とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 65話『ゴルヴルチカⅢ』

水葬姫(すいそうき)「近くだとより迫力を感じるね……これ、どうやって倒すんだろう?」

(ゆう)「提督でしたら、一撃で両断なり消滅させれそうですが」

 

 海上に存在する怪物への感想を述べる。深海棲艦とは別物の巨体は進むだけで、高波を生じさせ海の秩序を乱す。異常な光景に生き物の気配が消えていくのを感じていた。

 

 怪物がゆっくりと歩を進めるだけで、足元から付近の海面は凍るように白く固まっていく。氷のようであって、氷ではないのは出撃前に分かっていた。突き刺さった深海棲艦の表面は石灰のようなもので覆われており、端的に言うと石化しているのだ。

 

水葬姫「とりあえず、砲撃から試してみますかっ」

 

 装備してきていた小口径艤装を用いて、水葬姫は砲撃での攻撃を試みる。深海棲艦であれば、それだけで十分だからだ。一発、一発と間隔をあけて撃ち始める水葬姫を見て游も試みる。

 

 巨体に砲弾が直撃するも、痛がる素振りすら見せない。効いていないのか、その巨体はゆっくりと鎮守府へ向かって歩を進めるだけであった。

 

水葬姫「んー、ダメっぽい?」

游「あまり手ごたえを感じませんね。今あるものを全て使い切ってみましょうか」

 

 装填を済ませると次々に砲撃を行い、魚雷も使って反応を見る。砲撃ではあまり反応を見せなかったが、魚雷を用いた攻撃には反応を見せる。

 怪物の口が開き、低い呻き声と共に苦しそうな悲鳴をあげた。

 

 二人はあまりの声量に痛みを感じ、耳を抑えその場に座り込む。

 とりあえず、と現在で分かっていることを神城へ通信で伝える。

 

神城「うぅむ。砲撃ではそんなにダメージは与えられないか。絶対にここへ到達させてはならない。なんでも使って侵攻を阻止してくれ!基地航空隊もあと数分もすれば向かわせられるからな!」

 

 その言葉にキチンと返事をして、意識を切り替える。

 克服化状態へ移行し、特殊な専用装備を身に纏う。

 

水葬姫「さぁてと!ここからが本番!あまり近づきたくないけれど、遠距離じゃあままならなそうだし近距離で攻撃してみますかっ!!」

 

游「私はあなたのサポートに徹しますね。片足を切断すれば侵攻を送れさせそう。でもまずは…」

 

 怪物の周囲に湧き続ける触手と徐々に石化していく深海棲艦の軍勢。身動きが取れなくなってきているのにも関わらず、こちらへ砲撃を仕掛ける様は憤りを感じさせる。

 

 ほんとうに物としか扱われていない。戦争しているとはいえ、深海棲艦もひとつの命であり、活きた魚雷のように非道な扱いを受ける謂れはない。

 

 「元々艦娘であったとしてもこの所行は許せそうにないです」と游は静かな怒りを露わにする。 

 先ほどの戦闘と同じように糸を伸ばし、巣のように張り巡らせる。

 

 

 音が鳴り止まない。

 戦争の音。

 命が消費される音。

 

 空は曇ったままだ。

 雲間から光が差さない。

 無意味な抵抗。既に袋小路だというのに。

 

 あるべき場所へ収まるというだけなのに、どうして。

 どうして、拒むのだ。

 

 一度死んだだけ。

 死んだだけなのに。また命を手に入れたというのに。

 

 姿が違うから、糾弾されるのか。

 批難、差別される為の命か。

 

 嗚呼。昔日の思い出の中で微睡んでいたい。

 

 

 一方、その頃、神城たちは。

 

『提督!基地航空隊の設営完了しました。全五十七機、いつでも出撃可能です!』

 

 連絡を行ってきた葛城の口からは頼もしい言葉が聞こえてくる。

 

『可能な限り、出撃させて二人のサポートをしてほしい。だが、墜落は避けろ。一機、一機の消失が数秒先を左右するからな』

 

 今たった二人に任せている状況だ。戦況はあまり芳しくない。

 負傷者や戦死者があまりも多い。職員も数も手も足りない。

 

 応援に来てもらってやっと活動できるくらいに疲弊しきっている、というのが実情であるが。

 

 あの怪物だけではなく、普段戦っている深海棲艦も出現したと情報が入っている。艦種問わずだが、空母系の艦載機は飛行能力を失い海面へ墜落し、水上艦は足元を固められ、侵攻不可能となっているという情報も次々に入って来る。

 

神城「みんなの力を頼りたいものだが……誰かに聞いてみるか? うぅぅむ、しかしなあ」

 

?「大丈夫よ、司令官。泣きっ面に蜂とはこういったもんだって痛感してるけれど、嘆く必要なんてないわ。私たちは私たちのやるべきことをしましょ?」

 

 ひとりで少し考え込んでいる神城の背後からそう、声が聞こえる。ハッとして振り向くとそこには錨のマークが入った帽子を被り、右目に眼帯をしている少女――(あかつき)が立っていた。

 

神城「そうだな。俺、いや私たちが出来る事を続けよう」

 

 励ましの言葉をかけられて、感謝の言葉を伝え気持ちを切り替える。そうしたときにふと思う。

 負傷者の避難誘導を行っている筈の彼女がどうして、執務室のある館内へいるのかと。

 

神城「暁、負傷者の避難誘導は終わったのか?」

暁「いやまだよ。先に言っておくけど、やることをほっぽって来たわけじゃないの。司令官、はい、これ」

 

 暁は制服のポッケから携帯を取り出して、渡す。受け取り確認すると現在通話中になっており、相手は非通知と表示されていた。しかもこちらがマイクをオフしている為、相手を待たせている。

 

神城「この忙しい時に誰だ、一体……もしもし?」

 

 溜息を吐いて、マイクをオンにして声をかける。

 電話の向こうから聞こえてきた言葉は神城の心を揺さぶった。

 

『こんばんは、陸翔殿。お久しぶりです、と言いたいところだが今はそんな事を言っている場合ではないから単刀直入に言うが、準備はいいか』

 

神城「え、は? りょ、凌也ど――」

 

『驚くのも無理はないが、今は作戦中だ。そのまま感情を決壊させない。細かいことは後で話すから、(オレ)の話すことを聞け』

 

 声の主は殉職の知らせがあった人物――芙二であった。ひと月ぶりだというのに、なん年と会話をしていないかった風に声が歳をとっているように感じてしまう。自分よりもずっと年上の、そんな雰囲気を醸し出している。

 

 神城はどうようしつつも、返事をして言葉の続きを待つ。

 

『まずは海上にいる怪物についてだ。奴の正体は異なる深海化、略して異深化をした艦娘であり、その名をゴルヴルチカという。このままの速度だと二時間で鎮守府へ到達する』

 

 異なる深海化をした艦娘。それは清霜や夕雲、叢雲、時雨も該当するのではないかという疑問は口に出さず、返事をする。それにしてもあと二時間しかないという事実が衝撃であった。

 

『だから、うちの戦力をかき集めといた。その部隊が到着した時は総力戦となる。そこまで持ちこたえろ、なんてのは難しいかもしれない――もうひとつ朗報だ』

 

 「それは?」と問う。これ以上何かあるのかというのが思うところだ。

 ただでさえ、やることが積み重なって頭がパンクしそうである。

 

『連絡がつかない連中がいただろ?今、そちらへ向けて指示を出した所だ。幸いなことにすぐ近くにいたから、早くて二十分後に到着するだろうさ。動けそうな艦娘に指示を出して、ひたすら攻撃させろ。インターバルがある交代制が一番好ましい。短期決戦とはいえ、絶え間ない攻撃なんて当人たちは苦行そのものみたいなもんだしな。精度は気にするな、的はデカい』

 

神城(なんて、言った?出撃して連絡のつかなかった艦隊がこちらへ向かっている?!生きて、いたのか!いいや、それよりも!音宮提督殿に伝えて組まなければ!)

 

『あ、いま音宮提督殿に伝えようとか思っただろ?安心しろ、大丈夫だ。この通話は何も陸翔殿個人宛てじゃない。そこへいる全員に聞こえる風にしている。あんたがすぐに動けば、皆一同に考えてくれるだろうよ』

 

 「了解した。凌也殿はこちらへ来るのか?」と率直な疑問をぶつける。

 

『向かうしかあるまいて。()()()()よりも特大インパクトなやつを見せてやるよ』

 

 ケケケと笑い、通信が切断された。携帯を暁に返すと方を「やることは決まっているでしょ?もう行こうよ、司令官」と促されるのだった。

 

 一方、海上では。

 

『……あの方の敵か。あの方がいないのはそういう事か。愚鈍な奴らめ』

 

水葬姫「あれ、なんだ。会話が出来るじゃん!!」

 

 伸びてくる触手を足場にして、ゴルヴルチカの顔前で驚いた顔をする水葬姫。浮遊する特異艤装のひとつを扱い、十文字槍を揮う。

 

 空を切る音と共に壁の役割を与えた触手を簡単に切り裂き、本体にダメージを与える。

 

『ぐあぁあッ――化け物がぁあッ!!』

 

 痛みに吼えるが顔面の傷は僅かな蒸気が生じ、瞬く間に修復していく。恨みの篭った眼差しを向けながら、背にある巨腕で掴もうと動くも、なんなく躱す。

 

 宙へ飛んだ際、蚊を叩きつぶすように手のひらを思いきりぶつける。乾いた破裂音が周囲に響くもその腕すらバラバラに切断されていく。

 

游「水葬姫~?間一髪ですよ。もっと注意深くやらないと」

 

水葬姫「ありがとう、游。ひとつ分かったことがあるんだけど」

 

  游は慣れた手つきで糸を束ね、太くしたもので自分の元まで水葬姫をひっかけて戻す。

 

水葬姫「あいつの回復速度が異常すぎる。斬りつけたけど、すごい早さで傷が塞がっていくんだ。これは弱点を探らないと厳しいかも」

 

 游が喋る前に二人の無線がピピッと音を立てて電波を受信する。神城から連絡が来たと思い、応答するも聞こえてきたのは全く違う声。しかし游のテンションが最高潮に達する。

 

『そうだ。弱点を知らねば、あいつの撃破は困難を極める。それにただ攻撃すればいいというわけじゃない。あいつの中に元となった個体がいる。そいつが核となっている』

 

游「それを壊せばいいのですね?もっというと核を露出させるには回復の隙を与えないとかでしょうか?」

 

『そうだ。游、察しがよくて助かるよ。これから来る叢雲達にも全力を揮ってもらう。そこにいる皆が体験するのは前代未聞の総力戦だ』

 

 そこまでいうと芙二は『君たちの活躍期待しているぞ』と言って通信を終える。




特異艤装:芙二が直接施した艦娘の艤装。並みの器では入らない。
異深化:アイリやリベラの力を用いて進化した深海棲艦。普通に化け物。
専用装備:明石が艦娘当人の為に最も合う形を考えて作られた装備。常識を壊す道具。
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