を嵌めようとして、返り討ちにされた人なだけありますね」

 

 神城は見慣れない少女の言葉に引っ掛かるも、東第一泊地の提督かと納得した。

 全く凌也殿は何を作り出しているのだ、と呆れて言葉にならないと水葬姫が話し始める。

 

水葬姫「提督の事情を少し知っているようで安心した。こう見えても、私たちは艦娘。それを今、証明するね」

 

 そういうと二人は克服状態を解除し、夕雲型のセーラー服に身を包む。他の武装は解除せずにいるが、それでも神城は二人が清霜と夕雲ということに気が付く。

 

神城「なんだよ、その表情。私も一応彼女ら姿かたちは覚えているつもりだ。たとえ、変に改造されていたとしてもな。そうか、凌也殿。……ちゃんと責任取れよな」

 

 最後の方は涙声になっていた。かつてそこに存在していた彼女達を思い出していたからか、あるいは未だに抱き続けている”再会”という希望についてか。

 

游「それだけでいいの?実は深海化したままでこのまま殺されちゃうかもよ?」

神城「あそこの名を騙ることの意味を知らないものは多いが、私は知っている。騙ったら、最期。どういう末路を辿るのかを」

 

 そういうと真面目な表情、真っ直ぐな目で水葬姫を見つめる。普段だったら茶化されるところではあるが、水葬姫と游はこの目を知っている。多くの後悔と悲しみを知っている目だ。

 

 自らをいいように扱おうとしていた人もその目をしていた。言葉では強がっていても、実態は悩みに悩んでいるか弱い人間であった。その人が捕まったのか、死んだのか知る由はない。

 

水葬姫「……分かった。本当に提督には感謝しないとだね。君は私たちを受け入れてくれるんだから。この場を作ってくれた提督と神城提督には感謝の言葉を伝えても伝えきれないよ」

 

游「あなたも研究所という存在で苦しめられたのなら、同胞のようなものです。この戦いが終わり次第、ここの皆さんとお話してみたいものです。水葬姫、楽しみが一つ増えましたね?」

 

 そう落ち着いて話し終える游の言葉に「うぇっ!?」と声を漏らす。神城は歓迎すると返事をして、補給すべく鎮守府内を案内する。警戒するに伝えていた艦娘も二人の姿が艦娘であり、またあの研究所によって改造させられたのだと知ると態度を軟化させていた。

 

神城「それと……長門、いや戦艦棲姫はいたか」

水葬姫「居たよ。だけどあの場で」

 

神城「分かった。そうか、やはり…あの方というのがリベラという深海棲艦なのだとしたら合点がつくというものだ。もうすぐで着く。君たちは少し休憩を取っているといい」

 

 倉庫の前につくと、待機していた艦娘に引き渡す。その場には明石と妖精がおり、簡易的であるが艤装の修理も行っているようだ。神城は音宮の元へ行こうとした瞬間、鎮守府内に深海棲艦の出現を知らせるサイレンが響き渡る。

 

 ジリリリリ、と鳴り終えると次は館内放送に切り替わった。スピーカーを注視するも聞こえてくるのはカタカタと小刻みに震える音。周囲で顔を見合わせていると小さな声で「外を。海を見てください……」と呟いたのを拾う。

 

 屋内にいる者は窓から海を。屋外にいる者は出来るだけ海を見れる場所に移動する。

 

「なんだ、あれ」ゆっくりと呟く神城の言葉は付近にいる者たちの気持ちを代弁していた。

 

 白い髪は目元まで垂れており、表情は分からない。頭からは鹿の角が四本前後に生え、半身は赤みのある黒い鎧に身を包んだ巨大な女性。もう半身は黒いサソリのような見た目をしており、尾は長く先端は丸みを帯び、鋭い針が見える。背には基地にあるような砲門がいくつもあり、また太い巨人の腕が二本生えていた。

 

 ぱっと見で十メートルを超えるそれが海の上にいるという事実。

 しかもかなりゆっくりとした速度でこちらに近づいてくるのが分かる。

 

 怪物の足元は白く濁り、また針のようなものを下半身から生える触腕で掴むとこちらへ投擲してきた。凄まじい速度で鎮守府の壁に突き刺さる。傍へ近づき、確認すると所々が欠損している深海棲艦の石像であった。否、石像ではなく、至る所から血が噴き出している。

 

神城「こいつ、生きて!? い、いやそんなことは後だ。早く対策会議など――えぇい無駄だ。そんなことは分かり切っているだろう?! と、とにかく落ち着かなければ」

 

水葬姫「私たちが行ってくるよ。少しだけなら時間を稼げそうだし。でも基地航空隊とか飛ばせるなら欲しいかな」

 

 その言葉に頷き、準備するからその間だけと相手を任せる。

 水葬姫も游も再度、克服化状態へ移行してこちらへ向かって来る怪物との戦闘を開始する。

 

 

 神話に登場するように半身が人、半身がサソリの見た目をした怪物をある人はゴルヴルチカと呼んだ。それは異邦人が残す傷跡で二番目に凄惨な状況を作り出すのだ。

 

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